うっかり勢いで(ハツザマ)
コアエリアの外にある監獄惑星の一角には、森に溶け込むように佇む古びた建物がある。コンクリートの壁は黒ずみ、表面が苔やツタで覆われているその建物は、一目でうち捨てられて長い年月が経っているのがわかった。
「いや、確かに相手してって言ったけどさー」
そんな建物の屋上の端で、フューは胡座をかいて座っていた。足の上に置いた情報端末機のキーボードを叩くフューの視線はディスプレイに向けられているが、呆れ混じりの言葉は明らかに隣に佇むハーツに向けられている。
数十メートル下の地上では、見知らぬ男二人が命がけの死闘を繰り広げていた。フューが実験の為に攫ってきた戦士だ。
戦士達を命がけで戦わせるのがフューの実験の一環なのだが、どうやら期待した基準ではなかったらしい。
力も速さも足りない戦いを観察していたものの、早々に飽きたフューは隣に立つハーツに話しかけたのだった。
「だからって、足腰立たなくなるまでヤっちゃう? 普通」
「オレはザマスが望んだとおりにしただけだ」
ハーツは白々しい態度でそう言った。
一応、実験の観察中に邪魔が入らないように、周りを見張っておく護衛としてフューに連れてこられたので、視線は眼下の戦士に向けられている。
戦士達がこちらに気づいて戦闘を仕掛けてこないか監視しているのだが、戦士達の実力があまりにも低いので真剣にはやっていない。不意を突かれても十分対処できるだろう。
「君、さっきからそう言っているけどさ、本当に彼がそんなこと望んだの? 彼、自慰の仕方も禄に知らなかったのに」
「もちろん。オレはザマスが望まないことはしない」
ハーツが躊躇いなく歯が浮くような台詞を吐いたので、フューはキーボードを打つ手を止めると、じとっと疑わしい視線を彼に向ける。
「でも、僕が治療室に戻ってきた時、『もうやめろ。我を離せ』って声が聞こえたんだけど」
「覗き見していたのか? 趣味が悪いぞ」
眉間に皺を寄せたハーツは、思わずフューの方に顔を向ける。
「まさか。強い戦士の戦いを観察するのは好きだけど、そういう他人の情事を盗み見るような真似はしないよ。
カンバーちゃんの再収容が終わったから、残していた治療室の後片付けをしようと思って戻ったら君達が盛ってたんだよ」
データを取る気にもなれなくなったのか、フューはパタッと二つ折りの情報端末機を閉じた。
「というか、僕が言いたいのはそこじゃなくて。別に君が彼に手を出すのは予想していたからいいんだけど、ヤるならちゃんと加減してヤってって言ってるんだよ。
本当は今日辺り、彼と誰かを戦わせてどの程度戦闘力が戻っているか確認しようと思ってたのに」
「手加減はした」
「どこが? 突っ込んだ時、何が起こったのかわからなくて、彼すっごく戸惑ってたじゃん」
「ちゃんと慣らしたし、負担をかけないようにした」
「その割に随分長く抱いてたね。最後の方、彼、意識が朦朧としてたようだけど」
「……ちょっと待て。どこまで覗いてたんだ? まさかずっと見ていたのか?」
ハーツが嫌そうに顔をしかめると、フューは抗議の声を上げた。
「人聞きの悪いこと言わないでよ。一旦治療室から離れて、もう終わったかなって思って時間をおいて戻ったら、まだ君達が治療室を占拠してただけなんだから。邪魔しなかっただけ有り難いと思ってよ」
不満を口にしながら、胡座を崩したフューは屋上の端に腰掛けた。ハーツも背後にある転落防止用の手すりにもたれ掛かろうとしたが、金属が劣化しているせいか体重をかけた途端、鈍い軋みが上がる。手すりにもたれ掛かるのを諦めたハーツをジト目で見据えつつ、フューは溜め息をひとつついた。
「全く。こんな事になるんだったら、君に任せなければ良かった」
「元はと言えば、君がザマスに媚薬なんか使うから、こうなったんだ」
「うわ。人のせいにしてきた」
「事実だろう。
――それよりも、昨日の言葉は覚えているんだろうな?」
「昨日?」
首を捻って呟いたフューだったが、やがてハーツが言っていることを察して、
「ああ、あのこと」
と、声を上げる。
「もう悪戯はするなって話? わかってるよ、もうしないよ。右目の部分を除けば治療もあらかた終わったし」
「そうか。なら……」
ハーツは言葉の途中で手をフューの方に伸ばす。訝しげにその手を見返すフューに向かってハーツは、
「媚薬を渡して貰おうか」
意外な言葉を聞いたフューは、目を丸くする。
「え? なんで?」
「まだ残ってるんだろう?」
「残ってるけど」
「君がそれを持っていると、また悪さに使うかもしれないからな。オレが預かっておく」
「えー」
露骨に嫌そうに顔をしかめるフュー。
「なんで君に渡さなきゃいけないんだよ。嫌だよ」
