三万グラムの憧景
結局のところ、私が産まれた理由は「実験結果」ただこの一言に尽きる。
そこに愛は無く、かろうじて存在する「一族」「キョウダイ」「血縁」と名称する、薄汚くよごれた、ほの暗い繋がりに縋って孤独を拒んで生きて来た私には、正しい愛の形なんて物は到底理解出来ず、外を学ぶことすら許されぬまま、一筋の狂気を追い求めて成長してしまった。
結果、私は「兄」という存在に執着するあまり、「妹」としての生き方以外の道がどうしたって選べはしないのだ。
私が妹である限り、兄は兄でなければならない。
私が妹である限り、他の誰かを選ぶことは出来ない。
私が私である限り、貴方は自由になれないのだ、兄さん。
だが、それは私も同じこと。
私も私である限り、妹であることを望む限り……この身を手離さぬ限り、永久に自由にはなれない。
万代不易(ばんだいふえき) 果ての無い愛は、万世の未来まで我が身を綿綿たる不変の物とする。
飲み干したスギライトが体内で溶けて私の内側を構成する要素の一つとなる。
薄暗くひんやりとした、重々しい静けさが支配する空間で、最後の晩餐を終えた私は扉が開くのを待っていた。
罪を犯した私は、呪術規定に基づき拘束された。
誰に向けるでもなく、天井に顔を向けて「ごめんね」と呟く。
でも、もう決めたことだから仕方無い。
この日を迎える覚悟は兄に再会する前……唯一無二の天を目指すと決めた時から腹を括っていた。
だからこれは仕方無いこと、どうしたって私は「実験の産物」であり、実験には「結果」が付き物なのだ。
今日をもってして、私自身が自分の生涯を掛けた実験結果になる。
愛と執着の果てに見出だした完全なる和を、最愛の兄に捧ごう。
私はこの実験を、『ストロマトライトの愛執』と名付けた。
___
灰原くんお嫁さん化実験のことがバレて、実家に呼び出しをくらってしまった。堪忍やで~~!ホンマ、ホンマ堪忍してえや~~~!!(幼少期、私にアサシンダガーを刺された時の直哉くんの物真似)
実験内容を包み隠さずご当主様へお話すれば、ご当主様は途中質問を交えながらも私の話を興味深く聞いて下さった。う、嬉しい…!自分の実験をこんなに理解してくれる人ってもしかしたらはじめてかもしれない、嬉しくてご当主様のこと好きになっちゃった。ご当主様……ご年齢もご年齢だし…身体、譲ってくれないかな…欲しいなあ……と、考えて遠慮なくガン見していたら鋭い眼光そのままに、口角を片側だけニヤリと上げて「俺に穴を開ける気か」と言われた。
か、カッケェ~~!直哉くんの父ちゃんマジカッケェ~~!!
私もこんな格好良いニヒルな笑い方が似合う大人になりたいよ、どうやら私の笑い方はヘラヘラと薄情な笑い方か、もしくはゲスな笑みの二択が多いらしく、よく五条くんに「ヘラヘラすんな!」とケツを叩かれながら言われるのだ。
やっぱり笑い方で人を惚れさせるってのはカリスマ性高いよ、人の上に立つ人間ってのは良い笑みを身に付けてるもんだよね、ナポレオンもそうだったし。
私も人心掌握術をマスターしたいものである。
「ご当主様かっこい~…死んだら私の嫁に来ませんか?」
「俺を娶りたいなどと宣うのは、後にも先にもお前くらいだ」
大口を開けてガハハと笑う姿に私は「口デカ……グミめっちゃ入りそう…」と思いながら真剣な表情を崩さなかった。
出されたお茶を飲み飲み、茶菓子の最中をモグモグしていれば、何の前触れも無く障子扉が開き、そこから直哉くんが登場した。
キュートなスマイルで首をコテンッと横に倒しながら彼はおねだりをする。
「パパ♡この女俺に貸してえな♡」
「うわ、声が気持ち悪い」
「黙れイカれ女、犯すで」
「うーん……」
犯すかぁ……犯されてもなぁ、私の体の中は危ない毒素の宝庫になってるんだよね、メチル水銀とかのさ、有機水銀化合物なんて粘膜接触したら水俣病になっちゃうよ?
