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小話(ベジザマ)

■歳時記:Halloween

 ハロウィンの日。第十宇宙の界王神界では、地球の風習を中途半端に聞きかじった合体ザマスが、「トリック・オア・トリート」のノリで、ベジットに「服従か隷属か」を迫っていた。



■歳時記:聖夜

「ほら、今日は地球だとお祭りだから、ご馳走を持ってきたぞ」

 ベジットは、ホイポイカプセルから取り出した料理をテーブルの上に並べていった。
 七面鳥のローストをはじめとして、木の幹の形をしたケーキに、オードブル、サラダ、スープなどが、ダイニングの長机に着席した合体ザマスの前に置かれていく。
 どういう原理なのか、ホイポイカプセルに入れると料理はできたての状態で維持される。合体ザマスの前にあるスープは、今まさに鍋からよそったかのごとく、ほかほかと湯気を立てていた。

 いつもなら『人間にしては上出来だ』などと、褒めているのか貶しているのかよくわからないことを言いつつ、瞳を輝かせて食する合体ザマスだったが、今は何故か不満そうに口を噤んでいる。料理に手を伸ばそうともしない。
 向かい側に着席したベジットは眉を顰めた。

「どうした? 腹でも痛いのか?」

 合体ザマスはベジットの方をじろっと睨むと、

「今日は地球で生まれた神の子の生誕祭だと聞いた」
「……それが?」

 合体ザマスはだんっ! とテーブルを拳で叩くと、

「何故こんなにも豪華なのだ!? 我の時はこんな豪勢な食事はなかったぞ! 神の下僕としての自覚が足りぬぞ! 人間!」
「張り合ってんじゃねぇよ! ちゃんとお前の誕生日にはプレゼント用意しただろうが!」

 尚もなんやかんやと騒ぎ立てる合体ザマス。ベジットが来年の誕生日にはご馳走も用意することを約束すると、ようやく嫉妬していた合体ザマスも大人しくなったのだった。



 食事中、合体ザマスは切り分けたローストチキンをフォークで口に運びながら、

「それはそうと、地球には神の復活を祝う日があるそうだな。神の子が神の子として復活した日が、最大の祭日という地域もあると聞く。
 ならば、神である我が復活した日は、それはさぞ盛大に祝われるのであろうな?」
「……」

 ……年中無休で復活している癖に。てか、何でこいつ余計な事ばかり知ってるんだよ。

 改心して、人間を見つめ直すと決めたからか。合体ザマスは、最近妙に地球の行事に詳しかった。



■歳時記:バレンタイン

「貴様にも、ようやく神の僕としての自覚が出てきたか。鈍重極まる頭であることは嘆かわしいが、ここは創造の神として、貴様のミジンコのような小さき一歩も、後の従順な僕へ繋がる萌芽として受け取ろう」

 地球に戻ったらチチとブルマから義理チョコを渡されたのでお裾分けしたら、何を勘違いしたのか延々鬱陶しい演説をしてくる合体ザマス。
 聞いている限り、何やらバレンタインを、下僕からあるじにチョコを送る日と思い違いをしているようである。

 さて、ここで合体ザマスの誤解を晴らさないと、この後面倒くさいことになりそうだが、口で説明するには長くなりそうだし、そもそも演説が続いていて口を挟めない。

 ――合体ザマスの口を噤ませ、なおかつ誤解を解く方法。

 ベジットは、握った拳を合体ザマスの顔面にたたき込んだのだった。



■歳時記:春の催し

 目を覚ますと、ベッドの横で合体ザマスが仁王立ちしていた。ベジットを見下ろすその目は期待に満ちている。

「今日は、ウサギの格好で卵料理を食べながら神の復活を祝う日で、祝われる神は人間に嘘をついていいらしいな。さあ、さっさと着替えて我を崇め奉れ、人間」
「混ざってる。めっちゃ混ざってる」

