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第十一話 犯人を捜して(8月18日 火曜日)

「ザマスなら、今、警察署にいる。事情聴取を受けているところだ」

 駐車場に止まった跳ね馬のエンブレムを掲げた赤い車。エアコンを効かせた車内で、ハーツは電話でやり取りしていた。

 スマートフォンに無線で繋いだ片耳型のハンズフリーイヤフォンから、ゴワスの疲れ切った声が聞こえる。

『そうか……やはり、ザマスは警察に捕まったのか』
「おいおい」

 ハーツは思わず苦笑した。

「勘違いしてはいけない。ザマスは、あくまで任意の聴取で呼ばれただけだ。
 参考人として話を聞かれているだけで、被疑者になった訳じゃない」
『そうなのか? それなら、安心……と、言いたいところだが、参考人として呼ばれた後に、被疑者として身柄を拘束されることもあると聞く。
 ザマスは……大丈夫だろうか?』
「状況からして、彼が疑わしいのは事実だが、明確な証拠があるわけではない。
 それに、今、ザマスからメッセージが届いた。事情聴取が終わったそうだ。今、オレの所に向かっている。だから、安心してくれ」

 ハーツの視線が、車のホルダーにセットされたスマートフォンの画面に向く。そこには、ザマスからのメッセージが通知されていた。

『そうか。それは良かった』

 ゴワスの安堵が聞こえる。電話の向こうで、ほっと肩の力を抜いている姿が目に浮かぶようだった。

「ザマスは、院長を殺した犯人を捕まえてやると息巻いている。危うく濡れ衣を着せられかけた礼をするためにな」
『なんと!』
「オレも協力するつもりだ。もちろん、ザマスが犯人を殺したり、犯人から殺されたりしないように守るつもりだ」
『しかし、犯人を探すのは危険では? 君に、ザマスを任せっきりにしている私が言うのもなんだが、神の御心に背くような早まった真似はしないように、止めた方がいいのではないか?』

 神の御心という単語が出た瞬間、ハーツの眉が不快そうにぴくっと跳ねた。
 だが、彼はそのような気配はおくびにも出さず、むしろゴワスの意見に同調した。

「オレも貴方と同意見だ。
 正直なところ、捜査は警察に任せて、家で大人しくしていて欲しいんだが、彼がそんなしおらしい性格じゃないことは、貴方もよく知っているだろう?」
『しかし……』
「ここで調査を止めろと言ったところで、ザマスはその言葉に従うような人物ではない。
 なら、彼に賛同して側に居たほうが、よっぽど彼の動向を窺うことができる」
『……』

 ゴワスは少しの間、沈黙する。やがて、イヤフォンの向こうから、諦めにも似た声音で、

『……確かにそうかもしれんな。
 それに、今の私では、ザマスを止めることができないし、側に居ることもできない。すまないが、ザマスともども、もう少し君に甘えることになるようだ』
「構わない」
『ありがとう。君には本当に感謝している』

偽りのない感謝の言葉。ハーツは、ゴワスに気にしないように伝えた後、駐車場の向こうにザマスの姿が見えたので通話を終了した。

 時々、こうやってゴワスにザマスの近況を伝えているのだが、それはザマスには知らせていない。

 ゴワスに反発している彼が知ると激怒しかねないし、何よりをゴワスはそれを見越してザマスにはこの事を伝えないように、ハーツに依頼していた。

 ハーツとしては、ザマスを騙しているようで気が引けるのだが、ザマスを心から心配しているゴワスを無碍にするわけにもいかない。それに、ゴワスは情報の仕入れ先としては中々有用だ。