「もう使わないんだろう? だったら必要ないはずだ。ザマスの身の安全の為にオレが預かる」
「……君に預けた方が、ある意味危険そうだけど」
「四の五の言わずに渡せ。君がオレの目が届かない時に、こっそり使おうとしているのはバレてるんだ」
「ちぇ」
心を読まれたことを悟ったフューは唇を尖らせると、ハーフパンツの後ろポケットをごそごそと探る。中から取り出されたのは、銀紙のシートに包まれた錠剤達だった。
ハーツは差し出されたそれを、ひったくるように受け取るとコートのポケットに仕舞う。無論、フューの心の声を“聴いて”、それが本物の媚薬であることを確認するのも忘れない。
「変なことに使わないでよ」
「君がそれを言うか」
「何に使う気かは知らないけどさ、使う時はちゃんと周りの状況を確認してから使ってくれよ。姿が見えない君を探して、治療室に行こうとしたラグスちゃんを押し止めたのは僕なんだからさ」
「杞憂だ。オレはこれを使う気はない」
その時、足下から殺気が込められた怒声が響き渡った。
ハーツとフューは揃って足下を見ると、先ほどまで戦っていた戦士の一人が建物の地上部で気が狂ったようにハーツ達に向かって喚いている。
辺りを見回せば、もう一人の戦士は離れたところで地に伏している。流れた血の量を見るに、生きてはいないだろう。どうやら戦いに勝ったらしい戦士の生き残りは、耳障りながなり声で、
「お前達も殺してやる!」
と、叫んでいた。
血塗れのまま、獣のような気狂いした目で睨み上げてくる戦士を、フューとハーツは冷めた目で見下ろしていた。
フューは興が削がれたように溜め息をつくと、
「あれ、片付けておいて」
一方的にそう言うと、ハーツの返事も待たずにフューは飛び立った。飛び上がったフューに刺激されて、戦士の怒鳴り声がひどくなる。
ハーツは不快そうに眉間に皺を寄せると、右腕を戦士に向けた。
一瞬の後、肉塊が重い物に押しつぶされたかのような鈍く、水気のある音が森に響き渡ったのだった。
ハーツが自分の部屋に戻ると、ちょうど合体ザマスが起き出したところだった。
治療室で色々と致した後、気を失った合体ザマスを自分の部屋に連れてきて、寝室のベッドに寝かせたのだ。
起き抜けだったらしい合体ザマスは、ぺたんとベッドの上に座ったまま、ぼんやりした表情で見慣れない部屋を見回している。
その視線がハーツに向けられた瞬間、はっと彼の瞳に光が戻る。
「起き……」
「寄るな!」
ハーツが言葉を紡ぎ終えるより早く。合体ザマスは裸の体にシーツを巻き付けると、ずざっとハーツから距離を取った。
警戒を露わに、合体ザマスがハーツに対して敵意を向ける理由――それは。
……まあ、昨夜のことだろうな。
流石にやり過ぎたか、と内心反省したハーツはその場に立ち止まると、合体ザマスに努めて穏やかに話しかけた。
「何もしないから落ち着いてくれ。体の具合は? 異常は無いか?」
「……」
「そう睨むな。昨日のことは、やり過ぎたと思っている。謝罪する」
合体ザマスは両手を挙げて降参のポーズを取るハーツを、露骨に警戒していた。どうやら、昨夜は相当なものだったらしい。
「償いと言ってはなんだが、君が昨日あれ程までに乱れていた原因がわかったぞ」
「本当か!?」
合体ザマスは途端に目を輝かせる。
「ある程度、察していると思うが、昨日フューが使った薬のせいだ。使った薬の中に催淫作用があるものがあったらしい」
「やはりか。どうりであの時、体の感覚が異常だったはずだ。でなければ、この我があんな……!」
「そうだ。君が乱れていたのは薬が原因だ」
「ちっ! あの変態め……!」
合体ザマスは苛立たしげに、ぼすっとベッドのマットレスを殴る。
意識が逸れたところで、ハーツはベッドに近づく。ハーツの予想通り、フューに対して怒りをぶつけている合体ザマスは、自分に意識を向けていない。ハーツはそのままベッドに腰掛けた。
フューに対してあらん限りの罵詈雑言を浴びせていた合体ザマスだが、やがてあることに思い当たってはっと顔を上げた。
「フューが使った薬は何だ?」
「気になるか?」
「当たり前だ。そのようないかがわしい薬をあいつが持っていたら、またよからぬ事に使う。何としてでも奪わなければ……!」
「心配するな。その薬はオレが回収している」
その言葉を聞いた途端、合体ザマスはぱあっと顔を輝かせた。
「でかしたぞ! これで二度と、あのような卑猥な行為をしなくて済む!」
合体ザマスがそう歓喜の声を上げた途端、ハーツの動きがピタッと止まった。薬を取り出そうとコートのポケットに片手を突っ込んだ状態で逡巡する。
――この薬を渡すと、昨晩のような睦み合いができなくなる?
