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小話(黒ザマ)

■餌付け

 魂が入れ替わっても肉体的な特徴は残るらしく、孫悟空の体を手に入れたザマス――つまり、ゴクウブラックの食欲は、孫悟空と同じくらい旺盛だった。



 ザマスとブラックと一緒に修行をして満足した孫悟空が、地球に帰った次の日。二人は中庭のガーデンテーブルに向かい合って座り、お茶をしていた。

 本日のお茶請けは、昨日、孫悟空から地球の土産として手渡されたチョコレート。
 焦げ茶色のリボンでラッピングされた小箱の蓋を開けると、一目で丁寧に作られたとわかるチョコレート達が収められていた。その美しさは、まるで宝石のようだ。

 ザマスはその内、つるりとした球体のチョコレートを一つつまんで口に運んだ。外側はぱりっとした食感のチョコレートでコーティングされているが、中身は柔らかく舌の上ですぐに溶けていく。そして、口の中に広がる濃厚でありながらまろやかな風味。
 チョコレートの風味で満たされた中、熱めの紅茶を一口飲むと、紅茶の豊かな香りがチョコレートと混じり合って喉の奥に消えていく。

「美味いな」

 思わず感嘆した。チョコレート一粒で満たされたザマスが、紅茶をすすっていると、ふと向かいに座るブラックの視線を感じて顔を上げた。

 ザマスが一粒を味わう間に、ブラックは既に全部を食べ終えている。澄ました顔で紅茶を飲んでいるが、時々ちらりとザマスのチョコレートに視線を送っているのを見て、ザマスは思わず苦笑した。

「私はもう満足した。残りは食べて良いぞ」

 そう言うとブラックは、ぱあっと顔を輝かせたのだった。



……そうやって、いつも自分のお菓子を分け与えていたからだろうか。

 あげるとは一言も言っていないのに、ザマスがお菓子の袋に手をかけた瞬間、期待した目でそばに寄ってくるブラックの姿が見られるようになったのだった。



■少しも寒くないわ

 ゴクウブラックとザマスは、ソファに並んで座って映像を見ていた。映し出されているのは、地球で作られた物語。

 『人間』とはどういうものなのかを学び直すために、孫悟空に持ってこさせた映画だ。

 物を凍らせる能力を持つ姉と、それを知らずに、姉が女王に即位することで国中がお祭り騒ぎになっているのを無邪気に喜んでいる妹。
 子供向けの物語で、映像は終始コミカルでノスタルジックな絵が流れるのだが、その物語を鑑賞しているブラックは厳めしい顔つきをしていた。

 映像の中では、妹が祝賀にかけつけた他国の王子との出会い楽しんだ末、姉に『この人と結婚する』と伝えている場面だった。

「出会ってすぐの男を信じて、生涯を共にしたいと思うとは……。流石に、軽率すぎると思わないか、ザマス?」

 姿を現した瞬間、師匠を殺した男に『お前もこうしたかったんだろう』と手を差し伸べられて迷わずその手を取ったザマスは、

「……そうだな」

と、言葉を濁したのだった。



■かわいいウサギの動画を見ていたらYouTubeからウサギを捌く動画を勧められたことがある(人間ゼロ計画実行中の黒ザマ)

 外は快晴だった。第十宇宙の界王神界とは違う、抜けるような青色をした地球の空の下では、穏やかな風が吹いていて気持ちが良い。

 この星も、人間がいなくなれば、さらに素晴らしい星になるだろう。
 ザマスは人間ゼロ計画成就の決意を新たに、拠点にしているログハウス周辺の見回り兼気晴らしの散歩をしていた。

 朝露に濡れた森の小道を歩いていると、ザマスの足下に一匹のウサギが寄ってきた。近くの茂みから姿を現した茶色のウサギは、ふんふん鼻をひくつかせながらザマスの足を入念に観察している。
 その愛らしい姿に口元をほころばせたザマスは、ウサギを驚かせないようにそっと屈むと、その頭をゆっくり撫でてやる。ウサギは逃げることもなく、気持ちよさそうに目を細めて、されるがままになっていた。

