ポニーテールの君
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はああああ
「なに?どうしたの」
洗面所で溜息を吐いていると
地獄耳な恋人がひょっこり顔を出した
「ん〜〜髪が上手くまとまらないの……」
「髪?結ばないの?」
「だーからー結びたいけど上手く行かないの!」
「ふぅーん……なるほど」
彼は何も悪くない
むしろ心配して様子見に来てくれたんだ
だけど、今はダメ
全然わかってない呑気さにイラッとする
「ああー…腕上げすぎて肩こっちゃった」
いつものポニーテール
毎日のことだから、さらっと一発でできる日もある
その癖、毎日のことなのに
一発でキレイに仕上がらない日もそこそこある
シャンプーやコンディショナーを変えたから
ドライヤーで乾かすのが甘かったから
そもそもドライヤー使わず寝落ちしたから
寝相が悪かったから
朝の体調が微妙に良くなかったから
精神的に参ってる時だから
……理由なんて多分色々ある
今日の場合は……いったいどれなんだか
ぱんぱんになって来た肩をまた持上げて
纏めた髪をクシで梳かし
いいかなって所でくるくるっと束ねる
よし!どうだ!
って、よく見れば一部にボコっとはみ出た髪の毛
「……うううう〜〜もうやだぁ……」
ガックリ
さすがに今日はひどい
半泣きになりながら、また髪を梳かす
◇
ううう、と洗面所で恋人の唸る声
はああ、と微かに漏れる溜息
さっきから何かやってるなぁとは思ってたけど
何事かと駆け付けてみれば
髪の毛が上手くまとまらないと言う
なるほど
とは思ったけど
経験がないからいまいちピンと来ない
まあ今までもなかったことじゃなく
こういう時は触らぬ神に祟りなしだと学んでいる僕は
「大変だね、頑張って」とだけ返して退散する。
と見せかけて
実は離れた場所から文月の様子をこっそり見ていた。
女の人って器用だなぁ
文月が髪を結ぶ姿を初めて見た時、そう思った。
と、同時に色っぽいなとも思った。
自分には得体の知れない感じ
まるで魔法とでも言うような独特の作業
印を結ぶ時とも似ているけど
どこか違う、不思議な魅力
束ねられる髪がゆらゆらと揺れるのも
腕を持ち上げて髪をまとめる時の身体のラインも
他の女性のそう言う仕草は
記憶にないから比べようもないけど
僕はあの時から文月の髪を結ぶ姿をずっと好きで
好きで、好き過ぎて
時々こうやってこっそり観察する。
にしても今日は長いな
時間は大丈夫なのか?
鏡とにらめっこする文月が
また肩をガックリ落とすのが見えて
可哀想なのはもちろんだけど、
観てるだけの自分が申し訳なくなる。
冷めてしまったコーヒーでも入れ直してやるかと
立ち上がった時だった。
「やっと出来た!やっとだよー!!」
そう言いながら、
半泣きの文月が洗面所を出て
真っ直ぐ僕の前までやって来る。
「ほらヤマト!見て見て、今度こそ大丈夫だよね?」
立ってる僕の前に回り込むと
左右に頭を振りながら後頭部を見せてくる。
「うん、いいんじゃない」
ふわっと香る文月の匂い。
一つに纏められた髪の束が目の前でゆさゆさ揺れる。
少々重みのありそうなそれにも僕は弱い。
ついでに、その下の無防備な項にも滅法弱い。
観てるだけなんて、もう無理です―――
ぱっと捕まえた滑らかな毛束に鼻を埋めて
衿元すれすれの肌に軽く唇に押し当てた……
「ぁんっ、やだ……何してるの!」
「んーー長々よく頑張ったなぁと思って」
「えー?何それもう、髪乱れなかった?」
「大丈夫だって。乱れてない乱れてない」
「もおぉ」
頬を膨らませて拗ねるなんて全く子どもみたいだな
なんて思ったけど
いや、先に手出した僕のせいか
……全く、僕らは朝から何をやってるんでしょうね
……なーんて一応、戒めてはみたけどさ
本当は文月のこと
今すぐ後ろから抱き竦めて
髪が乱れて解けるくらいめちゃくちゃにしたい
なんて、今は言いません致しません
どうせ今はダメって断固拒否されるの解ってるし
こんなんで変に機嫌損ねたくないからね
僕はそこまでガキじゃないですよ
夜まで我慢、してみせますよ
「それよりさ、肩こったでしょ?夜、帰って来たら揉んであげようか」
「えっ本当?」
「ほんとほんと、だから今日一日頑張っといで」
「うん、ありがと」
すっかり機嫌が治った文月に思わず手が出て
うっかり頭を撫でそうになるのを堪えて
今度こそコーヒーを入れ直すために
背を向けようとした時だった。
カップを持った腕を思い切り引かれて
いきなり文月がしてきたのは、
キス?
え?
いや何、予想外過ぎて固まった。
「コーヒー、私がやってあげる」
「…え、いや、そうじゃなくて、カップ持ってんのに危ないでしょ!」
「えー?前からだから大丈夫だよ」
いや、そっちじゃなくて
いやいや、そっちもか
「ほら、ヤマトも早く支度しないと遅れるよ」
やれやれってぼやいてみたけど
文月にはまるで聞こえてない上に
どうにも、ニヤけるのが止まらない
ああ
僕から奪ったカップを持って屈託なく笑ってる文月と
君と今夜
僕は今夜
うーん
これは
肩もみだけって訳にはもういかないなぁ
なんて明確に思いながら
文月から受け取った熱々のコーヒーで
こっそりにやける口元を隠してた。
☆
「ぅおわ、熱!」
「やだ大丈夫?猫舌なのに慌てるから……」
「う〜、らいりょうふららいはも……」
「火傷、夜には口内炎みたいになるかもねぇ」
「う〜」
「これじゃしばらくキスはお預けだねぇ」
「う〜……あ?」
「きっと痛くてできないよ」
「う!う〜(涙)」
☆
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