君を好きだと言わなくちゃ
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「ねぇ、ヤマトぉ」
甘ったるく間延びした僕の名前
やれやれ
ここが住宅街じゃなくて良かったよ
「はいはい、なんですか」
「〝はい〟は一回!って教わらなかったの?カカシさんに」
「……はい」
「ねぇ、ちゃんと聞いてるのー?私の話」
「聞いてますよ、ちゃーんと。だって……さっきから二人きりでしょ、ずーっと」
酔っ払いの相手は少々骨が折れる
やれやれとぼやいて困った顔の僕を見て
満足気に笑う酔っ払い
あんまりにも隙だらけで
その上、いい感じに出来上がってしまえば
何でもかんでも
すっかり忘れてしまうらしいから
タチが悪い
なんて思ってたのは最初だけだったな
初めは告白する気で誘って
だけどなかなか言い出せなくて
酔う前にと焦る僕の静止もむなしく
ツグミが機嫌良さげにどんどん飲むから
あーもう今日は無理だなって
僕もいい感じにほろ酔いで
そうだった、あの時もこんな風に
二人で付かず離れず歩いてた
ふいに鼻歌を唄って
くるくると回ってから僕を見て笑うツグミに
「好きだ」って思わず言って
「ありがとう」ってツグミが笑って
浮かれてフワフワなまま別れて
あれ?付き合うって話はしてなかったと
改めて翌日会いに行けば
僕の告白自体まるで覚えてない様子
最初こそ落胆したけど
酔った勢いってのも何だし
改めて態勢を整えよう
そう切り替えた
一度二人で飲みに行ったって言う事実は絶大で
明らかに気の許された距離感
手も出さず見捨てず健気に家まで送った僕は
誠実で紳士な同僚だってあっさり信頼を得て
今では随分と
君を誘い出すのが上手くなった
「んーーーーー!気持ちのいい夜だねぇ」
「そうだね」
「見て、お月様もキレイだよ」
「そう、ですね」
ハアーーと白い息を長く吐いて笑う君を
この手で掴まえたら
どんなに温かいんだろう
どんな顔をするんだろう
「寒くない?」
「全然、平気!」
「案外強いんだな」
「寒くないって言ったら嘘だけど、冬は空気が澄んでて星もよく見えるから嫌いじゃないんだよねぇ」
「確かにね。……だからかな、ツグミの声もよく届く」
いつでもすぐ届くとこにいるようで
いざ近付いたらすぐに離れていきそうな
ゆらゆらしてるツグミをずっと見てる
「ヤマトは?寒いの?」
「いや、僕も全然平気」
「それは良かった」
「本当は寒いのは苦手な方なんだけど、今は平気みたいだね」
「そうなの?」
「まあ、ツグミと居ると楽しいから紛れちゃうって言うか」
「ああ、そっか……それなら私も、私もそうかもね」
「そうなの?」
「うん、そうかも」
そう言って屈託なく笑う君に罪はない
勝手に喜ぶ分には僕にだって罪はない
「やっぱり好きだな……」
「え?何?」
「やっぱりツグミが好きだって言ったの」
「……」
「聞こえた?」
「うん、聞こえた……びっくり」
「……全然びっくりしてるようには見えないけど」
「してるよ、凄く、心臓が」
「心臓が?」
「大変、ばくばく」
「あははっ……また可愛い事言うなぁ」
「落ち着くまでしばらくお待ちください」
胸を抑えたまま、深呼吸してる君も
その頬が鼻が紅いのも
全部全部可愛くて
ああ、本当に参ったな
「ふう……」
「落ち着いた?」
「うん、はあ、大丈夫、でもぽっかぽか」
「だからって上着脱いだりしないでね」
チラリと見れば
ちょうど上着のファスナーに
手を掛けてるツグミが目を丸くした
熱い熱いと脱ぎたがるのも毎度の事で
放っておいたらどうなる事やら
「どうせすぐ冷めて風邪引くのがオチだから」
「ヤマト……未来が見えるの?」
「バカ言ってないでちゃんとあったかくしてなさいよ」
「はい……」
「……」
「……」
「……ちょっと」
「……はい」
「何笑ってるの、人が心配してるのに」
「すみません、でも、あは、えへ、うふふ」
「気持ち悪い」
「ぐふ、ふふふ」
「もう」
「だって嬉しくて」
「何が?」
「心配してくれたから」
「そんな事?」
「私の事よく見てくれてるんだなって、やだなぁ、もう」
イヤイヤと頬に手を当てて
頭を横に振るツグミに面食らう
こんなのが嬉しいの?
