『僕のそばに、いておくれ』
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「スイーツって、例えば何だろうか?」
「は?」
「いやだから。スイーツって、洋菓子だけなのか和菓子は入るのか、一体どこからどこまでがスイーツって枠に収まるのかなと思って」
「スイーツ……」
「そう、スイーツ」
「スイーツ、ですか」
「うん、スイーツ、何だけれども」
「意外です、ヤマト隊長って甘い物が好きなんですね」
「……ん?え!あっ、いや、そうじゃなくてね、一般論!一般論を聞いてるの!」
「はぁ、一般論……まぁどっちでもいいですけど。うーん、スイーツって言ったら和でも洋でも甘い物全般って感じですかねー。デザートに出るような物とか専門のお店で売ってる物ってイメージです」
「ふーん、ぐ具体的には?」
「え?具体的?……和なら餡蜜とか羊羹とか、洋ならケーキとかプリンとかですかね」
「なるほど……で、それって素人でも手作り可能な物なの?」
「んー……和菓子の手作りはあまり聞きませんけど、器用な人なら何でも作るでしょうね」
「……へぇ」
「……ヤマト隊長が作るんですか?」
「違う違う、ただ聞いてるだけ」
「ですよねぇー。あ、そう言えば!この前、シナモンロール買いに行ったら、ナルトとヒナタにばったり会っちゃって!ああいういかにもなお店って、男性にはちょっとハードル高いですよねぇー?けど、ナルトはああいう奴だからそういうの全然気にしてないんですよ。いやーあれは若干羨ましかったかなーなんて」
「……羨ましい?」
「え!まあ、そりゃそうですよ、好きな人と好きな物を共有するって嬉しいですもん。ナルトはいつも通りデレデレでしたけど、ヒナタも嬉しそうでしたよ、すっごく」
「はぁ…ナルトが、はぁ…」
「って、こんな事で何関心してるんですか」
いや、するでしょ!
スイーツの謎は何とか解けてきたけど、ツグミも口にしてた通り、喫茶店で僕とケーキを食べるってのはなかなかの光景だ。絵面的に微妙だし確実に浮く。茶店ならまだギリギリセーフか?いや、やっぱり微妙か。
……だとしても
共有したいなんて思って貰えるのなら
いや、そんな深い意味なくていいんだけど
ただ、嬉しいとか思って貰えるのなら……
て、待てよ?
そもそも恋人でもない僕がそこまで思うのって
間違ってないか?
いいのか?
これいいのか?
「え、今度は何落ち込んでるんですか!?」
「いや、何でもないよ……ありがとう、参考になった」
サクラは久々の長期任務でヘトヘトな上に、よく分からない上司の質問と態度にさらに疲れが増した。
初めて同行した時を思わせる緊迫感で出発し、滅多に無茶をしないこの上司にしては珍しくハードに働かされ、予定よりかなり早く任務が済んだかと思えば……何だこれは。神妙な顔付きで何か問題でもあったかと思えばスイーツって何だそれ。
おかげで頭の中も口の中も餡蜜でいっぱいだ。しゃんなろー!早く帰ってスイーツで癒されたいのはコッチだっつーの!
◇
「それじゃ、お疲れさまでした!」
「お疲れ様、皆しっかり休んでね」
任務報告を済ませて執務室を出ると、パッと切り替えてそそくさと帰ってく部下達を順に見送る。
皆よく頑張ってくれた。僕も、頑張った……かな、若干無茶した気もするけど。さすがに疲れたかななんて、ぼんやり階段を降りて行く。
外に出れば、柔らかな春の空気が肌に触れて。よく見れば、もう桜が咲き始めてる。まだ蕾もついてなかったのに。僕ももう歳か……
……ん?
今何か変な音がしなかったか?
え、何か来る……
妙な気配に身構えれば、門の向こうから物凄い勢いで何かが僕を目掛けて突っ込んで来た。
「…………ぅぐ」
堪えたけど声が漏れた。
何で堪えてんだ?いや、だって久しぶりで、何て言っていいか解んないし、一言目が格好悪いのもちょっととか思って。
だってこんな再会は全然予想してなかった。
何十パターンも想像したし何百回とシュミレーションしたけど、どれもかすりもしない。
万が一怒っていたらとか、また泣いてたらとか、悪い想像は幾らでもできた。そもそも忘れられたって文句も言えなくて、その時は仕方ないと覚悟だってした。
気持ちに嘘はないけど、叶わない約束をした。仕事柄当たり前だって君なら笑い飛ばしてくれる気もしたけど、良くない想像をする方が遥かに簡単で。
何十通りもの謝罪とか対応とか準備してたのに。
君って人は、どれも使わせてくれないらしい。
久々に君のパワーを目の当たりにして
さっきの速度とか
腹にしがみつく力が強過ぎて苦しいのも
どう受け取ればいいか解らない
頼むから、何か言ってくれ
「……ごめんね」
え、
「ごめんね、バカって言って」
?????
