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千二百五十カラットの愛慕

私はメイド喫茶を勘違いしていた。
ウェイトレスさんがメイド姿してるだけの空間なのかと思ったら大間違い、茶を飲んでシベリアつつく喫茶店だと思い入店し、アイスティーを飲んでいたらいつの間にかレクリエーションに参加させられていた。

「お兄ちゃん萌えジャンって分かる?」
「行ったことねぇから知らねぇ」

メイド喫茶でやらされた変なジャンケンゲーム、通称「萌えジャン」なるレクリエーションはそれはもうかなり恥ずかしかった。具体的なことを思い出したくない、この私が終始困惑していたことだけは伝えよう。
と言うかそもそもメイドって小間使のことだよね、客がご主人様なんでしょ?なんで主がメイドとジャンケンせにゃならんのだ。基本スタンスは無視が小間使ってもんだろ、何なんだよ一体。なんでチェキ撮っちゃったんだ。いらないし、次回の扇おじ様宛のお手紙にでも同封しておくか…。可愛い姪と可愛い女の子のツーショットには扇おじ様だってちょっとは和んじゃうかも!ほっこりしてね。

「ところでお兄ちゃんは昨日何してたの?」
「ガキの様子見に行ってた」
「ガ………め、恵くん…?」

お兄ちゃんの可愛い一人息子の恵くん、私は未だに会わせて貰ったことは無いけれど、噂に聞くと高専と連携しながらすくすく成長してくれているらしい。
いいよね、子供…私は子供好きだよ、思想が染まり切らず、情緒が未発達な存在はいくらでもどうにでも出来るからね。是非一度この手で高知性生命体を育ててみたいものである、うむ。

「私も会いたいな~、だめ?」
「ダメ」
「なんで?」
「なんでもだ」

えーーーん!いじわる言わないでよーーー!!流石にお兄ちゃんの息子だから軽率な実験なんてしないよ!ちょっと長期間に渡った観察と抜け毛や切った爪などを元に研究はするけれど、私だって無害な叔母になれるよ、お年玉とかあげたいんだよ、どうして駄目なの?教えて、偉い人……。





「ってことで五条くんのとこに来たの、教えて偉い人」
「エロい人?」
「教えてエロい五条くん」
「よし、まずはキスの仕方から教えてやるよ」

あ、そういうのはいいんで……。
我が素晴らしき最強フレンド、五条くんに何故私が恵くんに会えないのかという話をしに参った次第である。
こんなにも可愛くて頭がキレてて優しいのに…どうして?
思い返せば、実家でも下の子達とは触れあう機会が無い。扇おじ様のとこの双子ちゃんなんか、「絶対お前だけは会いに行くな」なんておじ様に言われるせいで顔も見たことが無い、酷いや。

「あーあ、子供いいなぁ」
「そんなに言うなら会いに行く?」
「えっ」

いじけて机に突っ伏していた顔を思わず上げる。
頬杖をつき、こちらを眺めている五条くんは体勢を変えずに口だけ動かした。

「遠くから見るくらいならいいんじゃね」
「い、いいのかな…」
「バレなきゃいいでしょ」

そっか、遠目で……バレなければ…うん、実際に声は掛けずに見るだけ、見るだけだ。
お兄ちゃんの子供、大好きなお兄ちゃんの遺伝子を持つ健康な男の子。
私が欲しかったもの全て持っている、弱くて小さな命。
もう何も宿ることの無い、自分の薄い腹を撫でてみる。
私の持って産まれた身体では、どのみち子供を産むことは不可能であった。だから簡単に捨てられた子宮に対して未練は無い、後悔も同様に。
なので決して子供が欲しいわけでは無く、お兄ちゃんの子供が純粋に見てみたいだけなのだ。
本当に、それだけだったのだ。
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