最悪チンチンが被爆するよ、それでもいいなら頑張りたまえ。
「ふざけるなや、何なんやホンマ、クソ、カス、アホ」
語彙力の敗北、誰だよ直哉くんにこんな惨めで貧弱な罵倒教えた奴、もう一周回って可哀想だよ。
でも憐れんだ視線なんて向けたらギャースカ騒ぐだろうから私はひたすら最中を口の中に突っ込んで咀嚼した、視線はご当主様へ、ああ首筋から胸筋にかけてが悩ましい程にカッチョイイ…
ご当主様をガン見していたら首根っこを掴まれ、ズルズルと引き摺られ始めたので、抵抗するために畳に爪を立てて力を込め踏ん張る。
やめろ!!芸術鑑賞の邪魔をするな!ご当主様も笑ってないで止めてよ、貴方の息子でしょ、レディの扱い方くらい教えといてよ!
「レディ?」
「は?レディ?」
「似たような反応しないでよお!」
そんなとこで親子の繋がりを示すな!
ムカついたので後ろ足を素早く蹴り上げ、直哉くんが私を掴む腕を蹴れば、「何してくれんねん!クソアマがあ!!」とがなり声を上げた。
だがしかし、そんなもんに負ける私ではございません。
腰を落として体に呪力を回す、利き脚で畳を蹴って直哉くんの腹目掛けて頭から素早く突っ込み、そのまま共に畳の上に転がった。マウントは、私が取った状態で。
「退けやカス!ハッ倒すで!」
「さっきから聞いてればカスだのクソだの犯すだの、私が犯してやるよ!」
「あ、コラ!おい、何処触ってんねん!!」
首筋と太腿辺りをサワサワすれば、直哉くんはギョッとした顔をした。
そりゃそうだ、何せパパの前で女に犯されそうになってるわけだもんね、ビックリするよね。
だけど、やめてやんねー!!調子に乗った私は嫌がり抵抗する直哉くんの着物の合わせ目を無理矢理開き、中に着ていたものをひんむいた。
「このっ……!何してるんや!やめろやボケ!」
「……ウッ………」
「なんか喋れやアホ!」
な、なんかと言われましても……その、思ったより綺麗な肌が出て来てしまって……あの…。
「や、ヤベ……変な気分になってきちゃった…直哉くん、君…綺麗だ……」
「甚壱くん!!!お前の妹やろ、はよ何とかしいや!!!」
「肌、綺麗ね………直哉……」
「呼び捨てやめえや!雰囲気作りすな!しっかりしい!目ぇ覚ませ色ボケ!!」
ご当主様の爆笑をBGMに直哉くんの素肌に手を伸ばす、ひ、ひぇ~~~!スベスベだ~~~!!か、可愛い、可愛いよ直哉……私が沢山可愛がってあげるから、安心しなさい……。
と、ギャーギャー喚く直哉くんの上に乗りとうとう下に手を伸ばそうとした所で、若干頭の痛そうな顔をした甚壱お兄ちゃんが登場し、私は例の如く首根っこを摘ままれて直哉くんから引き剥がされた。
あーあ、いいとこだったのに。
無言で床に下ろされたので、そのままお兄ちゃんの背に回りベチャッと音がしそうな勢いで引っ付き、「直哉くんが先に犯すぞって脅したの!!私なんにも悪くないよ!」と抗議する、しかし直哉くんは、俺やない!そのクソアマが云々……とキャンキャン吠えていた。うるせ~!ちょっと顔赤くしてた癖にさ、何が「汚された!」「責任取れや!」だよ、未遂じゃん、私は抵抗しただけだってば。
キャンキャン喚く私達が流石に煩かったのか、ご当主様が部屋の外でやれと一喝する。
直哉くんが「立場ってもんを分からせたる!」と息を巻いてドスドス足音を立てながら部屋を出ていくが、私はお兄ちゃんに引っ付いたまま「面倒臭くなってきたな…」と思った。
「離れろ」
甚壱お兄ちゃんが短く言う。
私は腕に力を込めて断固拒否の姿勢を取った。
「やだ!!!!!!」
「直哉に相手をして貰え」
「やだあ!!!!!」
「……………」
お兄ちゃんの方がいい!!お兄ちゃんおんぶして!!首の方まで手を回し、背中をよじ登る。
そうすればお兄ちゃんは仕方無いと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながらおぶってくれた。やったー!おんぶ大好き!キャッキャッ。
だがしかし、私を直哉くんの元まで連れて行くと、あろうことか直哉くんに背を向け私を差し出したでは無いか。は?この展開は聞いて無いんだが??何してくれてはりますのん?