 ザマスはそっとウサギを抱え上げると、その足でログハウスへと戻る。この愛らしいウサギをもう一人のザマス――ゴクウブラックにも見せてやろうと、ソファに座って読書しているブラックに声をかけようとしたのだが、彼が真剣な顔をして読んでいるのがウサギ肉のレシピ本だとわかった瞬間、ザマスは声をかけずにそのまま回れ右をしたのだった。



■この二人は詩的な表現がよく似合う(人間ゼロ計画実行中の黒ザマ)

 雨が降った。

 外が見渡せるガラス窓のそばにテーブルと椅子を移動させて、山で採取した無花果を茶請けにお茶を一杯。ブラックは無花果の甘さに舌鼓を打っていたが、ふと手を止めて目の前に座る同士に視線を向けた。皿に盛られた果実は、そのまま残っている

 ザマスは窓の外の風景を、心を奪われたように静かに眺めていた。 窓の向こうでは、雨が優しい雨音を響かせながら、木の葉を濡らし、大地を潤し、目の前のガラス窓に水跡を残しながら消えていく。

 界王神界に雨は降らない。
 この星の生命活動に直に触れる喜びは、幾度となく体験しても色あせないことをブラックは知っている。ブラックもまた、静かに窓の外を眺めることにした。
 彼が好きなものは、自分も好きであることは間違いないから。



■バラ色(人間ゼロ計画実行中の黒ザマ)

「見せたいものがある」

 ゴクウブラックからそう言われたザマスは、彼とともに拠点の外に連れだって向かった。 ブラックの様子からして、きっと自分にとって良い知らせなのだろうと察していたが、ロゼに超化したブラックの姿は、想像を遙かに超えた衝撃をザマスにもたらしたのだった。

「気に入ったか?」

 自慢げに語りかけるブラックだったが、ザマスは唖然としたまま言葉を発さない。訝しげに眉を顰めたブラックが、さらに声をかけようとしたところでザマスはようやく、

「綺麗だ」

と、呟いた。

 煌びやかな薄紅色に引き寄せられるように、心を奪われたザマスはブラックに向けて手を伸ばす。

 ザマスの指がブラックの耳を掠めて彼の髪に触れた。

「こんなに強大で、美しい力は初めて見た」

 零れる言葉はうわごとのようだった。ブラックは黙ったまま、ザマスの好きにさせる。 何度かその硬めの髪を指で梳いたところで満足したのか、我に返ったザマスは、

「突然、触れてすまなかった」

 そう言って指を離そうとしたが、ブラックが寸前で彼の手を掴んで引き留めた。

「ザマス。新たに手に入れたこの力で、オレとお前の計画を必ず完遂させると、ここに誓おう」

 そう言うと、ブラックは握ったザマスの手を自分の口元に引き寄せ、その手の甲に口付けを落としたのだった。



■酔っ払うと禄なことをしない

 夜、ザマスとゴクウブラックは、ザマスの部屋でお酒を飲んでいた。
 孫悟空が地球から持ってきた、甘みの強いワイン。ジュースのように飲みやすいからか、気がつけばザマスは酔っ払っていた。

「なぜ、あんなことをしたのか……。私は自分自身が情けない」

 かつて自分が行った人間ゼロ計画に対して、ザマスは布張りのソファの上で悔恨の涙を流していた。ザマスの隣に移動したブラックは、必死にその背を撫でて慰めるが、ザマスの涙は止まらない。

「なぜ、あのような恐ろしいことを考えたのか。過去の自分を殴りたい」

 そう言った瞬間。

 ザマスはぴたっと泣き止んだかと思うと、いきなり隣にいたブラックを全力でぶん殴ったのだった。



――間違ってはいない。



■イルミネーション(地球にいる改心黒ザマ)

 地球のとある場所。その地方でも発展した都市では、祭日を盛り上げるために、立ち並んだ街路樹にイルミネーションが巻かれていた。
 真っ直ぐ続く道の両端に並ぶ、光を纏った街路樹。一見して、まるで光の門が遠くの向こうまで続いているような錯覚が得られるため、そんな幻想的な風景を見に多くの人間達がその場所に訪れていた。

