保健室のあのヒトは/④仗助
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「千鶴センセー」
それは、おれが今最も気になっている人。
その人はいつも学校の保健室に居る。
つまりガッコの保健のセンセーだ。
この春就任したばっかの新人で
ついこの間まで大学生だったってことで
先生と言えど、女としてはまだまだピチピチで・・・
つーか、そこらの女子より断然色気がある、
と思うのは
おれの偏り気味の趣味嗜好と
白衣の効果もあるかもしれねーけど
この人に出会って、よーくわかった。
おれはホントに年上のおねーさんに弱いってこと。
マザコンとか言われそうで
他人にはあんまり言えねーけど
まあ、マジでどーこーなりたいっつーよりは
眺めてるのが面白いとか
ちょっかいかけたいとか
反応が見たかったりで、まあそんくらいだけど
学校の女子なんかと居るより何倍も楽しいからなぁ
ひょっとしたらうっかり本気になったりして・・・
なんてある訳ねーか
実際年上と言ったって大して気にならねーけどな。
無駄に発達にしまくったおれの身体なら
たった5つくらい、私服なら誰にもバレやしないな?
イコール、センセーの隣に立ったって
釣り合わないなんてことはねーだろう。
んーーーまあ、
センセーがおれをどー思ってんのかっつーのは
正直物凄ーく気にはなるけど・・・・・・
「なぁ、千鶴センセー」
「はい、なあに?」
「千鶴センセーって彼氏いるんすか?」
「ん?・・・君に答えなきゃいけない義理はない」
しかしこれ、なかなかどーしておれには靡かない。
おっかしーなぁ
もっと可愛い反応が見たいってだけで
こんな頻繁に顔出してんのによぉ
仗助くん、これでも学校一の色男なんつって
有名なんすけど・・・
ホントもうちょっとイイ反応が欲しいぜ。
「ホントつれねーな、千鶴センセー」
「はいはい、もういい加減おばさんに飽きた頃でしょ、そろそろ教室戻ってね」
「・・・つまんねーの」
子どもっぽく拗ねてるぞーと返す胸の内は
〝おばさん〟なんて言ってくれるな!おれにはただのキレイなおねーさんにしか見えねぇんだぞ
とか思ってて
だけど
こーいうやり取りのできる関係が本気で嫌な訳じゃあない。
先生と生徒
大人とガキ
そこにはそれなりの良さもある。
生徒じゃあねーと、こーやって保健室には来れねぇし
ガキじゃあねーと、ズバズバ甘えたことも言えねぇし
実際距離を縮めるにはいいポジションだったりするから
利用しないテはない。
「じゃあな、千鶴センセー、また明日」
そう言ってお手手ひらひらしてみれば、
センセーはすました顔で「はい、またね」
とちゃんと次の約束をくれるから
おれは毎回
また、を期待することができるのだ。
☆
出会ったのは3年になったばかりの始業式だ。
うっかり遅刻したおれはそのまま始業式をフケて
その日は凄ぇいい天気で
おれは屋上で呑気に日向ぼっこしてたっけ。
「・・・・・・何してるの君」
ぼーっと雲を眺めてたら声がして、
あん時はマジで驚いたな
おれの居たのは、屋上は屋上でも
さらにちょっとばかり高さのある場所で
そこはおれにとったら
誰にも見つからない場所のつもりだったから
建物の構造上、下からは見えにくい訳で
今まで何かと重宝してた秘密の場所。
おかげでおれはすっかり油断してた。
「アンタ・・・誰?」
なんて間の抜けた返事をするおれに
その人はすました顔で言った。
「新しい保健の先生です」
「えっ・・・保健のって、ばあちゃん先生じゃあなかったっけ」
「前の先生が定年で引退されて、新しく私が就任しました」
「ああ・・・はあ、そーっすか」
「もう始業式終わったよ?・・・早く教室に行きなさい」
不意打ちで大した会話もしなかったけど、後から
あの場所によく目が行ったなぁ、とか
新任のくせになかなかやるじゃん、なんて思って
だけど、寝惚けてたのか春の気候のせいか
どっか夢みたいな気がして
その日のうちに保健室まで確かめに行ったんだ。
「背高いっすね、センセー」
「そうだね・・・って君に言われてもなぁ」
「いいじゃんモデルみたいで」
「170あるからって誰でもモデルになれる訳じゃないからね」
「じゃあさ、センセー、歳は?」
「22歳です」
「若っ!て、そっか!この間まで女子大生かよ!」
「うん、まあ、そうですよ」
「どうりで、初々しいっすね」
「・・・・・・」
「ん?何、何かマズいこと言った?」
「別に、何でもありませんよ」
ハハーン、その感じ
めっちゃ済ましてるけど、拗ねてんのか?
