俺の休暇を君に
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俺は偶然知ってしまった。
女性陣が屯してた場所を通り掛かった時だ。
偶然に聞こえた。
実際にこの耳で聞いた。
誰かが仕組んだ手の込んだドッキリでもない限り
(そんな暇人いる訳ない)
これは多分事実で
多分勘違いとかじゃなくて
だから。
必死に自分に言い聞かせながら
掲示板にデカデカと貼られたポスターの前で
一人立っているツバメに声を掛けた。
「よう」
「あ、木ノ葉丸、お疲れ様」
「.....お疲れ」
「ねぇ、これ、花火大会復活なんてびっくりしちゃった」
「そうだな、すっかり平和だな」
「さすが七代目、里がますます盛り上がるね」
「だなー子ども達とか爺ちゃん婆ちゃん達も喜びそうでいいよな.....」
「子どもの頃、やっぱり楽しみにしてたもんね」
「お前と行ったことあるよな、ほらウドンとモエギとか皆で」
「うん、行った行った!.....ふふふ」
「え?何?」
「私、迷子になったの思い出しちゃった」
「あーーーーーそうだったな、はは」
「木ノ葉丸が見つけてくれなかったから、きっと最悪な思い出になっちゃってたけど」
俺が見つけたから、そうはならなかった。
二人だけの共有の思い出。
それだけのことがこんなにも嬉しいとは
今の今まで俺は何をどうして生きてたんだ?
とかなんとか改めて上がったり下がったりしてる間に
ツバメの話は進んでて。
「今度は私ががんばらないとねー」
「.....ん?へ?」
「当日のね、見回りとか警備とかね、色々人手が要るでしょ?私、参加するんだ」
「ん.....??」
ツバメが、これと言いながら
パッと開いた掌でポスターの一部を軽く叩いて、
俺は引き寄せらるままそこにある文面に目を通す。
『ーーー里内勤務の中忍の皆さんはできるだけ大会中の見回り警備にご尽力お願いします。有志の方は以下のーーー』
「私みたいな迷子が出ないようにがんばっちゃお」
「あーーーああ!そうだな.....凄い、大事だよなコレ」
「でしょ?」
えへへと自慢げに俺を見上げてくるツバメが
数年前の少女と重なってドキリとする。
だけどもう、それはか弱い泣き顔じゃない。
一人前の忍びの溌剌とした笑顔で
俺は思わず湧いた妙な感情に目を逸らした。
「俺もやろっかな」
「.......え?や、いやいや木ノ葉丸は違うでしょ」
「中忍以上なら文句ないだろ」
「そうじゃなくて、普通に忙しいでしょってこと!」
「ちょうど休み貰ってるんだ」
「えっ.....ああ、そう...なんだ。でも休暇なんて良くとれたね?って言うより、木ノ葉丸が休暇とるなんて意外だな」
「どうしてもやりたいことがあって」
「へぇ.....え、じゃあ何で...」
「気が変わった」
「あ、そう...なんだ」
「ちょっと無理言って当分休み無しでいいって言っちまったし、だから絶対無駄にできないんだけど」
「.......そう」
「花火大会誘うつもりだった奴が仕事したいって言ってんなら俺も付き合うしかないだろ」
「.......」
「.......お前のことだぞ」
「えっ.......え?」
「もう間に合わないのか」
出鼻をくじかれて拗ねたみたいになったけど
このままじゃダメだと
思い切って攻めたのにツバメの反応がない。
息ができない。
「.....まるで私と行きたいみたいだよ、それじゃ」
やっと喋ったと思えば
ツバメが口にした台詞に頭が真っ白になる。
割と意を決して言ったつもりだった。
ツバメがアハハと軽く流すように笑う。
「木ノ葉丸が私を誘うなんて変じゃない?急にどうしたの?もしかして誰かに断られちゃった?」
意味がわからなくて、だけど
何一つ真剣に受け取られてないのはわかる。
「そんなんじゃない」
悔しくて情けない
照れ臭くてもどかしい
「何言ってるんだ?最初からツバメしか誘ってない」
もっとスマートに告げられたら
ズバッと告白してしまえれば
カッコいいのかもしれない
だけど俺にはそれができなくて
「.......ほんとう?」
「ほんとう」
「本当のほんとう?」