「ほう。人間が作った物の割に悪くないな」
「そうだな」

 ザマスとゴクウブラックは、人混みに紛れてイルミネーションを眺めていた。ザマスが白い息を吐きながら感心したように呟くと、ブラックも同意する。

 二人とも目立たないように、普段の服ではなく地球の市民が着るようなカジュアルな格好をしている。

 どうしようもない側面がある人間だが、たまには神の心さえ動かすほどの綺麗な物を作る時もある。未来での事件を経て、ザマス達はそれを自然と受け入れられるようになっていた。

「あ」

 ザマスは、ブラックの方を見ながら小さな声を上げた。

「どうした?」

 ブラックが不思議そうに問いながら顔を向けると、ザマスは両手をブラックの方に差しのばしていた。

――抱きしめられる。

 そう直感したブラックは、それに応えるようにザマスの腰に両腕を回そうと、腕を持ち上げた瞬間――ザマスの両手がブラックの左右の髪を同時に引っ張ったのだった。

「雪がついていたぞ」

 ザマスがブラックに見えるように掲げて見せた指先には、小さな雪の粒がついている。
 ブラックがあっけにとられた様子でそれを眺めている間に、雪は溶けて水に変わったのだった。

 ザマスが顔を上げて天を仰ぐ。いつの間にか、雪が降り始めていた。

「そろそろ帰るか。雪も降り始めたし、それに――」

 ザマスは、二人の近くで衆目も憚らずキスしているカップルをじろっと睨むと、

「ああいう手合いが増えてきたからな。全く、人間のああいう破廉恥な面はどうしようもない」
「……そ、そうだな」

 実は、同じような展開になることを期待していたブラックの声は、僅かに動揺していたのだった。



■痛みは体の危険を知らせる通知機能

 ザマスは不死身である。
 お湯に指をつければ、その熱を感じることができるが、それが骨をも焼く溶岩だと痛みも何も感じないまま肉体は再生を始める。



 ザマスはティーカップにこぽこぽと紅茶を注ぐと、そのカップをすっとゴワスの前のテーブルに差し出した。

「ゴワス様、申し訳ありません。少々熱いようなので、少し冷ましてからお飲みください」
「心遣い感謝するが……それよりすぐに彼に水をあげた方が良いのでは……?」

 ザマスの入れた灼熱の紅茶を飲んで悶絶しているゴクウブラックを見ながら、ゴワスは戸惑った表情でそう言ったのだった。



■寒い日に浸かる温泉は最高

 人間ゼロ計画を遂行するために拠点にしているログハウスから、北にある山岳地方には温泉があった。活火山の麓にあるその温泉は、温度は丁度良く人ひとりが充分に浸かれるだけの深さと広さがあった。

 慰労のため、一人で温泉に行ってくると言ったのはザマスだった。体に染みついた人間の血と焦げた肉の匂いを落としたいという理由がひとつと、地球の自然を身近に感じたいという理由がひとつ。
 温泉はその両方の目的を叶えるのに最適な存在だった。

 服を脱いで肩まで温泉に浸かったザマスは、お湯の心地よさに誘われるように大きく息をついた。体に溜まっていた疲れという澱みが、溶けて消えていくようである。
手のひらでお湯をすくうと、そのお湯が僅かに乳白色を帯びているのがわかる。ザマスは手を返してお湯を捨てると、顔を上げて呼び掛けた。

「お前は入らないのか?」

 温泉の上空には、ゴクウブラックが空中にある透明な椅子に座っているかの如く、足と腕を組んで空中に浮かんでいた。ザマスに背を向け、瞳も閉じられている。

「私はいい。周りは私が見張っているから、お前はゆっくり浸かっていろ」

 目を瞑ったままではあるが、ブラックは意識を集中させて辺りの気配を絶え間なく窺っている。

「律儀な奴だな」

 たとえ人間に気づかれたところで負けるつもりはないから一人で大丈夫だと、何度言ってもブラックは受け入れず、ザマスが入浴している間、自分が周囲を見張ると言って譲らなかった。

 まあ、警戒を怠らないというのは、悪いことではないのだが――

――こちらに視線を向けようともしない、というのは些か気を使いすぎではないか?

 同じ『ザマス』なのだから、そこまで他人行儀にならなくても、と呑気に考えるザマスは、ブラックの気持ちに全く気がついていなかった。


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