『君を見付けて、君を知る』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
⒋
(ほんとキレイに塗れたよねぇ〜)
開いた手のひらをちょっと離して
ツヤツヤに煌めく自慢の爪に見惚れる。
(しかも見た目も褒められてたらしいし?)
ぐふふ、と思わず変な声が漏れた。
だって何かウケる。
(いやーカカシさんに感謝だわ!ヤマトが自分で言う訳ないもん)
やっぱり私はなかなか上手くやれたらしい。
キレイって言わせたってことは
ヤマトの好みにハマったってことで
あそこは敵地って感じだったけど、
最初の目的はヤマトを見返す!だったからね!
うん、作戦は成功だ。
(てか、ヤマトの好みって割と普通なんだなぁ)
もっと清楚系が好きなんだろうなー
って思ったけど、さすがにそこまで変身できなくて
うっかり爪を緑にしちゃったのも
あれはまずったけども。
(……ん?これって、ヤマトでも見た目でころって行くってことか?)
あれ、でもそれだと
中身が誰でもあんま関係ないってことになるのか。
それはそれでムカつくかも。
結局イライラしながら除光液を手にとると
ガシガシとマニキュアを落としてく。
元々任務前に落とすつもりだったから、
こういうのは潔くやっちゃうに限る。
「あーーー肩こった!」
吐き出すみたいに声に出して
窓を開けて深呼吸。
でも、すっごくおもしろい一日だった。
だった、
だったんだけど。
あれからすぐに会ったヤマトは一人じゃなかった。
て。ホントは見ただけだけど。
視界の端っこ。
街中で見つけた焦げ茶色の頭とごっつい額当て。
驚いた。女の子と居て。
2度見したし。
しかもよく見たら
婚活パーティーで声掛けてきた子で。
まさか
あの日から二人は連絡を取り合ってたのか。
だったらあの日
私なんかとカップルになっちゃって
揉めたりしたのかも、って、咄嗟に頭が回る。
でも、それもすぐに止めた。
だってどーせ。
ヤマトはなんでも正直に話すんだろうし。
ヤマトはきっと疑われたりなんかしないし。
うん、日頃の行いがいいヤツは
きっとこんな時も余裕に違いない。
(よかったじゃん、なんの心配もなしだ)
って、ヤマトの心配なんて
最初っから1ミリもしてなかったけど!
それどころじゃないんだし。
私は私で忙しいんだから。
ほんと、私も負けてらんない。
◇
「ツグミ、お疲れ」
「……どうも」
うっかりした。思わず声をかけて、これは間違えた、とよそよそしく答えるツグミを見て固まる。
「何か用?」
「いや、見掛けたから……別に元気ならそれでいいんだ」
「あ!……あの」
「え?」
「あのさ、結構やるじゃん」
「何が?」
「この前、見た」
「何を?」
「女の子と居たじゃん、ヤマトのくせに」
「は?」
いきなり何の話か。誰の話か。急に振られた予想外の話題に言葉を失う。
「女の子、ほら婚活パーティーで声掛けてきた子だよ!ヤマトも案外やるじゃん」
「……ああ、あれは」
「まさかちゃっかり仲良くなってるとはねー」
「いや、そう言う訳じゃ」
「別に隠さなくてもいいじゃん」
「あれはそう言うんじゃないよ」
「は?嘘つくとか何なの?」
「だから違うんだ、声掛けられてちょっと立ち話してただけで」
何故だか変な勘違いをされていて、これは面白がってからかわれるのかと否定すれば、今度は怒る。はあ、やっぱり難しい。
「やけに楽しそーだったし。てか、私には言えないっての?」
難しいって思ったばかりだ。けど、何だか。この言い回しは……何となく、もしかして……これは僕のこと多少なりとも気にかけてくれてたってことなのか?