 耳につけていた片耳型のイヤフォンを取って、ボトムスのポケットに仕舞った瞬間、助手席のドアが開いた。

「待たせたな」

 ザマスが車内に滑り込んでくる。

「大丈夫、オレも事情聴取が終わったばかりだ。お互い、事情聴取の後に身柄を拘束されなくて良かったな」

 ハーツは軽口を叩きながら、エンジンをかける。
 ザマスがシートベルトを着用したのを見計らって、ハーツはアクセルをゆっくり踏んだ。

 車は滑らかに動き出し、駐車場を出て道路を走る車の列に混じっていく。時刻は既に十八時をまわっている。夏だからまだ明るいが、これから徐々に暗くなっていくだろう。

「事情聴取に三時間か。時間がかかったな」
「ハーツ。お前は警察から何を聞かれた?」
「それは後で話そう。長くなりそうだし、どうせならフューを交えて話したい」
「フューを? 何故だ?」
「轢き逃げされた教授が運び込まれたのは、フューが働いている病院だ。彼なら教授が轢かれた時のことを知っている可能性が高い。だから、今日は三人で食事をしようと思うんだが、構わないか?」
「……あいつに事件のことを話すのか」

 ザマスは顰めっ面をする。
 面白半分で首を突っ込むフューが、今から目に浮かぶようだった。

 正直なところ、ザマスはフューに対して胡散臭さを抱いているので、彼を関わらせたくないのだが、教授の事件の事を知るには、確かにハーツの言うとおり、フューに聞くのが一番手っ取り早かった。

 ザマスは溜め息をつくと、

「仕方がない」

 溜め息交じりにそう呟いた後、ザマスは窓の向こうの、黄昏れた風景に目を移したのだった。





 ぴんぽーん
 玄関の扉を開けると、そこにはレジ袋を片手に持ったフューが立っていた。

「やっほー」

 フューは片手を上げて、出迎えたザマスに挨拶をする。眉間に皺を寄せたザマスは、無言のまま、玄関扉を大きく開けて中に入るよう促した。

「お邪魔しまーす」

 フューは靴を脱いで部屋の中へ。
 リビングに通されると、今度はダイニングテーブルに座ってビールを飲んでいたハーツに片手をあげて挨拶した。

「来たよ」
「やあ、珍しく時間通りだな」
「仕事が落ち着いてたから、早く帰れたんだよ。あ、これ買ってきたけど、どうしたらいい?」

 フューがレジ袋を差し出すと、ザマスが受け取った。

 コンビニのレジ袋に入っているのは大量のアイス。道中が暑かったからか、パッケージには大量の結露がついていた。アイスが溶けてしまわないうちに、ザマスは中身を次々と冷凍庫に仕舞っていく。

 フューはそのザマスの様子を眺めながら、

「体がしっかり動くようになったみたいだね。日常生活を送る上では問題なさそう」

 凄い回復力、と感心しながら、フューはハーツの向かいに着席する。

 ダイニングテーブルの上には、既に宅配ピザとサラダが並んでいた。

 事件の情報を整理しようと言うことで、フューを交えてどこかで食事をしようとハーツが提案したのだが、当のフューがザマスの家に行ってみたいと言い出したのだ。

 入院している最中、ザマスは何度かフューと顔を合わせているので、二人は顔見知りではあるが、フューの初印象が良くないせいで、ザマスとしては家に歓迎するのは諸手を挙げて賛成しにくい。