 ベジットは、起き抜けにわけがわからないことを言われても、しっかりツッコめた自分を褒めてやりたかった。

 上半身を起こしてベッドの上に座り直すと、まだ眠気の残る頭を無理やり活性化させて、合体ザマスに行事の正しい内容を説明をする。

「つまらん」

 ベジットがウサギの格好をしないとわかると、興味を無くした合体ザマスは不服そうな顔をして寝室から出て行った。

「どういう勘違いしてんだよ、あいつは」

 ぼさぼさの頭を掻きながら、ベジットは呆れたように呟いたのだった。



■歳時記:端午の節句

 目を覚ますと、ベッドの横で合体ザマスがどや顔で仁王立ちしていた。

「人間、お前に良い知らせをやろう。ゴワス様が貴様の成長を祝う為に、この界王神界で端午の節句を執り行うことをお決めになった。存分に喜ぶが良い」
「……いや、お前らに比べたら若いかもしれないけれど、オレ一応大人だからな……?」



「桃の節句は?」
「雛あられを装備させた人形を戦わせる日」
「端午の節句は?」
「人間の成長を祝い、祝われる人間を柏餅で埋め尽くす日。そう聞いた」

 今朝のやり取りに既視感を抱いたベジット。もしやと思って、朝食の席で合体ザマスに地球の他の行事について尋ねてみたら、返ってきた答えがこれである。

 ベジットは思わず食事の手を止めて頭を抱えた。
 合体ザマスが勘違いしている以上、面倒だが誤解を解いて正しい知識を伝えなければならない。そうしないと、柏餅で生き埋めにされる。

 まさかそんな非常識なことはしないだろうと侮ることなかれ。合体ザマスは人間ゼロ計画を立案し、実行した張本人である。良くも悪くも行動力があった。

 項垂れていたベジットは、顔を上げて向かいに着席していた合体ザマスに問いかける。

「……誰だよ、かみさまにそんな適当な説明しているのは……」

 紅茶を飲んでいた合体ザマスは、静かにティーカップをソーサーの上に置くと、無言で自分の左を指さした。
 指された先に顔を向けると、そこには同じように席について食事を取っている孫悟空とゴワスの姿が。

 ここは第十宇宙の界王神界にある神殿の食堂。今日は孫悟空も地球から遊びに来ているからと、ゴワスの取り計らいで、皆で朝食を取っていた。

 ゴワスは、向かいの席でトーストを囓っている孫悟空に、何やら広げた本を見せている。

「この本に書いてある『灌仏会』とは、どんな行事なのだ?」
「神様の顔に甘茶をぶっかける日」
「恐ろしい行事だな……」
「あいつか」

 朝食後。ベジットは孫悟空に背後から裸締めをお見舞いしていた。

「お前なあ、適当な説明をしてんじゃねぇよ。勘違いしたかみさまが変なことするだろうが。ほら、ゴワス様とかお前の出鱈目を信じて、柏餅をたくさん作ろうとしてたしよ」

 しかも、孫悟空の適当な説明で損害を被るのはベジットである。柏餅で埋め尽くされる寸前だったことを考えると、孫悟空の頸動脈を絞める腕に力が籠もるというもんである。

「ぎぶぎぶぎぶぎぶ! 次から気をつけるから! 落ちる落ちる!」
「しっかり調べなかった私が悪いのだ。どうか、その手を離してやってくれ」

 ベジットの腕を必死に叩く孫悟空と、そんな二人をおろおろとした様子で宥めるゴワス。

 気が済むまで締め上げたベジットは、

「二度と変な出鱈目を吹き込むんじゃねぇぞ」

 ようやく孫悟空を解放したのだった。



 そして、その日のおやつ時。

「うめえな……」

 ゴワスお手製の柏餅を食べたベジットは、思わず感嘆した。
 絶妙な甘さのあんこにほどよい弾力の餅。合体ザマスの料理も美味いが、ゴワスの腕は明らかに一段上である。ゴワスが作った柏餅は人数分だけ。

「こんなに美味いなら、オレを埋め尽くすだけの柏餅を作って貰えば良かったな」
「馬鹿なことを言うな」

 半ば本気でベジットがそう呟くと、湯飲みに入った緑茶をすすっていた合体ザマスは、呆れたように呟いたのだった。



■歳時記:七夕

 地球には七夕と呼ばれる節句がある。
 願いを書いた短冊を竹に飾る行事。その習わしに興味を持ったゴワスの取り計らいで、第十宇宙にある界王神界の神殿の一角で、地球から持ち込まれた竹が飾られることになった。

