『君を見付けて、君を知る』
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3.
カップル成立の発表が行なわれる最中。
やっと暇になり空っぽの腹に食い物を放り込んで行く。腹くらい満たされないとやってやられない。ローストビーフにグラタンに鶏肉と豆のトマト煮込み。普段は和食党だけど、まさかツグミと食の趣味が合うとはな。
あーあ、僕はいったい何やってんだ……元はと言えば全部カカシ先輩のせいだけど、断れなかったのは自分、て事はやっぱり自分にも責任は大いにある訳で。
まあ、この催しが無事に済めばそれでいいんだけど……穏便に無難に事なきを得ると言うのは、何事においてもやっぱり大切だ。
『おめでとうございましたー!!』
司会者の大声に思わず顔を上げる。そういや、ツグミは名前呼ばれてたっけ?食い気に走ってるようだったけど、ちゃんと上手いことやれたんだろうか。
ツグミにはほとほと呆れる。僕なんかに触発されて参加するかね、普通。それも向かってる方向が大きくズレてるし。
大して話した事もない僕に、いきなり恋愛の愚痴ってだけでも引いたのに。生憎こっちは恋愛に疎い唐変木だから呆然とするだけで。慰めるなんて早々に諦めて困った部下にするような対応が精一杯で。
『さて、次が今回最後のカップルの発表です!』
喧嘩腰かと思えばからかって来るし、プライベートでまともに向き合うにはなかなかに厄介な性格だ。任務中はまだマシだから知りも知らなかった。
何と言うか、あけすけで落ち着きがなくて、予測不可能で無駄に疲れるから到底御免なんだけど……
君と僕とは違うって言ってるのもまるで伝わってないしな……関わるなって意味のつもりが、完全に逆効果で変な闘志に火を付けたとか、本当笑えない……
『発表します!ラストを飾るのはーーー
男性88番の方、女性は10番の方です!!』
んぐっっ!!!
ちょっちょっと待て!
なんて言った?
いや、聞き間違い、なんて僕に限ってない、けど!嘘だろ、これは何かの手違いじゃ……
ちょうど放り込んだ葡萄を喉に詰まらせそうになった僕に会場中から集まる視線……
「げほっ、ごほっ、な、な、な何で……」
「あーもう、何やってんの!皆さん待ってんだから、さっさと行くよ」
涙目の僕の腕をぐいと引っ張るのはどこからともなく現れたツグミで。
「ねぇ、これ一体どうなってんの?」
「どうって、聞きたいのはこっちだよ!何でヤマトまで私の番号書いちゃってんの?」
88番は僕で10番は君の……運営が必ず提出しろって言うから確かに僕は君の番号を書いたけど。いやしかし、君が僕の番号を書くはずはないから僕だって確実に外すつもりで書いた訳で……
「いやいやいや、訳わかんないよコレ……」
「もうこうなっちゃったんだから行くしかないじゃん!グダグダ言ったって仕方ないでしょ!」
なんてこった……けど、確かに今はツグミに従う方が得策か?こんな所でジタバタしても場の空気を、いや企画までぶち壊す事になるかもしれない……
「そ、そうだな、し仕方ないか……」
ここは大事にしないで済ます方がいいのかもしれない。幸い僕は主催者側の人間で君は事情を知っている参加者で。だからきっと、上手く事が済むんだろう。
『おめでとうございまーーす!まさかお二人ご一緒にこちらへ上がって来られるとはすでに息ぴったり!腕まで組まれてラブラブですねーー』
ツグミに連れられ上がった壇上で、ただただ顔が引き攣る僕とは違い、ツグミは随分と余裕ありげに司会者に相槌を打って微笑んでいる。
『お互いに、選んだ決め手はどんな所でしたか?』
「えーそうですねぇー、ちょーっと野暮ったいけどー誠実でお人好しな所かな?」
などと嬉し(楽し)そうに抜かすツグミと、未だに戸惑いっぱなしの僕。こんなので本当に上手いこと行ってるように見えるのか?どいつもこいつも疑いもせず、他人なんていい加減なもんだ……って、騙してる分際で言えないか。
「ちょーっと気の強い所が可愛いってさっき言われました!」
