『僕のそばに、いておくれ』
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おかしい。
久々の再会はなかなかの衝撃で、劇的と言うか情熱的と言うか、ツグミらしく。で、非常に気分が高まり。
かと思えば、あまりにあっさり引き下がられて拍子抜け。はっきり言えば、物足りなくて。
気持ちが昂ったのは、僕だけだったのか?
あれからしばらく里での勤務で、やっと飯に誘えると意気込んだ僕を後目に、同じく里に待機中のツグミが何故かなかなか捕まらない。
タイミングが悪いだけか勘違いかとも思ったけど、まともに言葉も交わせない。さすがにここまですれ違うと避けられてると思うしかなく。
感知能力に優れたツグミに本気を出されたら、僕でもその隙を突くのは難しい。ってさ、これ任務じゃないし、そう言う意味の本気は不本意で、幾ら野暮な僕でも腑に落ちない。
今更単純に嫌われたなんて思う訳もなく、まあそう単純じゃないのがあの人で、僕だって勿論そう思いたくない訳で。もはや、素直に受け入れる気もなく、
で、結局こうなってしまった。
割と本気を出してやっと視界に捉えたツグミの姿。
自宅に近づく程に警戒が強まるのは、僕が前科持ちだからなんだろう。
何やってんだ僕は。
何させてんだ僕は。
こんなの責めてるのと変わらない。
やっぱり帰ろう、そう思った時だった。
「ヤマト!」
なんで呼び止めた?
「あっ、待って!振り向かないで!」
「なんで?」
「なんでも!とにかく今はこっち見ないで」
訳解んない
「……やだ」
「!だめ!ホントに止めて、見ないで絶対!」
「理由は?」
「……」
「僕らは顔も見ずにこのまま話すの?」
「だって」
「せっかく大人しく帰ろうとしてた僕をわざわざ引き留めておいて、会いたくないのに話したいってさ……本当、訳が解んない」
やっぱり責めてしまった。上手く行かない、気持ちがカラ回って歯痒い、黙って聞き入れてやればいいだけなのに。
「え?あっ、違うよ?会いたくないんじゃなくて、……見られたくなかったってゆーかね?」
「……何を?」
「う〜ん……」
「何?」
「ん〜〜〜」
「言わないととっ捕まえてガン見するよ」
「!ガン見!?そ、それはダメ!わかった、言うから!言うから……」
「太ったの」
「あと、ニキビができちゃって」
「…………もしかして、それだけ?」
「は?それだけじゃないし!三週間ってね、長いの!それにね、ニキビなんて一個や二個じゃないんだよ?もーーそんなの見られたくないじゃんっ」
そうなんだ、見られたくないのか
そう言うのって、普通、なのかな
だけど、どうして?
僕が他人だからか?
僕が男だからか?
僕を意識してくれてるからか?
「ちょっとお菓子食べ過ぎたら、こーなんだもん、ホントやんなっちゃう!もーー若くないんだよ……」
その台詞、ついこの前僕も思ったっけ。でもシチュエーションが違い過ぎて笑える。肩の力が抜けた。
だから面と向かうのを避けてたのか。
だから食事に誘われたら困るって思ってたのか。
「なるほど。理由は解った」
「どうせ呆れたんでしょ」
「うん、いや」
「どっちだよ!」
「ふ、…ごめん」
「あ、今笑ったでしょ!」
「あはは」
「けど、何でごめん?」
「それはー…何となく」
「何だそりゃ、ヤマトも訳が解んない」
ツグミが食べ過ぎたのって、
もしかして僕のせいだったりするのか?
僕が任務に出ている間、
何度もお菓子を作っていたんじゃないか。
いつ戻るか解らない僕を待って、
何度も大目に手作りして
戻らない僕のせいで行き場のなくなったそれを
ツグミは一人で黙々と食べてたんだろうか?
