好きの温度が測れたら
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「ヤマトって本当に私のこと好きなの?」
「・・・・・・」
鳩が豆鉄砲喰らった顔ってきっとこんな感じかな。
いや、ヤマトの場合、猫が豆鉄砲喰らった顔?
なんて思う余裕はあるみたい。
「え?何で?」
ここは「うん、そうだよ」って即答してくれたらいいだけなのに。ズバッと決めてくれたら気が済むのに。
「質問に質問で返さないでください」
「ん?んー……えーとさ、僕、告白したよね?昨日。もしかして、もう忘れちゃった?」
忘れるわけないじゃない。世界がひっくり返ったかと思った。あんなの忘れっこない。
「そう言うことじゃなくて、本当なのかって聞いてるの」
「え、まさか疑ってるってこと!?」
疑ってる?
そうか、そう言うことになるのかな?
だって確かに、そうだもの。
告白してきたくせに
ドキドキしてるのも浮かれてるのも私ばっかり
ヤマトは顔色も変えずすまし顔で
せっかく合流したのに
自分からはうんともすんとも言わないし
私から話しかけても会話が続かないし
私のこと好きそうにはちっとも見えない。
だいたい端から
私を好きそうな素振りなんてまるでなかったし
いきなり好きとか、びっくりだし
内心嘘でしょって思ったし
でも私を騙すメリットなんてある筈ないし
そもそもヤマトがそんな嘘つくわけないし
だからってOKしたのは
流されたとか絆されたとかじゃなくて
私だって、ヤマトをずっと見てたからこそ
簡単には信じ難いって言うか
ヤマトの本当の気持ち
ヤマトの好きは
私の好きと、同じなのかな?
「僕って信用ないんだな」
「違うの、そうじゃなくて……」
「そうじゃないって、じゃあどういう意味?」
「えと、ヤマトの気持ちがわからないって言うか」
「僕の気持ち?全部昨日伝えたと思うけど……解り辛かったかな」
「何ていうか、温度差って言うか」
「おんどさ?温度?……ごめん、どういう……」
告白してくれたのはヤマトだけど
ずっと片想いしてた私の好きはとても大きくて
それはきっとヤマトが想像もしてないくらいで
それを急に恥ずかしいとか
引かれちゃわないかとか
いざ恋人ってなったら不安になった
昨日はドキドキ興奮して眠れなくて
ずっと色んなこと考えてた
最初は浮かれ気分だったのが
いつの間にか期待と不安が入り交じって
一晩経ったら喜んでばかりいられなくなった
もし好きの温度が測れたら
私の好きはきっとめちゃくちゃ熱くって
ヤマトとはかなりの差があるに違いないから
それは例え両想いだとしても……
「ねぇ小夏、もしかして具合悪い?」
ぼうっとしてた視界が
いきなりヤマトの顔面でいっぱいになる
と思ったら、おでこにひんやりとしたものが触れた
あ、きもちい……
「はぁ」
「やっぱり!熱があるじゃないか」
身体を離して掌と私を見比べて呆れたヤマトの顔
ひんやりと気持ち良かったのは
どうやらヤマトの掌だったらしい
「道理でおかしいと思った!すごいこっち見てくるなと思えば嫌にぼんやりしてるし、ずっと頬が紅いのは普通に…その、照れてるのかと思ってさ、浮かれて勘違いしてた僕も僕なんだけどね…ごにょごにょ…」
そんな風に思われてたの?
それに、浮かれてって言った
今、浮かれて勘違いしたって言った
あのヤマトが、頬を紅くしてバツが悪そうにしてる
「時間も時間だし救急に行くほどでもないかな、立てる?」
「うん……」
「やっぱり危なっかしいな、……小夏、あのっ」
「ん?」
「もし嫌じゃなければだけど、つ……」
「つ?」
「捕まって!肩でも腕でも」
どこにでも、とまで言われて
「あ、いや、もう!」
ぼーっとしてたら
ぶわっと身体が浮いて目の前の景色が回転した。
咄嗟に瞑ってしまった目を恐る恐る開けば
斜め上にヤマトの顔がある
あら、こんなに近くで見るの初めて
・・・・・て、ん?
ん???
え、え、え、もしやこれは!!
「おっおっおひっ……!」
「ごごごめん、勝手に!でもほら、ふらふらしてたし歩くよりこっちの方が安全で早いし!……嫌かもしれないけどできるだけ人目につかないように屋根伝いで行くし……」
のおおおお、あっつい!
人目とか屋根伝いでとか何がどうなってるの?
あついあつい、あれもこれも熱のせいなの?