 だが、警察から疑われている今、そんな事を言っている暇はないし、それに話す内容が内容である。

 見知らぬ人間の耳に入ると厄介な事を話すなら、自宅が一番と考え直したザマスは、フューを家に招待することを了承したのだった。

 ちなみに、夕食を作る時間は無かったので、今日の夕飯は宅配ピザである。

 時刻は十九時半をまわっている。
 キッチンから戻ってきたザマスがハーツの隣に座ると、まず夕食が始まった。

 フューは遠慮無くマルゲリータのピザを掴むと、はむっと食べる。囓ったピザを口から離すとチーズが伸びた。

 フューはチーズを零さないように気をつけながら、

「んで、ハーツ。僕は教授の容態について、話したらいいの?」
「もちろん」

 ハーツは缶ビールを飲んだあとに頷いた。

「話しても良いけど、その前に、二人が警察から何を聞かれたのか教えてよ。あと――」

 フューは視線をザマスに向ける。

「あと、院長が殺された日の、君の一日の行動を知りたいな」

サラダのトマトを食べようとしていたザマスの手が止まる。ザマスはじろりとフューを見据えると、

「お前にそれを説明する必要はない」
「えー! 意地悪! だったら僕も教授の事は話さないよ」
「貴様……!」
「ザマス」

 剣呑な雰囲気を纏い始めたザマスを、ハーツは諫めた。

「落ち着け。今は諍いを起こしている場合じゃない」
「だからといって、私の一日の行動までこいつに話す必要があるのか?」
「君がフューを警戒する気持ちはわかる。だが、フューは……まあ、それなりに……信用できる」
「なんでそこ歯切れが悪いの?」
「フューは清廉潔白とは言い難い思考をしているし、目的のためなら平気で道徳を無視してくるから油断ならないが、面白いと思ったら、自分から危ないところに首を突っ込んで、情報を拾ってくるから話しても大丈夫だ」
「何が大丈夫だ。それでどうやって、フューのことを信用しろと?」

 フュー、ザマスが交互に突っ込みを入れる。

「とにかく、オレが望んでいるのは情報交換だ。
 ザマスは院長が死んだ当日の院内のことを知っているし、オレは社長が死んだ時の状況を知っていて、フューは病院に運ばれてきた教授のことを知っている。
 三人それぞれ、情報を出して、その当日のことを明らかにしたいんだ。だから、フュー、取り敢えず君から話してくれ」

 ハーツの言葉を聞いたフューは、不満そうに口を尖らせた。

「えー、なんで僕? 僕の話が一番つまらないと思うよ、大体、警察からの又聞きだし」
「だからだ。面白い話は、後にとっておいたほうが良いだろう?」

 上手い具合に切り替えされたフューは、口をへの字に曲げた後、渋々話し始めた。

「僕は救急隊の報告と、警察の話を聞いただけなんだけど、教授が轢かれたのは8月17日の10時頃だって。
まず第一報が入ったのが10時5分で、その時の通報者はおそらく男性。 
 動揺した様子で、『人を轢いた』『赤信号なのに横断歩道を渡っていた』『時速60キロメートルくらいで轢いてしまった』って言ってたんだって。
 ただ、救急隊がその現場に行った時には通報者はいなくて、教授がうつ伏せで倒れたままだったみたい」
「通報はスマートフォンからか? だったら、119番と同時に位置情報が飛ぶから、通報者がどこにいるのか分かるんじゃないのか?」
「それが、どうも通報者はそれを知っていたみたいで、現場の近くにSIMカードが抜かれたスマートフォンが水溜まりに投げ捨てられていたみたい」
「それはまた随分念の入れ用だな。で、教授の容態は?」

 フューは肩をすくめながら、

「かなり悪いよ。
 事故の衝撃で頭の中で出血が起こってるんだけど、その出血が止まらない。じわじわじわじわ出血して、脳を圧迫し続けてる。
 主治医が、他科と相談して脳出血に対して、どうにかしようとしているけど効果が出てない。このままだと、近いうちにお亡くなりになるだろうね」

 フューの話を聞いていたザマスは、ふんと鼻を鳴らすと、

「あいつも悪運がつきたか。日頃の行いに対する報いが来たんだろう。だから轢き逃げに遭うんだ」
「……君、自分が轢き逃げにあったこと忘れてない?」
「私は死なずに回復した。日頃の行いの差だ」
「……」

 きっぱり言い切ったザマスと思わず閉口するフュー。二人のやり取りを眺めていたハーツは、苦笑しながら、

「それで、他に何かわかることは?」
「んー、あと、知っていることと言えば、患者に身寄りがないことぐらいかな?
 独身だし、兄弟姉妹はいなくて、両親も亡くなってて、親戚と呼べる人もいないみたい」
「轢き逃げされた時の持ち物や衣服は? 一緒に病院に届けられたんじゃないのか?」
「警察が捜査のためにあらかた持っていったよ。
 救急外来の看護師さんが運び込まれた時に持ち込まれた物を一覧にしてメモしてくれてたけど、確か、普通のスーツにあとは黒のクラッチバッグといくつかの書類と、鍵と財布とスマートフォンくらいじゃなかったかな」
「そうか……」