「いや、本当に。そんなのいちいち隠したりしないよ。……ましてやツグミになら言ってるよ、恰好の自慢話でしょ」
「ん?……まー確かにそーか?」
「あの人とはバッタリ会って、本当に忍びなんですねとか言われて。まあ、この格好が珍しかったのか素敵ですねーとは言われたけど、それだけだね、残念ながら」
事実を伝えれば、険しかった顔はみるみる間に困り顔に変わる。びっくりする程に単純だ。
「……何かごめん、逆にフビン」
「いや、そこまでじゃ」
「だってさ、そのダサい額当てしてんの見られたんでしょ」
「はぁ?」
「ぶふ」
「これの何処がダサいって?」
「えーもう、そのごっついのがダメ!重そーなのも形も古くさくって全っ然イケてない」
「君には解んないのかもしれないけどね、これはかの二代目様に見習って……」
「二代目様はいーの!今も昔もクールでカッコよくてイケてんの!ぽっと出のヤマトと一緒にしないでよねー」
「…………」
「…………ぶふふ」
「笑うトコじゃない」
「てか、怒んないの?」
「確かにぽっと出なんで。まあ、何と言われようと辞める気はないけどね」
「なーんだ、からかってやろーと思ったのに」
「それ、どっちの話?」
「んー?どっちも?」
「はあ」
もう何の話してたか解んなくなる。
えーと、あ、そうか、
例の婚活パーティーの……
「そういや、あんな断り入れた癖にカップルなんかなったから、あれは嘘だったんですかって言われちゃったよ」
「あー……あはは、そりゃそーだ」
「事情話したら何でだか笑われたたけど、まあ、怒ってなくて良かった」
「へぇ、じゃあ良かった、のかな?」
「あちらはあちらでちゃんと見つけたようなので良かったんだと思いますよ」
「え、あ、そーなの?」
「そう言う事だ」
「なーんだ、心配して損した」
「……心配って何の?」
「あー…別に?ただちょっと、私のせいで揉めてたらやだなーって思って!後味悪いじゃん」
「ふぅん、そりゃお気遣いどうも」
もしかしたら本当は。自分が原因で揉めていたら申し訳ない、とか思ってたんじゃないか。けど、直球でありがとうなんて言って意地になって怒り出されても困るし……
「でもさー……ヤマトはそれで良かったの?」
「え、何が?」
「んー、気に入ってたんじゃないの?あの子」
がくっ
「何その反応」
「別に。そういう気は全然ないよ」
「へぇ、そうなの?」
ツグミってそっちの経験あるらしいのに全然わかってないんだな、と言ったら、拗れて面倒な事になりそうだから、これも黙っておくとして。
……変だよな、まるで違うトコにいる人間のはずなのに。まるで理解できなかったはずなのに。こうやって話してるとそれほどでもない気がしてくるから。
最近本当に変なんだ。
「て言うか、さっきの。ヤマトのくせにってのはいくら何でもひどくない?」
「……そんなこと言ったっけ?」
「……ま、もういいですけど」
「ぷっ、ごめん!」
「僕もまだまだだって事かな」
「そーゆーことよ」
「はいはい、ぼちぼち頑張りますよ」
「うん、がんばってくれたまえよ」
「……何それ、君こそしっかりね」
「それは……わかってるよ。ちゃんと覚えてるし〝もったいない〟って言われたこと」
ボソリとツグミが口にした台詞。え、と言う驚きの声が喉の奥で詰まって、目だけがツグミを捉えた。
「何、その顔。まさか忘れたの?あんなエラソーに言ったくせに」
何も言えずに居たらすぐに噛み付かれて。真顔過ぎ、怖いんですけど、と言われても、まだ上手く返事ができなくて。
だって、あれを真に受けていたなんて思わないじゃないか。
「ヤマトの眼力だって結構ヤバいんだからね?そーゆーの心臓に悪いんだから止めてよね!」