ぼやっとしてる間にツグミが司会者の問いに勝手に答えてて。呆気にとられるって言うか感心するって言うか、こういうの苦手だから別にいいんだけど、でも僕がそう言ったって思われるのは心外だったりする訳で……
いやでも、これはもう……だんまりに限るな。
『あらー本当にラブラブですね!羨ましい限りです。ではでは、どうぞこれからも末永くお幸せにー!』
盛大な拍手に包まれながら、やっと壇上の端っこまで下がって来て息をつく。
「はぁ」
「お疲れ」
「お疲れ、じゃあないでしょ全く。ツグミは何を血迷って僕の番号なんて書いてんのさ、おかげでこんな事に……」
「はあ?ヤマトが私の番号書かなきゃ良かっただけじゃん」
「うっ……けど、僕の立場を知ってる君が僕の番号書くなんて思わないでしょ普通」
「違う、知ってるから書いたんだよ。ヤマトなら白紙だって思ったし」
「……ああ……なるほど」
「……けど、ごめん、勝手な事して」
「え……いや、僕こそ今回の事は迂闊だった」
「ううん、さっきの決め手の話とか。嘘ばっかり、ヤマトがあんな事言う訳ないじゃんね?」
「嘘……って、ああアレ?『ちょーっと野暮だけど』ってやつか。本当はちょっと所かかなり野暮ったいって思ってるでしょ、僕の事」
「……ぶふ、バレたか」
「バレバレだ」
まさか謝られるなんて思ってなくて。もしかしたらツグミも緊張とか焦りとかあったのかもしれないと今更気付く。ツグミの行動力に助けられたのは僕だったりするのかな、今回ばかりは……
『お前らさ、何だかんだ言って結局こーゆー事なの?』
「わ、先輩!」
「あ、カカシさん」
『で?テンゾーいつから?』
「いやいや、違いますって!僕ら外すつもりでお互いの番号を書いたばっかりにこんな自体になっちゃって」
突然わいた先輩からの突っ込みを全否定して、(今はヤマトでお願いします)って小声で付け足すのも欠かさない。でもこの様子、どっちもあんまり効果なさそうな。
「そうそう!もう面倒だから一旦受け入れて流しちゃえって」
『ええーーーほんと?』
「はい」
『なーんだぁ、そうかぁ、面白い事になったなぁーって思ったのに残念だなぁ』
「面白い事って……まあ、とにかくそういう事なんです」
「あはは、カカシさん騙されちゃった?さっきはさすがの私もちょっと緊張したからねー。ねぇカカシさん、私ちゃんとカワイイ彼女っぽかった?」
『うーん、頼りない彼を支える気丈な彼女って感じでなかなか良かったよー?さすがだね』
「でしょでしょ?んふふー」
ニヤニヤする先輩とニコニコするツグミにげんなりする。はあ、さっきのしおらしいのは何だったんだ?全くもう一体何を楽しんでんだか。二人こそ気が合うんじゃないの?
『ところでテンゾウ』
「……はい?(今はヤマトですけど何か?)」
『それで?言ったの?』
「何をですか?」
『……言う訳ないか』
「は?」
『〝綺麗ですね〟』
「んあ!?」
「へ?なに?」
『コイツが今日、お前見つけて一番最初に言った台詞』
「え……」
「あ、う……」
『なっさけな、これくらいサラっと言ってやんなさいよ全く』
「やだー!ちょっと照れるじゃん!ヤマトってばやだなぁーねぇ、もっと言って」
またしても二人して面白そうにして。きゃっきゃと笑いながら僕をばしばしと叩くツグミにがっくり来る。
「ちょっ、痛いって」
「ほーんとヤマトってばやんなっちゃうよねー、そんな褒め言葉あるんならパーティじゃもっと攻めてたのに!」
『お前だって公衆の面前で褒めて貰ったんだからさ、ツグミにも直接言ってやったらどーなの』
「いやいやいや、何でそうなるんですか?そもそもさっきは褒められたかどうか微妙です」
あれは、パッと見て、普通に綺麗にして来たんだなって思っただけで、褒めてる訳じゃないし特に意味なんて無い。ちらりと様子を伺えば、いかにも面白いものを見るツグミの目。ああ、もう勘弁してくれよ……
「言わないからね」
そっぽを向いて知らん顔すれば、二人してつまらなそうにして、程なく先輩はじゃあ俺は仕事に戻るねーと諦めて行ってしまった。
はぁ、本当にやれやれだよ。今日は二人のおかげでとんでもない一日になってしまった。まあ僕一人じゃあ味わえない内容だったから、経験値としてはマイナスじゃあなかった。とは思うけど。