 ハーツは何かを考えるかのように、言葉少なにビールを飲む。

「僕が知ってることはこれくらい。
 次は、ハーツの話を聞かせてよ。社長が倒れた時、そばにいたんでしょ?」
「ああ。といっても、突然のことだったんだが……」
「パーティーの最中に倒れたんだっけ?」
「そうだ。前にも言ったが、この辺りの自営業者の懇親会みたいなパーティーに出席したんだ。
 そのパーティーの最中にあの社長が倒れてな」
「もっと詳しく話して」

 フューにねだられたハーツは、飲んでいた缶ビールをことっとテーブルの上に置くと、

「パーティーは、駅の近くにあるホテルの会場を借りて行われた。17時受付開始で、パーティー自体は18時開始だ。五十人位集まったみたいで、オレが会場に着いたのは17時30分くらいだ。
 主催者の挨拶が始まって、立食パーティーが始まって三十分くらいした時、社長と会って話し始めた。
 他にも三人の人間を交えて話していたんだが、途中、小腹が空いたから、オレが人数分の軽食を皿に盛って、談笑していた人たちと食べたんだ。
 取ってきたのは、カナッペだったんだが、全員がそれを食べた後、社長がいきなり苦しそうにしたと思ったら、その場に倒れた」
『え?』

 ザマスとフューの驚きの声が重なる。フューは目を丸くしながら、

「君が、持ってきた料理を食べて倒れたの?」
「そうだ。しかも、すぐに声をかけたが反応はなく、脈もなかった。
 そこからはてんやわんやだ。救急車を呼んだり心臓マッサージをしたりAEDをかけたり」
「ハーツはなんともなかったの? 同じ皿の料理を食べたんでしょう?」
「ああ。オレだけではなく、その他の人間もなんともなかった」
「それで、警察には何も聞かれなかったの?」
「聞かれたさ。社長を救急車に乗せた後、根掘り葉掘り、うんざりするくらいな。
 しかも、散々説明したにも関わらず、今日もまた事情聴取のために出頭だ」
「だろうね。その状況じゃあ、君が疑われるのも無理はないよ」

 どんまいと軽くハーツを慰めながら、フューはシーフードピザを手に取った。

「警察からは、まだ疑われてるの?」
「さあな。警察は何も言わなかったよ。一応、今のところ次の事情聴取の予定はないし、今日も身柄を拘束されずに解放されたから、容疑者扱いではないようだが」

 しばらく、食事の手を止めて、ハーツの話に聞き入っていたザマスが口を開いた。

「社長が、その料理を食べた時の順番を覚えているか?」
「警察と同じことを聞くな」

 ハーツは何がおかしいのか、愉快そうに笑いながらそう言った。

「最初に食べたのは社長だ。会話していた五人の中では一番年上だったから、まずは社長が手に取って、その後は他の三人が手に取って、そして最後に余った奴をオレが食べた。
 これは他の三人の証言とも一致している」
「なるほど」

 ザマスは、警察がハーツを容疑者扱いしていない理由がわかった気がした。食べた瞬間に苦しみだしたことから、社長は毒を盛られたと推測できるが、状況を確認する限りハーツは毒を盛れない。

 社長がどのカナッペを手に取るかわからないため、毒を盛っても別の人間が誤ってそれを食べてしまう怖れがあるどころか、誰もそれを手に取らず、自分で食べる羽目になるかもしれないのだ。

 ザマスは、二本目の缶ビールに手をかけたハーツに問いかける。

「その、お前と社長と談笑していた他の三人は、社長に対して恨みを抱いていたりという話は聞いたことないか?」
「あるぞ。というか、あの会場には、彼に対して良い感情を抱いている者は、オレも含めてほぼいないんじゃないのか?」

 ハーツの返答がザマスの予想を超えていたので、彼はぽかんと口を開けた。

「そんなに、あの社長は恨まれていたのか……?」
「彼のやり方は結構あくどくてな。リフォームでぼったくるのは当たり前。素人を食い物にしているって評判だ。うちもしてやられた」

 缶ビールで口の中のピザを胃に落とし込んでいたフューは、呆れ顔で、

「よくそんなのと談笑できたね」

 ザマスも口には出さなかったが、フューと同意見だった。

「プライベートはともかく、ビジネスの場では別だ。
 それに、そういう強引な仕事ぶりをしてるからか、会社の規模は結構大きい。パーティー参加者の中では、トップレベルの規模だから、あまり無碍に扱えないんだ」
「へー」

