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千二百五十カラットの愛慕

先輩は僕のことを可愛い可愛いと言うけれど、本当は特別何か強い感情を抱いているわけでは無いことは、わりと最初からハッキリと知っていた。

孤高の天才、狂気の道を歩む人。
僕よりもずっと小柄で華奢で、他人の話を聞かず、先生の頭を悩ませ、よく笑いよく泣き……そして、この世の全てが果てなく嫌いな先輩。

五条さん以外の全てに劣等感や憎しみを抱きながらも、めげずに世界と関わるあの人は、とても強くて美しいけれど、その実とても脆くて、いつか壊れて消えちゃうのでは無いかと心の何処かで感じていた。
天才は孤独だとよく聞くが、あの人を見ていると実際そうなんだろうな、と思えた。
誰も思い付かないことをして、何人も歩もうと思わない道を選ぶのだから一人になってしまうのは当たり前だろう。
僕や七海の戦闘訓練や任務に付き合ってくれて、沢山可愛がってくれているけれど、あの人はきっと僕達に理解を求めたりしないし、大切にしてくれとも側に居てくれとも絶対に言わない。
僕達じゃ役不足だからじゃない、あの人はきっと、ちゃんと周りが見えていない。

貴女のことを大切に思う人は沢山居るよ、側に居たいと思う人だって居るよ、と言いたいけれど、同時に僕は、あの人から孤独を取り上げていいものかと一時期悩んでしまった。

孤独は、きっと先輩が先輩であるために必要なことなのだと思う。
集団に身を置くということは、それだけ個性を埋没させるということだ。人間は徹底的に社会化された動物だ…って話を読んだことがある、一人を自ら選ぶことは人間の本能に逆らうことなのだとか。
外界からの刺激にばかり身をさらし続けていると、創造性や想像力が養われないらしい。
孤独に身を置き、自らの内面に向き合うからこそ開花する才能は存在する……とか。僕にはあまりピンと来なかったが、先輩はきっとこのタイプなんだろう。

でもやっぱり、一生一人なんて悲しいと思う。

僕じゃ生きる理由にはなれないだろうか、なれないんだろうな。だってあの人の特別はただ一人だけだ。
でも勝手に側に居ることは許してくれる人だから、距離の近さに甘えて貴女が手の届かない場所に行こうとした時は、無理矢理くっついてしまおう。
いつも先輩は僕にくっついてくるんだから、僕がやり返してもきっと「も~~~!」って言って許してくれるはずだ。
貴女が本当に欲しいものが僕からは与えることが出来なくても、僕自身を貴女にあげることは出来る。
欲しいと言ってくれたから、僕は貴女に死後の権利を譲りたい。

先輩はちょっと変わってるから分からないかもしれないけど、僕みたいな普通の男子は可愛い女の子に抱き付かれて、そこそこ可愛がられて、面倒を見られると簡単にいいなって思っちゃうんだよ。
食べ物をとにかく頬がパンパンになるまで口に詰め込んじゃうとこだとか、身体が頑丈じゃないせいで実は肉弾戦が苦手なとことか、可愛いなあって思ってる。

恨んで構わない、好きなだけ憎んでいい、呪って貰って結構。
だってそれが先輩の愛情表現だと知っているから。
先輩が病める時も健やかなる時も側に居るよ。

僕は貴女が化物でも人間でも何だっていい。
貴女だったら何だっていいんだ。







ということで、私の天才的技術と優秀な頭脳、格別な術式を持ってして灰原くんが可愛くなって新登場!
現在は七海くんと感動の再会を果たし喜びを分かち合っている。うむ、よきかな。

「はー疲れた疲れた、風呂入って寝よ」
「そうしな、あとで録画見せて」
「いいよ、渡すね」

硝子ちゃんに労られ、私は肩をグルグル回しながらその場を後にした。
いやあ、とうとう死者の蘇生まで……いや、蘇生と言うか改造なんだけどね、灰原くん私の術式で動いてるようなもんだし、ナマコ達とそう変わらんよ。

「オペレーションブライド実験」
私の術式を転用して、人間の死体で行う実験だ。
内容は先の通りである。
この実験の目的は、私の命令と呪力を込めた鉱物で何処まで細胞の動きを騙せるかがおおよその目的だ。
停止した細胞に私という外部からの命令を与えることで再起動を促す。
人間の身体は37兆2000億個もの細胞から成り立つ、脳だけで神経細胞は約860億個もあり、数百兆個のシナプスによって繋がれた神経細胞を全て制御下に置きコントロールするのは流石に不可能だ。
なので、伝達組織の一部や偽物の臓器を伝わせて細胞へ「お前、まだ実は生きてるぞ」と呼び掛け騙し、肉体を再起動させているのだ。
説明は以上!


長引いたオペから解放され、数日振りに自室へ戻るために寮の廊下を歩いていれば、後ろから足音と共に「先輩!」と呼び止める声がして立ち止まる。

「どうしたの灰原くん、もう不具合?」
「そうじゃなくって、遺書読んでくれました?」
「読んだ読んだ、筆圧濃いね」
「書いてたら力入っちゃって…」

てへへ…と照れ笑う灰原くんはやっぱり可愛い、呪術師よりアイドルとかやった方が稼げそう、私貢ぐよ、最前列でコールしちゃう。エルオーブイイー!ってやつ、これは違うか?
まあ何にせよ、言いたいことは分かった。君は私に生きて欲しい、そうだろう?