しばらくしつこくつまらないと言い続けていたツグミも、司会者によってパーティの閉会を告げられ、場の空気が変わったおかげで大人しくなって難を逃れた。
「あのさ」
「ん?」
「君は一般人と結婚でもしたいの?」
「はっ!?」
「一般の人に忍びの仕事を理解してもらうなんて難しいだろうに、よくやるよなぁ」
「はあ、そう言われればそーだね?」
「……呑気だね、自分の事なのに」
「いや、何か改めて言われたらそーだなぁって。相手の仕事で選んだ訳じゃないんだけどねー付き合ってって言われたらだいたいOKしちゃうし」
「考えナシなのか」
「その時は嬉しくて舞い上がっちゃうんだからしょーがないじゃん」
そりゃあ上手く行かないだろ。もう少し自分でもよく考えてみるべきだ。その程度の恋愛でいちいち落ち込むくらいなら。
「てかよくわかったね、元カレが忍びじゃないの」
「そんなの、この前の話でだいたい解る」
「……………………………ヤマトってば名探偵?」
呑気以上だな、これは。て言うか、一般人と出会いのある方が不思議だよ。一体どこをほっつき歩いてんだか。
「私に不向きって、そーゆー意味だったんだ」
「うーん、まあ」
「うーん、そっかぁ、そこんとこウッカリしてたわ!」
一応女の子?だし、少なからずショックでも受けるのかと思ったけど、素直に納得されると言う状況。次の対応に困り戸惑ってるのは僕の方と言う……
「あ、でも。忍び同士なら誰でも上手く行くって訳じゃあないと思うけどね」
一般人よりはまだ余地があるんじゃなかろうか。とは言わず。
「ヤマトって意外と知ってる人?」
知ってる人?……とは、色恋を、と言う意味か?そんなもん、知る訳ない。
「まあ、どっちでもいーけど!とりあえず、今日はそれなりにおもしろかったしね!」
「それは、良かったですね」
「そーゆーヤマトだって結構楽しかったくせに!」
「そんな訳ないでしょ、へとへとだよ」
会場を出てると、すぐに「じゃまたね、バイバイ」と手を振って笑うツグミに感じたのは今までにない感情で、一瞬言葉に詰まる。
「……うん、じゃあまた」
ふっと湧いてしまった親しみに躊躇いながらポツリと零れた声が聞こえのか、向こうに居るツグミはこの世の何もかもが面白いみたいな顔で笑っていた。
カップル成立の発表が行なわれる最中。
やっと暇になり空っぽの腹に食い物を放り込んで行く。腹くらい満たされないとやってやられない。ローストビーフにグラタンに鶏肉と豆のトマト煮込み。普段は和食党だけど、まさかツグミと食の趣味が合うとはな。
あーあ、僕はいったい何やってんだ……元はと言えば全部カカシ先輩のせいだけど、断れなかったのは自分、て事はやっぱり自分にも責任は大いにある訳で。
まあ、この催しが無事に済めばそれでいいんだけど……穏便に無難に事なきを得ると言うのは、何事においてもやっぱり大切だ。
『おめでとうございましたー!!』
司会者の大声に思わず顔を上げる。そういや、ツグミは名前呼ばれてたっけ?食い気に走ってるようだったけど、ちゃんと上手いことやれたんだろうか。
ツグミにはほとほと呆れる。僕なんかに触発されて参加するかね、普通。それも向かってる方向が大きくズレてるし。
大して話した事もない僕に、いきなり恋愛の愚痴ってだけでも引いたのに。生憎こっちは恋愛に疎い唐変木だから呆然とするだけで。慰めるなんて早々に諦めて困った部下にするような対応が精一杯で。
『さて、次が今回最後のカップルの発表です!』
喧嘩腰かと思えばからかって来るし、プライベートでまともに向き合うにはなかなかに厄介な性格だ。任務中はまだマシだから知りも知らなかった。
何と言うか、あけすけで落ち着きがなくて、予測不可能で無駄に疲れるから到底御免なんだけど……
君と僕とは違うって言ってるのもまるで伝わってないしな……関わるなって意味のつもりが、完全に逆効果で変な闘志に火を付けたとか、本当笑えない……
『発表します!ラストを飾るのはーーー
男性88番の方、女性は10番の方です!!』
んぐっっ!!!
ちょっちょっと待て!
なんて言った?
