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小話(ベジザマ)

■ハッピーバースデー

 天気は快晴。雲ひとつない空の下、穏やかな陽の光が降り注ぐ草原の上に、ベジットと合体ザマスは並んで腰を下ろしていた。
 修行の間のつかの間の休息。話す内容は先ほどの組み手の感想戦。

「思い出した。これやるよ」

 ベジットはいきなり腰のポケットから手のひらサイズの小箱を取り出すと、それをぽいっと合体ザマスの方に放り投げた。

 直前の話題とベジットの先ほどの言葉は繋がらない。合体ザマスは投げてよこされたそれを思わず受け取ったが、脈絡がなさ過ぎて事態が飲み込めずに戸惑っている。
 しかも、ベジットは必要な事は伝えたと言わんばかりに、先ほどの感想戦の続きを話し出していた。

「待て。これはなんだ?」

 合体ザマスは慌ててベジットの話を遮ると、先ほどの言葉の真意を問いただした。見たところ、赤いリボンで彩られた小箱はプレゼントのように見えるが、あのベジットが自分にプレゼントをよこす理由がわからない。

 話の出鼻を挫かれたベジットは、怪訝そうな顔をしながら、

「何って、誕生日プレゼントだよ。お前、一年前の今日、生まれただろ」
「一年前の、今日……?」

 合体ザマスはきょとんとした顔で、ベジットの言葉を反芻した。

 合体ザマスは未来の地球で生まれた。だから、一年前の今日に生まれた、というには語弊がある。

 正確には、色々あって孫悟空達が生きる『現代』に戻ってきたのが、一年前の今日だった。

 とはいえ、合体ザマスがこの時間軸に現れたのは、間違いなく一年前の『今日』であるのだから、この時間軸に置いては、今日を誕生日とするのも一理あるのかもしれない。

 頭の中で色々考えていた合体ザマスだが、とどのつまり混乱していた。
 まさか、ベジットから誕生日プレゼントなどと言うものを渡されると思わなかった彼は、何度も手の中の小箱とベジットの顔を交互に見た後、やがて興味なさそうにそれを懐に仕舞った。

「気に入らなかったか?」
「ふん。この程度で神の心を籠絡できると思うな」
「可愛くねぇな。ありがとうぐらい言えないのかよ」

 合体ザマスはいきなり立ち上がると、

「お前には過ぎた言葉だ」

 素っ気ない態度でそう言い捨てると、ベジットの返事も待たずに飛び去ってしまう。

「……本当に、可愛くねぇな」

 それを見送ったベジットは、呆れたように呟いたのだった。



 暫くして、ベジットはゴワスが住まう神殿に戻ってきていた。慣れた様子で廊下を歩いて神殿の客室に向かう。ベジットが第十宇宙に入り浸っていると言っていいほど滞在しているので、ゴワスが好意で神殿にある一部屋を彼の為に貸し与えてくれたのだ。

 シャワーでも浴びるか、などと考えながら扉を開けて部屋の中に入った瞬間、ベジットの足が止まる。

 部屋の中では、合体ザマスが二人分の紅茶とケーキを用意して待っていたのだった。

 ベジットが部屋の入り口で目を丸くして立ち止まっていると、合体ザマスはそっぽを向いたまま素っ気ない口調で、

「貴様も一年前の今日、生を受けた。その祝いだ。神と同じ日に生まれ、その神から祝福を受けられることを光栄に思え」

 ――実は、ベジットは合体ザマスに出会うよりも、ずっと前に一度、地球で誕生している。だから、ベジットが生まれた日を今日とするのは正確ではないのだが、今それを口にするのは野暮だ。

「この一年で随分可愛らしい性格になったな」

 ベジットは頑なに目を合わせようとしない合体ザマスをからかいつつ、テーブルについて有り難く紅茶とケーキを頂いたのだった。



■予防は最大の治療なり

 孫悟空は、過去に感染症で命を落としかけたことがある。

 その感染症の原因となるウィルスは、罹患した人間の心臓に炎症を引き起こして重篤な心不全を引き起こし、心臓で発生した炎症物質はやがて全身に周り、最終的に臓器不全を発症させて死に至らしめる。

 しかも最悪なことに、その当時の地球には、ウィルスに対して有効な薬も治療法も存在しなかったため、発症してしまった場合、本人の免疫力がウィルスに勝つことを信じて、ただ対処療法を繰り返すしか手立てがなかった。

 だが、大概の場合、ウィルスに打ち勝つよりも早く、長期間の炎症によってぼろぼろになった心臓が拍動するのを止める場合がほとんどで、それ故このウィルスに罹患した人間の生存率は非常に低かった。

