白いランジェリー(ベジにょたザマ)
また、ブルマがドラゴンボールを使いたいと駄々をこねたので、孫悟空とベジータ、そしてベジットはドラゴンボール探しに駆り出される羽目になった。
地球全土に散らばったドラゴンボール。それらを探し出すのは、超人的な力を持つ三人でさえそれなりに骨が折れる。
ドラゴンレーダーを片手に地球を飛び回り、全てのドラゴンボールを探し終えて西の都に戻ってきた時には、既に太陽の大部分は地平線の彼方へと沈んでいたのだった。
ブルマがカプセルコーポレーションの敷地内にある中庭で、ドラゴンボールを並べて神龍を呼び出す準備をしている傍ら、孫悟空達は近くの木の下に座って駄弁っていた。
「知ってるか? 界王神様に聞いたんだけどよ……」
カプセルコーポレーションの使用人が持ってきたドリンクを片手にそう言ったのは、孫悟空だった。
「神様って、男女の区別がないらしいぞ」
辛めのジンジャーエールを飲んでいたベジットは、その言葉を聞いて眉を顰めた。
「そうなのか? でも、合体した方のザマスはついていたぞ」
すぐ側で二人の会話を聞いていたベジータが、頭の中で『……なんで知っているんだ?』と疑問符を浮かべる中、孫悟空とベジットの会話は続く。
「あれ? おっかしいなー」
「騙されてんじゃねえのか?」
「でも、界王神様は嘘をつくような人じゃないし……」
それまで黙っていたベジータが口を開く。
「性別を自由に入れ替えられる、という意味じゃないのか? それなら、男女の区別がないと言えるだろう」
「性別を入れ替えるって……」
「男にも女にもなれるって事だ」
「えー!? じゃあ界王神様やザマスは女になれるって事か!? おら、見たことないぞ!」
「知らん! 想像で言っただけだ!」
大声で驚きの声を上げた孫悟空に向かって、ベジータは苛立ったように怒鳴り返した。
二人の会話を聞いていたベジットは愉快そうに、
「ははは、女になったザマスか。そりゃ面白い、見てみたいな」
――その瞬間。
「その願い、叶えよう」
『え?』
その場にいた、全員の呆けた声が重なる。
そして、同時刻。地球から遠く離れた第十宇宙の界王神界で、やたら甲高い悲鳴が上がったのだった。
ベジットが急いで第十宇宙の界王神界に行くと、困った顔をしたゴワスが出迎えた。
「ポタラのザマスに会いに来たのか? 生憎だが、誰にも会いたくないと言って部屋に籠もっているのだ。何があったのか、聞いても話してくれない」
やっぱりか、と頭を抱えるベジット。
「とにかく、かみさまに合わせてくれ」
ベジットはそう言うと、ゴワスの返事も待たずに合体ザマスの部屋に向かう。ゴワスは戸惑いながらもその後を付いていった。
足早に廊下を進むと、合体ザマスの部屋に辿り着くいた。ベジットは即座にどんどんと乱暴に扉を叩く。
「おい、いるんだろう?」
部屋の中に気配はあるが、扉を開ける様子は無い。ベジットの背後では、ゴワスが不安そうに見守っていた。
「いいから出てこい。急に体がおかしくなったんだろ? 笑ったりしねぇから。だから扉を開けろ」
この言葉に、反応があった。
「!? 何故それを……!」
部屋の中から聞こえてきた声は、記憶にある声より高かった。扉に近づいてくる気配がある。
反応が無ければ、瞬間移動で部屋の中に押し入ろうかと考えていたベジットは、ひとまず合体ザマスの動向を見守ることにした。
少しの間を置いて、部屋の扉がぎいっと開く。十センチほどの隙間から、合体ザマスが顔を見せた。扉の向こうに見える合体ザマスの瞳は、いつもより低い位置にあり、そしてその瞳は不安に揺れていた。
「人間……我は……」
ベジットは安心させるように、落ち着いた声音で、
「いきなり女になったんだろ? 安心しろ、オレがなんとかしてやる」
「そうか……」
合体ザマスはベジットの言葉を聞いて肩の力を抜くと、部屋の扉を全開にした。
現れた合体ザマスの体は、ベジットの言うとおり女性に性転換していた。胸元は膨らみ、肩幅は小さくなり、そして腰から尻にかけては丸みを帯びている。
ベジットの背後で、驚いたゴワスが息を呑む音が聞こえた。
ベジットは知っていた。合体ザマスの体がいきなり女性に変化したことを――つまり、それは。
