『君を見付けて、君を知る』
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1.
「本当にいいのかい?お兄さん」
「はい、どうぞ。遠慮なく」
「だけど、お兄さんだって仕事帰りだろう?やっぱり申し訳ないねぇ……」
「なんのなんの、鍛えてますからお気になさらず、それにどうせ同じ道程ですから」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかね」
何回かのやり取りを経ると、
目の前のお年寄りはやっと納得したように
ヤマトの背中に乗った。
思わず二人に手を添えた私に
二人してありがとうなんて言って。
……ヤマトと二人での任務を終えた帰り道のこと。
忍びの足なら里まで本当にもうすぐ、
って所で急にヤマトが立ち止まった。
「任務とは関係ないんだけど、ちょっといいかな?何なら先に帰ってくれて構わないから」
そう言って道を反れるヤマトの後を追えば、
その先にリヤカーに荷物を沢山積んだ
お年寄りが腰を下ろしてた。
一人でさっさと声かけて
「もうすぐ日が落ちて危険だから
里まで一緒に行こう」
そう提案するヤマトの背中を黙って見てた。
ら、思い出したように
パッと振り返ったヤマトと目が合う。
「……と、ツグミは先に帰る?」
「は?何で?一緒に行くよ、私も」
そう言ってリヤカーに手を伸ばそうとしたら、
「いや、それは分身に」と言って
ぼふんっと言う音と共に
ヤマトそっくりな木分身が現れる。
「えぇー」
「えぇーって……もしかして手伝ってくれるの?」
「は?当たり前じゃん、なんで除け者にすんの」
「え?いや……けど、もう分身出しちゃったしなぁ」
分身と顔を見合わせると本体は軽く肩を竦め、
分身は頭をかいた。
お年寄りは、最初こそ
めちゃくちゃびっくりしてたけど、
すっかり分身を気に入ったのか
分身にガンガン喋りかけてるし。
『あ!そうだったそうだった、なぁ、お姉さん、ちょっといいかい?そのリヤカーの一番上に風呂敷包みがあるだろう?』
「え?……あ、はい」
リヤカーの荷台を確認すると
確かにちょこんと風呂敷包みが乗っている。
『それは孫への土産でね、大事なものなんだよ……申し訳ないんだけれど、一緒に来てくれるんなら、お姉さんに運んで貰えないもんかねぇ?』
「はい、もちろん任せてください」
私は即答してた。
◇
『木の葉にはね、孫の結婚祝いで来たんだよ』
「やあ、そうでしたか、それはおめでたいですね」
『急に縁談がまとまったって連絡が来てね、これはじっとしてられんって慌てて……内緒で、ほら何だっけ、あの、プラ……プラン?プライ、プラズ?』
「サプライズ、ですか?」
『そうそう、そのサプ何とかをしてやろうと内緒で村を出て来たはいいんだけどねぇ、途中で腰が辛くなっちゃってねぇ、あそこでお兄さん達に会えてなかったら本当にどうなってたか……』
お年寄りを背負ったヤマト本体
少し間を空けて私、ヤマト分身とリヤカー
の順で歩いて行く。
「ねぇ、分身」
「ぶ、分身って……まあいいけど、何か?」
「これって中身、何かな?割と重いよ」
「僕が知る訳ないでしょ」
「わ……素っ気な!ヤマトって分身だとそんななの?まともに会話した事ないから知らなかったわ」
「はぁ、そりゃどうも」
「ちょっとは本体見習ったら」
「いちいち君に合わせる機能なんて付いてないんで」
「……」
「……あの感じだと割れ物、陶器かガラスでしょ」
「それくらいわかるわ」
「揃いのグラスか湯呑みか茶碗、結婚祝いならそんな所でしょ」
そうあっさり指摘されたのが悔しくて、
私は前方に少し早足で向かい、お年寄りに尋ねた。
「あのー、もし差し支えなかったら、贈り物の中身、伺ってもいいですか?」
『ああ、夫婦茶碗だよ。うちの村は陶芸が盛んでね、贔屓の職人さんに拵えて貰ったのさ』
「へぇー夫婦茶碗ですか、いいですね」
私より先にヤマト本体が応えて
私は「そうだね」と言いながら
後ろの分身をチラリと見ると
まるで知らん顔をしている。
『お兄さんも作って貰ったらいいよ、夫婦茶碗。いつでもうちの村にいらっしゃい、案内するよ』
「いやぁ、生憎まだ独り身で……」
『なんだい、こんな色男なんだから予定くらいあるんだろう?』
「いえ、全くさっぱりです」
色男……ヤマトが?どこがだよ!