いや、決していい加減な気持ちで口にした訳じゃなかったけど。忘れられて当前だと思ってたから。
「あの!だーかーら!怖いんだってば!ヤマトの眼力!」
「え?ああ、ごめん……」
「まさか本当に忘れてたの?ってか、待って。ヤマトが忘れるとかないよね?あれってもしかして私の勘違い?いやでもヤマト言ったよね?あれ?あれ?ねーやだ、何か自信なくなって来たんですけど!?」
いよいよ、目の前で慌てふためくツグミに、徐々にどうしようもなく笑いが込み上げて来る。
「言ったよ、……確かに言った」
「あっ!ほんと?そーだよね!あーよかった……って、ヤマト反応ワル過ぎ!もーやだなー私がバカみたいじゃんっ」
「ごめん」
「…………とか言いつつ笑ってない?」
「本当ごめん」
「目逸らせて言われても、ぜーんぜん誠意が伝わって来ないんですけど?」
だって、今 目合わせたらさ。眼力が、とかまた言われそうじゃない。って言っても今は、勝手に顔がニヤけて来て。僕の自慢の眼力は、すっかり役立たずだろうけど……
「前から思ってたけど、ツグミって案外真面目だよね」
「ひゃいっ!?」
え、ひゃいって何?ヤバい、ツボに入った。可笑しい可笑し過ぎる、何その反応。
「ちょっと!まだ笑ってる?」
「だってさ……」
「うるさいうるさいうるさい!ヤマトのくせにっ」
「あ、またそれ。執拗いなぁ」
「しつこいのはヤマトじゃんっ、根に持ってんでしょ!」
「そこは記憶力がいいって言って欲しいな。て言うか、せっかく褒めたのに何で怒るかね……」
「ほ、ほめ!?」
「前から知ってたし、君が根は真面目だって事くらい」
それは事実だ。だから正確に言えば、案外、ではなく。意外、でもなく、予想外、でもなく、もちろん想定外でもない。割と、想定内で、……やっぱり、までは行かないくらいにだ。
「ふーん、どーだかね」
「はいはい、もういいですよ」
「ほんとに褒めてんのそれ?」
「ごめんごめん、もう何も言いませんよ」
やれやれ。仕方ないか。女の人ってのは、真面目とか言われたって喜びゃしない。よくよく考えればそりゃそうだし。
ま、話を戻せば
〝もったいない〟って言葉を君が少しでも考えてくれてたのなら、口にした僕にとっては多分それだけで充分なんだ。
◇
ぜんっぜん知らなかったこと。
ヤマトが結構イジワルだってこと。
ヤマトが結構笑う人間だってこと。
ヤマトの眼力……は知ってたかも。
任務中の顔つきは厳しいし。
後輩が怒ると怖いってよく噂してたし。
結果、ヤマトはそんなにお堅くないってこと。
いや、それはなんか違うか。
全然お堅いけど、それだけじゃないってこと。
気が合うとかじゃないのに
話してると結局笑ってる。
私だけじゃなくて、ヤマトも笑ってる。
それがなんだってゆーのか。
なんてことはないんだけども。
ちょっと前までは。
もっとトゲトゲしかったはずの自分が
いつもより穏やかだったり。
もっと生意気だったはずの自分が
いつもより素直だったり。
息がしやすいって言うか。
同僚と打ち解けられないのは
すぐにイライラしちゃう自分のせい。
だから、一般の人とならって思ったけど
それもどこか違ってて。
そう言えば最近、そんなにイライラしない。
て、そんなのに気付いちゃったら、
逆に自分がイライラされてるんじゃないかって
気になって来た……
やっぱり呆れてる?
それとも哀れに思ってたり?
なんか。
振り返ると
元カレとかマニキュアとか勘違いとか、
いっつもマヌケな話ばっかしてる。
私、もしかして可哀想な子とか思われてたりする?
だからいつも話に付き合ってくれてるとか?
ムカつくけど、ヤマトなら有り得そう。
やだけど、優しくされる方がいいし。
でもだけど……って、なんだコレ?
ワケわかんなくなって来たし!
