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プロローグ

――暗い。

何も無い空間で「それ」は目を覚ました。
何もわからないけれど、とにかくここは暗くて冷たくて寂しいと感じる。

――暗いのは嫌。

そう思うと同時に「それ」は照らされた。しかし、照らされるだけで何も無いのに変わりはなく、ただただ真白い空間が延々と続いている。

――何も無いのも嫌。

名前のない何かが生まれる。色も形もない、そこにあるだけの何か。

――――色が無いのは嫌。形が無いのは嫌。前が見えないのは嫌。香りを感じられないのは嫌。何も聞こえないのは嫌。味がわからないのは嫌。何も触れられないのは嫌。体が無いのは嫌。体が欲しい。全てを感じられる体が欲しい。

名前のない何かは「それ」と混ざり合い、「それ」は少女へと姿を変える。
暗くはなくなったが寂しさは拭えない。少女は望む。寂しさを埋める何かが欲しいと。

――視える全てに彩りが欲しい。触れる熱が欲しい。音が欲しい。踏みしめる地面が、見上げる空が、清らかな空気が、流れる水が、甘い果実を実らせる木々が、自由に生きる生命が欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしい

少女が望むとおりにそれらは創造され、世界となっていく。
少女は太陽の香りがする野原に寝転んだ。
少女を包む世界は暖かい。けれど少女は満たされない。「それ」と混ざり合って創られた少女が創った世界もまた、「それ」なのだ。どうしようもない孤独は、生まれたばかりの少女の心を蝕む。

――寂しい。どうしようもなく寂しい。どうしてここにはワタシしかいないのだろう。ここにワタシ以外の何かがいれば、言葉を交わせたのなら、触れ合えたのなら……この寂しさは埋まるのだろうか。それならば…………

「愛が、欲しいな。」

漠然とした願いとともに少女の意識は落ちてゆく。全ては少女の願いを叶えるために。

回る世界で少女は幸せな夢をみる。

斯くして、世界は時を刻みはじめた。
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