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僕だけの専売特許

「……テン…テン」






「テン…テン」



何なんだ?



「テン……、んー…テン…テン、テン」



いや、だから何






「ねぇ、ちょっと。いったい何遍呼べば気が済むの?」

「……お、え?わっ、居たの?」

「やれやれ……居たの?じゃないよ、呼んだのは君でしょ」


他人の家の炬燵でまったり寛ぐ恋人にそう告げる。

そもそも此処は僕んちでしょーが。


「え?呼んでないよ?」


せっかく馳せ参じたのに何たる事か。

その惚けた反応に思わずムッとしながら恋人の背後に回って、真後ろにどっかり座り込む。

と、黙ったまま、目の前の身体を引き寄せた。


「あ、あー…ごめんね?煩かった?」

「そういうことじゃなくて。だったらあれは何だったの?さっきのテンテン言ってたのは」


黙ったまま抱き寄せたのは少々大人気なかっただろうか。

本気で怒ってる訳じゃないのに、何してんのかな僕は。


「へ?……ああ、あれ?あれはね……んふふ」


けど、例え僕の名前じゃなくても響きが同じってのはやっぱり気になるだろう。

全くの別物だとしてもテンは……

テンと呼ばれるのは、僕の専売特許、と言うか何と言うか

とにかくこれは、恋人でもある僕には絶対に知る権利があるはずだ。


「ほら、だってね?やっぱり口にしてみないと善し悪しはわからないかなって」

「善し悪し?」

「うん」

「何の?」

「たぶん人生で一番口にするのは私だし」


???

どういう意味だ?

まさか君は、僕の名前より多くそれを口にするのか?

いや待て、でもまだ名前とは決まってないぞ


「ついね、名前をね……」


名前……名前ってさ、だから誰なんだよ

もう本当に何の話だ

もしかして犬か猫でも飼う気か?

いやでも確か、犬猫にはアレルギーがある筈で

だからそれはない

とするとまた別の動物か、はたまた人間、だったりして

悶々と頭を悩ますこっちの気も知らず呑気に笑う君

おかしいな、もう付き合いも長いのに

君のことは僕が一番わかってるつもりなのに

今回ばかりは君が何を言ってるのか、これっぽっちもわからない





ーーーと、黙り込んだ僕の手に君の手が重なった。



「えーと、あれ?……あの、もしかして引いてる?」

「え、いや……」

「あ、あのね!名前って言ってもね、ちょっとだけだよ?うっかりって言うかね、炬燵で夢見心地って言うか、つい……ちょっとね?思い浮かべちゃって」


不安げに添えられた手と何故か急に慌て出す君と

未だに言葉の出ない僕


「それでね、テンと同じテンがついたらいいかなぁとか思って」


……ん?僕と同じテン?




って、それ……まさか


「色々ね……テンカ、テンキ、テンクウ?…クテン、コテン…とか……」


まさかのまさか、そういうこと?




「はぁーーーーーー……なるほど」



あああ

何だこれ、これ、何て感情なんだ?

本当に参ったな




目の前で遠慮がちに語り出す恋人の頭を撫でる

ホントに全く、こんなことでいちいち頭を抱える僕に気付きもしないで


「サテン、シテン、ステン?」

「もう…人の名前、勝手に活用しないでよ。いくら何でももっといい名前あるでしょ」


すっかりいつも通りでそう言ってみれば

ぱっと笑った君が振り向いた


「んー?それならテンも考えてみてよ」

「ええ?そうだな、んー……………………テンコ」

「あは」

「テンサイ、とか…テンシ、とかね」

「……」

「……ごめん、調子乗った」

「あはは、テンって実は親バカの素質アリだね」


そう言って、無邪気に笑う君を

腕の中で呑気に平和に笑う君を一生離したくなくて


「あー…、でもやっぱりテンはやめた方がいいんじゃない?」

「え、どうして?可愛いくない?」

「……いや、その…紛らわしいでしょ。僕のと被るから」

「……あ、ああ!ほんとだねぇ」


そう言って、少しがっかり笑う君をもう一度しっかり抱き締める。


「ちょっと残念だけど仕方ないかぁ、テンちゃんって呼んでみたかったんだけどなぁ」

「……」


想像してみたら死ぬほど恥ずかしくて

自分のことじゃないと解ってても、これはおそらく無理だ

その癖、妙に嬉しくて

この後しばらく君が離してって言うまでなかなか離さなかったら


「こら、テンちゃん!もういい加減離して」って可愛く叱られたのは、また別の話。




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