『君を見付けて、君を知る』
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2.
ヤマトとはあれっきり全然会わなかった。
元から任務で一緒にならなければ
そんなもんだったし。
もちろん特に何て事はなくて。
ただ、前までとちょっと違うのは。
もし姿を見かけたらきっと、
必ず声をかけちゃうだろうなってこと。
あと、あれからふとした時に、
ヤマトに言われた台詞を思い出すこと。
あの時の顔とか声とか手とか……
一日一回、いや二回?
とまあ、それくらいはチラッと思い出すんだよね
だってそうするとさ、
私でもちょっぴりまともになれる気がするんだ
「やあ、久しぶり。元気だった?」
久しぶりに見掛けた背中を全力で追って。
振り返ったのは、前よりも日に焼けてやつれた顔。
だけど大人びて精悍にも見える……
あれ?ヤマトって、こんな感じだった?
「何か雰囲気変わったね」
「うーん、そうかな?ちょっと痩せたからかな、今回結構ハードだったから」
頬から顎の辺りを擦りながら苦笑いする
髭を剃ったおじさんみたいな仕草。
それは確かにヤマトって感じがした。
そういや、前からこんな感じか……
「ツグミは?変わりない?」
「うん、もう元気も元気、なーんにも変わんない」
「そっか、それは良かった」
あれ?何この元気アピール
ちょっと大袈裟だったような
て言うか、何でアピール?
どうしよう、身体がおかしいってか、
ムズムズする……
「あーーー……あのさ、今火影室で聞いたんだけど、今度お見合いのイベントがあるんだってね?」
「あーーうん、そうらしいよ綱手様主催なんだってね、詳しくは知らないけど」
「……その様子だと君は参加する気はないみたいだな」
「そりゃそうだよ、お見合いなんてさ」
「へぇ、そうか」
「へぇ、そうかって、まさかヤマト参加すんの?」
「……ん、まあ、ちょっと考えてる」
青天の霹靂って、こーゆーことか!
いや、違うかな大袈裟!いやいやでも。
「嘘でしょ」
「そんなにおかしいかな?僕が参加するって」
「えっ、うん……あ、ううん……」
「あはは、何それ?どっちだよ」
「おかしいってか、ちょっとびっくり」
「……ほら、試行錯誤って言うか。僕はもっと周りを見ないといけないなと思ってさ。ツグミにも色々言った手前ね」
ああ、ヤマトもちゃんと覚えてたのか。
うん、そーゆー事か。
って、どーゆー事?
あれってさ、あれって、
自分から相手を探しに行けって意味?
真っ当な人間なら、
そうじゃなくてさ、もっとこう……
自然に見つけるもんなんじゃないの?
「意味わかんないんですけど。じゃあ私にも参加しろとか言うつもり?」
「そんな訳ないでしょ、君と僕とは違うし。僕みたいな奴にはいい経験になるかもしれないと思っただけで」
経験。ああ、そうか。
私なんか腐るほどあるもんね、
笑えるくらいの失敗談。
失敗は成功の母なんて言ったの誰だ?
失敗するだけで成長もしてないじゃん。
数だけこなして
誰かに自慢できるような出会いは一個もない。
私も変わんないよ、ううん、ヤマト以下。
むしろ、こんな自分が嫌んなる。
ヤマトみたいならどれだけ良かったんだろ……
「私でも参加する資格、あるかな」
「え?」
「いい機会かなと思って」
「ツグミはそんな必要はないでしょ」
「何で?」
「大丈夫、ツグミにはいくらでも出会いがあるよ、きっと周りが君を放っておかないだろうし」
「だから大人しくそこから良さそーな物件を見極めろってこと?」
「そうだよ」
「何かずるい、ヤマトだけ」
「君と僕とは違うって言ったでしょ」
ずるい、ずるい、ずるい。
真っ当なヤマトはずるい。
親切にしておいて、別の道を行くんだ?
結局、そうやって線引きするんだ?