「本当のほんとう」
急で変だって言うならそれでいい
遅いとか鈍いとか
非難されても仕方ないのかもしれない
半信半疑な様子でこちらを伺うツバメの視線
緊張を振り切って俺はもう一度告げる。
「だから、まだ間に合うなら俺と付き合え」
俺だって今更何慌ててるんだって思うよ。
だけど今はもう、取り繕う余裕もない。
もっと上手い台詞が言えたら良かったのに
この数秒で死ぬほど悔やんで
祈るような気待ちでツバメを見る。
「それって.......花火大会のこと?」
「そんなのどっちでもいいって言うか.....どっちもだろ」
回りくどい言い方する気なんかなかった。
花火大会で、二人で
俺なりに雰囲気とかちょっとくらい頑張って
ツバメが凄く喜ぶような
一生忘れられないような
感動的なやつにしようとか思ってたのにな
なんてどうせ無理か
結局すっかりバレバレだ。
「俺は、ツバメと二人だけの時間が作れるならどっちでもいい」
曖昧なんかじゃない
流されたんでもない
ツバメに好かれてるからじゃない
俺がツバメを好きだからだ。
花火大会って聞いて真っ先にツバメが浮かんだ。
声かけるタイミング伺ってて
一人になる時を見計らってて
偶然ツバメの気持ちを知ってしまった。
嬉しかった。
嬉し過ぎて気付いた。
今まではっきりさせて来なかった想いの正体が
初めて明確になった瞬間だ。
本当に鈍くて自分でも焦るんだよ。
何でツバメをずっと放っておけたんだって
「.......警備に参加するななんて言わない。大事なことだコレ。けど、その日は俺の用件も聞いて欲しいって言うか」
「.......うん」
いつの間にか驚くほど必死で
固く握りしめた拳が開けないまま
黙ったままの隣をチラリと見下ろす。
言わば両想いなんだから
伝えれば、ただ単純に
笑って受け入れてくれるんだろうと思ってた。
あの時の俺なんて
ニヤけるのを堪えるのに必死だったのにな。
でもツバメはそんなに単純じゃないらしい。
もしかして
いざ直面した鈍臭い俺に幻滅してる、とか?
いや、それこそ今更じゃ.....
俺にイケてる対応とか望むわけない、よな?
嫌な汗が背中を流れる。
「.......もし迷子の子がいたら、一緒に探すの手伝ってくれる?」
「あ、あったり前だろコレ!」
いつの間にか俯いてた顔をパッと上げると
ツバメが柔らかい笑顔で俺を見てた。
全て許された気がして、途端に胸が熱くなる。
「うん、心強い」
「.....おう」
「昔からね、木ノ葉丸と居ると凄く心強いんだ......迷子の時に助けて貰ったからかな」
ガキの頃の、あの時から
俺をそんな風に想ってくれてたなんて
ニヤける口元に手の甲を押し当てて隠す。
「そうかよ」
俺は
俺は
いつからだったかな
ツバメに特別な感情を抱いたの
「だからね、木ノ葉丸と一緒にいられるなら.......そうする」
「えっ」
「木ノ葉丸の休暇、有効に使わなきゃね?」
俺を覗き込む表情に大きく胸が跳ねた。
またあどけない昔のそれとだぶる笑顔。
こんな可愛かったっけ
いや、可愛かったよな
昔から見ていたかったのはこれだった。
そうだった。
照れながらおどけるその笑顔に
俺はいつもつられるんだ。
溶かされて許されて癒される。
そんな相手、他にいない。
変わらないはずなのに確実に違う。
知らぬ間にずっと見つめていてくれてた眼差しが
どれだけ大切か今ならわかる。
やっと
やっとだ
昂る気持ちを口に出すより先に走らせて
黙って握り締めた隣の手。
花火大会に二人で行けたら、きっと言える。
そんな気がして必死だったんだ。
きっと必ず、伝えるから。
「楽しみにしてる」
俺の決意を知ってるみたいに呟くツバメの指が
俺の指にするりと絡みついて息を呑む。
声の出ない俺は返事の代わりに
ただ繋がれた指に力を込めた。
ただそれだけでもう逆上せ上がって
ツバメがさっき口にした〝有効〟の解釈を
ぼんやりと夢心地で巡らしてはニヤける。
こうして俺がしばらく腑抜け状態だったのは
言うまでもない。
終
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