とはさすがに口にしなかったけど、びっくりだ。
そうか、ヤマトって年上受けするタイプだったのか
地味だけど確かに好青年キャラではあるか……
でもね実際、全くさっぱり、なのも納得の
The仕事が恋人堅物キャラだからねー。
『まあまあ、木の葉の女はどこに目を付けてるのかねぇー全く信じられないよ、ねぇ、お姉さん』
「……え?あっ、はい、そうですね??」
『あたしゃてっきりあんた達はそういう仲なのかと疑ってたんだけど違ったんだねぇ』
「そんな、まさか」
って、だから何でヤマトが先に言うかな。
「そうですよ、全っ然、違います」
『じゃあ、お姉さんには居るのかい?』
「えっ……ああ……いませんよ」
『ええ?あらやだ、お姉さんも独り身かい?全くもう、どうなってるのかねぇ、勿体ない』
「……勿体なくなんかないですよ、それに面倒なのは御免なので当分そういうのはいいかなって感じです」
と、何故だかそんな事まで言ってしまった。
『あらぁ、そうなのかい……残念だねぇ』
ヤマト本体も分身も黙るから
つい話しちゃったじゃん。
別になんて事ない話だけど、
弱みを握られたような変な気分!
あーもう最悪だ。
◇
『おかげ様で本当に助かったよ!ありがとね、お二人さん』
無事にお孫さんの元に辿り着いて
深々と頭を下げるお年寄りが、
別れ際にじっとヤマトと私の顔を見比べた。
『……やっぱりアンタ達お似合いだと思うけれどねぇ』
「「えっ」」
『年寄りの勘は馬鹿にならないよ?これを機にお互い考えてみたらどうだい?……なんてね、わはは』
もしもの時は夫婦茶碗作らせるから
うちの村に顔出すんだよ、
とまで言い残してやっとお別れして、
ふぅと一息ついた時だった。
「…… ツグミみたいな人が僕と付き合う訳がないじゃないか」
え?と振り向いた瞬間、
そこに居た木分身が煙に消える。
◇
二人きりになれば、
たいした会話もないまま歩く火影室までの道。
静か過ぎる空気ん中、頭ん中はぐるぐるで。
さっきのは何だったんだろう?
気になって気になってたまんない。
あれくらい、思い切って聞いちゃおーかな?
でもそんなにヤマトと話したことないんだよね、
とか思ってたら、あっちから喋り出した。
「何か悪かったね、付き合わせた上にあの分身ちょっと失言が多くて」
「うーん、てかさ、いつもあんなじゃなくない?ヤマトの分身て」
「あー…ちょっと緊張して。でもあの場ですぐやり直すって訳にも行かなくて」
「へぇ!ヤマトも緊張したりするんだ」
「そりゃあ、まあ」
「あ、もしかして女の子が苦手とか?」
「いや、別に」
だよねー、んな訳ないか。
今までそんなの感じたことなかったし。
それどころか、
誰にでも態度変わんないって感じだし。
てか、お年寄り相手に女の子ってのもないか。
「なんか意外」
「そうかな、僕だって普通の人間だよ」
なんのヘンテツもない会話。
くだらなくもないけど、おもしろくもない、
なんてゆーか、
こーゆーのって逆に新鮮?
夕方の忙しない街並みをすり抜けて
やっと静かな路地へ出た。
「ねぇ、聞いてもいーい?」
「……何を?」
「さっきの、どういう意味?」
「……さっきのって?」
「分身が消える直前に言ってた『ツグミみたいな人が僕と付き合う訳がない』ってやつ」
「ああ、それは……だから、分身の不具合みたいなもんだよ、言ったでしょ失言って。だから気にしなくていいよ」
だとしても、だとしてもさ、
こっちは小さくても棘みたいに刺さっちゃってるの。
ああ、なんか悔しいんだけど!