いや、聞き間違い、なんて僕に限ってない、けど!嘘だろ、これは何かの手違いじゃ……
ちょうど放り込んだ葡萄を喉に詰まらせそうになった僕に会場中から集まる視線……
「げほっ、ごほっ、な、な、な何で……」
「あーもう、何やってんの!皆さん待ってんだから、さっさと行くよ」
涙目の僕の腕をぐいと引っ張るのはどこからともなく現れたツグミで。
「ねぇ、これ一体どうなってんの?」
「どうって、聞きたいのはこっちだよ!何でヤマトまで私の番号書いちゃってんの?」
88番は僕で10番は君の……運営が必ず提出しろって言うから確かに僕は君の番号を書いたけど。いやしかし、君が僕の番号を書くはずはないから僕だって確実に外すつもりで書いた訳で……
「いやいやいや、訳わかんないよコレ……」
「もうこうなっちゃったんだから行くしかないじゃん!グダグダ言ったって仕方ないでしょ!」
なんてこった……けど、確かに今はツグミに従う方が得策か?こんな所でジタバタしても場の空気を、いや企画までぶち壊す事になるかもしれない……
「そ、そうだな、し仕方ないか……」
ここは大事にしないで済ます方がいいのかもしれない。幸い僕は主催者側の人間で君は事情を知っている参加者で。だからきっと、上手く事が済むんだろう。
『おめでとうございまーーす!まさかお二人ご一緒にこちらへ上がって来られるとはすでに息ぴったり!腕まで組まれてラブラブですねーー』
ツグミに連れられ上がった壇上で、ただただ顔が引き攣る僕とは違い、ツグミは随分と余裕ありげに司会者に相槌を打って微笑んでいる。
『お互いに、選んだ決め手はどんな所でしたか?』
「えーそうですねぇー、ちょーっと野暮ったいけどー誠実でお人好しな所かな?」
などと嬉し(楽し)そうに抜かすツグミと、未だに戸惑いっぱなしの僕。こんなので本当に上手いこと行ってるように見えるのか?どいつもこいつも疑いもせず、他人なんていい加減なもんだ……って、騙してる分際で言えないか。
「ちょーっと気の強い所が可愛いってさっき言われました!」
ぼやっとしてる間にツグミが司会者の問いに勝手に答えてて。呆気にとられるって言うか感心するって言うか、こういうの苦手だから別にいいんだけど、でも僕がそう言ったって思われるのは心外だったりする訳で……
いやでも、これはもう……だんまりに限るな。
『あらー本当にラブラブですね!羨ましい限りです。ではでは、どうぞこれからも末永くお幸せにー!』
盛大な拍手に包まれながら、やっと壇上の端っこまで下がって来て息をつく。
「はぁ」
「お疲れ」
「お疲れ、じゃあないでしょ全く。ツグミは何を血迷って僕の番号なんて書いてんのさ、おかげでこんな事に……」
「はあ?ヤマトが私の番号書かなきゃ良かっただけじゃん」
「うっ……けど、僕の立場を知ってる君が僕の番号書くなんて思わないでしょ普通」
「違う、知ってるから書いたんだよ。ヤマトなら白紙だって思ったし」
「……ああ……なるほど」
「……けど、ごめん、勝手な事して」
「え……いや、僕こそ今回の事は迂闊だった」
「ううん、さっきの決め手の話とか。嘘ばっかり、ヤマトがあんな事言う訳ないじゃんね?」
「嘘……って、ああアレ?『ちょーっと野暮だけど』ってやつか。本当はちょっと所かかなり野暮ったいって思ってるでしょ、僕の事」
「……ぶふ、バレたか」
「バレバレだ」
まさか謝られるなんて思ってなくて。もしかしたらツグミも緊張とか焦りとかあったのかもしれないと今更気付く。ツグミの行動力に助けられたのは僕だったりするのかな、今回ばかりは……
『お前らさ、何だかんだ言って結局こーゆー事なの?』
「わ、先輩!」
「あ、カカシさん」
『で?テンゾーいつから?』
「いやいや、違いますって!僕ら外すつもりでお互いの番号を書いたばっかりにこんな自体になっちゃって」
突然わいた先輩からの突っ込みを全否定して、(今はヤマトでお願いします)って小声で付け足すのも欠かさない。でもこの様子、どっちもあんまり効果なさそうな。
「そうそう!もう面倒だから一旦受け入れて流しちゃえって」
『ええーーーほんと?』
「はい」
『なーんだぁ、そうかぁ、面白い事になったなぁーって思ったのに残念だなぁ』
「面白い事って……まあ、とにかくそういう事なんです」
「あはは、カカシさん騙されちゃった?さっきはさすがの私もちょっと緊張したからねー。ねぇカカシさん、私ちゃんとカワイイ彼女っぽかった?」
『うーん、頼りない彼を支える気丈な彼女って感じでなかなか良かったよー?さすがだね』
「でしょでしょ?んふふー」
ニヤニヤする先輩とニコニコするツグミにげんなりする。はあ、さっきのしおらしいのは何だったんだ?全くもう一体何を楽しんでんだか。二人こそ気が合うんじゃないの?