私が大丈夫なんて誰が決めたんだ。
「そろそろ行くよ、じゃあね」
思いっきり不貞腐れて見せたけど、
ヤマトは知らん顔で行ってしまった。
あの時の木分身だったら、何て言うのかな。
やっぱりバカにされるのかな。
◇
「……何でツグミが居るのかな?」
「あら、どーも」
「興味ないんじゃなかったの」
「ヤマトには関係ないじゃん」
「君には不向きだって言ったのに」
「そんなのわかんないじゃん、試行錯誤だよ、試行錯誤!」
「それ、意味わかってるの?」
「ヤマトこそ、自分の心配した方がいーんじゃない?ま、どーでもいいけど!こっからは辛気臭い顔で話し掛けて来ないでよねー」
そう言い捨てると
私はパーティーの輪の中に入って行った。
◇
…………
始まってすぐに気付いたのは
とんでもない場違い感。
本気で結婚したい人間とゆーのは、
私みたいな派手なカッコで来ないらしい。
ヤマトはどーだと様子を見れば
真面目が服着て歩いてるのが功を奏したのか、さっきから途切れもせず女の子と話してる。
あーもう、これは完敗だ。
「よう ツグミ、楽しんでる?」
「あれ、カカシさんじゃん」
「あらあら、せっかく粧し込んでのにそんな顔してちゃあ、男もよって来ないよー?」
「もういーの、そっちは諦めた!」
「早っ、まだ始まったばっかだよ」
「いーのいーの、実は最初からそこまで意気込んでないから」
「いやいや、もーちょい頑張ってよー、ちょっとは成果でないと綱手様にどやされるのは俺なのよ」
「え?そーなの?そーいや番号ついてないね?」
「だって俺、主催者側だもん」
「なーんだ、困ったらカカシさんの番号書こうと思ったのに!」
「おいおい、仮にも次期火影に向かって頭が高いんじゃない?」
「あはは、にしても大変だねー?綱手様命令?」
「そ。何が悲しくて自分の相手もいないのに他人の結婚の世話なんて焼かなきゃなんないのって話だよ」
「お気の毒さま!」
「……て、ところでさ、ヤマトはどーなっちゃってんの?あれ」
「えー?知らないよ私だって」
「人数合わせでさ、嫌がるの無理矢理引っ張って来ちゃったから、どーなることかと思ったんだけど……まさかのモテ期到来?」
「へ、人数合わせ?」
「うーん、ああ見えてアレ、絶対怒ってるヤツだ……後でなんて言われるか……おー怖!あの爽やか笑顔が逆に怖!」
「そーお?楽しんでんじゃない?」
「いやいや ツグミさぁ、ちょっと行ってご機嫌取ってきてよ」
「えー!?やだよー」
「ヤマトみたいな奥手なヤツ、お前なら楽勝でしょ」
「はー?そんなの全然ムリだから!」
「そーでもないでしょ、さっきお前に気付いた時、ぽーっとなってたよ?」
「いやー、ある訳ないない、さっきも怒らせたばっかなのに……」
「怒らせた……て、ケンカでもしたの?」
「ケンカ……なのか、あれは?」
「へぇ、そんなに仲良かったっけ、お前ら」
「仲良くなんてないよ、全然」
「ふぅーん?ま、どーでもいいけど、いい歳してケンカなんて止めときなさいよ」
「ややや、違うって」
「だいたい痴話喧嘩なんて犬も食わないんだからねー」
「だーかーら……って、は?ちわ?」
言葉を失ってる隙に
ヤマトのフォロー頼んだよーと言い残して
カカシさんはさっさと向こうに行っちゃって。
もーそんなんじゃないのに!
