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小話(ベジザマ)

■暇つぶし

 ベジットは、第十宇宙の界王神界を訪れると、合体ザマスと組み手をしながら、この上ない充実した時間を過ごすのだが、夜になると事情が変わる。

「ここ、何もないからつまんねー」

 例によって合体ザマスの私室に押しかけたベジットは、退屈そうにソファの上にうつぶせで寝転んだ。

 テレビはない、ラジオもない。神チューブを見る為の情報機器は、この神殿には一台しかなく、しかも共有物なので私室に持ち込むことができない。
 あるのは大量の本。図書室から自室に本を持ち込むのは許されているが、ベジットは本を読むような人間ではなかった。

 寝るには早い。眠気は全くなかった。
 ベジットは顔を上げて、視線を斜向かいの一人用ソファに座る合体ザマスに向けた。彼は何やら小難しい内容の本を熱心に読んでいる。

「なー、ちょっと外に出て組み手しようぜ」
「今は忙しい」

 合体ザマスは本から視線を離さないまま、にべもなく言い放った。

「本を読んでるだけじゃねぇか。なあ、いいだろ」
「黙っていろ」
「本なんて後で読めるだろ。なぁ、組み手しようぜ。なー、なぁって」
「……」
「なー! なー! なー! なー! なー! なー! なー! なー! なー! なー! なー! なー!」
「うるさあああああああああああっ!」

 合体ザマスが叫びながら投げつけた本は、弾丸の如き軌跡を描きながら、正確にベジットの顔面にめり込んだのだった。



 暫くして。合体ザマスが構ってくれないので、ベジットはその辺に置いてあった書物を適当にめくっていた。
 何やら第十宇宙の星に住む原住民に関する知識が記されているが、興味が無いので内容が頭に入ってこない。

「なあ」

 ベジットが声をかけると、合体ザマスは視線だけをちらっと彼の方に視線を向けた。

「『無為徒食』って、どういう意味だ?」
「お前みたいな奴のことだ」
「?」

 無為徒食:何の仕事もせず、ぶらぶら遊び暮らすこと



■おままごと

 負けた方が勝った方の命令をひとつだけきく。
 その条件で対戦をしたところ、勝ったのは――珍しく、合体ザマスだった。

「嗚呼、良かったぞ、人間。想像以上だ」

 一人がけのソファに座っている合体ザマスは、恍惚とした表情で感嘆した。頬は朱が差し、胸を一杯に満たす充実感で目が潤んでいる。
 夢心地の合体ザマスの前では、ベジットが苦虫を噛み潰したような顔で跪いていた。

 場所は談話室。たまたま居合わせたゴクウブラックは、眉を顰めながら先に来ていたザマスに問いかけた。

「どうしたのだ? あの二人は」
「組み手であいつが勝ったらしくてな。人間を跪かせて、『貴方を神と認め、幾厄災に見舞われようとも、貴方の傍で健気に仕え続けると誓う』と言わせて、主従ごっこしているところだ」
「……」

 しかも、ベジットには界王神見習いの服を着せるという徹底ぶり。
 合体ザマスは目を輝かせながら、びしっとベジットを指さすと、

「よし、次だ! 次は、平伏しながら『貴方の言葉を天命として慎んで受け入れる。これより如何なる時も、忠誠を持って傍に仕え続けることを誓約申し上げる』と言え! 一言たりとも違えてはならぬぞ!」
「……ま、まだするのかよ。もういいだろう」
「よくない! 今日一日、我の気が済むまで付き合うと約束しただろう! さっさと言え!」
「……あ、貴方の言葉を」

 合体ザマスとベジットの主従ごっこは、日付が変わるまで続いたのだった。



■目を惹き付ける

 雲ひとつ無い空の下で、ベジットと孫悟空が組み手をしていた。お互い、髪を蒼く染めた状態で拳を交えている。

 合体ザマスは、少し離れた丘の上からその様子を眺めていた。二人が界王神界を壊さないように見張っているのだ。
 だが、彼も武神である故か、次第に監視も忘れて、ベジットと孫悟空の戦いにのめり込んでいった。