「こんな風になったのは貴様のせいかあああああああああああああああ!」
突如、真実に辿り着いた合体ザマスは、激怒してベジットの首を絞めにかかる。
「我は何も言っていないのに、我の体に異変が起こったと知っているということは、貴様が原因なのだろう! 何をした!? 我の体に何をした!?」
「待て! 不可抗力なんだ! わざとじゃなげふっ」
「今すぐ! 戻せ! 我の体を元に戻せええええええ!」
「落ち着け、ザマス! そんな風に首を絞めてはいかん!」
暫くして。
ゴワスの必死の宥めにより、ベジットの首から合体ザマスの手は離れた。しかし、合体ザマスの怒りが収まったわけではない。ベジットはそんな彼(彼女)を刺激しないように、言葉を選びながら説明する。正座をしたベジットが一部始終を説明している間、合体ザマスは仁王立ちでそれを聞き、説明が終わるとようやく口を開いた。
「それで? 我の体はいつ元に戻るのだ? もちろん、すぐに戻れるのであろうな?」
「……ドラゴンボールが使えるようになれば……」
「ドラゴンボールは、一度使うと再度使えるようになるまで時間を要する。次に使えるのはいつだ?」
一瞬、ベジットの視線が泳ぐ。やがて彼はふいっと視線を逸らすと、小さな声で呟いた。
「………………………………最短で一年後」
その瞬間。第十宇宙の界王神界で、爆発音が轟いたのだった。
「戦闘力に変化が無いか、今から確かめる」
丸半日、大暴れした合体ザマスは落ち着きを取り戻していた。激昂した合体ザマスの相手をしていたベジットは、ようやく彼(彼女)が平静を取り戻したことに安堵する。
正直、あの暴れっぷりを見るに、戦闘力が微塵も落ちていないのは明白なのだが、確かめたいと言っている合体ザマスにそう言って茶々を入れたら、先ほどのようにまた辺り一帯を破壊しかねない。
ゴワスからも、突然、体が変化して戸惑っているのだろうから刺激しないように、と言われているので、素直に合体ザマスの組み手の相手をすることにした。
まあ、合体ザマスと戦うのは好きだし、先ほどは主に気弾を使って暴れていた。
見たところ、女の体になったことで背丈が低くなっているし、腕も足も細くなっているので、もしかしたら肉弾戦だと変化があるかもしれない。そうした理由で、二人は気弾を使わない組み手を始めたのだった。
ベジットの予想は当たった。
組み手を始めて大した時間は経っていないが、それでも合体ザマスが動き辛そうなのがすぐにわかった。
「やっぱり背丈が変わったから、間合いが掴み辛いか?」
腕が細くなった割に力も速度も落ちていないようだが、合体ザマスの動きは鈍い。
――何度か手合わして、間合いの変化に慣れさせるしかないか。
ベジットは心の中でそんな事を考えていたのだが、予想に反して合体ザマスは首を横に振った。
「間合いが掴み辛いわけではない。ただ……その……」
合体ザマスは口籠もる。
「じゃあ、どうした?」
怪訝そうに問い返すが、合体ザマスは言い辛いのかやたら小さな声で、
「……たい」
「は?」
「……れて……たい」
「全然聞こえねぇ」
焦れたベジットがもう一度はっきり言うように促すと、合体ザマスはヤケクソ気味に大声で叫んだ。
「動くと胸が揺れて痛い!」
「…………………………は?」
間の抜けた声を漏らしたベジットは、思わず視線を合体ザマスの胸にやる。
「見るな!」
顔を赤らめた合体ザマスは、胸元に視線をよこしてじろじろ眺めるベジットの顔をぶん殴ったのだった。
二人は、一旦修行を止めて状況を整理することにした。
近くの木陰で向かい合わせに座る。
胡座を掻いて地面に座ったベジットは、合体ザマスに気取られないよう、ちらりと彼女の胸に視線をやった。
膝を抱えて座り込んでいるので見えにくくなっているが、合体ザマスの胸は、いつもの界王神見習い服の上からでもわかるくらい大きくなっていた。
そして、恥ずかしがる合体ザマスから無理やり聞き出したところ、女性用の下着を身につけていないと言う。
これだけ大きいのに、胸の動きを抑える下着を着けていなければ、なるほど動く度に揺れてしまうので戦い辛くもなるだろう。