「行き先は小夏の家でいい?まあ小夏はその方が気が楽だと思うけど、僕が上がり込むの嫌じゃない?その……できたら少しでも看病したいんだけど」
ぼーっとした頭ではもういっぱいいっぱいで
ヤマトの焦ったような声が
身体を伝って響いて目が回る
ちなみに僕んちなら瞬身で行けます…
と早口で付け足すヤマトの首と耳が真っ赤に染まる
幻覚?これも熱のせい?
「一応氷枕も薬もあるし、でも!あくまでも嫌じゃなければ、だけどね?あくまでも」
さっきまでが嘘みたいだ
ふっと気が楽になった
急に強引だったり急にあたふたしたり
病人相手に、ねぇ、何してるの?
「うちでお願い」
「……あ、はい」
そんな露骨にガッカリされたら
可哀想に思えちゃうよ
「寝る時は着替えたいし」
「そそうだよね、わかった」
少し持ち直したように顔を上げたヤマトが走り出す
走り出せば脇目も振らない様子で黙々と走る
たぶん私を気遣いながらだから
酷く静かで、
だからやけに心臓がうるさい
こんな体勢でこんな角度でこんなにくっついて
バクバクうるさい心臓の音が
ヤマトのだか自分のだか
もうわからないよ
◇
「はい、到着です」
瞬身の術とまでは行かなくても
小夏の家まではあっという間だった。
だけど不思議と長かったようにも感じた。
自分でも正直よくわからない感覚だ。
「うん」
「……」
「……あの、降ろしてくれる?」
「えっ、あ!そうだった、ごめん……はい、大丈夫?」
「うん、ありがとう……じゃ、ヤマトも入って」
でしゃばって嫌われなかっただろうか
勝手に抱き上げたりして嫌じゃなかっただろうか
今さら頭の中でぐるぐると渦を巻く後悔
何もかも
断れなかっただけなんじゃないか
唐突に告白したにも関わらず
小夏がOKしてくれて
完全に舞い上がって今日また小夏に会って
僕らはこれから末永く幸せなんだ
そう思ってたけど
どうやら僕の告白は空回りだったらしい
僕は大きな勘違いをしてたのかもしれない
何か見落としてたのかもしれない
ねぇ、どうしてOKしてくれたの?
君こそ、本当に僕を好きなのか?
「着替えて来るから、適当に座って待ってて」
「あ、一人で大丈夫?」
「……ヤマトのえっち」
「や!いや、そそーいう意味じゃ!」
ああもう、良いとこ見せて
自分のモヤモヤを吹き飛ばしたいのに
早くも墓穴を掘る
確かに、僕はそう言うとこあるけどさ……
今までも何度か良いとこ見せようとしたんだ
けど、いつも上手く行かなくて
結局慰められたり励まされたり
だからもう止めた
ひた隠しにして
たまに笑顔が見られればいい
たまに会話できればいい
その分、見守る能力には長けて
きっと今までの僕なら
君の体調の変化くらい、もっと早く気付けたはずだ
それなのにいざ恋人になった途端
平常心失って役立たずってさ
自分でもがっかりする、こんな自分に
全然カッコつかないから
君にまで信用してもらえない
そりゃそうだよな
実績もないのに、男として恋人として
君とこの先どうこうなんて望めるわけないよな
「じゃ、私は寝ようかな」
「うん……」
「あ、氷枕……」
「冷凍庫だよね?取ってくる」
小夏の匂いでいっぱいの部屋で
さらに小夏の匂いでいっぱいであろう布団の中に
小夏が大人しく収まってる
それを誰よりも近くで静かに見守る
僕にはそれだけでも幸せなんだよ
惨めなのかもしれないけど
僕はまだ運良く手に入れたこの位置を失いたくない
「来てもらったのに、私、寝るだけでごめんね」
「何で謝るの?小夏は病人なんだから当然だよ、それに謝るのは僕の方だ。返って気遣うよね僕なんか居たら」
「そんなことないよ、助かるよ」
「いや、やっぱり良くないよ。……けど、もう少し居させてくれるかな、小夏が眠ったの見届けたらすぐ帰るから」
もしこれが最後でも、なんて
いちいち思う辺りがネガティブで女々しい
もっと甘えて欲しいって
頼ってくれって、願ってばかりで
中身が伴ってない癖に
「やだ」
「え」
「やだよ」
「え?」
「そんなこと言われたら眠れないよ」
眠ったら帰っちゃうんでしょ、と小さな声がして
思わず両膝の上で握り締めてた拳から
ベッドの君へ視線を移すと
布団から目から上だけ出していた小夏と
バチッと視線がぶつかった
「……それは困ったな」
「看病なんて要らないから、もう少しここに居てくれる?」
「ん……」
「帰りたいなら仕方ないけど」
「かっ帰りたくないよ」
「!」
「あ!い、今の小夏を一人にしたくない、から。小夏が居ていいって言うのなら、僕は……まだ居るよ」
任務の時間だけは避けられないけどね、