「正直ちょっとガッカリした」
「……何が?」
「ヤマトって、誰にでも同じ態度なんだって思ってたから。けどさ、ヤマトもそーゆー目で私を見てたってことじゃんね?」
「……それは、どういう意味かな?」
一応、ケンカを売ってるつもりじゃない。
ないのに性格なんだ、
突っかかるように責めるように
追及しちゃうのは。
「ちょっと見た目が派手とかちょっと口が悪いってだけで、不真面目な軽いヤツって思ってんでしょ?」
「何それ」
「ヤマトは違う気がしてたんだけど」
歩くのやめないで、前を向いたまま
黙ってしまったヤマトに食い下がる。
「何か言ってよ」
「……何かって。とりあえず、言われのない事で責められても困る、かな」
「……は?何が?」
「何がって、根本から。僕は最初からツグミが思うほど品行方正な人間じゃないし、逆にツグミに対して特別不良じみたイメージなんて持ってないし」
「……」
「……」
「……」
「はあ。どう言ったら信用して貰えるのかな」
「じゃあ、教えてよ」
「……今度は何?」
「ヤマトが緊張してミスなんて普通じゃないと思う。……ねぇ、一体何に緊張したの?」
「……」
「ねぇ」
「眼力」
「は?」
「眼力だよ、君の。ツグミが、物凄い眼力でもって僕の事を凝視して来たから怖くて手元が狂いましたけど何か?」
「が、が、が、がんりき……?私の……」
「コラ!寄り道なんかして何やってるの!って叱られるのかと思ってさ」
「はぁ?眼力って!怖くてって!何それ、ひどくない?女の子に言うことじゃないよね、普通~」
「だから黙ってたのにツグミが言わせたんでしょ」
「む!そこは目がキレイで見とれちゃったーとか言うとこじゃん」
「いつもはそうやって口説かれてるのかもしれないけど、僕にはそういう軽口を叩く趣味はないんでね」
「……」
「……」
「ヤマトってさ、実は結構いじわるだね?」
「……そう?」
「面白いけど」
「え」
「あの時、私の事なんてお構いなしなんだと思ってた」
「よく言うよ、あの眼力で」
「……ぷっ!もう、眼力眼力言わないでよ、おかしくなってくるじゃん」
「……何でだよ」
ヤマトは真っ直ぐ前を見たまま
そう言って笑った。
なんだ、こんな風に笑うんだ。
なんだ、結構いじわるだけど、結構普通かも。
「あのさぁ、さっきみたいなことってプライベートでもたまにあるじゃん……ああいう時ね、困ってる人に私より先に声を掛ける男なんて今まで付き合って来た中にはいなかった」
私思い立ったらすぐってタイプだから
って言うのもあるけど。
と付け加えたら、
言い訳したみたいでちょっと恥ずかしくなった。
「デート中とか関係なくない?どいつもこいつも腑抜けばっか。しまいにはもっと女らしくとか化粧しろとか理想ばっかり押し付けて来るからいっつも面倒臭くなっちゃうんだよね」
不思議だ。
こんな話、普段なら同僚に言ったりしないのに。
口からぽんぽんと飛び出す愚痴。
しかも、ヤマトに。
あの堅物なヤマトに。
「私こんなだから軽い女だってすぐ勘違いされるんだよねー、男共は単純だから」
あ、ヤマトも男だったねなんて言ったら、
まあ確かに、なんて言ってヤマトも笑った。
「で、しばらくしたら、何でもかんでも任務優先で色気もないしつまんない女!ってさ。もっと言い方あると思わない?」
「……いや、それ以前に僕は今、ツグミの見る目の無さに愕然としてるよ」
「う!」
黙って聞いてくれるもんだから、
うっかりベラベラ喋ってたら
急に鋭く突っ込まれる。
「世の中そんな奴ばっかりじゃないでしょ、男がどうとかじゃなく、ツグミこそもっと周りをよく見たら」
「え、私?」
「そう。……勿体ない、さっきのお年寄りじゃないけど。自慢のがん…じゃなかった、綺麗な目だってさ、安売りしたら勿体ないでしょ」
勿体ない?私が?
こんなちぐはぐな私が勿体ない?
いつも当たって砕けろで、
失敗は成長だって、来る者は拒まなかったんだよ。
けど、勿体ない、そんなこと……
「そんなこと、ある?」
「あるよ」
思わず立ち止まって呟いた私に、
少し前を行くヤマトが振り向いて言った。
「ある」
まるで子どもに言い聞かせるように、
じっと見つめながらもう一度言ってくれた。
そして、ぽんと私の頭に手を置く。
何だ、この込み上げてくる気持ち。
めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!