話し合った末、ベジットと合体ザマスは、ならば女性用の下着を身につければ、なんとかなるのではないか、という結論に至った。
しかし、結論は出たが問題は残る。すなわち、それをどこで手に入れるのか。
「貴様が原因なのだから、貴様がどうにかしろ!」
「どうにかしろって言われてもな……」
合体ザマスがきゃんきゃん喚くので、ベジットは取り敢えず、一旦地球に戻ってブルマに相談することにしたのだった。
試作の機械を作りながらベジットの説明を聞いていたブルマは、話を聞き終えると呆れ果てた様子でその手を止めた。
「しょうがないわねぇ」
小さくぼやきながら、彼女は携帯電話でどこかに連絡をいれる。程なくして、彼女の手元に届けられる一冊の本。ブルマはその本をベジットに手渡した。
「ほら、この中から好きなのを選んで。用意してあげるから」
ベジットはその本を受け取るとぺらぺらめくる。それは女性用下着のカタログだった。
「ほら、この中から好きなのを選べ。用意してやるから」
合体ザマスの部屋で彼女にカタログを渡しながら、ブルマから言われた台詞をそっくり繰り返す。
ソファに座った合体ザマスは、カタログを受け取るとぺらぺらとページをめくっていたのだが、すぐにその顔は耳まで真っ赤になってしまった。
いくら自分が身につけるものとはいえ、元々は男神の合体ザマスは、女性の下着を見るのが気恥ずかしくて仕方が無い。結局、最後まで見ることができずに、途中でバタンとカタログを閉じてしまった。
そして、そのカタログを向かいに座っているベジットに突き返すと、
「貴様が決めろ」
と、一言。
「オレが決めるのかよ……」
ベジットは、女性の下着の事なんて全くわからないと伝えるが、顔を赤くした合体ザマスは、
「何でもいいから、貴様が決めろ」
と、先ほどの主張を繰り返すばかり。
仕方が無いので、ベジットはカタログを受け取ると、ぶつぶつ言いながら目についたものを適当に選んで、それを地球にいるブルマに伝えたのだった。
さすがはカプセルコーポレーションの財力というか影響力というか。
あらかじめベジットが地球にいるブルマに希望の商品を伝えておいたところ、ベジットが地球に戻った時には既に、商品がカプセルコーポレーションに届けられていた。ブルマから下着がつまった紙の手提げ袋を受け取ったベジットは、再び第十宇宙へとんぼ返りする。
最近、ベジットは瞬間移動で第十宇宙に行くことができるようになった。最初の内は第七宇宙の破壊神ビルスに頼み込んで連れて行ってもらっていたのだが、ビルス達の都合が合わないと中々連れて行って貰えず、不便なのでこっそり修行したのである。
しかし、第七宇宙と第十宇宙を隔てる距離は遠すぎる。
合体ザマスの気を目印にして飛んでいるのだが、彼の強大な気でさえ宇宙を超えたら微細な気配になってしまうので、地球から彼の気を見つけ出すのは苦労する。
神経を集中し、合体ザマスの気配を見つけた瞬間、瞬間移動を発動させる。例えるなら、十メートル先にある針の穴を見つけ出して、そこに糸を通すような作業。そんな精密な作業を連続して行うのは、中々骨が折れた。
第十宇宙に戻ったベジットは、紙袋を合体ザマスに手渡すと、彼女の部屋のソファにどさっと座り込んだ。さしもの彼も少々疲れた様子で、
「あー、しんどかった」
背もたれにぐったりもたれるベジットの向かいでは、ソファに座った合体ザマスが、膝に置いた紙袋の中身を検分するところだった。
「っ!?」
合体ザマスの体が硬直する。
手に持った下着は上下セットになっており、そのどちらもが白いレースがふんだんに使われていて、それでいて異様に布の面積が小さい。しかも、シースルーになっているようで、たとえそれを身につけても隠れるはずの肌の大部分は見えてしまうだろう。
――中に入っていたのは、下着は下着でも、夜のあれこれを盛り上げるためのきわどいデザインの下着だった。それが山ほど。
「何でもいいって言うから、適当に選んだぞ。文句を言うなよ」
「言うに決まっているだろうが! なんだこの破廉恥なデザインはあああああ!」
「文句言うくらいなら自分で選べよ……」
ぶつぶつ文句を言いながら、ソファに寝転んだベジットはカタログをめくる。