 孫悟空も、過去の先達同様、病に負けて死ぬ運命を辿るはずだったのだが、幸運なことに、トランクスが未来から持ってきたワクチンで、何とか一命を取り留めることができたのだ。運が良かったとしか言いようがない。
 
 さらに、幸いなことに、トランクスがいた未来に徐々に近づきつつある『今』では、たゆまない研究の結果、心臓病を引き起こす原因であるウィルスを弱毒化することに成功したのだ。
 これにより、弱毒化したウィルスーーすなわち、ワクチンが発明され、予防接種で命を守ることが可能になったのだった。

 『現代』で発明されたワクチンは、発症後にも効果があった『未来』のワクチンとは違い、『予防』にしか効果が無く、獲得できる抗体も永久抗体ではないため、毎年の予防接種が必要という欠点があるのだが、それを差し引いても充分に画期的な発明だ。

 この予防接種の存在を知ったチチは、一にも二にもなく飛びついた。注射嫌いの孫悟空がいくら拒否しようとも、三度も夫を失いたくないチチは諦めない。
 時には言葉で説き伏せ、時には息子達の力を借りて、無理やり押さえつけたその隙に。

 ――例え、戦闘民族であろうとも、病には勝てない。

 それを身をもって証明した孫悟空は、毎年嫁から強制的に予防接種を受けさせられていたのだった。
 
 当然、存在の半分が孫悟空でできているベジットも罹患する可能性があるため、予防接種を勧められているのだが――。



「また逃げられちゃった……」
 ブルマは溜め息をついた。目の前には穴だらけになった我が家の庭と、反撃を受けて地面に伸びている孫悟空とベジータの姿。

 ベジットに奇襲をかけ、孫悟空とベジータの二人がかりで取り押さえている間に予防接種をするという計画を実行したのだが、流石の二人でもベジットには敵わなかったようだ。

 孫悟空とベジータが合体して生まれた戦士ベジット。二人の力と技を受け継いだ彼は、孫悟空の注射嫌いもしっかり受け継いでいた。

 今までにあの手この手で予防接種を受けさせようと画策したのだが、どれもこれも失敗している。
 とはいえ、諦めるわけにはいかない。予防法が確立されたとはいえ、治療薬そのものは、まだ発明されていないのだ。発症してしまったら打つ手がなくなる。
 ブルマは腕を組むと、その英明な頭をフル回転させて、一計を案じたのだった。



 合体ザマスは、イライラした様子で抱えていた段ボールを、台所のテーブルの上に荒々しく置いた。衝撃でテーブルが揺れる。

 彼が苛ついている理由は、段ボールが重いからではない。
 つい先ほど、第七宇宙の破壊神とその使いをタクシー代わりにして、ベジットがこの第十宇宙の界王神界にやって来たからである。

「地球にいると周りがうるせえから、第十宇宙に逃げてきた。というわけで、暫く厄介になるつもりだから、よろしくな。あ、これ土産」

 そう言うなり、ベジットは正門で出迎えた合体ザマスに持ってきた段ボールを半ば押しつけるように手渡した。

 神に供物を献上する心意気は良いのだが、近所の知人の家に遊びに行くノリでこの界王神界にやって来るのは許し難い。

「貴様、聖域を何だと思っているのだ。大体、供物を持ってきたのなら、神の手を煩わせずに自分で台所に……」

 合体ザマスは苦言を述べるが、当の本人はどこ吹く風。合体ザマスの小言を察したベジットは、さっさとどこかに逃げてしまったのだった。

 一人取り残された合体ザマスは、あの無作法者は必ず躾け直すと、決意を新たにしながら、律儀に段ボールを食堂まで運んだのだった。

 ぷりぷり怒りながら段ボールの蓋を開けると、途端に合体ザマスは目を輝かせた。

 段ボール一杯に詰められた梨。以前にも、ベジットが土産として梨を持ってきたことがあるので、味は知っている。
 その時彼が持ってきた梨は、信じられないくらい瑞々しい甘さで何個でも食べられた。
 ベジットの神に対する不敬はともかく、彼が持ってくる神饌にハズレはない。この梨もきっと極上の味がすることだろう。

 梨を一個手に取り、うきうきとした様子でそれを眺めていた合体ザマスは、ふと段ボールの底に梨以外の物が収められていることに気がついた。

 梨をかき分けて取り出したのは、一枚の封筒。
 差出人はブルマ。宛名は、合体ザマスだった。

「?」

 ――ブルマは、確かベジータの妻だったな。

 何度か顔を合わせたことがあるので、朧気ながらその姿を思い出すことができるが、その程度の薄い繋がりしかないはずの彼女が、何故わざわざ自分に手紙を?