 興味深げに相づちを打っていたフューは、ふとある疑問を思いついた。

「ところで、結局、その社長の死因は何だったわけ?」
「おいおい」

 ハーツは呆れたように、

「まだ社長は死んでいないぞ。
 病院に運び込まれた後、今も集中治療室で治療を受けている。聞いた限りでは、かなり厳しい状態で意識も戻ってないそうだが」
「あ、そうなの? てっきり死んだかと思った。なら今どこにいるわけ?」
「君もよく知っている病院だ」
「え、それって……」
「どこの病院のことだ?」

 フューは察したようだが、ザマスはそのヒントだけではわからなかった。

「ほら、あのヘリポートもある大学病院だ。私立大学付属の」
「あそこか」

 その病院ならザマスも知っている。この辺りではトップレベルの規模を誇る病院である。

 ついでに言うなら、フューの伯父が院長を務めている病院でもあった。

 病院としての腕はともかく、経営を経営者一族が牛耳っているせいもあってか、黒い噂が絶えないため評判は芳しくない。

 フューは今度、母親に会いに行くがてら、カルテを覗き見してみようかな、と守秘義務を無視したことを考える。フューの母親であるトワもその病院に所属しているので、電子カルテを覗き見るのは可能だ。

 ただ、その場合、伯父に見つかったら『うちの病院に移れ』だの『院長を目指してこの病院を継げ』など、小うるさい説教を言われるのが目に見えているので、見つからないように行動しないといけないが。

 フューはそんなことを考えながら、ザマスの方に向き直ると、

「そういえばさ、君はどうして社長を恨んでるわけ? 寄付をしてくれなかったから?」

 社長は、轢き逃げ事件の容疑者のひとりに上がっていた。
 警察に嘘をついたり、犯行そのものは可能という怪しい点から、シロと断じられる事は無かったが、それでも他の二人と違って、ザマスの寄付の依頼を断ったというトラブル以外は、特に目立ったものがなかった。

その寄付の件も、社長自身は揉めたというほどではないと証言しているため、フューは社長が轢き逃げを起こす理由も、ザマスが社長を殺したいほど憎んでいる理由もわからず、ずっと気になっていたのだ。

 ザマスは、ふんと鼻を鳴らすと、

「見くびるな。確かに私は、轢き逃げに遭う前に社長に寄付を頼みに行ったが、だからといって寄付を断られたぐらいで恨んだりはしない」
「じゃあ、なんで社長の事を恨んでんの? 死んで当然と思うくらい、嫌ってるんでしょ?」
「……」

 ザマスは僅かに躊躇いを見せた後、

「……以前、あいつの会社を中心にして、キリスト教会への寄付を募ったことがある。
 あの社長もキリスト教徒で、教会のリフォームも手がけているから、そういう事に関わりやすかったんだろう。
 だが、あの会社を通して寄付した金額は、教会に渡される頃には必ず目減りしているんだ」
「え? それって寄付金をぴんはねしてたってこと?」
「そうだ。あの屑は、神を信奉していながら、神を利用して金儲けをしていたのだ」

 ザマスが履き捨てた言葉には、強い侮蔑の怒りが込められていた。

「あらまあ。それは協会関係者には恨まれそうだね。そういえば、ハーツの話はそれで終わり?」
「ああ。これ以上、話すことはないな」
「なら、さ」

 フューは目を輝かせてザマスに向き直る。

「なら、君の話を聞かせてよ」

 露骨に面白がっている様子のフューを見て、ザマスは眉間に皺を寄せる。

 ザマスが非難を込めて隣のハーツを見ると、ハーツは助け船を出した。

「君が話したいところだけでいい。伝えられる範囲で伝えてくれ」
「えー、全部教えてよ」
「フュー」
「ちぇ」

 フューが子供のように駄々をこねると、ハーツは短い言葉で諫めた。

 口を尖らせて拗ねるフューを、しょうがない奴だと思いながら眺めていたザマスは、やがて静かに語り出したのだった。


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