ハーツの中で、昨夜の甘美な体験が思い起こされる。
合体ザマスと繋がった時の彼の嬌声、肢体、中の温かさ。それが一生味わえなくなると認識した瞬間、惜しむ気持ちが芽生えた。
突然、動きを止めたハーツを、合体ザマスは訝しげに見上げる。
「どうした? その穢らわしい薬を早く我によこせ」
「……ああ、わかっている」
そう言うとハーツはポケットから薬を取り出して合体ザマスに手渡した。
フューから奪ったのは銀のシートに包まれた十錠の薬。
合体ザマスに手渡されたのは、銀のシートに包まれた四錠の薬だった。
「この薬、覚えがある。体を活性化させる為の薬だとか言いながら我に飲ませた薬だ」
合体ザマスは忌ま忌ましげにそう言うと、受け取った薬を手の平の上で一瞬で灰にした。そして、ふっと息を吹きかけて、手の平の上の灰を吹き飛ばす。
「ハーツ。この穢らわしい薬は、これで全てだな?」
そう問われたハーツは、いつもの笑みを浮かべると、
「ああ、そうだ」
と、はっきり答える。ハーツの言葉を聞いた途端、合体ザマスは機嫌が良くなった。
合体ザマスが心から喜んでいるのを確認して、ハーツもまた唇の端に笑みを浮かべる。
コートの中に仕舞われた六錠の錠剤が、その存在を主張するように小さくかさっと音を立てたのだった。
「いや、確かに相手してって言ったけどさー」
そんな建物の屋上の端で、フューは胡座をかいて座っていた。足の上に置いた情報端末機のキーボードを叩くフューの視線はディスプレイに向けられているが、呆れ混じりの言葉は明らかに隣に佇むハーツに向けられている。
数十メートル下の地上では、見知らぬ男二人が命がけの死闘を繰り広げていた。フューが実験の為に攫ってきた戦士だ。
戦士達を命がけで戦わせるのがフューの実験の一環なのだが、どうやら期待した基準ではなかったらしい。
力も速さも足りない戦いを観察していたものの、早々に飽きたフューは隣に立つハーツに話しかけたのだった。
「だからって、足腰立たなくなるまでヤっちゃう? 普通」
「オレはザマスが望んだとおりにしただけだ」
ハーツは白々しい態度でそう言った。
一応、実験の観察中に邪魔が入らないように、周りを見張っておく護衛としてフューに連れてこられたので、視線は眼下の戦士に向けられている。
戦士達がこちらに気づいて戦闘を仕掛けてこないか監視しているのだが、戦士達の実力があまりにも低いので真剣にはやっていない。不意を突かれても十分対処できるだろう。
「君、さっきからそう言っているけどさ、本当に彼がそんなこと望んだの? 彼、自慰の仕方も禄に知らなかったのに」
「もちろん。オレはザマスが望まないことはしない」
ハーツが躊躇いなく歯が浮くような台詞を吐いたので、フューはキーボードを打つ手を止めると、じとっと疑わしい視線を彼に向ける。
「でも、僕が治療室に戻ってきた時、『もうやめろ。我を離せ』って声が聞こえたんだけど」
「覗き見していたのか? 趣味が悪いぞ」
眉間に皺を寄せたハーツは、思わずフューの方に顔を向ける。
「まさか。強い戦士の戦いを観察するのは好きだけど、そういう他人の情事を盗み見るような真似はしないよ。
カンバーちゃんの再収容が終わったから、残していた治療室の後片付けをしようと思って戻ったら君達が盛ってたんだよ」
データを取る気にもなれなくなったのか、フューはパタッと二つ折りの情報端末機を閉じた。
「というか、僕が言いたいのはそこじゃなくて。別に君が彼に手を出すのは予想していたからいいんだけど、ヤるならちゃんと加減してヤってって言ってるんだよ。
本当は今日辺り、彼と誰かを戦わせてどの程度戦闘力が戻っているか確認しようと思ってたのに」
「手加減はした」
「どこが? 突っ込んだ時、何が起こったのかわからなくて、彼すっごく戸惑ってたじゃん」
「ちゃんと慣らしたし、負担をかけないようにした」
「その割に随分長く抱いてたね。最後の方、彼、意識が朦朧としてたようだけど」
