僕と君の朝のこと
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慣れない香りに包まれて目が覚める。
目を開ければ真上には
見慣れない天井があって。
肌寒く感じたのはそうか、
隣に彼が居ないからで。
そうだ、
そう言えば明日は早いって言ってたっけ
一瞬、まさか何も言わずに
行っちゃったのかもと思ったけど
そんな訳もなく
視界の端にあっさり彼の背中を見つけた。
なんて声をかけようか迷ってたら
「ごめん、起こした?」
すっぽりと被ったアンダーに腕を通しながら
申し訳なさそうに少し小首を傾げた彼。
口調も表情も落ち着いていて
いつもと変わらない。
ううん、と無言で頭を横に振ってから
恥ずかしさを堪えて「おはよう」と告げると
彼もちょっぴり改まって
「おはよう」と返してくれる。
「よく眠れた?」
「ん、ごめん寝過ぎちゃった」
「いや、全然いいよ。昨日言ったでしょ、僕は先に出るけど構わないでゆっくり寝てていいって」
確かに言われたけど。
「ツグミは今日は遅くていいんでしょ」
そう言われてもって、
慌てて布団から出ようとしてはたと気付く。
服着てなかった……
「……そういう訳にはいかないでしょ」
家主はヤマトなんだから。
私が置いてかれてどうするの。
もう〜〜〜と、唸りながら
布団の中に手を突っ込み
埋もれたパンツを見つけて身に付ける。
……けど、あれ?上がない……
「そこ」
ヤマトに言われて視線の先を辿れば
ベッドの片隅に
きちっと畳まれたパンツ以外の私の洋服達
一番上にちょこんと乗せられているのは
紛れもなく私のブラで。
「嘘、やだ……」
「え?ごめん、嫌だった?」
「あ、ううん!そうじゃなくて……あの、ありがと」
「ん?うん」
あんまりにもヤマトがナチュラルだから
何も言えなくなっちゃった。
でもでも、こういうの
めちゃくちゃ恥ずかしいのって私だけ?
これが普通なのかなんてわからないけど
ヤマトが、私の、私の、私のブラを……
「ツグミ?着替えるんじゃないの?風邪引くよ」
「あっ、はい、……着替える!」
布団で胸を隠したまま固まってたら注意されて
ハクシュンってついでにクシャミまで出て
ほら言わんこっちゃないって、笑われる。
ヤマトが向こうへ行った隙に
ぱぱっと着替えて
やっと布団から飛び出すと
トイレと洗面を済ませて、
台所のヤマトを覗いた。
「ご飯と味噌汁、昨日の残りがあるから良かったら食べてって」
ナイスタイミングで声がかかる。
まるで背中に目があるみたい……
と言うより、解せない
色々とナチュラルで
まるで何事もなかったみたいに
むしろちょっとスマートな感じすらある
らしくなく、慣れてる感じが解せない
これがあのヤマト?
優しいのも穏やかなのも几帳面なのも
確かにヤマトだけど
いくらなんでもあっさり過ぎない?
もうちょっとドキドキがあっても良くない?
いやでも。
朝からいちいち暑苦しいのも変か……
だとしたら、これが普通、なのかな?
でも、だけど
昨日は、昨日の夜は違ったのに
余裕がなさそうでほんの少し意地悪で
思ったよりずっと甘くて激しくて……
昨日の夜は全然違った癖に
「なに?」
恨めしく見詰めれば
キョトンとした顔で振り返る。
「別に」
さて食べようとすると
食卓には一人分しか用意されてない。
なんだ、ヤマトはもう食べちゃったのかと
がっかりする私に
ベストを羽織りながらヤマトが言った。
「ごめん、僕は時間ないからもう行くね」
「え!ちょっと待って、だって鍵…………」
「だから、これ」
思わず席を立つ私に
ヤマトはボソリと呟いた。
ヤマトがこれ、と指さす先には一本の鍵。
「これ……ヤマトのでしょ?持って行かなくていいの?」
「だから、そうじゃなくて」
「?」
「ツグミの」
「え?」
「色々と不便かなと思って」
「……………」
「ほら、こういう時とかさ、ツグミも持ってたら便利だと思うし、この先なにがあるとも限らないし……何となく、そういうのも良いかなって……」
「…………いいの?」
「…………うん」
「こういう事すると、後々大変かもよ?」
「……そうなの?」
「ヤマトが居ない時に上がり込んだり」
「……うん」
「勝手に洗濯とか掃除とかされちゃったり」
「それはもちろん、…… ツグミが嫌じゃなければ」
「頼まれてもいないのに慣れないご飯作って待ってたりするかもよ?」
「それは……望む所です」
恐る恐る、ドキドキ、いそいそ
震える指で鍵に触れてみる。
それは金属とは違う木の優しい温もりがあって。
「これ、ヤマトが作ったの?」
「うん、店で頼むと時間かかるから」
「わぁーよくできてる……」
「力作です」
「あ、でも壊れやすくない?大丈夫かな……」
「あーそれは大丈夫だよ、特別な加工もしてあるから、ちょっとやそっとじゃビクともしません」
「へぇー……」
「木って言っても僕のは頑丈だからね、ご心配なく」
掌に乗せてぎゅっと包み込むと
何とも不思議な感じがする。
ヤマトの一部を貰ったみたい。
「気を付けてね」
「ああ」
「早く帰って来てね、なんてね」
「……約束はできないけど、善処するよ」
「うん、行ってらっしゃい」
「あ、戸締りよろしくね」
「うん」
「……あと火の始末も」
「ん、うん……」
「ええと、忘れ物もしないようにね」
「……うん」
「あ、あと何だっけ、何か忘れてるような気が……」
「え?何……」
ヤマトが忘れ物?
さっき何度も確認してたのに?
落ち着きのない仕草が急に不自然で。
「あの、時間ないんでしょ?大丈夫?」
「うん、ええとさ、そうじゃあなくて」
「何?なんなの?」
「ツグミ」
「ん?」
ブツブツ言ってるヤマトの顔を覗き込んで
あ、と思った時には
唇に軽い衝撃。
「行ってきますの……って、一度してみたかったんだよね」
ナチュラルでスマートなヤマトはどこへやら
目の前には頬染めてヘラヘラ頭をかくヤマト。
「この前は出来なかったし、こういうのってタイミングとか何かわからなくって」
もう、そんなの、
普通に言ってくれたらいいのに。
「私より先に行くのは、これがしたかったからだったりして」
「そっそんな訳ないでしょーが!」
「ふふふ」
「けど、鍵を渡すシチュエーションはこれでも結構考えたよ」
ヤマトは目を泳がせて付け加えた。
私の洋服とか朝ごはんとかみんな、
鍵のことも、段取りとか……もしかしたら
ずっと考えてくれてたのかな。
嬉しくて、恥ずかしくて、幸せだ。
「鍵ありがとう、大切にするね」
「うん」
「無事に帰って来てね」
「はい、それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
今度はどちらともなくキスを交わして
笑顔で送り出すと
ヤマトは颯爽と行ってしまった。
置いて行かれるのは
予想以上に寂しいけど……
今は
この先の私達に何があるのかな?
またヤマトが段取りとか考えちゃうのかな
それでそれに乗ってみるのもいいかもね……
そんな事を思いながら
二人分の食器を洗えば
口からは自然と鼻歌が出て来るのだった。
終
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