 合体ザマスは怪訝な顔をしたまま封筒を開くと、中から折り畳まれた一枚の白い手紙を取り出した。
 手紙を開いて、やや癖のある文字で構成された文章にさっと目を通す。その視線が手紙に釘付けになるまでに、長い時間はかからなかった。

 その手紙には、ベジットが『注射を非常に怖がる』ので、彼に予防接種を受けさせようにも逃げられてしまうこと、自分達の力ではどうしようもないこと、だから『予防接種のキットを梨と一緒に送る』ので、どうか合体ザマスに力添えを願いたいことが、詳細に書かれていた。

 合体ザマスはその手紙を読み終わるや否や、段ボールの中を漁って予防接種のキットを取り出した。
 プラスチックのキットの中には、注射器がひとつ。その注射器につけられた鋭利な針を見た瞬間、合体ザマスはにたぁっと悪鬼羅刹の如き笑みを浮かべたのだった。



「にんげーん。良い物を持ってきてやったぞー」
「ん? なんだよ……って、てめぇ……! 何でそれを!?」

 暫くして。注射器を片手に、不気味なほど愛想の良い笑顔を浮かべた合体ザマスと、青ざめた表情で壁際に追い詰められたベジットの姿があったのだった。



■昔話

「オレ、昔、あめ玉になったことある」
「は?」



■すっきりしない喧嘩の後

 ここは第十宇宙の界王神界にある合体ザマスの私室。
 灯りもついていない暗闇の中、合体ザマスはリビングのテーブルに突っ伏して泣いていた。

 声が漏れないように押し殺してはいるが、静寂に満ちた部屋ではそれでもよく響く。その泣き声は、隣室のベッドに寝そべっているベジットの耳にも届いていた。

 ベジットは眉間に皺を寄せると、泣き声を遮断するように頭の上まで布団を被るが、いつまで経ってもすすり泣く声はやまない。

「あー! くそ!」

 悪態をつきながら、布団を跳ね飛ばして飛び起きる。ベジットは乱暴に寝室の扉を開けると、大股で合体ザマスの元へと歩いていった。

 驚いた合体ザマスが顔を上げる。暗闇でその表情はよく見ないが、それでも目元が涙で濡れているのがよくわかった。

「もう寝ろ! いつまで泣いてんだ!」

 ベジットは、合体ザマスの腕を掴んで無理やり立ち上がらせると、問答無用でそのまま抱き上げる。

「……っ! 煩い! 放っておけ!」

 合体ザマスは、涙に濡れた声で拒絶する。だが、ベジットはそれを無視してベッドまで運ぶと、ついた途端、合体ザマスをその上に放り投げた。
 そして、合体ザマスが起き上がる前に、布団を被せて強引に押さえつけてしまう。

「離せ!」

 布団の下からくぐもった抗議が上がるが、ベジットは押さえつける力を弱めない。

「……オレが悪かった」

 合体ザマスの動きが、ピタッと止まった。

「言い過ぎた」

 少しの間を置いて、先ほどよりも大きめのすすり泣く声が聞こえてきた。

 自分の胸の内から、後悔を伴った苦い感情がこみ上がってくるのを、ベジットは感じていた。

 彼は、布団の上から合体ザマスを抱きしめたまま、宥めるように合体ザマスの頭があるであろうところを撫でたのだった。



■健康たるには正しい食事から

 六人掛けのテーブルの上に、所狭しと並べられた料理達。熱々の湯気を立てながら鎮座する料理を平らげるのは、テーブルに着席したベジットただ一人。

 ザマスと合体ザマスは、がつがつと料理を口に頬張り、皿を空にしていくベジットを、厳めしい顔つきで眺めていた。

「文献を読んだところ、あいつが摂取している脂質・糖質・タンパク質や塩分その他は、地球人に必要な摂取量を遥かに超過している」
「人間にとって、肥満は万病の元だという。ならば、堕落した人間を我ら神が管理してやらねば」

 二人の間で密かに協議が行われた結果、この後ベジットは問答無用で食事制限させられることになる。



「太らねぇから! 全カロリー消費しているから!」
 ベジットは必死に説得する。体重の推移を確認された後、無罪放免になるまでに、一ヶ月かかったのだった。



■謙遜も過ぎれば嫌味になる

 組み手の最中は、試合のように無言で行うこともあれば、言葉を交わしながら拳を交えることもあった。

「おお、上手上手。そこでそう来るのか、偉い偉い!」
「おのれええええええー!」

 空中で戦うベジットと合体ザマスを眺めていたゴワスは、隣に佇むゴクウブラックに向かって不思議そうに呟く。

「ポタラのザマスは褒められているのに、何故怒っているのだ?」
「……いえ、あれは煽られています」
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