いや、嬉しい?しかもものすごく。
「あ、あのね、私の頭じゃまだはっきりしない事があるんだけど」
「ん?」
「『ツグミみたいな人が僕と付き合う訳がない』ってのが、私を悪く言っていないってのはわかったけど、どうしてそんな言い方になるのかなって」
「気にしなくていいよ、そんなの」
「何でよ、私を持ち上げといて、自分は随分と蔑むじゃん」
「うーん、そんなつもりじゃ……」
「私はあの分身、嫌いじゃなかったよ」
「えぇ?」
「何て言うか、正直者だったでしょ?だから」
ヤマトの本音が見えた気がしたから。
ヤマトは確かに真面目で親切だって思うけど、
自分の本音はそうそう語ってくれないじゃん。
だから。
「ヤマトこそ勿体ないよ、もっと周りを見てみたら?それで……」
誰かと付き合ってみるのもいいんじゃない?
そう言おうとして口が上手く回らなくなった。
それじゃあ、私の恒例の
失敗パターンをお勧めしてるみたいじゃん……
「それで……何?」
「そしたら、ヤマトにはきっといい人が見つかると思う」
「……そう、かな」
ヤマトはきっと
真面目な人を好きになるんだろうな、
ふとそんな風に思う。
それでさ、その子に想いが届いたら
さぞかし誠実なお付き合いをして、
ぜったい順番を間違えることなく
ちゃーんと結婚するんだ……って、
待ってよ、何で私がそこまで想像しちゃうのよ。
「くれぐれも私みたいな浅はかな事のないようにねー、なんてね!」
「さすがにそれはない」
「え、ひど」
「はは、心配しなくても軽はずみに僕に近付くような奇特な人なんてそうそういないでしょ」
「……」
「……」
「何か言ってくれよ」
「いや、説得力がすご過ぎて」
そう言って笑ったら、ヤマトも笑った。
私が笑ったのは、
ホントはヤマトの言い回しに
若干ドキッとしちゃったから、
その照れ隠しのせいだけど。
ヤマトって案外話せるじゃん。
何より男のくせに、
いちいち面倒なこと言って来ないのがいい。
おかげでその日はずっと機嫌が良かった。
胸がずっとずっとあったかい気がした。
「本当にいいのかい?お兄さん」
「はい、どうぞ。遠慮なく」
「だけど、お兄さんだって仕事帰りだろう?やっぱり申し訳ないねぇ……」
「なんのなんの、鍛えてますからお気になさらず、それにどうせ同じ道程ですから」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかね」
何回かのやり取りを経ると、
目の前のお年寄りはやっと納得したように
ヤマトの背中に乗った。
思わず二人に手を添えた私に
二人してありがとうなんて言って。
……ヤマトと二人での任務を終えた帰り道のこと。
忍びの足なら里まで本当にもうすぐ、
って所で急にヤマトが立ち止まった。
「任務とは関係ないんだけど、ちょっといいかな?何なら先に帰ってくれて構わないから」
そう言って道を反れるヤマトの後を追えば、
その先にリヤカーに荷物を沢山積んだ
お年寄りが腰を下ろしてた。
一人でさっさと声かけて
「もうすぐ日が落ちて危険だから
里まで一緒に行こう」
そう提案するヤマトの背中を黙って見てた。
ら、思い出したように
パッと振り返ったヤマトと目が合う。
「……と、ツグミは先に帰る?」
「は?何で?一緒に行くよ、私も」
そう言ってリヤカーに手を伸ばそうとしたら、
「いや、それは分身に」と言って
ぼふんっと言う音と共に
ヤマトそっくりな木分身が現れる。
「えぇー」
「えぇーって……もしかして手伝ってくれるの?」
「は?当たり前じゃん、なんで除け者にすんの」
「え?いや……けど、もう分身出しちゃったしなぁ」
分身と顔を見合わせると本体は軽く肩を竦め、
分身は頭をかいた。
お年寄りは、最初こそ
めちゃくちゃびっくりしてたけど、
すっかり分身を気に入ったのか
分身にガンガン喋りかけてるし。
『あ!そうだったそうだった、なぁ、お姉さん、ちょっといいかい?そのリヤカーの一番上に風呂敷包みがあるだろう?』
「え?……あ、はい」
リヤカーの荷台を確認すると
確かにちょこんと風呂敷包みが乗っている。