と、付け加えて
自分に言い聞かせてみたけど
あんまり効果は期待できないかもしれない
だって目の前に小夏が居るんだ
離れ難いに決まってる
本当は触れたくて
額に触れた時のしっとりと熱い感触が消えなくて
潤んだ瞳と紅い頬、半開きの唇に吸い寄せられて
今にも手を伸ばして触れてしまいそうだ
「ねぇ」
「うん?」
「手」
そう言って布団の中から伸びて来た小夏の手を
そっと捕らえた。
握った、と言うべきなのかもしれないけど
すっと伸びて来た小夏の手は
ひらりと蝶が現れたみたいで
だから、素直に表現するのなら
捕らえたって言う方がしっくり来る。
「冷たくて気持ちいい……」
「それは良かった」
役に立てるなら何でもいい
ここに居てもいい理由があるだけでいい
「ほら、もう寝た方が……」
「ちょっと待って」
「……どうした?」
「あの、あのね?……さっきはごめんね」
「あ、ああ」
「あんな風に言っちゃったのはね、自分のせいだから。ヤマトは何も悪くないよ」
「……自分のせい?」
「自分に自信がなかっただけ。ちゃんと告白してくれたのに、あんなこと聞いてごめんなさい」
「……いや、僕こそ何かずっと有頂天で、きっと配慮が足りなかったんだと思うし……」
「……有頂天?ヤマトが?」
「うーん、浮かれ過ぎで……色々と普段通りに行かなくて。と言うか今まで通りに行かないと言うか、で、小夏が具合悪いのにも気付くのが遅れたんだ」
きっとそう言うとこなんだろう。
もしかしたら僕は、
自分で思うよりずっとお調子者なのかもしれない。
「今までならもっと早くに気付けてた、絶対」
「ぜったいって」
そう言って、布団に顔隠すように小夏が少し笑った。
「嘘じゃないよ!ずっと見てたんだから」
って、一体何を力説してるんだ?
今さら言っても言い訳にしか聞こえない上に
何より結構、重いよな?
カッコつけるつもりがまた墓穴を……
「そういうのが小夏の迷惑になるって解ってたんだ。だから、告白するつもりなんてさらさらなかったんだけど」
特定の人間に固執するなんて初めてで
これでいいのか正しいのか
間違ってるのかすら判断できなくて
それが小夏を好きってことなんだって
好きになるってことはそういうことなんだって
僕の場合はそういう形なんだって
納得はしてたけど
君と、小夏と、
この先どうこうなんて夢の話
先は考えないようにしてたから
「でも、言ってくれたよね?」
柄になく計画にない行動だった。
「昨日偶然二人で話せて、ずっとこのままならいいのにとか思って……気付いたら告白してた」
あんな衝動的な自分がいるなんて知らなかった。
「そしたら思いがけず小夏がOKしてくれて、もう完全に舞い上がってて、今日なんかもう全然上手くやれなくて……不甲斐ない」
「そんなことない、迷惑なんて思ってないよ?ちゃんと気付いてくれて家まで送ってくれたじゃない。……すごく嬉しいよ、今」
ぽーっとした顔で
最後を少し誤魔化すようにした君を
あっさり可愛いなと思ってしまった。
嬉しいだなんて、それは本気か?
「な、なんか照れるね、とっとりあえず小夏は寝て!」
「うん、あっ、でもまだ言ってないことが」
「あ、そう?何……」
「私もヤマトが好きだから」
「だから、昨日は本当に嬉しかったの。両想いだなんて全然思ってなかったから、一人でテンパって寝不足で……体調崩すとか情けない、恥ずかし……」
「……」
「あの、ねぇ……」
「なに?」
「何じゃないよ、ち近い」
「うん、キスしたい」
「は……」
「してもいい?」
「だっだめだよ、うつるよっ」
「僕はそんなにヤワじゃないよ」
「えっ、ちょっ……」
布団に抑え込まれた状態じゃ逃げ場はない
か弱き小夏の囁かな抵抗虚しく
いとも容易く奪えてしまう唇
「あっつ」
「っ……」
「熱上がった?」
「ヤマトのせいだよ、もぉぉぉ」
「……す、すみません」
思っていたより柔らかくて熱い
って、あれ?先は考えてなかったはずなのに
感触とか密かに想像してたのか?僕は
それに、堅物だとばかり思ってた癖に
小夏を前にすると、案外ちゃっかりしてるらしい
そう言えば、温度が何だとか言っていたような……
これが君の想いの熱量だったりするのかな?
……なんてね
ねぇ、小夏
こんな僕ですが
病める時も健やかなる時も
どうぞ末永くお付き合いお願いします
君への想いはもう隠さないから
どうかそのつもりで
これからもずっとよろしくね
終
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