慌ててお兄ちゃんの背にしがみ付き直そうとするも、直哉くんによりベリッと背中から引き剥がされ、持ち前の素早さを持ってしてヒュンッとお兄ちゃんの元から離された。
甚壱お兄ちゃんの背がどんどん遠くなる、私はジタバタ抵抗しながら「お兄ちゃんの馬鹿!!!」と去り行く背中に悲しみの罵声を投げつけた。
「暴れんなや」
「うわーん!やだよお!直哉くんやだあ!」
「前に俺のこと"嫌いじゃない"言うとったやん」
「嫌いじゃないけど好きでも無いよお!」
「正直者やな~、そろそろキレてもええか?」
良くないよ~~!!怒らないでよ!私と直哉くんの仲じゃん!
そして、キレながらどさくさに紛れて胸に手を這わせて来ないで!
「あのね、私東京に帰るの、お兄ちゃんが待ってんの」
「…甚爾くん独り占めすなよ」
「でも私のお兄ちゃんだもん」
「……ウッザ」
ウザいと思うならおっぱいぽよぽよするのやめてくれませんか?私の胸は君の玩具じゃ無いんだぞ?
あれだろ、どうせお兄ちゃんがどうしてるか気になるんだろ?心配せずとも元気だよ、この家に近寄らないだけで、ちゃんと生きてるよ。
私の胸を触る直哉くんの手を上から握り、少し振り返り彼を見上げながら言う。
「私が死んだ時は直哉くんに私の席を譲ってあげるよ」
「……は?いらんわ、馬鹿にすなや」
「してないよ、直哉くんならお兄ちゃんのこと大事にしてくれるでしょ?」
そう言って微笑めば、対照的に直哉くんは鋭い目付きをさらに鋭くさせ、私を睨み付ける。
「こわーい!」とおちょくるように言うも、以前厳しい眼差しを続けながら彼は口を開いた。
「死ぬ予定あるんか」
「…人はいつか必ず死ぬよ?」
「話逸らすなや、バケモン」
その通り。
私は、化物である。
兄の変わりに化物になったから、人では無くなってしまった。
兄の変わりに化物になった、兄のために死ぬことも叶わない存在となった。
だけど終わりは決めている、私の命は兄と共にある。
だから私の返答はこうだ
「いつか、お兄ちゃんのために死ぬよ」
「…………おつむ可笑しいんとちゃう?」
「この辺とか」と言ってベチッと私の後頭部を直哉くんがひっぱたく。
私はそれに「イタッ、ひど!ロマンチックやね~!て言ってよ!」と言い返した。
「甚爾くんのためにって、甚爾くんからしたらええ迷惑やと思うで」
「そうかなあ」
「それよりちゃっちゃと嫁にでも行けや」
「貰い手が無いからねぇ」
私の言葉に直哉くんは自分で言っておいて「そらそうや」と言い切った。
ひ、酷い…!私だってなあ、その気になれば旦那の三人や四人くらいなあ………うーーーん……無理だね、絶対無理だ、最悪の手段として灰原くんに土下座でもすりゃ彼は優しい子だからOKしてくれるかもしれないけれど、あんな優しくて可愛い子に私の面倒を見させるなど…可哀想過ぎる…。やっぱり一生独身で居るのがベスト、我が愛する友人五条くんも喜んでくれるだろうし、独身貴族になるしかない。
「俺は独身貴族になるってばよ!」
「やっぱ頭可笑しいで君、ここか?」
ベチッ。
また頭を叩かれた、天才の貴重な脳細胞を殺すな!
「最悪俺の側室くらいにならしたってもええけど?」
「え、絶対やだ、死んでもやだ、死んだ方がマシだよ」
「は?」
「ん?」
赤コーナー『"語彙が貧弱"直哉くん』VS青コーナー『"嫁の貰い手が無い"私』レディー…ファイッ!カァンッ!