ってぶーたれながら
私は目の前の豪華な料理を大きな口に放り込んだ。
◇
「88番さん」
「わっ!……な、なんだ君か」
「随分とおモテのようですね」
「はぁ」
「あはは、そんな死にそうな顔しなくても」
あ、怒ってない。なんだ、全然大丈夫じゃん。
「ツグミは?ちゃんと参加してるのかい?」
「まあ、それなりに。あ!ローストビーフめちゃくちゃ美味しかったよ」
「……」
「あとねーグラタンみたいなやつと、豆と鶏肉煮込んだトマトのやつもお勧め」
「あーーー腹減った、蕎麦が食いたい」
「あはは、モテる男は大変だねーかわいそーに」
「今日ので、女性ってものがますますわからなくなったな」
「いい勉強になるんじゃない」
「どこがだよ、こんなの消化不良で食あたり起こすだけだよ」
「みんなに良い顔するからでしょー」
「そんなつもりないけど」
「どーだかねぇー」
「あのねぇ、僕……『あの、すみません!』
トイレから話しながら歩いて来て
会場の入口手前で突っ立って話し込んでた。
ら、中から出てきた女の子が駆け寄って来て
ヤマトの前で立ち止まる。
『お話中ごめんなさい、でも私も貴方とお話してみたくて……良かったら、私にもお時間貰えませんか?』
「あーーっと、すみません……実は僕、今日は人数合わせて連れてこられただけで、こういった催しには一切興味がないんです。本当に申し訳ないんですが、そういう訳なのでどうか他の方を当たってください」
急に態度を切り替えて
ツラツラ事務的に返事をするヤマトに
ガッカリして去って行く女の子。
私は思わずずっこけそーになる。
「ひえぇぇ……まさかヤマト、みんなに今みたいに言ってんの?」
「えっ、あ、ああ、まあ……実はさ、今日はカカシ先輩に無理やり連れて来られたんだよね。本当は参加する気なんてなくて」
「それはさっきカカシさんに聞いたけど!でもさ、だからってそんなバカ正直にならなくても」
「えぇ?これってバカ正直かな?ただの事実なんだけど」
やれやれと肩を竦めるヤマトを見ていたら
カカシさんが言っていた事を思い出して
まじまじと見つめる。
このヤマトがぽーっとなんてする?
いやいや絶対ないよね?
「て言うかさ、さっきから気になってたんだけど」
「えっ?何……」
急に向き合われて慌てた。
だって、ほら急にだから。
「何これ」
そう言ってヤマトが指差したのは、
私の手、てか爪?
「何ってマニキュア」
「そんなの僕だって知ってるよ、そうじゃなくてさ、色だよ色。何なの、その黄緑色は」
「何って、キレイでしょ?オイシそーってか、カワイイでしょ」
「本気で言ってるの?女性の感覚ってそうなのかなぁ?けど、男からしたら爪がそんな色って不気味でしかないよ、百歩譲って食い物に見立てるにしたってせいぜい怪しい枝豆ってとこでしょ……」
え、枝豆……しかも怪しい……マジか。
珍しくマニキュアなんてしようと思えたのに。
今回は時間をかけて塗ったから
いー感じにムラなくできたのに。
あれ、そう言えば何でこの色にしたんだっけ?
ヤマトに負けたくないって思って
見返してやるって思って
だからヤマトがずっと頭ん中に居て
ヤマトと言えば緑で、
うん緑なら外さないでしょ!みたいな?
ああ、バカだ私、
万人受けとか忘れてた……
「あ、ごめん、言い過ぎた、そんなに気に入ってたとは……」
「……」
「えーっと、うん、見ようによっちゃ……そうだな、飴玉に見えなくもないか、ほら緑茶味とか」
「……」
「ち違う?じゃあ何だ?いんげん?絹さや……じゃあなくて」
「ぶっ……わはははは!インゲンに絹さやって、豆ばっか」
「あ……」
「てかフルーツが出ないってさぁ……いかにもなメロンとかマスカットとかあるじゃん!まあ、ヤマトらしいけど」
「マスカットか!本当だ、確かにマスカット」
そう言って
楽しそうに私の手を掬いあげたヤマトの手が
ひょいと持ち上がって、
え???