こんなの僕にしたら、
当たり前過ぎて全然ピンと来ない
放っておけないだけだってのに
「何だ、案外単純なんだな」
「ふふーん、女なんて単純ですよ」
「ふふーんって……」
て言うか……女って
君が言うかね、そう言う事
本当に単純ならさ
僕がもっと甘い事言って
ちょっと強めに言いよれば
君は簡単に絆されて
なし崩し的なアレで
あっさり上手く行ったりする訳か
「帰ろっか」
今更悶々とする僕を
またそうやって置いて行くんだな
けど、本当に悪いのは
素面の時に何も言い出せない
意気地のない自分だ
「ああ、送ってく」
「それは当たり前でしょ~、ヤマトが見張ってないと私そこら辺で野垂れ死ぬわ」
「……」
「……」
「……ちょっと」
「……はい」
「何笑ってるの」
「ぶふ、あはは、いや、だって野垂れ死ぬってさ……ぐふっ、ほんとなんて言い草だよ」
「ええーじゃあ何て言うのが正解だった?」
「んーーーそうですねぇ、……例えば」
「例えば?」
「ヤマトが送ってくれないと道に迷って帰れなくなっちゃうかもーとか、ヤマトが家まで着いてきてくれないと寂しくて死んじゃうーとか?」
酔ってるせいにすれば
何とでも言える
このままなし崩し的なアレを
期待するのが悪いなんて思わない
「なるほど」
「どうせなら、毎晩寂しいからヤマトに添い寝して欲しいなーとか。……そこまで言われたら、付き合わない事もないけどね」
「……へぇ、そういう風に言われたら嬉しいんだ、……男の人って」
「まあ、だいたい……そんなもんですよ、男なんて単純なんで」
「ふぅん」
ぽつりと息を吐くような相槌
まるで何かを悟って考えてる様に
見えなくもない
まさか僕の下心まで見透かしたの?
それならそれで構わないけど
なんて、やっぱり情けないよな
「ちょっと冷えて来たね」
「だから言ったでしょ」
「うん、ヤマトの言う通りだね」
「ほら、さっさと行くよ」
しばらく無言で歩いて
いつの間にか
真冬の寂しい花壇の縁に登って
月を見上げてるツグミ
ふらふらと危なっかしいそれは
まるで昔の恋愛映画みたいで
危ないよとは言ったけど
本心では何かを期待せずにはいられない
伸ばしかけた掌
こんな時、さらっと手でも取ってしまえれば
無理矢理に腕を引いてしまえれば
強引に肩を抱き寄せてしまえれば
現実は空気を掴むしかできなくて
怖い、苦しい、もどかしい
だけど、このままだって悪くない
もう何が正解なのかわからないよ
ツグミの方からうっかり
僕の元に落ちて来てくれたら
いいのに
「ヤマト」
何?と尋ねるより早く
反射的に手を拡げて全身で受け止めた重み
咄嗟に捻り出した木遁は
ひょろひょろで
酔ってる時の力量を読み誤って
地べたに思い切り尻もちを着く
ああ、今
僕の腕の中に居るのは
君なのか
ぼんやりと見下ろせば
すぐ目の前のツグミの目が赤く濡れて
痛かったのか、
でも急に飛びかかって来たのはツグミじゃないか
本当にもう
どんな顔すればいいのか解らない
僕は、僕は、
ねぇ、君は、
「何して……」
るの、と言い切る前に視界が真っ暗になった
……え?え?何が起きた?今、これ……
「いや、いやいやいや!何してんのツグミ!?」
「何って……キス」
「いや、いやいやいや!きっ……て、何平然と言ってんの!」
「……嫌だった?」
「いや、いやいや、いきなりおかしいでしょ!?」
「だって、好きって言ってくれたじゃない」
「えええ、言ったけど、言ったけども!こういうのは違うって言うか」
「違う?」
「だだってさ、僕ら付き合ってる訳じゃないし」
「じゃあ、付き合おう?」
「じゃあ、じゃないよ、おかしいでしょ?僕を好きでもないのに」
「え……好きですけど」
「え……え?」
「私、ヤマトの事が好き」
それでもいけないの?