「……ちょっと待て。どこまで覗いてたんだ? まさかずっと見ていたのか?」
ハーツが嫌そうに顔をしかめると、フューは抗議の声を上げた。
「人聞きの悪いこと言わないでよ。一旦治療室から離れて、もう終わったかなって思って時間をおいて戻ったら、まだ君達が治療室を占拠してただけなんだから。邪魔しなかっただけ有り難いと思ってよ」
不満を口にしながら、胡座を崩したフューは屋上の端に腰掛けた。ハーツも背後にある転落防止用の手すりにもたれ掛かろうとしたが、金属が劣化しているせいか体重をかけた途端、鈍い軋みが上がる。手すりにもたれ掛かるのを諦めたハーツをジト目で見据えつつ、フューは溜め息をひとつついた。
「全く。こんな事になるんだったら、君に任せなければ良かった」
「元はと言えば、君がザマスに媚薬なんか使うから、こうなったんだ」
「うわ。人のせいにしてきた」
「事実だろう。
――それよりも、昨日の言葉は覚えているんだろうな?」
「昨日?」
首を捻って呟いたフューだったが、やがてハーツが言っていることを察して、
「ああ、あのこと」
と、声を上げる。
「もう悪戯はするなって話? わかってるよ、もうしないよ。右目の部分を除けば治療もあらかた終わったし」
「そうか。なら……」
ハーツは言葉の途中で手をフューの方に伸ばす。訝しげにその手を見返すフューに向かってハーツは、
「媚薬を渡して貰おうか」
意外な言葉を聞いたフューは、目を丸くする。
「え? なんで?」
「まだ残ってるんだろう?」
「残ってるけど」
「君がそれを持っていると、また悪さに使うかもしれないからな。オレが預かっておく」
「えー」
露骨に嫌そうに顔をしかめるフュー。
「なんで君に渡さなきゃいけないんだよ。嫌だよ」
「もう使わないんだろう? だったら必要ないはずだ。ザマスの身の安全の為にオレが預かる」
「……君に預けた方が、ある意味危険そうだけど」
「四の五の言わずに渡せ。君がオレの目が届かない時に、こっそり使おうとしているのはバレてるんだ」
「ちぇ」
心を読まれたことを悟ったフューは唇を尖らせると、ハーフパンツの後ろポケットをごそごそと探る。中から取り出されたのは、銀紙のシートに包まれた錠剤達だった。
ハーツは差し出されたそれを、ひったくるように受け取るとコートのポケットに仕舞う。無論、フューの心の声を“聴いて”、それが本物の媚薬であることを確認するのも忘れない。
「変なことに使わないでよ」
「君がそれを言うか」
「何に使う気かは知らないけどさ、使う時はちゃんと周りの状況を確認してから使ってくれよ。姿が見えない君を探して、治療室に行こうとしたラグスちゃんを押し止めたのは僕なんだからさ」
「杞憂だ。オレはこれを使う気はない」
その時、足下から殺気が込められた怒声が響き渡った。
ハーツとフューは揃って足下を見ると、先ほどまで戦っていた戦士の一人が建物の地上部で気が狂ったようにハーツ達に向かって喚いている。
辺りを見回せば、もう一人の戦士は離れたところで地に伏している。流れた血の量を見るに、生きてはいないだろう。どうやら戦いに勝ったらしい戦士の生き残りは、耳障りながなり声で、
「お前達も殺してやる!」
と、叫んでいた。
血塗れのまま、獣のような気狂いした目で睨み上げてくる戦士を、フューとハーツは冷めた目で見下ろしていた。
フューは興が削がれたように溜め息をつくと、
「あれ、片付けておいて」
一方的にそう言うと、ハーツの返事も待たずにフューは飛び立った。飛び上がったフューに刺激されて、戦士の怒鳴り声がひどくなる。
ハーツは不快そうに眉間に皺を寄せると、右腕を戦士に向けた。
一瞬の後、肉塊が重い物に押しつぶされたかのような鈍く、水気のある音が森に響き渡ったのだった。
ハーツが自分の部屋に戻ると、ちょうど合体ザマスが起き出したところだった。
治療室で色々と致した後、気を失った合体ザマスを自分の部屋に連れてきて、寝室のベッドに寝かせたのだ。