ヤマトの顔のそばまで行き着いた私の手……
艶々だって興味深げに落とされた目線
え?え?え?
「……っ、あ!うわ、ごめん!」
「う、ううん大丈夫……」
ううん、ダメ、何だこれ心臓がヤバい!
片手が痺れてる!
全然全然大丈夫じゃない!
だってさ、だってさ、今、
あんまりにも顔と手が近過ぎて
あのまま口開けちゃうんじゃないかってさ……
アホだ!ダメだ、頭がおかしい!!
「……にしたって、爪が緑って違和感があるよ」
「ヤマトって言えば緑じゃん」
「え?僕?……は、まあ、そう思われがちだけどね」
「えっ、好きなんじゃないの」
「好きって言うか馴染み深いって感じかな?身近過ぎて、好き嫌いで考えた事ないよ」
「はあ?何で?」
「何でって言われてもなぁ。普通に他の色も好きだし」
「えーー……何それ、てっきり緑なら間違いないって……」
「いや、ツグミこそさっきから何なの?緑がなんだっての」
「緑色ならヤマトが気に入るかなって思うじゃん!」
「えっ……」
「この前、ヤマトが〝君と僕とは違う〟とかグダグダ言ったじゃん、もー後からめちゃくちゃ腹立って来ちゃって!だから今日はヤマトを見返してやるって思って気合いバリバリ入れてきたの!」
「ああ、ああ……そういう……」
「けどさー、完全にミスったよね私」
「そう、だね」
「……てか何その顔、何で赤くなってんのヤマト」
「いや、別に何でも」
「あーー!もしや笑い堪えてる?」
「ち違っ」
「もうーーーーほんと腹立つ!」
「あーーもう、そんなんじゃないって!ほら、そろそろ中戻らないと!カカシ先輩にどやされるよ」
そう言うとヤマトは、
むくれた私の身体をくるりっと反転させると
慌てて会場に押し入れた。
ヤマトとはあれっきり全然会わなかった。
元から任務で一緒にならなければ
そんなもんだったし。
もちろん特に何て事はなくて。
ただ、前までとちょっと違うのは。
もし姿を見かけたらきっと、
必ず声をかけちゃうだろうなってこと。
あと、あれからふとした時に、
ヤマトに言われた台詞を思い出すこと。
あの時の顔とか声とか手とか……
一日一回、いや二回?
とまあ、それくらいはチラッと思い出すんだよね
だってそうするとさ、
私でもちょっぴりまともになれる気がするんだ
「やあ、久しぶり。元気だった?」
久しぶりに見掛けた背中を全力で追って。
振り返ったのは、前よりも日に焼けてやつれた顔。
だけど大人びて精悍にも見える……
あれ?ヤマトって、こんな感じだった?
「何か雰囲気変わったね」
「うーん、そうかな?ちょっと痩せたからかな、今回結構ハードだったから」
頬から顎の辺りを擦りながら苦笑いする
髭を剃ったおじさんみたいな仕草。
それは確かにヤマトって感じがした。
そういや、前からこんな感じか……
「ツグミは?変わりない?」
「うん、もう元気も元気、なーんにも変わんない」
「そっか、それは良かった」
あれ?何この元気アピール
ちょっと大袈裟だったような
て言うか、何でアピール?
どうしよう、身体がおかしいってか、
ムズムズする……
「あーーー……あのさ、今火影室で聞いたんだけど、今度お見合いのイベントがあるんだってね?」
「あーーうん、そうらしいよ綱手様主催なんだってね、詳しくは知らないけど」
「……その様子だと君は参加する気はないみたいだな」
「そりゃそうだよ、お見合いなんてさ」
「へぇ、そうか」
「へぇ、そうかって、まさかヤマト参加すんの?」
「……ん、まあ、ちょっと考えてる」
青天の霹靂って、こーゆーことか!