あー……もう考えんの止めよ。
考えんのは〝もったいない〟だけで
もーおなかいっぱいだ。
(ほんとキレイに塗れたよねぇ〜)
開いた手のひらをちょっと離して
ツヤツヤに煌めく自慢の爪に見惚れる。
(しかも見た目も褒められてたらしいし?)
ぐふふ、と思わず変な声が漏れた。
だって何かウケる。
(いやーカカシさんに感謝だわ!ヤマトが自分で言う訳ないもん)
やっぱり私はなかなか上手くやれたらしい。
キレイって言わせたってことは
ヤマトの好みにハマったってことで
あそこは敵地って感じだったけど、
最初の目的はヤマトを見返す!だったからね!
うん、作戦は成功だ。
(てか、ヤマトの好みって割と普通なんだなぁ)
もっと清楚系が好きなんだろうなー
って思ったけど、さすがにそこまで変身できなくて
うっかり爪を緑にしちゃったのも
あれはまずったけども。
(……ん?これって、ヤマトでも見た目でころって行くってことか?)
あれ、でもそれだと
中身が誰でもあんま関係ないってことになるのか。
それはそれでムカつくかも。
結局イライラしながら除光液を手にとると
ガシガシとマニキュアを落としてく。
元々任務前に落とすつもりだったから、
こういうのは潔くやっちゃうに限る。
「あーーー肩こった!」
吐き出すみたいに声に出して
窓を開けて深呼吸。
でも、すっごくおもしろい一日だった。
だった、
だったんだけど。
あれからすぐに会ったヤマトは一人じゃなかった。
て。ホントは見ただけだけど。
視界の端っこ。
街中で見つけた焦げ茶色の頭とごっつい額当て。
驚いた。女の子と居て。
2度見したし。
しかもよく見たら
婚活パーティーで声掛けてきた子で。
まさか
あの日から二人は連絡を取り合ってたのか。
だったらあの日
私なんかとカップルになっちゃって
揉めたりしたのかも、って、咄嗟に頭が回る。
でも、それもすぐに止めた。
だってどーせ。
ヤマトはなんでも正直に話すんだろうし。
ヤマトはきっと疑われたりなんかしないし。
うん、日頃の行いがいいヤツは
きっとこんな時も余裕に違いない。
(よかったじゃん、なんの心配もなしだ)
って、ヤマトの心配なんて
最初っから1ミリもしてなかったけど!
それどころじゃないんだし。
私は私で忙しいんだから。
ほんと、私も負けてらんない。
◇
「ツグミ、お疲れ」
「……どうも」
うっかりした。思わず声をかけて、これは間違えた、とよそよそしく答えるツグミを見て固まる。
「何か用?」
「いや、見掛けたから……別に元気ならそれでいいんだ」
「あ!……あの」
「え?」
「あのさ、結構やるじゃん」
「何が?」
「この前、見た」
「何を?」
「女の子と居たじゃん、ヤマトのくせに」
「は?」
いきなり何の話か。誰の話か。急に振られた予想外の話題に言葉を失う。
「女の子、ほら婚活パーティーで声掛けてきた子だよ!ヤマトも案外やるじゃん」
「……ああ、あれは」
「まさかちゃっかり仲良くなってるとはねー」
「いや、そう言う訳じゃ」
「別に隠さなくてもいいじゃん」
「あれはそう言うんじゃないよ」
「は?嘘つくとか何なの?」
「だから違うんだ、声掛けられてちょっと立ち話してただけで」
何故だか変な勘違いをされていて、これは面白がってからかわれるのかと否定すれば、今度は怒る。はあ、やっぱり難しい。
「やけに楽しそーだったし。てか、私には言えないっての?」
難しいって思ったばかりだ。けど、何だか。この言い回しは……何となく、もしかして……これは僕のこと多少なりとも気にかけてくれてたってことなのか?