 二人の戦いは、合体ザマスから見ても学ぶことが多い。戦う度に強くなっていく孫悟空にも驚かされるが、それ以上に合体ザマスの灰青色の瞳を引きつけてやまないのは、ベジットの雄姿だった。孫悟空も善戦しているが、蒼神になったベジットの力は彼を凌駕している。

 足だけで戦うという余裕綽々な態度を取りながらも隙は無く、強大な力で他を圧倒していく姿は雄々しく、それでいて野性的な美しさがある。

 ――気がつけば、合体ザマスの視線はベジットにだけ向けられていた。

 視線だけではない。他の全てが意識から消えるほど、心も釘付けになっている。それも、戦いを終えたベジットが、すぐ側にやって来たことにも気がつかないほどに。

「おい、どうした?」

 ベジットが声をかけると、呆けていた合体ザマスは我に返る。そして、ベジットに心を奪われていたことが恥ずかしくなった合体ザマスは即座に叫んだ。

「我の方が美しい!」
「はあ?」

 暫くして。今度は合体ザマスと孫悟空が組み手を始めた。腕を組んだベジットはそれを木の幹にもたれかかったまま観戦している。
 先ほどの合体ザマスがそうしたように、ベジットも二人の戦いぶりを冷静に分析して評価しているのだが――

「……いい尻しているな」

 たまに、その視線が合体ザマスのお尻に向けられてしまうのだった。



■体脂肪率一桁

 年中穏やかな気候の界王神界でも、恒星の位置の関係で寒い日が続くことがある。そんな時、ベジットは合体ザマスをからかう頻度も抑えめにして、比較的大人しく過ごしていた。



「風呂の用意ができたぞ。まだぬるいが、浸かっている内に熱くなるから先に入れ」

 合体ザマスに促されて、ベジットはいそいそと浴室に向かった。組み手が終わってから時間が経っているせいで、汗が冷えて体が震えている。
 服を脱いだベジットは、手っ取り早く暖まりたくて、すぐに桶で浴槽の湯をすくって勢いよく頭から被った。

 ――湯だと思ったそれは水だった。

「ぎゃああああああああああああああああああ!」
「五月蠅いぞ、我の尻を触った罰当たりな人間よ」
「てめぇ! それの仕返しか!」



 冬の時期に合体ザマスにちょっかいをかけて怒らせると、容赦のない反撃を喰らうので、寒がりのベジットは比較的大人しく過ごしていた。過ごさざるをえなかった。



■女子力

 猫足の木製テーブルの上には、シャンプーやらコンディショナーやらなんやらが所狭しと並べられていた。そのテーブルに着席している合体ザマスは、自分が要求した品で間違いがないか、要求した品が全て揃っているかどうかを念入りにチェックしている。
 腕を組んだベジットは、その様子を反対側の席で呆れたように眺めていた。

 合体ザマスは手に持っていたシャンプーボトルをことっとテーブルの上に置くと、

「よし。我が求めていた物で間違いない。御苦労であったな、人間」
「そりゃどうも」
「地球で作られるシャンプーは中々にいい。人間風情が持つ技術で、これほどまでに高品質な物を作ることができるとはな」

 ヘアケア用品を前にした合体ザマスの機嫌はいい。鼻歌でも歌い出しそうなほどだ。

 髪に興味がないベジットからしてみれば、合体ザマスがヘアケア用品にこだわる理由も、髪の艶が良くなると言って喜ぶ理由も理解できない。
 ベジットはちらっと、合体ザマスの頭部に視線をやる。自分とほぼ同じ髪型だ。

「そろそろ洗顔フォームとボディソープも無くなる頃合いだ。次、地球に行ったときは、それらも一緒に持ち帰れ。品物は今使っているものでないと駄目だが、新製品があるなら一緒に持ってきてもいいぞ」
「……覚えておく」