いや、違うかな大袈裟!いやいやでも。
「嘘でしょ」
「そんなにおかしいかな?僕が参加するって」
「えっ、うん……あ、ううん……」
「あはは、何それ?どっちだよ」
「おかしいってか、ちょっとびっくり」
「……ほら、試行錯誤って言うか。僕はもっと周りを見ないといけないなと思ってさ。ツグミにも色々言った手前ね」
ああ、ヤマトもちゃんと覚えてたのか。
うん、そーゆー事か。
って、どーゆー事?
あれってさ、あれって、
自分から相手を探しに行けって意味?
真っ当な人間なら、
そうじゃなくてさ、もっとこう……
自然に見つけるもんなんじゃないの?
「意味わかんないんですけど。じゃあ私にも参加しろとか言うつもり?」
「そんな訳ないでしょ、君と僕とは違うし。僕みたいな奴にはいい経験になるかもしれないと思っただけで」
経験。ああ、そうか。
私なんか腐るほどあるもんね、
笑えるくらいの失敗談。
失敗は成功の母なんて言ったの誰だ?
失敗するだけで成長もしてないじゃん。
数だけこなして
誰かに自慢できるような出会いは一個もない。
私も変わんないよ、ううん、ヤマト以下。
むしろ、こんな自分が嫌んなる。
ヤマトみたいならどれだけ良かったんだろ……
「私でも参加する資格、あるかな」
「え?」
「いい機会かなと思って」
「ツグミはそんな必要はないでしょ」
「何で?」
「大丈夫、ツグミにはいくらでも出会いがあるよ、きっと周りが君を放っておかないだろうし」
「だから大人しくそこから良さそーな物件を見極めろってこと?」
「そうだよ」
「何かずるい、ヤマトだけ」
「君と僕とは違うって言ったでしょ」
ずるい、ずるい、ずるい。
真っ当なヤマトはずるい。
親切にしておいて、別の道を行くんだ?
結局、そうやって線引きするんだ?
私が大丈夫なんて誰が決めたんだ。
「そろそろ行くよ、じゃあね」
思いっきり不貞腐れて見せたけど、
ヤマトは知らん顔で行ってしまった。
あの時の木分身だったら、何て言うのかな。
やっぱりバカにされるのかな。
◇
「……何でツグミが居るのかな?」
「あら、どーも」
「興味ないんじゃなかったの」
「ヤマトには関係ないじゃん」
「君には不向きだって言ったのに」
「そんなのわかんないじゃん、試行錯誤だよ、試行錯誤!」
「それ、意味わかってるの?」
「ヤマトこそ、自分の心配した方がいーんじゃない?ま、どーでもいいけど!こっからは辛気臭い顔で話し掛けて来ないでよねー」
そう言い捨てると
私はパーティーの輪の中に入って行った。
◇
…………
始まってすぐに気付いたのは
とんでもない場違い感。
本気で結婚したい人間とゆーのは、
私みたいな派手なカッコで来ないらしい。
ヤマトはどーだと様子を見れば
真面目が服着て歩いてるのが功を奏したのか、さっきから途切れもせず女の子と話してる。
あーもう、これは完敗だ。
「よう ツグミ、楽しんでる?」
「あれ、カカシさんじゃん」
「あらあら、せっかく粧し込んでのにそんな顔してちゃあ、男もよって来ないよー?」
「もういーの、そっちは諦めた!」
「早っ、まだ始まったばっかだよ」
「いーのいーの、実は最初からそこまで意気込んでないから」
「いやいや、もーちょい頑張ってよー、ちょっとは成果でないと綱手様にどやされるのは俺なのよ」
「え?そーなの?そーいや番号ついてないね?」
「だって俺、主催者側だもん」
「なーんだ、困ったらカカシさんの番号書こうと思ったのに!」
「おいおい、仮にも次期火影に向かって頭が高いんじゃない?」
「あはは、にしても大変だねー?綱手様命令?」