起き抜けだったらしい合体ザマスは、ぺたんとベッドの上に座ったまま、ぼんやりした表情で見慣れない部屋を見回している。
その視線がハーツに向けられた瞬間、はっと彼の瞳に光が戻る。
「起き……」
「寄るな!」
ハーツが言葉を紡ぎ終えるより早く。合体ザマスは裸の体にシーツを巻き付けると、ずざっとハーツから距離を取った。
警戒を露わに、合体ザマスがハーツに対して敵意を向ける理由――それは。
……まあ、昨夜のことだろうな。
流石にやり過ぎたか、と内心反省したハーツはその場に立ち止まると、合体ザマスに努めて穏やかに話しかけた。
「何もしないから落ち着いてくれ。体の具合は? 異常は無いか?」
「……」
「そう睨むな。昨日のことは、やり過ぎたと思っている。謝罪する」
合体ザマスは両手を挙げて降参のポーズを取るハーツを、露骨に警戒していた。どうやら、昨夜は相当なものだったらしい。
「償いと言ってはなんだが、君が昨日あれ程までに乱れていた原因がわかったぞ」
「本当か!?」
合体ザマスは途端に目を輝かせる。
「ある程度、察していると思うが、昨日フューが使った薬のせいだ。使った薬の中に催淫作用があるものがあったらしい」
「やはりか。どうりであの時、体の感覚が異常だったはずだ。でなければ、この我があんな……!」
「そうだ。君が乱れていたのは薬が原因だ」
「ちっ! あの変態め……!」
合体ザマスは苛立たしげに、ぼすっとベッドのマットレスを殴る。
意識が逸れたところで、ハーツはベッドに近づく。ハーツの予想通り、フューに対して怒りをぶつけている合体ザマスは、自分に意識を向けていない。ハーツはそのままベッドに腰掛けた。
フューに対してあらん限りの罵詈雑言を浴びせていた合体ザマスだが、やがてあることに思い当たってはっと顔を上げた。
「フューが使った薬は何だ?」
「気になるか?」
「当たり前だ。そのようないかがわしい薬をあいつが持っていたら、またよからぬ事に使う。何としてでも奪わなければ……!」
「心配するな。その薬はオレが回収している」
その言葉を聞いた途端、合体ザマスはぱあっと顔を輝かせた。
「でかしたぞ! これで二度と、あのような卑猥な行為をしなくて済む!」
合体ザマスがそう歓喜の声を上げた途端、ハーツの動きがピタッと止まった。薬を取り出そうとコートのポケットに片手を突っ込んだ状態で逡巡する。
――この薬を渡すと、昨晩のような睦み合いができなくなる?
ハーツの中で、昨夜の甘美な体験が思い起こされる。
合体ザマスと繋がった時の彼の嬌声、肢体、中の温かさ。それが一生味わえなくなると認識した瞬間、惜しむ気持ちが芽生えた。
突然、動きを止めたハーツを、合体ザマスは訝しげに見上げる。
「どうした? その穢らわしい薬を早く我によこせ」
「……ああ、わかっている」
そう言うとハーツはポケットから薬を取り出して合体ザマスに手渡した。
フューから奪ったのは銀のシートに包まれた十錠の薬。
合体ザマスに手渡されたのは、銀のシートに包まれた四錠の薬だった。
「この薬、覚えがある。体を活性化させる為の薬だとか言いながら我に飲ませた薬だ」
合体ザマスは忌ま忌ましげにそう言うと、受け取った薬を手の平の上で一瞬で灰にした。そして、ふっと息を吹きかけて、手の平の上の灰を吹き飛ばす。
「ハーツ。この穢らわしい薬は、これで全てだな?」
そう問われたハーツは、いつもの笑みを浮かべると、
「ああ、そうだ」
と、はっきり答える。ハーツの言葉を聞いた途端、合体ザマスは機嫌が良くなった。
合体ザマスが心から喜んでいるのを確認して、ハーツもまた唇の端に笑みを浮かべる。
コートの中に仕舞われた六錠の錠剤が、その存在を主張するように小さくかさっと音を立てたのだった。
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