『それは孫への土産でね、大事なものなんだよ……申し訳ないんだけれど、一緒に来てくれるんなら、お姉さんに運んで貰えないもんかねぇ?』
「はい、もちろん任せてください」
私は即答してた。
◇
『木の葉にはね、孫の結婚祝いで来たんだよ』
「やあ、そうでしたか、それはおめでたいですね」
『急に縁談がまとまったって連絡が来てね、これはじっとしてられんって慌てて……内緒で、ほら何だっけ、あの、プラ……プラン?プライ、プラズ?』
「サプライズ、ですか?」
『そうそう、そのサプ何とかをしてやろうと内緒で村を出て来たはいいんだけどねぇ、途中で腰が辛くなっちゃってねぇ、あそこでお兄さん達に会えてなかったら本当にどうなってたか……』
お年寄りを背負ったヤマト本体
少し間を空けて私、ヤマト分身とリヤカー
の順で歩いて行く。
「ねぇ、分身」
「ぶ、分身って……まあいいけど、何か?」
「これって中身、何かな?割と重いよ」
「僕が知る訳ないでしょ」
「わ……素っ気な!ヤマトって分身だとそんななの?まともに会話した事ないから知らなかったわ」
「はぁ、そりゃどうも」
「ちょっとは本体見習ったら」
「いちいち君に合わせる機能なんて付いてないんで」
「……」
「……あの感じだと割れ物、陶器かガラスでしょ」
「それくらいわかるわ」
「揃いのグラスか湯呑みか茶碗、結婚祝いならそんな所でしょ」
そうあっさり指摘されたのが悔しくて、
私は前方に少し早足で向かい、お年寄りに尋ねた。
「あのー、もし差し支えなかったら、贈り物の中身、伺ってもいいですか?」
『ああ、夫婦茶碗だよ。うちの村は陶芸が盛んでね、贔屓の職人さんに拵えて貰ったのさ』
「へぇー夫婦茶碗ですか、いいですね」
私より先にヤマト本体が応えて
私は「そうだね」と言いながら
後ろの分身をチラリと見ると
まるで知らん顔をしている。
『お兄さんも作って貰ったらいいよ、夫婦茶碗。いつでもうちの村にいらっしゃい、案内するよ』
「いやぁ、生憎まだ独り身で……」
『なんだい、こんな色男なんだから予定くらいあるんだろう?』
「いえ、全くさっぱりです」
色男……ヤマトが?どこがだよ!
とはさすがに口にしなかったけど、びっくりだ。
そうか、ヤマトって年上受けするタイプだったのか
地味だけど確かに好青年キャラではあるか……
でもね実際、全くさっぱり、なのも納得の
The仕事が恋人堅物キャラだからねー。
『まあまあ、木の葉の女はどこに目を付けてるのかねぇー全く信じられないよ、ねぇ、お姉さん』
「……え?あっ、はい、そうですね??」
『あたしゃてっきりあんた達はそういう仲なのかと疑ってたんだけど違ったんだねぇ』
「そんな、まさか」
って、だから何でヤマトが先に言うかな。
「そうですよ、全っ然、違います」
『じゃあ、お姉さんには居るのかい?』
「えっ……ああ……いませんよ」
『ええ?あらやだ、お姉さんも独り身かい?全くもう、どうなってるのかねぇ、勿体ない』
「……勿体なくなんかないですよ、それに面倒なのは御免なので当分そういうのはいいかなって感じです」
と、何故だかそんな事まで言ってしまった。
『あらぁ、そうなのかい……残念だねぇ』
ヤマト本体も分身も黙るから
つい話しちゃったじゃん。
別になんて事ない話だけど、
弱みを握られたような変な気分!
あーもう最悪だ。
◇
『おかげ様で本当に助かったよ!ありがとね、お二人さん』
無事にお孫さんの元に辿り着いて
深々と頭を下げるお年寄りが、
別れ際にじっとヤマトと私の顔を見比べた。
『……やっぱりアンタ達お似合いだと思うけれどねぇ』
「「えっ」」
『年寄りの勘は馬鹿にならないよ?これを機にお互い考えてみたらどうだい?……なんてね、わはは』
もしもの時は夫婦茶碗作らせるから
うちの村に顔出すんだよ、
とまで言い残してやっとお別れして、
ふぅと一息ついた時だった。
「…… ツグミみたいな人が僕と付き合う訳がないじゃないか」
え?と振り向いた瞬間、
そこに居た木分身が煙に消える。
◇
二人きりになれば、
たいした会話もないまま歩く火影室までの道。
静か過ぎる空気ん中、頭ん中はぐるぐるで。
さっきのは何だったんだろう?