「そ。何が悲しくて自分の相手もいないのに他人の結婚の世話なんて焼かなきゃなんないのって話だよ」
「お気の毒さま!」
「……て、ところでさ、ヤマトはどーなっちゃってんの?あれ」
「えー?知らないよ私だって」
「人数合わせでさ、嫌がるの無理矢理引っ張って来ちゃったから、どーなることかと思ったんだけど……まさかのモテ期到来?」
「へ、人数合わせ?」
「うーん、ああ見えてアレ、絶対怒ってるヤツだ……後でなんて言われるか……おー怖!あの爽やか笑顔が逆に怖!」
「そーお?楽しんでんじゃない?」
「いやいや ツグミさぁ、ちょっと行ってご機嫌取ってきてよ」
「えー!?やだよー」
「ヤマトみたいな奥手なヤツ、お前なら楽勝でしょ」
「はー?そんなの全然ムリだから!」
「そーでもないでしょ、さっきお前に気付いた時、ぽーっとなってたよ?」
「いやー、ある訳ないない、さっきも怒らせたばっかなのに……」
「怒らせた……て、ケンカでもしたの?」
「ケンカ……なのか、あれは?」
「へぇ、そんなに仲良かったっけ、お前ら」
「仲良くなんてないよ、全然」
「ふぅーん?ま、どーでもいいけど、いい歳してケンカなんて止めときなさいよ」
「ややや、違うって」
「だいたい痴話喧嘩なんて犬も食わないんだからねー」
「だーかーら……って、は?ちわ?」
言葉を失ってる隙に
ヤマトのフォロー頼んだよーと言い残して
カカシさんはさっさと向こうに行っちゃって。
もーそんなんじゃないのに!
ってぶーたれながら
私は目の前の豪華な料理を大きな口に放り込んだ。
◇
「88番さん」
「わっ!……な、なんだ君か」
「随分とおモテのようですね」
「はぁ」
「あはは、そんな死にそうな顔しなくても」
あ、怒ってない。なんだ、全然大丈夫じゃん。
「ツグミは?ちゃんと参加してるのかい?」
「まあ、それなりに。あ!ローストビーフめちゃくちゃ美味しかったよ」
「……」
「あとねーグラタンみたいなやつと、豆と鶏肉煮込んだトマトのやつもお勧め」
「あーーー腹減った、蕎麦が食いたい」
「あはは、モテる男は大変だねーかわいそーに」
「今日ので、女性ってものがますますわからなくなったな」
「いい勉強になるんじゃない」
「どこがだよ、こんなの消化不良で食あたり起こすだけだよ」
「みんなに良い顔するからでしょー」
「そんなつもりないけど」
「どーだかねぇー」
「あのねぇ、僕……『あの、すみません!』
トイレから話しながら歩いて来て
会場の入口手前で突っ立って話し込んでた。
ら、中から出てきた女の子が駆け寄って来て
ヤマトの前で立ち止まる。
『お話中ごめんなさい、でも私も貴方とお話してみたくて……良かったら、私にもお時間貰えませんか?』
「あーーっと、すみません……実は僕、今日は人数合わせて連れてこられただけで、こういった催しには一切興味がないんです。本当に申し訳ないんですが、そういう訳なのでどうか他の方を当たってください」
急に態度を切り替えて
ツラツラ事務的に返事をするヤマトに
ガッカリして去って行く女の子。
私は思わずずっこけそーになる。
「ひえぇぇ……まさかヤマト、みんなに今みたいに言ってんの?」
「えっ、あ、ああ、まあ……実はさ、今日はカカシ先輩に無理やり連れて来られたんだよね。本当は参加する気なんてなくて」
「それはさっきカカシさんに聞いたけど!でもさ、だからってそんなバカ正直にならなくても」
「えぇ?これってバカ正直かな?ただの事実なんだけど」
やれやれと肩を竦めるヤマトを見ていたら
カカシさんが言っていた事を思い出して
まじまじと見つめる。
このヤマトがぽーっとなんてする?
