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千二百五十カラットの愛慕

痛みが酷すぎて感覚の麻痺した指先、深い息をする度に苦しくなる肺、まともに食べ物を消化出来ない胃袋。

これが私の身体、私が持って産まれて来た肉体。

強く美しい術式と才能があれど、薬物汚染によって腐り切ったこの身体ではまともな人生など送れるはずも無かった。
生きていることそれ事態が苦しくて、しかしたった一つの目的のために足掻いて、痛みを堪えて、悔しさを抱えながら生きている。腹の底で絶望と怒りを飼い慣らし、制服と言う名の死装束に袖を通して外の世界へ足を踏み出した頃、私はこの世で二番目に美しい人間に出会った。
誰も超えることの不可能な頂きに立つ人、私が求めてやまない健康的な身体と男という性別。長い手足、目映い白髪、突き抜けるような青空を写し出す曇り無き瞳は20世紀に発見された、幻の鉱物「ターフェアイト」のように希少で綺麗だ。彼はきっと…この世のありとあらゆる美しい物を詰め込んで産み出されたのだろう。
腐った身体を持つ私じゃ到底並び立つことも出来ないようなその人は、しかし私に同情を向けて笑いかけてくれたのだった。

同じ御三家、家に不満を持つ者同士、そして私の、人間の肉体を捨てて生きる計画を唯一明かした相手、五条悟。

人間としての肉体を捨てた時、一番はじめに会いに行って言葉を交わしたのは紛れもなく彼だった。


「お前を俺の友達だって認めてやってもいいぜ」
「えっ!?私達ズッ友じゃ無かったの!?」
「今度から俺を人に紹介する時は、一番最初の友達だって言えよ」


生意気な奴だな~!知ってたけど、そんな所も楽しいんだけどさ。五条くんって夏油くん以外に友達居なさそうだもんね、まあなんにせよ……

「嬉しいよ、五条くん」
「あっそ」

アハハッ、自分で言い出した癖に照れるなよ。
私も君を最高の友人だと認めているよ、だから私は君の味方だ。

私達は、ずっとずっと友達だ。




___



暑いし乾燥は酷いし何も無い中東クウェートの辺りで呪詛師を追って早数日、仕事に飽きたお兄ちゃんが「もう無理」「寝る」と言い出したため、健気で可愛い妹が本気を出して呪詛師を取っ捕まえ引き渡しを行い、とりあえずホテルに戻って来ればお兄ちゃんは一つしか無いベッドを大の字になって占領し爆睡をかましていた。
ふぅ………やれやれ、お兄ちゃんじゃなければ殺していたな、お兄ちゃんなので罪を軽減してやるけれど、他人だったら殺して苗床にしていたよ。全く、感謝して欲しいもんだね。

爆睡する兄の顔に濡れたハンカチをそっと置き、私はメールの確認をする。何々?夏油くんが疲れ気味?心底どうでもいいね、サウナとマッサージをキメて来い、美味い物をたらふく食え、猫を吸え、それ以外にアドバイス出来ることなど無い!
携帯の画面とにらめっこしていれば、背後でガタガタと音がしたので振り向かずに「おはよ~」と声を投げる、次の瞬間私の頭は悲鳴を上げた、マキシマムパワーヘッドロック!!

「痛い痛い痛い痛い!!!」
「まだ俺を殺す気あんのか?」
「えーーーん!痛いよー!殺す気なんてちょっとだけしか無いよー!!」
「あんのかよ、反省したんじゃねぇんか」

したよー!反省して沢山悩んだ結果、「チャンスがあれば殺ってしまっても良いのでは?」という結論に至ったんだよー!死ぬのはやめたけど、それはそれとしてお兄ちゃんの身体には興味が尽きないので…呪力が全く無い理由は?筋肉の繊維構造は?神経による筋収縮の指令が人とは異なるの?等々…これはもう研究者としては仕方無いことなのです。ゆるしてにゃん。

「いじめないで!ゆるして!」
「先にやったのは誰だ?」
「お兄ちゃんがベッド全部取ったのが悪いんだもん!」

元はと言えばお前のせいである、兄がベッドを占領しなければ私だって殺す気は……あれ?他人だったら殺してたとか言ってたけど、兄でも殺そうとしてしまってるな?まあいいや、どうせこの程度じゃ死なないでしょうし。お兄ちゃん強い子だもんね。
ヘッドロックから解放された頭を擦りながら、恨めしい思いを込めて兄を見上げる。

「そんな目したって謝らねぇぞ」
「………………デカ乳……」
「それは悪口なのか?」

悪口に決まってるだろ!!乳ってのはデカけりゃ良いってもんじゃ無いんだからな!覚えとけよ!!(小悪党の捨て台詞)

兄が先程まで寝ていたベッドに身体を沈め、全身の力を抜く。疲れた疲れた、過重労働ってやつだ、私じゃ無ければ過労死してたよ…まったく。あれ……?もしかして私が簡単にはどうにかならない身体だからこんなにも過酷な環境下で仕事させられているのでは?は、はぇ~~~訴えて勝たせてもろてもええですか?私だって京都出身の人間、はんなり暗黒語でネチネチ胃をつついてやるからな…。
気付いてしまったブラックな真実に一人戦々恐々していれば、兄が「で、次は?」とベッドの枕元に座りながら聞いてきた。
次、次の行き先……。

「……そう言えば何も連絡来てないな?」
「…じゃあ海外遠征終わりか?」
「そうかも?」

え…私達、日本に帰れるってこと!?この辛く険しい旅路から解放されても良いんですか!?毎日お兄ちゃんのパイ圧に押し潰され圧迫される、おっぱいによる睡眠妨害に負けずに眠る日々の終わりがすぐそこまで!?圧迫祭終了のお知らせ!?乳の暴力もジ・エンド!!