目の前でシュンとしょげるツグミ
何これ可愛い、
じゃなくて
「……好き、なの?」
「好きなの」
「そう、なのか」
「そうなの」
「なら、……いけなくないのか」
「そうでしょ?」
「うん」
「良かった……」
ひどく安心したらしいツグミが
遠慮がちに僕の胸にしがみつく
甘い香りと温もりに
夢か現実か迷うけど
地べたの尻は冷たくて痛いから
現実だって思い知らされる
「これ、木遁?」
「え?あっ!うわ」
「何これ、いつものと全然違う、かわいい」
「だあっ、見ちゃダメ」
「これ、ちょうだい?」
「ダメに決まってるでしょ!ダメダメ、触っちゃダメ、絶対ダメ」
貧弱でひょろひょろと
蔦みたいに巻き付いたそれを
大慌てで消し去って
不満気なツグミの視線を甘んじて受け入れる
普段よりずっと軟弱な割に
ツグミに触れてたそれはとても敏感で
嫌でも神経がゾワゾワして非常にまずい
飲み過ぎたのは完全に僕の方だ
「ケチ」
「……ケチでもいいです。……にしたって、何でいきなり飛びついて来るかね。だっだっ抱き着くにしてもさ、もっとやりようがあるんじゃないの」
「……違うよ、本当にコケただけ」
「あ、そう……」
「うん、あ!痛かった?お尻、ごめんね?」
パッと身体を起こしたツグミは
また平然と僕の手を引いてくる
酔ってる割に身軽だよな
街灯の下で、あっけらかんと笑ってる
頬を上気させて僕を見る君の目は
よく見れば、いつもよりずっと冴えて
活き活きしてて
うっかり惚れ直す
「ん?」
「家まで繋ぐ」
「うん……」
「いい加減にしないとツグミも僕も風邪引くよ」
垂れてもないのに鼻をすすって
照れ臭いのを誤魔化しながら
ぎゅっと繋いだ手
好きだ好きだ好きだ
ダメだダメだダメだ
これ以上は本当にダメだ
ギリギリの所
欲と幸福の落とし所
って何が何だかよくわかんなくなって来たな
君を好きなのって大変だ
「ヤマトは忘れないよね?」
「うん」
「良かった。私もね、今日は忘れないよ」
「うーん」
「信じてないでしょ」
「うん」
「ふーん、今日は絶対忘れないもんね」
「すごい自信だな、根拠でもあるの?」
「最初の1杯しか飲んでないもん」
「嘘だ」
「本当だよ、今日はヤマトのピッチ早かったから心配になって」
「……………………うわ。やらかしたね、僕……」
「え、全然いいよ、ヤマト飲んでもお喋りになるくらいだから全然平気」
「ん……」
「ヤマトがもし忘れても私がちゃんと覚えててあげるから」
「ん……?」
「煽った責任は、きちんととってくれると嬉しいんですけど」
「ん、んんん、う……」
解けた柔らかいツグミの指が
僕の手の甲をつつつとなぞって
爪先から走る電気
君って人は、いざとなったら
こんなに悩ましくて恨めしいのか
「このままサヨナラしたら泣きたくなっちゃうかも」
「な、なんで」
「だって、全部夢みたいなんだもん」
「な」
「はぁ、もうヤマトが添い寝してくれないと寂しくて眠れないかも」
な、ななななな
「そっそれは、ダメ」
「……えー」
「今日は酒が入ってるので。……もう一度、きちんと言うから。酒の入ってない時にもう一度、改めてお願いします……」
「…………」
「わかった?」
「……うん」
「だから、今はこれで勘弁してくれるかな」
ツグミの手をしっかり捕まえて
腕の中に閉じ込める
ぎゅっとぎゅっと
何もかも忘れないように
次回に備えて温もりを貰う
これは、絶対に忘れちゃいけない
大切な約束だ
「あったかい」
「うん」
「また明日ね」
「うん、また明日」
クスクス笑って離れてく温もり
ひらりと右手を揺らして去って行くツグミ
今更ちょっぴり後悔して
さて、明日はどうしようかと考える
とりあえず、まずは最初から
もう一度最初から
君を好きだと言わなくちゃ、ね
終
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