その頬には、真っ赤な手形がくっきり刻まれていたのだった。
地球全土に散らばったドラゴンボール。それらを探し出すのは、超人的な力を持つ三人でさえそれなりに骨が折れる。
ドラゴンレーダーを片手に地球を飛び回り、全てのドラゴンボールを探し終えて西の都に戻ってきた時には、既に太陽の大部分は地平線の彼方へと沈んでいたのだった。
ブルマがカプセルコーポレーションの敷地内にある中庭で、ドラゴンボールを並べて神龍を呼び出す準備をしている傍ら、孫悟空達は近くの木の下に座って駄弁っていた。
「知ってるか? 界王神様に聞いたんだけどよ……」
カプセルコーポレーションの使用人が持ってきたドリンクを片手にそう言ったのは、孫悟空だった。
「神様って、男女の区別がないらしいぞ」
辛めのジンジャーエールを飲んでいたベジットは、その言葉を聞いて眉を顰めた。
「そうなのか? でも、合体した方のザマスはついていたぞ」
すぐ側で二人の会話を聞いていたベジータが、頭の中で『……なんで知っているんだ?』と疑問符を浮かべる中、孫悟空とベジットの会話は続く。
「あれ? おっかしいなー」
「騙されてんじゃねえのか?」
「でも、界王神様は嘘をつくような人じゃないし……」
それまで黙っていたベジータが口を開く。
「性別を自由に入れ替えられる、という意味じゃないのか? それなら、男女の区別がないと言えるだろう」
「性別を入れ替えるって……」
「男にも女にもなれるって事だ」
「えー!? じゃあ界王神様やザマスは女になれるって事か!? おら、見たことないぞ!」
「知らん! 想像で言っただけだ!」
大声で驚きの声を上げた孫悟空に向かって、ベジータは苛立ったように怒鳴り返した。
二人の会話を聞いていたベジットは愉快そうに、
「ははは、女になったザマスか。そりゃ面白い、見てみたいな」
――その瞬間。
「その願い、叶えよう」
『え?』
その場にいた、全員の呆けた声が重なる。
そして、同時刻。地球から遠く離れた第十宇宙の界王神界で、やたら甲高い悲鳴が上がったのだった。
ベジットが急いで第十宇宙の界王神界に行くと、困った顔をしたゴワスが出迎えた。
「ポタラのザマスに会いに来たのか? 生憎だが、誰にも会いたくないと言って部屋に籠もっているのだ。何があったのか、聞いても話してくれない」
やっぱりか、と頭を抱えるベジット。
「とにかく、かみさまに合わせてくれ」
ベジットはそう言うと、ゴワスの返事も待たずに合体ザマスの部屋に向かう。ゴワスは戸惑いながらもその後を付いていった。
足早に廊下を進むと、合体ザマスの部屋に辿り着くいた。ベジットは即座にどんどんと乱暴に扉を叩く。
「おい、いるんだろう?」
部屋の中に気配はあるが、扉を開ける様子は無い。ベジットの背後では、ゴワスが不安そうに見守っていた。
「いいから出てこい。急に体がおかしくなったんだろ? 笑ったりしねぇから。だから扉を開けろ」
この言葉に、反応があった。
「!? 何故それを……!」
部屋の中から聞こえてきた声は、記憶にある声より高かった。扉に近づいてくる気配がある。
反応が無ければ、瞬間移動で部屋の中に押し入ろうかと考えていたベジットは、ひとまず合体ザマスの動向を見守ることにした。
少しの間を置いて、部屋の扉がぎいっと開く。十センチほどの隙間から、合体ザマスが顔を見せた。扉の向こうに見える合体ザマスの瞳は、いつもより低い位置にあり、そしてその瞳は不安に揺れていた。
「人間……我は……」
ベジットは安心させるように、落ち着いた声音で、
「いきなり女になったんだろ? 安心しろ、オレがなんとかしてやる」
「そうか……」
合体ザマスはベジットの言葉を聞いて肩の力を抜くと、部屋の扉を全開にした。
現れた合体ザマスの体は、ベジットの言うとおり女性に性転換していた。胸元は膨らみ、肩幅は小さくなり、そして腰から尻にかけては丸みを帯びている。
ベジットの背後で、驚いたゴワスが息を呑む音が聞こえた。
ベジットは知っていた。合体ザマスの体がいきなり女性に変化したことを――つまり、それは。
「こんな風になったのは貴様のせいかあああああああああああああああ!」
突如、真実に辿り着いた合体ザマスは、激怒してベジットの首を絞めにかかる。