「お兄ちゃんの乳地獄からの救済!!」
「人の乳なんだと思ってんだ」
「デッカイなあって思ってるよ」

デッカイ乳だと直哉くんが喜ぶよ、今度直哉くんの前で思いっきりお兄ちゃんの乳に顔埋めて見せつけてやろうかな、いいだろう、この乳は私のもんだぞ。お前にはやんねーぞ、ガハハッつって。

にしても、日本に帰国出来るのだな、私の頑張りが認められたってことか……いやあ私ってば何て健気で可愛い妹なのだろうか、これはもうあの甚壱お兄ちゃんも思わず私をよしよししてしまうくらいの功績では無かろうか…。
海外にて私達が捕獲に成功した呪詛師は延べ30人を超えた。呪詛師以外にも呪霊を祓ったり…色々と、あっちへ飛びこっちへ飛びな多忙極まる日々。時にはキューバ基地と米軍キャンプの間でドンパチさせられたり、明日から戦場になるだろうと予測される油田地域で追いかけっこ。
国境警備隊に追われてみたり、現地の殺し屋に襲われたり……。
銃弾飛び交う戦場から、人身売買や薬が蔓延るリゾート地の裏側まで、私は時々やる気が出てたまに頑張ってくれる兄と共に中東アジアから南米にかけてを忙しく飛び回っていた。
勿論任務の合間に美味しい物を食べたり、現地で鉱物を買い付けたりしていたが、何せ衛生観念や治安が日本と比べると悩ましい場所ばかりだ、私一人で出歩いていると毎回人拐いやら危ないナンパやらに出くわすため、兄は何だかんだと言いながらもわりと常に側に居てくれた。ありがたやありがたや。

そんなこんなな毎日なので、そろそろ安全かつ安心出来る場所で身を休めたいのだ。安全という意味合いでは、兄の側が一番安全なのだが、そういう方面では無く…水とかね、本当にね……不味いし危ないから飲んだら私の空洞な身体の内側が汚れてしまう。

ベッドに寝っ転がっていれば、暇そうな兄が私へ手を伸ばし頬をみょいんみょいんと摘まんだり、頭を撫でてみたりするので、もっと構えと兄のプリティーなケツに頭突きをすれば、両脇に手を入れて身体を起こされそのまま私を抱き締め、ベッドに身を横にした。どうやら寝たかっただけらしい。

「せまーい、あつーい」
「俺からしたら、お前冷たくて気持ち良いんだよ」

そうすか……別にいいけどね、私はお兄ちゃんが大好きな妹なので、でもそれはそれとして邪魔ではある。
二人揃って狭いベッドでキュウキュウにひっついていれば、ポケットに入れた携帯が震えた。モゾモゾと身をよじり携帯を取り出して届いたメールの文面を読む、何々………えっ。

「後にしろよ…」
「な、ナマコが………」
「……は?」

届いたメールは大変珍しい人物からの物であった。
私のプリティでキュアピュアな後輩ちゃんズの白くて真面目な方、七海くんからのメール。基本的に七海くんは必要最低限の時にしか私にメールしてこない、何故なら彼は私を酷く警戒しているところがあるから…そんなに危ない人間じゃないのにね、少なくとも生きてる内に君達に手は出さないよ、本当だよ、我慢出来るもん。
さて、そんな私のことを警戒心マシマシで見ている七海くんからのメール内容であるが……。


【件名】先輩に頂いたナマコの件です。

【本文】お疲れ様です、先輩に頂いたナマコが最近元気がありません。灰原のナマコはまだ元気がありますが、夏油さんの2匹居る内の1匹も元気が無い様子です。
一度様子を見に帰国して頂くことは可能でしょうか?
ご検討の程よろしくお願い致します。


な、七海くん……君ってば、そんなにナマコ型鉱物生命体のこと大事に育ててくれてたの?本当に?私があげた時、隠す気も無く顔面に「クッッッソいらない」と書いていたあの七海くんが!?ナマコ型鉱物生命体、ラボ42号を大切にしている、だと!?
硝子ちゃんなんか、私があげた翌日には解剖して、解剖した詳細データをあげた本人である私に送って来たのに!?
五条くんなんて放し飼いしてたらどっか行ったとか言ってたのに!?
な、七海くん……なんて優しい子なんだ…私にとっては実験用モルモットと同レベルの存在にそこまで……。

頼られている。今、私は、警戒心剥き出しで私に愛想の一つも見せなかった後輩に頼られている!
これは何が何でも帰り、先輩の威厳ってやつを見せつけて地位向上、信頼関係回復、好意マシマシ…最終的には遺書に「遺体は先輩にあげちゃう♡大事にしてねっ!」って書かせて……ぐっへっへ…七海くんの可愛い身体であんなことやこんなことを……。

「お兄ちゃん、日本に帰るよ!」
「お前今すげぇ顔してたぞ」
「日本帰ったらお寿司食べに行こうね」
「よし、帰るか」

待ってろ七海くん!今、君のナマコを助けてやるからな!!
そして最終的に君の身体を貰うからな!!
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