なんて、そんな風に考えるのは
僕の勝手な自惚れだけど
『三週間ってね、長いの』
僕も心底そう思う。
「あ、そうだ、あのね?パウンドケーキ作ったんだけど、もし良かったら食べるかなーって思って。……いる?」
「いる」
「あ、ホント?よかった、調子に乗って作り過ぎちゃってね、自分で食べちゃ太るのになにやってんのって話だよねー」
「大丈夫だよ、今回は僕が居るから」
「ん?うん、助かる」
「何なら全部くれてもいいよ?めちゃくちゃ腹減ってるし、最近ちょうど甘い物が食いたいって思ってたから大歓迎」
「……ホント?」
「ほんと」
何だろう。自分じゃないみたいに口が開いて調子の良い事ばかり言って、まるで必死だ。
今持って来るから待っててね、と嬉々として駆けてくツグミの後姿を盗み見た。誰かに言われでもしたのか?太ったなんて言われなきゃ解らない……いや、正直言われても全然解らない。
きっとパッと見で解るレベルじゃないだろうし、そもそもそんなの直に触れるとか抱いてみるとかでもしなきゃ解る訳ないんだから……
「……ヤマト、お待たせ……てか、どしたの?」
「何でもないよ」
「いや、どー見ても何でもあったよね?なに死んでんの」
「えーと、大丈夫、糖分不足なだけだから」
「え?マジ?そんなに弱ってたの!?」
そう言って、外壁に寄りかかってへたる僕をツグミが背後から覗き込んだ。
「大丈夫?」
何だよ、こんな間近で見上げて来たりして。今まであれだけ避けてた癖に、もう平気なのか。
「ウソ、やだ、顔赤くない?熱あるんじゃない?今すぐ病院行く?それともいったん家に……」
「大丈夫だって、すぐ治まるから」
「えー?そーゆーワケに行かないって。心配じゃん」
「本当に大丈夫だから」
「もしかしてヤマトって病院苦手とか?それなら一緒に行こ?ね……」
「そんな訳ないでしょ」
「じゃあなに?人が心配してんのに!様子がおかしいのに放っておけるわけないじゃん!」
「ああーもう!そんなに心配ならとりあえず一回黙ってくれるかな!」
「!」
勘違いも甚だしい。心配だ心配だとぐいぐい来るツグミにますます火照りと動悸が止まらなくて、切羽詰まって思わずそう言ってしまった。
大人しくなったツグミの目は逸れることなく、それに負けた僕は振り返ってその肩に頭を乗せた。
「……こうしてていい?落ち着くまで」
「えっ、うん!いいよぜんぜん!こんなんでよくなるならいくらでもするよ!」
バカだな、こんなんで良くなるか。むしろ逆効果だ。でも、あまりにもツグミが純粋だから。素直に僕を想ってくれるから、……だから何だ?
だから、そうだ、……甘えた。
自分が何処まで許されるのか知りたくなった。試して、ツグミの反応を見たくなった。
「甘い……匂いがする」
「あ、ケーキのかな?て、ねぇ、ホントに大丈夫なの?」
「うん、多分。今、凄い癒されてる」
「え、匂いだけで?ヤマトってそんな鼻効くタイプだっけ……まあ今すぐ食べなくても大丈夫ならひとまずいいけどさ、貧血みたいな感じかな?甘い物食べたらちゃんと治る?」
「そーだね、次は食い過ぎて糖分過多にならないようにしないとな」
「え!やだ、脅かさないでよ!ケーキ食べ過ぎちゃダメだからね?」
「ふ、解ってますよ」
「なんか心配、やっぱり一つにしとく?」
「何でだよ、一つじゃ全然足りないよ」
「心配」
「何が」
「心配過ぎる、ヤマトってちゃんとご飯食べてる?」
「……里にいる時はね」
「ホント?」
「まあ、簡単なもんばかりだけどね」
「ふぅん。糖分はさ、果物で摂ったらいいよ」
「果物は足が早いからなぁ。切るのも面倒だし」
「あらら、意外とそーゆータイプか。あ、でもジュースならいいんじゃない?」
「ジュースか」
「買い置きできるじゃん」
「確かに」
「ちゃんと飲んでね」
「解った……て事で、ご心配なく」
「ふーん、何がエラそーにご心配なくなんだか、今まさに弱ってるくせに」
「ん」
「もし私に心配されるのが面倒とか思うんだったら、もっとちゃんとしててよね……ヤマトが弱ってるなんて、すごいすごいびっくりするんだから」
「……無理言わないでよ、僕だって人間なんだから弱る事もある」
「だったら、心配くらいさせて欲しいんですけど」
項垂れた顔のすぐ隣で呟かれてドキリとする。こんなに甘えるつもりじゃなかったのに。きっと、甘い匂いに参って感覚が麻痺してるんだ。
「それは……拒否したつもりはないけど」
「え、そうなの?」
「うん、」
「なら、しちゃうけど」
「て言うか心配くらいって何?心配以外にも何かしてくれるの?」
「え……それは、んー……色々よ、色々」
「色々か……それ、なかなかいい響きだね」
「ん!?そ、それほどでもないよ」
「許可すれば、色々もして貰えるのかな」
幾ら弱ってるからってさすがに調子に乗り過ぎた。無言で固まったツグミに、身体の熱が一気に引く。こんなの病人って言うより、面倒臭い酔っ払いだ……
「あのさぁ」
「……ん?」
「そーゆーの、意味わかって言ってんの?」
え
「ヤマトって天然なの?それともワザと?」
え、え、え
固まってるとばかり思っていたツグミが、横目で僕を捉えながら呟いた。
「私のこと見くびり過ぎ」
「……」
「次そーゆーこと言ったら、タダじゃおかないからね?」
「え、……ただじゃおかないって」
僕は殴られでもするのか?