気になって気になってたまんない。
あれくらい、思い切って聞いちゃおーかな?
でもそんなにヤマトと話したことないんだよね、
とか思ってたら、あっちから喋り出した。
「何か悪かったね、付き合わせた上にあの分身ちょっと失言が多くて」
「うーん、てかさ、いつもあんなじゃなくない?ヤマトの分身て」
「あー…ちょっと緊張して。でもあの場ですぐやり直すって訳にも行かなくて」
「へぇ!ヤマトも緊張したりするんだ」
「そりゃあ、まあ」
「あ、もしかして女の子が苦手とか?」
「いや、別に」
だよねー、んな訳ないか。
今までそんなの感じたことなかったし。
それどころか、
誰にでも態度変わんないって感じだし。
てか、お年寄り相手に女の子ってのもないか。
「なんか意外」
「そうかな、僕だって普通の人間だよ」
なんのヘンテツもない会話。
くだらなくもないけど、おもしろくもない、
なんてゆーか、
こーゆーのって逆に新鮮?
夕方の忙しない街並みをすり抜けて
やっと静かな路地へ出た。
「ねぇ、聞いてもいーい?」
「……何を?」
「さっきの、どういう意味?」
「……さっきのって?」
「分身が消える直前に言ってた『ツグミみたいな人が僕と付き合う訳がない』ってやつ」
「ああ、それは……だから、分身の不具合みたいなもんだよ、言ったでしょ失言って。だから気にしなくていいよ」
だとしても、だとしてもさ、
こっちは小さくても棘みたいに刺さっちゃってるの。
ああ、なんか悔しいんだけど!
「正直ちょっとガッカリした」
「……何が?」
「ヤマトって、誰にでも同じ態度なんだって思ってたから。けどさ、ヤマトもそーゆー目で私を見てたってことじゃんね?」
「……それは、どういう意味かな?」
一応、ケンカを売ってるつもりじゃない。
ないのに性格なんだ、
突っかかるように責めるように
追及しちゃうのは。
「ちょっと見た目が派手とかちょっと口が悪いってだけで、不真面目な軽いヤツって思ってんでしょ?」
「何それ」
「ヤマトは違う気がしてたんだけど」
歩くのやめないで、前を向いたまま
黙ってしまったヤマトに食い下がる。
「何か言ってよ」
「……何かって。とりあえず、言われのない事で責められても困る、かな」
「……は?何が?」
「何がって、根本から。僕は最初からツグミが思うほど品行方正な人間じゃないし、逆にツグミに対して特別不良じみたイメージなんて持ってないし」
「……」
「……」
「……」
「はあ。どう言ったら信用して貰えるのかな」
「じゃあ、教えてよ」
「……今度は何?」
「ヤマトが緊張してミスなんて普通じゃないと思う。……ねぇ、一体何に緊張したの?」
「……」
「ねぇ」
「眼力」
「は?」
「眼力だよ、君の。ツグミが、物凄い眼力でもって僕の事を凝視して来たから怖くて手元が狂いましたけど何か?」
「が、が、が、がんりき……?私の……」
「コラ!寄り道なんかして何やってるの!って叱られるのかと思ってさ」
「はぁ?眼力って!怖くてって!何それ、ひどくない?女の子に言うことじゃないよね、普通~」
「だから黙ってたのにツグミが言わせたんでしょ」
「む!そこは目がキレイで見とれちゃったーとか言うとこじゃん」
「いつもはそうやって口説かれてるのかもしれないけど、僕にはそういう軽口を叩く趣味はないんでね」
「……」
「……」
「ヤマトってさ、実は結構いじわるだね?」
「……そう?」
「面白いけど」
「え」
「あの時、私の事なんてお構いなしなんだと思ってた」
「よく言うよ、あの眼力で」
「……ぷっ!もう、眼力眼力言わないでよ、おかしくなってくるじゃん」
「……何でだよ」
ヤマトは真っ直ぐ前を見たまま
そう言って笑った。
なんだ、こんな風に笑うんだ。
なんだ、結構いじわるだけど、結構普通かも。
「あのさぁ、さっきみたいなことってプライベートでもたまにあるじゃん……ああいう時ね、困ってる人に私より先に声を掛ける男なんて今まで付き合って来た中にはいなかった」
私思い立ったらすぐってタイプだから
って言うのもあるけど。