「え、……何の事?」
どうやら怒ってるでも泣いてるでもない君が口にした謎の謝罪に呆然として、口から素朴な疑問が出た。
「任務に行く前……いってらっしゃいって言った時」
は?あー…確かに…行ってきますって言えバカって言われたけど……え、アレ?
「見送るのに最後にバカって最悪じゃん私……」
そう言われればそうだけど。あの時の僕はそんな事気にも留めず、笑顔がいいなとか思っちゃってた訳なんだけど。
そういや、あの時はもっと驚いたな……あんな事口にした男にさ、普通、他に恋人が居ると思うか?ましてや好きな人が他に居るとかさ……僕がそんな器用な人間に見えてるのか?
若干ショックだったのは否めないけど、改めて確認されると何もかも自覚せざるを得なかった。
君には本当に驚かされっ放しだ……
それにしたって
一体いつからそんなに心配性になったんだ?
そんな事で今更僕がどうこう言う筈ない
そんな事で僕の身に災難が降りかかったりはしない
生憎僕は、君と違って直感は当てにしない
迷信の類だって、これっぽっちも信じない質なんだ
全く、変なとこだけ真面目なんだよな……
「ずっと気にしてたの?」
気が抜けて笑う。本当に予測不可能だ。不満気に顔を上げた君に言う。
「……バカだな」
あ!と口を開けて目を丸くした君にさらに言う。
「ほら、これでおあいこでしょ」
よく解る。口をパクパクしてる君が、相変わらず元気そうでホッとする。怒ってもない。泣いてもない。僕の事も忘れたりしてなかった。
「ただいま」
今度は叱られる前に言おうと決めていた。
「……おかえり」
我に返ったのか僕から飛び退くと、君は控えめにそう返事をくれた。
◇
ヤマトが任務に出てから
私だって任務はたくさんした。
里を離れる度、
入れ違うかなって少しだけ気にしながら出発して
戻る度に、まだヤマトが戻ってないのを確認する。
ホッとしたりがっかりしたり
ドキドキしたりハラハラしたり
本当に忙しい
まるで10代の小娘だ
にしたってだ、
寄りにもよって
なんで別れるタイミングでバカなんて言ったんだ
も〜〜バカは私じゃん
いつもなら気にしないのに
なんでこんなに気になるんだ
なんで心配とか不安とか考えちゃうんだ
悪い言葉が悪い事を呼びそーとか
なんでいきなりこんなネガティブなんだ……
カカシさんに何度も確認して
ヤマトが戻ったら
すぐに連絡をくれるようにも言って
やっと来た連絡。
やっと帰って来たヤマト。
大丈夫、生きてる。
ドカンと突撃したら
ちょっぴりよろめいた。
疲れてそーだけど、大丈夫、ケガもない。
やっと会えた、やっと謝れた。
そして、呪いが解けた。
ヤマトが笑ってバカだなって言って
おあいこでしょって言ったら
びっくりするくらい簡単に解けた。
なんだよ私、会いたかっただけなんじゃない?
「ただいま」
「おかえり」
うれしい。
くるしい。
もうムリ。
久々に間近で見たヤマトが
今世紀最強のイケメンに見えて
今度こそ、ホントのホントに確信する
けど、あれだな、
改めて自覚するとヤバくない?
なんだろコレ、緊張?
心臓がバックバクなんだけど!
ヤバいヤバい!
あーーもーー!
突撃とかなにやってんの私!
「……えーっと、じゃ、帰るね?」
「え、そうなの?」
「うん、謝りたかっただけだから」
「そっか……」
「うん」
「あ!あー僕の服さ、結構汚かったと思うんだよね、……だからもし汚れてたらごめんね」
「や!それはへーき、大丈夫、ぜんぜん」
「そう?」
「…うん、じゃ!そーゆーことで!」
となんとか言葉を絞り出すと、
私はヤマトに背を向けてダッシュで走り出した。
「ツグミ、またね!」と
漏れなく付け足してくれるヤマトの声に
めちゃくちゃときめいて
後ろ髪を引かれながら。