「いや、本当に。そんなのいちいち隠したりしないよ。……ましてやツグミになら言ってるよ、恰好の自慢話でしょ」
「ん?……まー確かにそーか?」
「あの人とはバッタリ会って、本当に忍びなんですねとか言われて。まあ、この格好が珍しかったのか素敵ですねーとは言われたけど、それだけだね、残念ながら」
事実を伝えれば、険しかった顔はみるみる間に困り顔に変わる。びっくりする程に単純だ。
「……何かごめん、逆にフビン」
「いや、そこまでじゃ」
「だってさ、そのダサい額当てしてんの見られたんでしょ」
「はぁ?」
「ぶふ」
「これの何処がダサいって?」
「えーもう、そのごっついのがダメ!重そーなのも形も古くさくって全っ然イケてない」
「君には解んないのかもしれないけどね、これはかの二代目様に見習って……」
「二代目様はいーの!今も昔もクールでカッコよくてイケてんの!ぽっと出のヤマトと一緒にしないでよねー」
「…………」
「…………ぶふふ」
「笑うトコじゃない」
「てか、怒んないの?」
「確かにぽっと出なんで。まあ、何と言われようと辞める気はないけどね」
「なーんだ、からかってやろーと思ったのに」
「それ、どっちの話?」
「んー?どっちも?」
「はあ」
もう何の話してたか解んなくなる。
えーと、あ、そうか、
例の婚活パーティーの……
「そういや、あんな断り入れた癖にカップルなんかなったから、あれは嘘だったんですかって言われちゃったよ」
「あー……あはは、そりゃそーだ」
「事情話したら何でだか笑われたたけど、まあ、怒ってなくて良かった」
「へぇ、じゃあ良かった、のかな?」
「あちらはあちらでちゃんと見つけたようなので良かったんだと思いますよ」
「え、あ、そーなの?」
「そう言う事だ」
「なーんだ、心配して損した」
「……心配って何の?」
「あー…別に?ただちょっと、私のせいで揉めてたらやだなーって思って!後味悪いじゃん」
「ふぅん、そりゃお気遣いどうも」
もしかしたら本当は。自分が原因で揉めていたら申し訳ない、とか思ってたんじゃないか。けど、直球でありがとうなんて言って意地になって怒り出されても困るし……
「でもさー……ヤマトはそれで良かったの?」
「え、何が?」
「んー、気に入ってたんじゃないの?あの子」
がくっ
「何その反応」
「別に。そういう気は全然ないよ」
「へぇ、そうなの?」
ツグミってそっちの経験あるらしいのに全然わかってないんだな、と言ったら、拗れて面倒な事になりそうだから、これも黙っておくとして。
……変だよな、まるで違うトコにいる人間のはずなのに。まるで理解できなかったはずなのに。こうやって話してるとそれほどでもない気がしてくるから。
最近本当に変なんだ。
「て言うか、さっきの。ヤマトのくせにってのはいくら何でもひどくない?」
「……そんなこと言ったっけ?」
「……ま、もういいですけど」
「ぷっ、ごめん!」
「僕もまだまだだって事かな」
「そーゆーことよ」
「はいはい、ぼちぼち頑張りますよ」
「うん、がんばってくれたまえよ」
「……何それ、君こそしっかりね」
「それは……わかってるよ。ちゃんと覚えてるし〝もったいない〟って言われたこと」
ボソリとツグミが口にした台詞。え、と言う驚きの声が喉の奥で詰まって、目だけがツグミを捉えた。
「何、その顔。まさか忘れたの?あんなエラソーに言ったくせに」
何も言えずに居たらすぐに噛み付かれて。真顔過ぎ、怖いんですけど、と言われても、まだ上手く返事ができなくて。
だって、あれを真に受けていたなんて思わないじゃないか。
「ヤマトの眼力だって結構ヤバいんだからね?そーゆーの心臓に悪いんだから止めてよね!」
いや、決していい加減な気持ちで口にした訳じゃなかったけど。忘れられて当前だと思ってたから。