「我は何も言っていないのに、我の体に異変が起こったと知っているということは、貴様が原因なのだろう! 何をした!? 我の体に何をした!?」
「待て! 不可抗力なんだ! わざとじゃなげふっ」
「今すぐ! 戻せ! 我の体を元に戻せええええええ!」
「落ち着け、ザマス! そんな風に首を絞めてはいかん!」
暫くして。
ゴワスの必死の宥めにより、ベジットの首から合体ザマスの手は離れた。しかし、合体ザマスの怒りが収まったわけではない。ベジットはそんな彼(彼女)を刺激しないように、言葉を選びながら説明する。正座をしたベジットが一部始終を説明している間、合体ザマスは仁王立ちでそれを聞き、説明が終わるとようやく口を開いた。
「それで? 我の体はいつ元に戻るのだ? もちろん、すぐに戻れるのであろうな?」
「……ドラゴンボールが使えるようになれば……」
「ドラゴンボールは、一度使うと再度使えるようになるまで時間を要する。次に使えるのはいつだ?」
一瞬、ベジットの視線が泳ぐ。やがて彼はふいっと視線を逸らすと、小さな声で呟いた。
「………………………………最短で一年後」
その瞬間。第十宇宙の界王神界で、爆発音が轟いたのだった。
「戦闘力に変化が無いか、今から確かめる」
丸半日、大暴れした合体ザマスは落ち着きを取り戻していた。激昂した合体ザマスの相手をしていたベジットは、ようやく彼(彼女)が平静を取り戻したことに安堵する。
正直、あの暴れっぷりを見るに、戦闘力が微塵も落ちていないのは明白なのだが、確かめたいと言っている合体ザマスにそう言って茶々を入れたら、先ほどのようにまた辺り一帯を破壊しかねない。
ゴワスからも、突然、体が変化して戸惑っているのだろうから刺激しないように、と言われているので、素直に合体ザマスの組み手の相手をすることにした。
まあ、合体ザマスと戦うのは好きだし、先ほどは主に気弾を使って暴れていた。
見たところ、女の体になったことで背丈が低くなっているし、腕も足も細くなっているので、もしかしたら肉弾戦だと変化があるかもしれない。そうした理由で、二人は気弾を使わない組み手を始めたのだった。
ベジットの予想は当たった。
組み手を始めて大した時間は経っていないが、それでも合体ザマスが動き辛そうなのがすぐにわかった。
「やっぱり背丈が変わったから、間合いが掴み辛いか?」
腕が細くなった割に力も速度も落ちていないようだが、合体ザマスの動きは鈍い。
――何度か手合わして、間合いの変化に慣れさせるしかないか。
ベジットは心の中でそんな事を考えていたのだが、予想に反して合体ザマスは首を横に振った。
「間合いが掴み辛いわけではない。ただ……その……」
合体ザマスは口籠もる。
「じゃあ、どうした?」
怪訝そうに問い返すが、合体ザマスは言い辛いのかやたら小さな声で、
「……たい」
「は?」
「……れて……たい」
「全然聞こえねぇ」
焦れたベジットがもう一度はっきり言うように促すと、合体ザマスはヤケクソ気味に大声で叫んだ。
「動くと胸が揺れて痛い!」
「…………………………は?」
間の抜けた声を漏らしたベジットは、思わず視線を合体ザマスの胸にやる。
「見るな!」
顔を赤らめた合体ザマスは、胸元に視線をよこしてじろじろ眺めるベジットの顔をぶん殴ったのだった。
二人は、一旦修行を止めて状況を整理することにした。
近くの木陰で向かい合わせに座る。
胡座を掻いて地面に座ったベジットは、合体ザマスに気取られないよう、ちらりと彼女の胸に視線をやった。
膝を抱えて座り込んでいるので見えにくくなっているが、合体ザマスの胸は、いつもの界王神見習い服の上からでもわかるくらい大きくなっていた。
そして、恥ずかしがる合体ザマスから無理やり聞き出したところ、女性用の下着を身につけていないと言う。
これだけ大きいのに、胸の動きを抑える下着を着けていなければ、なるほど動く度に揺れてしまうので戦い辛くもなるだろう。
話し合った末、ベジットと合体ザマスは、ならば女性用の下着を身につければ、なんとかなるのではないか、という結論に至った。
しかし、結論は出たが問題は残る。すなわち、それをどこで手に入れるのか。