 欠伸を噛み殺しながら、ベジットはやる気なさげに返答した。早く組み手がしたい。

 ヘアケア用品をご機嫌な様子で眺めていた合体ザマスだったが、ふとあることを思いつく。

「そういえば、貴様は何のシャンプーを使っているのだ?」

 ちゃんとベジットの為に客室が用意されているというのに、その部屋を使用せずに合体ザマスの部屋に入り浸るので、当然の如く彼の荷物は合体ザマスの部屋に置かれていた。
 しかし、ベジット用の歯磨き粉や石鹸は見たことあるが、シャンプーなどのヘアケア用品は見たことがない。

「……もしかして、我のシャンプーを使っているのか? だとしたら粛正せねば」
「なんでそうなるんだよ。かみさまのシャンプーは使ってねぇよ」
「だが、我の部屋の浴室には、貴様のシャンプーはなかった」
「当然だろ、髪も石鹸で洗ってるんだから」
「!?」

 髪へのこだわりは人それぞれ。



■共働き

 孫悟空もたまにお手伝いするとはいえ、家事の大部分は嫁のチチが担っていた。ベジータも、使用人が行うので家事をする機会はなく、しなければならないという意識も低い。

 当然、そんな二人が合体して生まれたベジットも似たようなもので、家事は誰かに任せてしまってその間修行をしていたいと考えていたが、当然そのような事を合体ザマスが許すはずはない。

「かみさまがやった方が、早いし綺麗だし上手いから、オレの手伝いはいらねぇだろ」
「神一柱に家事の全てをやらせるつもりか? 不届き者」

 キッチンに並んで、一緒に朝ご飯を作るベジットと合体ザマスはそんな会話を交わす。

 次の日には、優雅にティーカップを傾ける合体ザマスの傍で、下僕のように四つん這いで床掃除をさせられているベジットの姿が見られ、また別の日には、寝転がっているベジットを、邪魔くさそうに掃除機で小突く合体ザマスの姿が見られる。

 案外、上手く家事の分担ができている二人であった。



■アイスクリームより氷菓が好きです

 ベジットは第十宇宙の界王神界に遊びに行くとき、お土産を持っていく事が多い。持っていく物は果物だったりお菓子だったり。夏の暑い日には、ドライアイスを詰めたアイスボックスに、アイスクリームを大量に詰め込んでいくこともあった。

 修行が一息ついたので、ベジットと合体ザマスは木陰の下に並んで座って休憩していた。おやつとして二人でアイスキャンディを食べているのだが、陽炎が立ちそうなほどこう暑いとアイスの溶けも早い。

 ベジットはアイスキャンディが溶けて柔らかくなったのを見計らって、冷たさが歯に伝わらないように上手く噛んで食べていたのだが、氷菓を食べ慣れていない合体ザマスは、アイスの滴が自分の手に零れないように必死にアイスを舐めていた。

 円筒形のアイスキャンディの先端を舐めた後、側面でこぼれ落ちそうになっている滴を舐め取る。だが、口を離すときにアイスの滴がこぼれ落ちて、合体ザマスの唇の端を汚した。彼は、軽く眉間に皺を寄せながら、それをぺろっと舌を出して舐め取った。

 アイスを食べることに集中していた合体ザマスは、ふと視線を感じて隣を向く。口を半開きにしたまま、食い入るようにこちらを見ているベジットと目が合った。
 合体ザマスは訝しげに、

「なんだ、その物欲しそうな目は? これは我のだからやらんぞ」
「……いや、別にアイスが欲しいわけじゃなくて、むしろオレのアイスをしゃぶらせたいというかなんというか」
「はあ?」
「なんでもないなんでもない」

 ベジットは手をパタパタ振って誤魔化した。
 合体ザマスは腑に落ちない顔をしていたが、アイスの滴が自分の手にこぼれ落ちそうになっているのに気がついて、慌てて舌で舐め取った。

 その様子を横目で眺めながら、ベジットもアイスを口に運ぶ。
 今夜の夜伽の内容が決まった瞬間だった。
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