テンゾウの秘めた恋
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「・・・えっ・・・テンゾウ?」
「うん、遅くにごめん・・・」
結局僕が病室に訪れたのは夜だった
元々、面を付けたままで会う方が自然だったし
夜の闇に紛れる方が何をするにも
悪目立ちすることはない
記憶に残らず夢に溶けて消えるに違いない
僕にはこの方が合っている
突然に窓際に現れて
例え不躾だと思われたとしても
「今晩は」
「こん、ばんは・・・」
不似合いな挨拶を口にすれば、
挨拶を返す水無月の見開いた瞳が潤む
それが月明かりに照らされて光った
「えっえ?何?どうして・・・」
「やっごめんね、
こういうの初めてだなぁって
挨拶なんてしたことなかったから
ちょっと感動・・・なんて、
あはは、私すっかり弱くなっちゃったな」
言われてみれば確かに
不似合いだと思ったのはそのせいかな
しかもこんな平和な空気
水無月と共有できるなんて奇跡だな
不躾で不似合いで
誰が見たって配慮に欠ける行動に
水無月が感動、だなんてさ
これが奇跡じゃないならやっぱり夢か
「やっと来てくれた」
「ああ、うん・・・ごめん」
「ううん、私こそごめんね、
変なこと言ったから困らせたんだよね、
テンゾウ真面目だから」
「いや、そういう訳じゃ」
「あともう一つ・・・
言いたかったことも忘れられなくて、ごめん」
すっかり元気そうに言葉を連ねてる君を
穏やかにもっと長く水無月の夢を
見ていたかったのに
「・・・息してる?テンゾウ」
「なっ・・・してるよ」
息を吐くのを忘れそうな僕が見える訳ないのに
どんな顔してたってバレる訳ないのに
何に緊張してんだよ
こんな時すら面を外せない僕を
君はどう思ってるんだ
「・・・暗部止めるって話?」
「・・・・・・知ってたんだね」
「相談じゃなくて・・・もう、決めたんだよね」
「うん」
「そうか」
「・・・身体が持たないなって思い知って
決めたの」
「うん、いいと思う」
それは本当だ、本心だ、
通常だって危険はあるけれど比じゃないし
離れてしまえば、素直に言える
チームで居たら、甘いことなんか言えない
僕は水無月にずっと無事で居て欲しい
僕が守りたいなんてとても言えないけど
願うくらいの距離にはなれたかもな
「テンゾウ?・・・何、考えてるの?」
「えっ・・・いや別に」
「もっと何か言ってくれないの?」
「えー・・・えっと、んー・・・いや・・・
・・・水無月こそ何か喋りなよ、得意だろ」
もちろん頭の中の考えなんて口にできなくて
いつだって面の下に全てを隠して来たんだ
それが楽で、これからもずっとそれでいい
なのに、今日は君がまともに見られない
何かを水無月に見透かされそうで
余裕がなくなってくのが解る
「私、たまたまだけど
あの時にテンゾウの前で面を外せて良かった」
息を呑む僕を知ってか知らずか話し出す君は
「あんな状況でもね、素顔見られたって気付いて結構恥ずかしかったんだよ?」
なんて言って笑う
「だけど、凄くホッとした。
不思議だね、テンゾウの存在って」
「・・・え?それ、僕のせいなの?」
不思議なのはどう考えたって
水無月の方じゃないか
「それに、私、嫌いじゃないよ・・・
テンゾウの気の利いたことも言えない所」
「うっ・・・え?」
「お姫様抱っこが異様に上手な所は・・・
本当は褒めてあげたい所なんだけど、
本音では凄く複雑」
「な、何?いきなり・・・」
「ああいうこと、誰にでもしてるなんて
テンゾウってなかなか罪作りだよね」
「ちょちょっと待って、色々おかしくない?
あれは仕事でしょ。
僕言ったよね、慣れてないんだって。
あの時は水無月だから
ずっと慎重で必死だったんだって・・・」
あ・・・
「テンッ・・・えっと、あのねっ、あの!
聞いて欲しいことがあるのっ・・・・・・」
僕の失言に慌ててベッドから転げるように
駆け寄って来た水無月の
しがみついた重みが簡単に僕の心を傾ける
「本当はね、身体だけじゃないの。
あの時、いつもと違う気がしたの。
あんなに大切にされて凄く幸せで嬉しくて・・・
自分がどれだけ好きなのか気付かされたの、
テンゾウのこと」
まだまだ弱々しい足付き
僕に触れて縋る手
人として放っておくなんてできない
「もう・・・何してんの、
大人しく寝てなきゃダメだろ」
だから、仕方なしに横抱きにして運ぶ
どうせ、言うことなんて聞かないし
だって、こんな所で倒れられちゃまずいだろ
そう思い込もうとするのに
担がれた水無月は、驚く所か
まるでせがむようにぎゅうと僕にしがみつく
ベッドに降ろしてそっと手を解いて
震える指を捉えれば
僕こそ、
もう水無月から離れられないみたいだ