「貴様が原因なのだから、貴様がどうにかしろ!」
「どうにかしろって言われてもな……」
合体ザマスがきゃんきゃん喚くので、ベジットは取り敢えず、一旦地球に戻ってブルマに相談することにしたのだった。
試作の機械を作りながらベジットの説明を聞いていたブルマは、話を聞き終えると呆れ果てた様子でその手を止めた。
「しょうがないわねぇ」
小さくぼやきながら、彼女は携帯電話でどこかに連絡をいれる。程なくして、彼女の手元に届けられる一冊の本。ブルマはその本をベジットに手渡した。
「ほら、この中から好きなのを選んで。用意してあげるから」
ベジットはその本を受け取るとぺらぺらめくる。それは女性用下着のカタログだった。
「ほら、この中から好きなのを選べ。用意してやるから」
合体ザマスの部屋で彼女にカタログを渡しながら、ブルマから言われた台詞をそっくり繰り返す。
ソファに座った合体ザマスは、カタログを受け取るとぺらぺらとページをめくっていたのだが、すぐにその顔は耳まで真っ赤になってしまった。
いくら自分が身につけるものとはいえ、元々は男神の合体ザマスは、女性の下着を見るのが気恥ずかしくて仕方が無い。結局、最後まで見ることができずに、途中でバタンとカタログを閉じてしまった。
そして、そのカタログを向かいに座っているベジットに突き返すと、
「貴様が決めろ」
と、一言。
「オレが決めるのかよ……」
ベジットは、女性の下着の事なんて全くわからないと伝えるが、顔を赤くした合体ザマスは、
「何でもいいから、貴様が決めろ」
と、先ほどの主張を繰り返すばかり。
仕方が無いので、ベジットはカタログを受け取ると、ぶつぶつ言いながら目についたものを適当に選んで、それを地球にいるブルマに伝えたのだった。
さすがはカプセルコーポレーションの財力というか影響力というか。
あらかじめベジットが地球にいるブルマに希望の商品を伝えておいたところ、ベジットが地球に戻った時には既に、商品がカプセルコーポレーションに届けられていた。ブルマから下着がつまった紙の手提げ袋を受け取ったベジットは、再び第十宇宙へとんぼ返りする。
最近、ベジットは瞬間移動で第十宇宙に行くことができるようになった。最初の内は第七宇宙の破壊神ビルスに頼み込んで連れて行ってもらっていたのだが、ビルス達の都合が合わないと中々連れて行って貰えず、不便なのでこっそり修行したのである。
しかし、第七宇宙と第十宇宙を隔てる距離は遠すぎる。
合体ザマスの気を目印にして飛んでいるのだが、彼の強大な気でさえ宇宙を超えたら微細な気配になってしまうので、地球から彼の気を見つけ出すのは苦労する。
神経を集中し、合体ザマスの気配を見つけた瞬間、瞬間移動を発動させる。例えるなら、十メートル先にある針の穴を見つけ出して、そこに糸を通すような作業。そんな精密な作業を連続して行うのは、中々骨が折れた。
第十宇宙に戻ったベジットは、紙袋を合体ザマスに手渡すと、彼女の部屋のソファにどさっと座り込んだ。さしもの彼も少々疲れた様子で、
「あー、しんどかった」
背もたれにぐったりもたれるベジットの向かいでは、ソファに座った合体ザマスが、膝に置いた紙袋の中身を検分するところだった。
「っ!?」
合体ザマスの体が硬直する。
手に持った下着は上下セットになっており、そのどちらもが白いレースがふんだんに使われていて、それでいて異様に布の面積が小さい。しかも、シースルーになっているようで、たとえそれを身につけても隠れるはずの肌の大部分は見えてしまうだろう。
――中に入っていたのは、下着は下着でも、夜のあれこれを盛り上げるためのきわどいデザインの下着だった。それが山ほど。
「何でもいいって言うから、適当に選んだぞ。文句を言うなよ」
「言うに決まっているだろうが! なんだこの破廉恥なデザインはあああああ!」
「文句言うくらいなら自分で選べよ……」
ぶつぶつ文句を言いながら、ソファに寝転んだベジットはカタログをめくる。
その頬には、真っ赤な手形がくっきり刻まれていたのだった。
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