「殴るとかじゃないからね!」
「あれ?じゃ、なに……」
「どこに逃げようと地の果てまで追っかけてずーっと見張っててやるんだから」
いや、逃げないし
「……って、地の果てまでって」
「本気にさせた方が悪い!」
本気にさせた?
「とにかく今日は早く帰って糖分摂って!もーヤマトのせいでこんなんしてたら、ぜんぜん隠せなかったじゃん……今こっち向いたらぶん殴るからね!」
やっぱり殴るのか。
「あ、違う、んーあれだ、殴るじゃなくて引っぱたくで!」
結局、やられるのか。
別に、構わないけど。
いや、今は違うかな。
でも、もう隠したくない。
「僕は天然じゃない」
「は?」
「裏が全くなかったとは言えないから、わざとって事になるのかな」
ぽかんとしたツグミの横顔に、さっきの質問の答え、と付け足した。
「だから、地の果てでも宇宙の果てでも何処まで追っかけられようが構わない。殴られようが引っぱたかれようが構わない」
「僕も本気だから」
「え?やだ、こっち見ないで」
「駄目、ぶん殴られても見る」
「……ぶん殴るじゃないってば、引っぱたくって言ったでしょ!」
「何が違うの?」
「ぶん殴るより引っぱたくの方が可愛げあるじゃん。あれ?そうでもない?」
「さあ、どうかな。何なら両方して比べてみれば?」
「は?なんで」
「何でも。但し、僕の告白が終わったらね」
「え、こく……?」
「あんな再会、衝撃的過ぎて気分が高まった。それなのにツグミがあっさり帰ったりするからがったりした。久々に会えて浮かれて飯に誘おうとしてんのに避けられまくって凹んだ。糖分不足なんて嘘、ツグミに甘えたかっただけ。
……全部、ツグミを好きだからだ」
肩から顔を持ち上げて告げた。
「……あとさ、想われニキビって知ってる?ツグミのニキビは多分僕のせいだから、…ごめんね」
「……それと、太ったってのは僕には全くそうは見えないけど、もしまだ拘るんなら……いつまで待てばいいか教えて」
見下ろしても見上げてはくれず、問いには柔らかく頭を振るだけして、ぶん殴るどころか引っ叩きもしない。
あれ?君の本気は何処行った?
「本気で心配したのに」
え?そっちの本気?
「ウソつき」
「嘘だけど嘘じゃないよ。本当にツグミに癒されてたし」
「ちょっ、なに言っちゃってんの?」
「糖分ってツグミみたいなもんでしょ」
「い、言ってて恥ずかしくないの?」
「だってツグミが本気出してくれないから」
もう!と肩をぺしっと叩かれた。引っ叩くってのがコレのことなら、確かになかなか可愛くはある。
未だに顔を上げてくれないツグミの旋毛ばかり見てた。いつの間にか旋毛ですら愛しいとか、どうなんだろう。
実際、見て解る程にツグミが太ったって、抱き心地が良さそうだとか思うだけだろう。まあ、激太りまで行くと困るけど。
「あのね……私、ヤマトのおかげでけっこう変われたと思ってたんだけどね」
「うん」
「今のままじゃダメだなって、もっと素直で可愛げのある人になりたくて、……それでね、いつか友達としてじゃなく、特別に見てもらえたらいいなって思ってたんだよ」
「……うん」
「ぜんぜんだよ?まだね、私が思ってる理想の人にはぜんぜん届いてないんだよ」
「……それでもいいの?」
「いいよ」
今のツグミがいいんだよ、と続けたら、ツグミはやっと顔を上げて「ホント甘やかし過ぎ」と言って、何故だか拗ねたみたいな顔をする。
「ツグミからはないの?何かこう、情熱的なやつは」
「う、うるさい!今ひねり出してんの!」
ひねり出すのか……
「今みたいな額当てしてないヤマトも悪くないよ」
「ぶふっ」
「でも他の人と額当てなしで二人きりとかはダメだからね、絶対」
「ぐぶっ」
「余所見したら額当て一時禁止、浮気したら額当て没収」
「……何それ…」
仕事になんないじゃないか
「私の愛のカタチ?」
「……あ、そう、まあいいや、好きにして」
少しばかり褒められて
嫉妬されるまでは良かったけど、何だかなぁ
解ってんだか解ってないんだか
考えてんだか考えてないんだか
前々から思ってたけど、
ツグミが経験豊富だってのは
実は大した根拠がなくて
自称ってやつなんじゃないだろうか
たまに見せる不思議な感じはさ、
それこそ天然ってやつなんじゃないのかな……
「ね、ヤマト」
呼ばれて素直に屈めば、不意打ちの衝突。
「もう治っちゃったんだね、ここの傷」
それは、こんなのあるのかってくらい自然な流れで。じわりと理解して固まる僕に向かって、ツグミが間近で悪戯っぽく微笑むから、僕はもう、ただただ放心状態だった。
油断大敵とは、こんな場面にも使えるらしい……