 五色の短冊と紙で作られた飾りが下げられた竹。風に乗ってさらさらと鳴る笹の音色を聞きながら、合体ザマスは願い事を書いた短冊を竹に飾った。

 曰く、『ニンゲンが我を崇め奉りますように』

 そして、ベジットの手によってその短冊の隣に飾られる『かみさまの願いが叶いませんように』という願いが書かれた短冊。

 星に願いを。叶うのは、どちらの願いか。



■あるベンチから見た日々の風景

 その神殿の中庭には、背中合わせになったベンチがある。木で作られたそのベンチは、長い間雨晒しになったのを証明するかのように、所々ペンキが剥げていた。

 ある日、神の一柱がそのベンチに座っていた。両耳に緑の丸い宝石をあしらった耳飾りをつけた神は、足を組んで遠くの空を眺めていた。
 そこに一人の人間がやって来た。蒼い髪が逆立った人間が何やら話しかけたが、神はろくすっぽ返事もせずに、すぐに立ち去ってしまった。

 時が経ち、神がベンチに座っていると、再び人間がやって来た。神はちらりとそちらに視線をやると、二、三言言葉を交わして立ち去った。口を引き結んだ厳めしい顔つきで、好意的な態度ではなかったが、それでも人間の言葉を無視しなくなった。

 その内、神と人間は背中合わせにベンチに座って会話を交わすようになった。次の季節に移り変わる頃には並んで座るようになり、そして今では一緒にベンチに座りに来るようになったのだった。



■サバイバルクッキング

  子供の頃、野山を駆け巡っていた野生児と、地上げ屋時代は色々な星を渡り歩いてサバイバルをしていた二人が合体して生まれた戦士ベジット。
 孫悟空とベジータの技術と記憶を受け継いだ彼のサバイバルスキルは、当然の如く高かった。

「腹減ったな……」

 夕飯までにはまだ時間がある。腹の音を響かせながら、野山の片隅に座ってぼんやり空を見上げていると、一匹の鳥が視界を横切った。視線を移せば、全長がベジットの前腕ほどもある大きさの鳥が、羽を広げて飛んでいる。
 縄張りの監視でもしているのだろうか。その鳥はどこかに飛び去るわけでもなく、辺りを見回すように円を描きながら飛んでいた。

 ベジットはぼんやりと鳥を眺めていたのだが、その鳥が頭の真上に来た瞬間、彼はすかさず極小の気弾を放って撃ち落とす。狙ったように腕に落ちてきた鳥を受け止めると、ベジットは落ちてきた鳥を気の刃を使って脱羽、放血、腸抜きをし、威力を調整した気弾でこんがり焼いてその場でむしゃむしゃ食べ始めた。

「美味いけど、塩胡椒が欲しいな」

 そんなことを呟きながら鳥肉を咀嚼しているベジットだったが、ふと気配を感じて振り返る。視線の先には、合体ザマスが立っていた。何故か顔が引きつっている。

「どうした? 一緒に食べたいのか?」
「いや…………別に…………」

 ベジットのあまりにも野性的な食事風景を目撃してしまった合体ザマスは、ちょっと引いた様子で言葉を濁したのだった。



■お残しは許しまへんでぇ

 修行の合間の休憩中、ベジットと合体ザマスは並んで木陰に腰を下ろしていた。

「嫌いってわけじゃねぇけど、カレーには人参が入っていない方が好きだな」

 雑談の中で、ベジットがふとそんな事を呟く。そして、修行が終わった後、珍しく合体ザマスが手料理を振る舞った。

 出来上がったのは、カレー。
 そのカレーにはベジットの好みを反映して、人参が入っていない――わけがなく、むしろ他の食材が隠れるほどに人参がたっぷり入っていて、ベジットは思わず顔を引きつらせた。

「好き嫌いをする人間の食育の為に作った。有り難く思え」
「……ただの嫌がらせだろうが」

 ぶつくさ言いながら、ベジットはスプーンでカレーをすくって食べたのだった。
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