テンゾウの秘めた恋
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「んっ・・・」
胸元で微かに声がしてその顔を覗く
うん、まだ目は覚めてないらしい
ほっと小さく息を吐く
森の中、里までの帰路
速度を落とさず
且つこれ以上ないってくらい慎重に突き進む
て言うかこれ、
ちょっと緊張し過ぎじゃないか僕
こんなの初めてのことじゃないじゃないか
こんなの忍びやってたらそれなりにあるあるだ
例え暗部だってこーゆーことはあるんだよ
稀にだけど
そう、稀で・・・たまたま居合わせて
体力が一番残ってるから僕がしている訳で
全てが偶然であるのだ
何はともかく職務中なんだぞ
一体何を一人勝手に動揺してるんだ僕は
無に、無になれテンゾウ
「ぇ・・・ん・・・」
え・・・・・・
ダメ、本当にダメだから、空耳だから
今のがテン・・・って聞こえるとか
本当にヤバいだろ僕
ああ、役得って思わなかった訳じゃないけど
僕には些か難儀なミッションだったかもな
だってさ
職務中にやり慣れてたってやっぱり違うだろ
プライベートでこんなのしたこともない僕が
いきなり本気で
お姫様抱っこしなきゃならないなんて
何より、今までどーやってたかも
忘れてるくらいに重症ときた
手付きがいやらしい感じになってないか
不安定だったりしないか
気が気じゃない
そりゃこれも職務の一環なんですよ
任務帰りですからね
だけど、相手が相手なんですよ
まさか
意中の人をこの手に抱くことになろうとは
思いもよらなかった訳ですよ
彼女でもないんだから
まともに触れるのはもちろん初めてで
予想以上に軽いとか柔らかいとか
たまに香る水無月の匂いとか
僕の頬に触れてしまう髪だって
女性特有のあれこれに気付かぬフリする方が
よっぽど簡単だ
ああ
もっと丁寧に女性を抱く術を知っていれば
そういう相手もいないんだから
学びようもないけど
経験豊富な色男なら
こんな場面でも卒無くこなすんだろう
ただ、
水無月を無事に送り届けたいだけなんだ
慎重になってしまうのは許してくれ
必要以上だと気付いても見逃してくれ
勘のいいメンバーなら
とっくに気付いてるかもしれない
でも今だけは知らん振りをしてくれ
所詮職務中、たかが横抱き
一同僚の僕にはこんなことしかできないけれど
今は一刻も早く運んでやりたいんだ
「・・・テンゾウ」
ああ、もう、また空耳か
性懲りも無く僕ときたら
「テ、テンゾウ・・・?」
ん?空耳が吃ってる・・・・・・
「・・・って、うおっ!!!」
胸元から僕を見上げているらしい面を見下ろす
一旦足を止めれば
確かに面の下から声がした
いつの間に
「目っ・・・覚めたんだね」
上擦った声で分かり切ったことを聞くな
表情は見えないがしんどそうなのは変わらない
水無月のか細い声が耳に届いて
手元が狂いそうですぐに前に向き直る
「気分は?大丈夫かい」
「うん、お陰様で大分いいよ」
「もうすぐだから、このまま休んでて」
「・・・ありがとう」
「いえいえ、こんなの普通でしょ」
何が普通だよ、普通って何だよ
「うん・・・そだね、普通・・・なんだけど」
「・・・ん?何?」
もごもごと呟くそれは
具合の悪さから来るのだろうか
それとも覚束無い僕の所業のせい?
「あ、水分?いや、トイレ・・・とか?」
「ううん、違う違う、大丈夫、ありがとう」
思わず見下ろすと
小さく否定して小さく感謝して
小さな息遣いに変わる
トイレ・・・とか言ったのがまずかったのか?
何か居心地が悪かったのか?
微妙な気まずさを誤魔化すように
僕はまた足を進める
僕でごめん
僕みたいな不慣れな手で触れてごめん
きっとゴツゴツと感触も悪くて
ドタバタと居心地も悪いに違いない
あと少しの辛抱だから
もう少しで病院のベッドに寝かせてやれるから
足りなくとも僕の今の全力でもって
優しく丁寧に送り届けるから
今この時だけは僕を許してくれよ
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