こうして我々二人は、扇おじ様が止めに来るまで遠慮無く喧嘩し続けた。
禪院家のお庭はそりゃもう大変前衛的なことになりましたとさ。
二人で揃ってごめんちゃいしました。
せーの、私達 仲良しでーす!(互いの足を踏みまくりながら)
そこに愛は無く、かろうじて存在する「一族」「キョウダイ」「血縁」と名称する、薄汚くよごれた、ほの暗い繋がりに縋って孤独を拒んで生きて来た私には、正しい愛の形なんて物は到底理解出来ず、外を学ぶことすら許されぬまま、一筋の狂気を追い求めて成長してしまった。
結果、私は「兄」という存在に執着するあまり、「妹」としての生き方以外の道がどうしたって選べはしないのだ。
私が妹である限り、兄は兄でなければならない。
私が妹である限り、他の誰かを選ぶことは出来ない。
私が私である限り、貴方は自由になれないのだ、兄さん。
だが、それは私も同じこと。
私も私である限り、妹であることを望む限り……この身を手離さぬ限り、永久に自由にはなれない。
万代不易(ばんだいふえき) 果ての無い愛は、万世の未来まで我が身を綿綿たる不変の物とする。
飲み干したスギライトが体内で溶けて私の内側を構成する要素の一つとなる。
薄暗くひんやりとした、重々しい静けさが支配する空間で、最後の晩餐を終えた私は扉が開くのを待っていた。
罪を犯した私は、呪術規定に基づき拘束された。
誰に向けるでもなく、天井に顔を向けて「ごめんね」と呟く。
でも、もう決めたことだから仕方無い。
この日を迎える覚悟は兄に再会する前……唯一無二の天を目指すと決めた時から腹を括っていた。
だからこれは仕方無いこと、どうしたって私は「実験の産物」であり、実験には「結果」が付き物なのだ。
今日をもってして、私自身が自分の生涯を掛けた実験結果になる。
愛と執着の果てに見出だした完全なる和を、最愛の兄に捧ごう。
私はこの実験を、『ストロマトライトの愛執』と名付けた。
___
灰原くんお嫁さん化実験のことがバレて、実家に呼び出しをくらってしまった。堪忍やで~~!ホンマ、ホンマ堪忍してえや~~~!!(幼少期、私にアサシンダガーを刺された時の直哉くんの物真似)
実験内容を包み隠さずご当主様へお話すれば、ご当主様は途中質問を交えながらも私の話を興味深く聞いて下さった。う、嬉しい…!自分の実験をこんなに理解してくれる人ってもしかしたらはじめてかもしれない、嬉しくてご当主様のこと好きになっちゃった。ご当主様……ご年齢もご年齢だし…身体、譲ってくれないかな…欲しいなあ……と、考えて遠慮なくガン見していたら鋭い眼光そのままに、口角を片側だけニヤリと上げて「俺に穴を開ける気か」と言われた。
か、カッケェ~~!直哉くんの父ちゃんマジカッケェ~~!!
私もこんな格好良いニヒルな笑い方が似合う大人になりたいよ、どうやら私の笑い方はヘラヘラと薄情な笑い方か、もしくはゲスな笑みの二択が多いらしく、よく五条くんに「ヘラヘラすんな!」とケツを叩かれながら言われるのだ。
やっぱり笑い方で人を惚れさせるってのはカリスマ性高いよ、人の上に立つ人間ってのは良い笑みを身に付けてるもんだよね、ナポレオンもそうだったし。
私も人心掌握術をマスターしたいものである。
「ご当主様かっこい~…死んだら私の嫁に来ませんか?」
「俺を娶りたいなどと宣うのは、後にも先にもお前くらいだ」
大口を開けてガハハと笑う姿に私は「口デカ……グミめっちゃ入りそう…」と思いながら真剣な表情を崩さなかった。
出されたお茶を飲み飲み、茶菓子の最中をモグモグしていれば、何の前触れも無く障子扉が開き、そこから直哉くんが登場した。
キュートなスマイルで首をコテンッと横に倒しながら彼はおねだりをする。
「パパ♡この女俺に貸してえな♡」
「うわ、声が気持ち悪い」
「黙れイカれ女、犯すで」
「うーん……」
犯すかぁ……犯されてもなぁ、私の体の中は危ない毒素の宝庫になってるんだよね、メチル水銀とかのさ、有機水銀化合物なんて粘膜接触したら水俣病になっちゃうよ?