『ところでテンゾウ』
「……はい?(今はヤマトですけど何か?)」
『それで?言ったの?』
「何をですか?」
『……言う訳ないか』
「は?」
『〝綺麗ですね〟』
「んあ!?」
「へ?なに?」
『コイツが今日、お前見つけて一番最初に言った台詞』
「え……」
「あ、う……」
『なっさけな、これくらいサラっと言ってやんなさいよ全く』
「やだー!ちょっと照れるじゃん!ヤマトってばやだなぁーねぇ、もっと言って」
またしても二人して面白そうにして。きゃっきゃと笑いながら僕をばしばしと叩くツグミにがっくり来る。
「ちょっ、痛いって」
「ほーんとヤマトってばやんなっちゃうよねー、そんな褒め言葉あるんならパーティじゃもっと攻めてたのに!」
『お前だって公衆の面前で褒めて貰ったんだからさ、ツグミにも直接言ってやったらどーなの』
「いやいやいや、何でそうなるんですか?そもそもさっきは褒められたかどうか微妙です」
あれは、パッと見て、普通に綺麗にして来たんだなって思っただけで、褒めてる訳じゃないし特に意味なんて無い。ちらりと様子を伺えば、いかにも面白いものを見るツグミの目。ああ、もう勘弁してくれよ……
「言わないからね」
そっぽを向いて知らん顔すれば、二人してつまらなそうにして、程なく先輩はじゃあ俺は仕事に戻るねーと諦めて行ってしまった。
はぁ、本当にやれやれだよ。今日は二人のおかげでとんでもない一日になってしまった。まあ僕一人じゃあ味わえない内容だったから、経験値としてはマイナスじゃあなかった。とは思うけど。
しばらくしつこくつまらないと言い続けていたツグミも、司会者によってパーティの閉会を告げられ、場の空気が変わったおかげで大人しくなって難を逃れた。
「あのさ」
「ん?」
「君は一般人と結婚でもしたいの?」
「はっ!?」
「一般の人に忍びの仕事を理解してもらうなんて難しいだろうに、よくやるよなぁ」
「はあ、そう言われればそーだね?」
「……呑気だね、自分の事なのに」
「いや、何か改めて言われたらそーだなぁって。相手の仕事で選んだ訳じゃないんだけどねー付き合ってって言われたらだいたいOKしちゃうし」
「考えナシなのか」
「その時は嬉しくて舞い上がっちゃうんだからしょーがないじゃん」
そりゃあ上手く行かないだろ。もう少し自分でもよく考えてみるべきだ。その程度の恋愛でいちいち落ち込むくらいなら。
「てかよくわかったね、元カレが忍びじゃないの」
「そんなの、この前の話でだいたい解る」
「……………………………ヤマトってば名探偵?」
呑気以上だな、これは。て言うか、一般人と出会いのある方が不思議だよ。一体どこをほっつき歩いてんだか。
「私に不向きって、そーゆー意味だったんだ」
「うーん、まあ」
「うーん、そっかぁ、そこんとこウッカリしてたわ!」
一応女の子?だし、少なからずショックでも受けるのかと思ったけど、素直に納得されると言う状況。次の対応に困り戸惑ってるのは僕の方と言う……
「あ、でも。忍び同士なら誰でも上手く行くって訳じゃあないと思うけどね」
一般人よりはまだ余地があるんじゃなかろうか。とは言わず。
「ヤマトって意外と知ってる人?」
知ってる人?……とは、色恋を、と言う意味か?そんなもん、知る訳ない。
「まあ、どっちでもいーけど!とりあえず、今日はそれなりにおもしろかったしね!」
「それは、良かったですね」
「そーゆーヤマトだって結構楽しかったくせに!」
「そんな訳ないでしょ、へとへとだよ」
会場を出てると、すぐに「じゃまたね、バイバイ」と手を振って笑うツグミに感じたのは今までにない感情で、一瞬言葉に詰まる。
「……うん、じゃあまた」
ふっと湧いてしまった親しみに躊躇いながらポツリと零れた声が聞こえのか、向こうに居るツグミはこの世の何もかもが面白いみたいな顔で笑っていた。