「あの!だーかーら!怖いんだってば!ヤマトの眼力!」
「え?ああ、ごめん……」
「まさか本当に忘れてたの?ってか、待って。ヤマトが忘れるとかないよね?あれってもしかして私の勘違い?いやでもヤマト言ったよね?あれ?あれ?ねーやだ、何か自信なくなって来たんですけど!?」
いよいよ、目の前で慌てふためくツグミに、徐々にどうしようもなく笑いが込み上げて来る。
「言ったよ、……確かに言った」
「あっ!ほんと?そーだよね!あーよかった……って、ヤマト反応ワル過ぎ!もーやだなー私がバカみたいじゃんっ」
「ごめん」
「…………とか言いつつ笑ってない?」
「本当ごめん」
「目逸らせて言われても、ぜーんぜん誠意が伝わって来ないんですけど?」
だって、今 目合わせたらさ。眼力が、とかまた言われそうじゃない。って言っても今は、勝手に顔がニヤけて来て。僕の自慢の眼力は、すっかり役立たずだろうけど……
「前から思ってたけど、ツグミって案外真面目だよね」
「ひゃいっ!?」
え、ひゃいって何?ヤバい、ツボに入った。可笑しい可笑し過ぎる、何その反応。
「ちょっと!まだ笑ってる?」
「だってさ……」
「うるさいうるさいうるさい!ヤマトのくせにっ」
「あ、またそれ。執拗いなぁ」
「しつこいのはヤマトじゃんっ、根に持ってんでしょ!」
「そこは記憶力がいいって言って欲しいな。て言うか、せっかく褒めたのに何で怒るかね……」
「ほ、ほめ!?」
「前から知ってたし、君が根は真面目だって事くらい」
それは事実だ。だから正確に言えば、案外、ではなく。意外、でもなく、予想外、でもなく、もちろん想定外でもない。割と、想定内で、……やっぱり、までは行かないくらいにだ。
「ふーん、どーだかね」
「はいはい、もういいですよ」
「ほんとに褒めてんのそれ?」
「ごめんごめん、もう何も言いませんよ」
やれやれ。仕方ないか。女の人ってのは、真面目とか言われたって喜びゃしない。よくよく考えればそりゃそうだし。
ま、話を戻せば
〝もったいない〟って言葉を君が少しでも考えてくれてたのなら、口にした僕にとっては多分それだけで充分なんだ。
◇
ぜんっぜん知らなかったこと。
ヤマトが結構イジワルだってこと。
ヤマトが結構笑う人間だってこと。
ヤマトの眼力……は知ってたかも。
任務中の顔つきは厳しいし。
後輩が怒ると怖いってよく噂してたし。
結果、ヤマトはそんなにお堅くないってこと。
いや、それはなんか違うか。
全然お堅いけど、それだけじゃないってこと。
気が合うとかじゃないのに
話してると結局笑ってる。
私だけじゃなくて、ヤマトも笑ってる。
それがなんだってゆーのか。
なんてことはないんだけども。
ちょっと前までは。
もっとトゲトゲしかったはずの自分が
いつもより穏やかだったり。
もっと生意気だったはずの自分が
いつもより素直だったり。
息がしやすいって言うか。
同僚と打ち解けられないのは
すぐにイライラしちゃう自分のせい。
だから、一般の人とならって思ったけど
それもどこか違ってて。
そう言えば最近、そんなにイライラしない。
て、そんなのに気付いちゃったら、
逆に自分がイライラされてるんじゃないかって
気になって来た……
やっぱり呆れてる?
それとも哀れに思ってたり?
なんか。
振り返ると
元カレとかマニキュアとか勘違いとか、
いっつもマヌケな話ばっかしてる。
私、もしかして可哀想な子とか思われてたりする?
だからいつも話に付き合ってくれてるとか?
ムカつくけど、ヤマトなら有り得そう。
やだけど、優しくされる方がいいし。
でもだけど……って、なんだコレ?
ワケわかんなくなって来たし!
あー……もう考えんの止めよ。
考えんのは〝もったいない〟だけで
もーおなかいっぱいだ。