最悪チンチンが被爆するよ、それでもいいなら頑張りたまえ。
「ふざけるなや、何なんやホンマ、クソ、カス、アホ」
語彙力の敗北、誰だよ直哉くんにこんな惨めで貧弱な罵倒教えた奴、もう一周回って可哀想だよ。
でも憐れんだ視線なんて向けたらギャースカ騒ぐだろうから私はひたすら最中を口の中に突っ込んで咀嚼した、視線はご当主様へ、ああ首筋から胸筋にかけてが悩ましい程にカッチョイイ…
ご当主様をガン見していたら首根っこを掴まれ、ズルズルと引き摺られ始めたので、抵抗するために畳に爪を立てて力を込め踏ん張る。
やめろ!!芸術鑑賞の邪魔をするな!ご当主様も笑ってないで止めてよ、貴方の息子でしょ、レディの扱い方くらい教えといてよ!
「レディ?」
「は?レディ?」
「似たような反応しないでよお!」
そんなとこで親子の繋がりを示すな!
ムカついたので後ろ足を素早く蹴り上げ、直哉くんが私を掴む腕を蹴れば、「何してくれんねん!クソアマがあ!!」とがなり声を上げた。
だがしかし、そんなもんに負ける私ではございません。
腰を落として体に呪力を回す、利き脚で畳を蹴って直哉くんの腹目掛けて頭から素早く突っ込み、そのまま共に畳の上に転がった。マウントは、私が取った状態で。
「退けやカス!ハッ倒すで!」
「さっきから聞いてればカスだのクソだの犯すだの、私が犯してやるよ!」
「あ、コラ!おい、何処触ってんねん!!」
首筋と太腿辺りをサワサワすれば、直哉くんはギョッとした顔をした。
そりゃそうだ、何せパパの前で女に犯されそうになってるわけだもんね、ビックリするよね。
だけど、やめてやんねー!!調子に乗った私は嫌がり抵抗する直哉くんの着物の合わせ目を無理矢理開き、中に着ていたものをひんむいた。
「このっ……!何してるんや!やめろやボケ!」
「……ウッ………」
「なんか喋れやアホ!」
な、なんかと言われましても……その、思ったより綺麗な肌が出て来てしまって……あの…。
「や、ヤベ……変な気分になってきちゃった…直哉くん、君…綺麗だ……」
「甚壱くん!!!お前の妹やろ、はよ何とかしいや!!!」
「肌、綺麗ね………直哉……」
「呼び捨てやめえや!雰囲気作りすな!しっかりしい!目ぇ覚ませ色ボケ!!」
ご当主様の爆笑をBGMに直哉くんの素肌に手を伸ばす、ひ、ひぇ~~~!スベスベだ~~~!!か、可愛い、可愛いよ直哉……私が沢山可愛がってあげるから、安心しなさい……。
と、ギャーギャー喚く直哉くんの上に乗りとうとう下に手を伸ばそうとした所で、若干頭の痛そうな顔をした甚壱お兄ちゃんが登場し、私は例の如く首根っこを摘ままれて直哉くんから引き剥がされた。
あーあ、いいとこだったのに。
無言で床に下ろされたので、そのままお兄ちゃんの背に回りベチャッと音がしそうな勢いで引っ付き、「直哉くんが先に犯すぞって脅したの!!私なんにも悪くないよ!」と抗議する、しかし直哉くんは、俺やない!そのクソアマが云々……とキャンキャン吠えていた。うるせ~!ちょっと顔赤くしてた癖にさ、何が「汚された!」「責任取れや!」だよ、未遂じゃん、私は抵抗しただけだってば。
キャンキャン喚く私達が流石に煩かったのか、ご当主様が部屋の外でやれと一喝する。
直哉くんが「立場ってもんを分からせたる!」と息を巻いてドスドス足音を立てながら部屋を出ていくが、私はお兄ちゃんに引っ付いたまま「面倒臭くなってきたな…」と思った。
「離れろ」
甚壱お兄ちゃんが短く言う。
私は腕に力を込めて断固拒否の姿勢を取った。
「やだ!!!!!!」
「直哉に相手をして貰え」
「やだあ!!!!!」
「……………」
お兄ちゃんの方がいい!!お兄ちゃんおんぶして!!首の方まで手を回し、背中をよじ登る。
そうすればお兄ちゃんは仕方無いと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながらおぶってくれた。やったー!おんぶ大好き!キャッキャッ。
だがしかし、私を直哉くんの元まで連れて行くと、あろうことか直哉くんに背を向け私を差し出したでは無いか。は?この展開は聞いて無いんだが??何してくれてはりますのん?