と付け加えたら、
言い訳したみたいでちょっと恥ずかしくなった。
「デート中とか関係なくない?どいつもこいつも腑抜けばっか。しまいにはもっと女らしくとか化粧しろとか理想ばっかり押し付けて来るからいっつも面倒臭くなっちゃうんだよね」
不思議だ。
こんな話、普段なら同僚に言ったりしないのに。
口からぽんぽんと飛び出す愚痴。
しかも、ヤマトに。
あの堅物なヤマトに。
「私こんなだから軽い女だってすぐ勘違いされるんだよねー、男共は単純だから」
あ、ヤマトも男だったねなんて言ったら、
まあ確かに、なんて言ってヤマトも笑った。
「で、しばらくしたら、何でもかんでも任務優先で色気もないしつまんない女!ってさ。もっと言い方あると思わない?」
「……いや、それ以前に僕は今、ツグミの見る目の無さに愕然としてるよ」
「う!」
黙って聞いてくれるもんだから、
うっかりベラベラ喋ってたら
急に鋭く突っ込まれる。
「世の中そんな奴ばっかりじゃないでしょ、男がどうとかじゃなく、ツグミこそもっと周りをよく見たら」
「え、私?」
「そう。……勿体ない、さっきのお年寄りじゃないけど。自慢のがん…じゃなかった、綺麗な目だってさ、安売りしたら勿体ないでしょ」
勿体ない?私が?
こんなちぐはぐな私が勿体ない?
いつも当たって砕けろで、
失敗は成長だって、来る者は拒まなかったんだよ。
けど、勿体ない、そんなこと……
「そんなこと、ある?」
「あるよ」
思わず立ち止まって呟いた私に、
少し前を行くヤマトが振り向いて言った。
「ある」
まるで子どもに言い聞かせるように、
じっと見つめながらもう一度言ってくれた。
そして、ぽんと私の頭に手を置く。
何だ、この込み上げてくる気持ち。
めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!
いや、嬉しい?しかもものすごく。
「あ、あのね、私の頭じゃまだはっきりしない事があるんだけど」
「ん?」
「『ツグミみたいな人が僕と付き合う訳がない』ってのが、私を悪く言っていないってのはわかったけど、どうしてそんな言い方になるのかなって」
「気にしなくていいよ、そんなの」
「何でよ、私を持ち上げといて、自分は随分と蔑むじゃん」
「うーん、そんなつもりじゃ……」
「私はあの分身、嫌いじゃなかったよ」
「えぇ?」
「何て言うか、正直者だったでしょ?だから」
ヤマトの本音が見えた気がしたから。
ヤマトは確かに真面目で親切だって思うけど、
自分の本音はそうそう語ってくれないじゃん。
だから。
「ヤマトこそ勿体ないよ、もっと周りを見てみたら?それで……」
誰かと付き合ってみるのもいいんじゃない?
そう言おうとして口が上手く回らなくなった。
それじゃあ、私の恒例の
失敗パターンをお勧めしてるみたいじゃん……
「それで……何?」
「そしたら、ヤマトにはきっといい人が見つかると思う」
「……そう、かな」
ヤマトはきっと
真面目な人を好きになるんだろうな、
ふとそんな風に思う。
それでさ、その子に想いが届いたら
さぞかし誠実なお付き合いをして、
ぜったい順番を間違えることなく
ちゃーんと結婚するんだ……って、
待ってよ、何で私がそこまで想像しちゃうのよ。
「くれぐれも私みたいな浅はかな事のないようにねー、なんてね!」
「さすがにそれはない」
「え、ひど」
「はは、心配しなくても軽はずみに僕に近付くような奇特な人なんてそうそういないでしょ」
「……」
「……」
「何か言ってくれよ」
「いや、説得力がすご過ぎて」
そう言って笑ったら、ヤマトも笑った。
私が笑ったのは、
ホントはヤマトの言い回しに
若干ドキッとしちゃったから、
その照れ隠しのせいだけど。
ヤマトって案外話せるじゃん。
何より男のくせに、
いちいち面倒なこと言って来ないのがいい。
おかげでその日はずっと機嫌が良かった。
胸がずっとずっとあったかい気がした。
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