「僕、先輩のために長生きするので!」
「そっかそっか、がんばれ」
「はい!だから、先輩が死にたくなった時は僕を長生きさせなきゃって思い出して下さいね」

ニコニコといつも通りの笑顔を浮かべながらも、その瞳は嫌になるくらい真剣だ。
思わず見つめ返し、言葉に迷う。
あーあ、私ってもしかして物凄く罪深いことをしてしまったのでは無いだろうか?こんな可愛い後輩に他人の生き死にの世話掛けさせて、何やってんだかって感じだ。
私が生きるか死ぬかなんて君が考える問題じゃないのに、物好きな子だ。
でも君がそこまで言うのなら、こちら側に踏み込んでくるならば私は少しだけ君に本音を聞かせてあげようではないか。

「灰原くんには、特別に一つ、良いことを教えてあげよう」
「それって、僕がお嫁さんだから教えてくれるってことですか?」
「そこは好きに捉えて貰って構わないけど」

ほら、耳を貸してとナイショ話をするために私達は距離を詰める、腰を屈めた灰原くんの耳に口を寄せて小さな声で呟いた。

「生きてても呪霊殺しててもあんまり面白くなかったんだけど、最近面白いことを聞いた」

私の言葉に耳を傾け、じっとする灰原くんに最近禪院に行った時に聞いちゃった面白い話を聞かせてあげた。

「お兄ちゃん、息子のこと禪院に売る約束してたんだって……フフフッ、勿体無い、何て馬鹿なこと…」

話していて思わず笑いが溢れてしまった、だってあまりにも扱いが酷い。

勿体無い、勿体無さ過ぎる。

大好きな兄の血を引く子供、優秀な術式を宿す恵くん、禪院にくれてやるなんてそんなこと勿体無くて…思わず私の興味が刺激されてしまったでは無いか。
嫉妬は形を変えて興味へと変わる、私の心を突き動かすのはいつだって物事への関心と探求に他ならない。
クソな実家にくれてやるくらいならば私が貰う、同じ金を払って私が親となり育ててやろう。
やはりどう足掻こうが、人間らしい悩みを抱えてみようが、結局私は研究者であり人の道から逸れた生き物でしか無い。
彼の構築情報を全て明らかにしたい、お兄ちゃんの遺伝子がどれだけ強く出ているか知りたい、そうしていつか、君を元に私は子を成してみたい。
寸分違わず人間と同じ姿形をした存在、100%人工で出来たDNA準備体を生み出すために…

「恵くん、絶対欲しい」

私の技術に群がるコバエみたいな奴等も、妙に執着してくる奴等も、有象無象になんて今更大した興味は無いんだよ。それより私は未来が欲しい、兄との未来が望めないのならば、子を、研究結果を未来としたい。

灰原くんから身を離し、感想を求めるように見上げれば、考えるように「よく分からないんですけど…」と前置きした後に彼はこう言った。

「先輩がすっごくイカれてるのは分かりましたよ!」
「まあね!私、ファナテイック・クレイジー・ガールだからね!あ、嫌いになった?」
「いえ、先輩が元気になって良かったです!」

そうかそうか、うんうん、君なら否定しないと思ったよ。私のこと大好きだもんね。だって私に本気で生きて欲しいと言ったのは君だけだ、兄だって嘘の言葉で生きなきゃ勿体無いと言うだけだったのに。
それにしてもイカれてる、かあ……イカれてる?それ、褒め言葉だよね。褒め言葉だよね?五条くんもよくご機嫌な時に私に「お前イカれ過ぎ」って言うし、あれ?違う?
まあいいや、何はともあれ私の次なる目標は定まった。答えを出せてスッキリだ、お兄ちゃんのために生きて死ぬ、この誓いに迷いは無い。だが同時に未来を残す、例え私が消えても私の存在が受け継がれるように。

怨気衝天、私の生きる苦しみ、産まれさせられた恨みは子となって在り続けるのだ、呪いのように。

「だから私に子供が出来たら、養育権は灰原くんにあげちゃう!」
「一緒に育てましょう?」
「生きてたらね」
「生きて下さいよー!」

わあわあ言ってしがみついて来た灰原くんにじゃれるなじゃれるなと頭を撫でておく、ハッハッハッ、そんなに私を生かしたいのならば精々頑張りたまへ、私も君になら色々言われても許してあげられるよ、何たって灰原くんは可愛いからね。可愛い子は好きだよ。とかなんとかじゃれあっているうちに、私の体力は限界を迎えたらしく、意識がぼんやり遠退いていく。
あー疲れた、人体実験はそりゃもう楽しかったが暫くはいいや、やりたいことは灰原くんで出来たし。
灰原くんごめんね、でも生きてる間は責任を持って君のメンテナンスは欠かさないから。

そう、私が生きてるうちは灰原くんも稼働可能だ、だが私が死ねばそれまで。つまり私達は運命共同体ってやつなのだよ、長生きしたけりゃお兄ちゃん以上の人間になりなさい。

主に胸辺りとか、お兄ちゃんより巨乳になったら考え直すよ。

私ね、実はおっぱい大好き。
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