慌ててお兄ちゃんの背にしがみ付き直そうとするも、直哉くんによりベリッと背中から引き剥がされ、持ち前の素早さを持ってしてヒュンッとお兄ちゃんの元から離された。
甚壱お兄ちゃんの背がどんどん遠くなる、私はジタバタ抵抗しながら「お兄ちゃんの馬鹿!!!」と去り行く背中に悲しみの罵声を投げつけた。
「暴れんなや」
「うわーん!やだよお!直哉くんやだあ!」
「前に俺のこと"嫌いじゃない"言うとったやん」
「嫌いじゃないけど好きでも無いよお!」
「正直者やな~、そろそろキレてもええか?」
良くないよ~~!!怒らないでよ!私と直哉くんの仲じゃん!
そして、キレながらどさくさに紛れて胸に手を這わせて来ないで!
「あのね、私東京に帰るの、お兄ちゃんが待ってんの」
「…甚爾くん独り占めすなよ」
「でも私のお兄ちゃんだもん」
「……ウッザ」
ウザいと思うならおっぱいぽよぽよするのやめてくれませんか?私の胸は君の玩具じゃ無いんだぞ?
あれだろ、どうせお兄ちゃんがどうしてるか気になるんだろ?心配せずとも元気だよ、この家に近寄らないだけで、ちゃんと生きてるよ。
私の胸を触る直哉くんの手を上から握り、少し振り返り彼を見上げながら言う。
「私が死んだ時は直哉くんに私の席を譲ってあげるよ」
「……は?いらんわ、馬鹿にすなや」
「してないよ、直哉くんならお兄ちゃんのこと大事にしてくれるでしょ?」
そう言って微笑めば、対照的に直哉くんは鋭い目付きをさらに鋭くさせ、私を睨み付ける。
「こわーい!」とおちょくるように言うも、以前厳しい眼差しを続けながら彼は口を開いた。
「死ぬ予定あるんか」
「…人はいつか必ず死ぬよ?」
「話逸らすなや、バケモン」
その通り。
私は、化物である。
兄の変わりに化物になったから、人では無くなってしまった。
兄の変わりに化物になった、兄のために死ぬことも叶わない存在となった。
だけど終わりは決めている、私の命は兄と共にある。
だから私の返答はこうだ
「いつか、お兄ちゃんのために死ぬよ」
「…………おつむ可笑しいんとちゃう?」
「この辺とか」と言ってベチッと私の後頭部を直哉くんがひっぱたく。
私はそれに「イタッ、ひど!ロマンチックやね~!て言ってよ!」と言い返した。
「甚爾くんのためにって、甚爾くんからしたらええ迷惑やと思うで」
「そうかなあ」
「それよりちゃっちゃと嫁にでも行けや」
「貰い手が無いからねぇ」
私の言葉に直哉くんは自分で言っておいて「そらそうや」と言い切った。
ひ、酷い…!私だってなあ、その気になれば旦那の三人や四人くらいなあ………うーーーん……無理だね、絶対無理だ、最悪の手段として灰原くんに土下座でもすりゃ彼は優しい子だからOKしてくれるかもしれないけれど、あんな優しくて可愛い子に私の面倒を見させるなど…可哀想過ぎる…。やっぱり一生独身で居るのがベスト、我が愛する友人五条くんも喜んでくれるだろうし、独身貴族になるしかない。
「俺は独身貴族になるってばよ!」
「やっぱ頭可笑しいで君、ここか?」
ベチッ。
また頭を叩かれた、天才の貴重な脳細胞を殺すな!
「最悪俺の側室くらいにならしたってもええけど?」
「え、絶対やだ、死んでもやだ、死んだ方がマシだよ」
「は?」
「ん?」
赤コーナー『"語彙が貧弱"直哉くん』VS青コーナー『"嫁の貰い手が無い"私』レディー…ファイッ!カァンッ!
こうして我々二人は、扇おじ様が止めに来るまで遠慮無く喧嘩し続けた。
禪院家のお庭はそりゃもう大変前衛的なことになりましたとさ。
二人で揃ってごめんちゃいしました。
せーの、私達 仲良しでーす!(互いの足を踏みまくりながら)