いやいや絶対ないよね?
「て言うかさ、さっきから気になってたんだけど」
「えっ?何……」
急に向き合われて慌てた。
だって、ほら急にだから。
「何これ」
そう言ってヤマトが指差したのは、
私の手、てか爪?
「何ってマニキュア」
「そんなの僕だって知ってるよ、そうじゃなくてさ、色だよ色。何なの、その黄緑色は」
「何って、キレイでしょ?オイシそーってか、カワイイでしょ」
「本気で言ってるの?女性の感覚ってそうなのかなぁ?けど、男からしたら爪がそんな色って不気味でしかないよ、百歩譲って食い物に見立てるにしたってせいぜい怪しい枝豆ってとこでしょ……」
え、枝豆……しかも怪しい……マジか。
珍しくマニキュアなんてしようと思えたのに。
今回は時間をかけて塗ったから
いー感じにムラなくできたのに。
あれ、そう言えば何でこの色にしたんだっけ?
ヤマトに負けたくないって思って
見返してやるって思って
だからヤマトがずっと頭ん中に居て
ヤマトと言えば緑で、
うん緑なら外さないでしょ!みたいな?
ああ、バカだ私、
万人受けとか忘れてた……
「あ、ごめん、言い過ぎた、そんなに気に入ってたとは……」
「……」
「えーっと、うん、見ようによっちゃ……そうだな、飴玉に見えなくもないか、ほら緑茶味とか」
「……」
「ち違う?じゃあ何だ?いんげん?絹さや……じゃあなくて」
「ぶっ……わはははは!インゲンに絹さやって、豆ばっか」
「あ……」
「てかフルーツが出ないってさぁ……いかにもなメロンとかマスカットとかあるじゃん!まあ、ヤマトらしいけど」
「マスカットか!本当だ、確かにマスカット」
そう言って
楽しそうに私の手を掬いあげたヤマトの手が
ひょいと持ち上がって、
え???
ヤマトの顔のそばまで行き着いた私の手……
艶々だって興味深げに落とされた目線
え?え?え?
「……っ、あ!うわ、ごめん!」
「う、ううん大丈夫……」
ううん、ダメ、何だこれ心臓がヤバい!
片手が痺れてる!
全然全然大丈夫じゃない!
だってさ、だってさ、今、
あんまりにも顔と手が近過ぎて
あのまま口開けちゃうんじゃないかってさ……
アホだ!ダメだ、頭がおかしい!!
「……にしたって、爪が緑って違和感があるよ」
「ヤマトって言えば緑じゃん」
「え?僕?……は、まあ、そう思われがちだけどね」
「えっ、好きなんじゃないの」
「好きって言うか馴染み深いって感じかな?身近過ぎて、好き嫌いで考えた事ないよ」
「はあ?何で?」
「何でって言われてもなぁ。普通に他の色も好きだし」
「えーー……何それ、てっきり緑なら間違いないって……」
「いや、ツグミこそさっきから何なの?緑がなんだっての」
「緑色ならヤマトが気に入るかなって思うじゃん!」
「えっ……」
「この前、ヤマトが〝君と僕とは違う〟とかグダグダ言ったじゃん、もー後からめちゃくちゃ腹立って来ちゃって!だから今日はヤマトを見返してやるって思って気合いバリバリ入れてきたの!」
「ああ、ああ……そういう……」
「けどさー、完全にミスったよね私」
「そう、だね」
「……てか何その顔、何で赤くなってんのヤマト」
「いや、別に何でも」
「あーー!もしや笑い堪えてる?」
「ち違っ」
「もうーーーーほんと腹立つ!」
「あーーもう、そんなんじゃないって!ほら、そろそろ中戻らないと!カカシ先輩にどやされるよ」
そう言うとヤマトは、
むくれた私の身体をくるりっと反転させると
慌てて会場に押し入れた。