「センセーってばよぉーさっきから褒めてんのに素直じゃあねぇなぁ・・・大人の女って皆そーなんすか?」
「・・・それより君、何か用かな。用事があるから来たんでしょ?こんな所まで」
「センセーに会いに来ただけっすよ。さっきのが幻みてーだったから確認だよ確認」
そーいうと、センセーは
「今の若い子って随分と可愛いことを言うんだねぇ」
なんて軽く聞き流してくれちゃって
保健室に入ってすぐに目に入ったセンセーの姿
屋上では顔しか見えなかったから、
変な再会で変な気分だったのを覚えてる。
モデルってのはちょっといい過ぎだったとしても
スタイルは悪くなかった。
薄い化粧は変に媚びたとこがなくて好印象、
身に纏う清楚な雰囲気が白衣によく似合っていた。
おれにとってのセンセーは、
確かにセンセーだけどそれと同時に、
いやもしかしたらそれより先に
ただのキレイなおねーさん、だったのだ。
☆
「東方くん、でいいのかな」
「おーセンセー。って、あれ?何でおれの名前知ってんの?言ったっけおれ」
「ううん、他の子に聞いたのよ。君、この学校では有名みたいだね?すぐにわかったわよ」
センセーは面白そうに言ったけど、
おれは全然面白くなかった。
どうせならおれに尋ねて欲しかった、
おれから伝えたかった、おれの名前を。
そんなことで褒められても全く嬉しくねぇーし。
「千鶴センセーって呼んでいいっすか?」
顔色一つ変えずに
「どうぞ」なんて言ってくるセンセーに
こんなんのが仕返しのつもりとか
ホントにガキなおれ。
「千鶴・・・って、いい名前っすね。先生にぴったりだな」
困らせるのが無理なら、せめて笑って欲しくて
センセーの名前を褒めた。
ほんの少しだけ、マジで呼んでみたセンセーの名前。
「それはどうもありがとう」
先生の台詞にも
ほんの少し少しくらいは
本気があったりすんのかな?
☆
昼休み、最近はだいたいいつもここに居た。
億泰も康一も彼女と居るし、
3年になってからここで過ごすのが気に入っていた。
いつものように
ヘアスタイルが乱れないよう注意しつつ
日向ぼっこ・・・
「大丈夫?」
あ、センセー
まあ、前にも見付かってるしセンセーなら仕方ねぇか
暇だったし、不思議と邪魔とは思わないからな
「・・・何がっすか?」
「いや、何か傷心かなと思って」
「は?」
「君、一人でいつもここに居るから。・・・あ、もしかして仲間外れにあってるとか」
「センセー・・・バカにしてんすか?仲間外れって、おれは小学生かよ」
つーか何、いつも居るからって何?
なんでセンセー知ってんの?
いつもおれのこと見てんの?
「オブラートに包んだだけよ、イジメってはっきり言った方が良かった?」
「本気で言ってんすか?センセー・・・こんなナリしたおれがんな訳ねぇーだろ」
「・・・見た目は関係ないでしょう」
センセーが相手だから付き合ってたたわい無い会話
だけど〝見た目は関係ないでしょう〟
それが妙な感じで
思わずセンセーの方へ向き直る。
「あ、わかった!恋愛の方か」
が、時すでに遅し。
目に映ったのは困った顔で微笑むセンセー。
さっきの、どんな顔してたのか見逃しちまった。
「・・・・・・まあな」
「そうか・・・それは声をかけない方が良かったよね、失敗失敗。お邪魔しちゃってごめんなさいね、東方くん、私退散するから」
「・・・もう遅いぜ」
「えっ」
「理由を聞いちまったのに放置かよ、センセー」
「だから、ごめんなさい、私まだまだ新米で」
「新米とか関係ねぇーじゃん、センセーだろ」
「・・・それは、そうですけど。それじゃあ・・・話を聞いて欲しい?」
首を横に振るおれ。
「責任とって慰めてくれたら許そーかな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「責任って?」
「は?傷心の理由を無理やり聞き出した責任だよ」
「慰めるって?具体的に」
「センセー、プロだろー。自分で考えろ」
「・・・・・・うーーーん・・・そうね・・・・・・」
案外上手いこと行ってしまった。
がしかし、予想外で具体的なプランなんかある訳ねー
でもってぐんぐん速くなる鼓動
こんなんじゃあまるでイタズラが成功したガキだ。
「仕方ないなぁ・・・じゃあ、何か在り来りと言うか漫画みたいで、ちょっぴり癪だけど」
〝仕方ないなぁ〟って言わせた
〝ちょっぴり癪だけど〟そう思わせたのは確かにおれで
あーー〝ちょっぴり〟ってのも何気に可愛い・・・
「リハビリと言うのはどうでしょう」
「えっ・・・・・・・・・・・・」
リハビリ????????????
「あーーーーー嘘よ嘘!東方くん、ごめん、ごめんなさい、しょうもない提案した!漫画の見過ぎだよねホント、なんかもっと気の利いた・・・」
「いいよ」
「・・・・・・は?」
「いいじゃん、それ」
リハビリ、何じゃそら
漫画とか全然知らねーけど、何なのそれ絶対美味い。
とにかくたまらなくいい響き。
「・・・ええと、東方くん、本気で言ってる?」
「おう、凄ぇ本気」
おれの食い付きに明らかに引き気味のセンセー。
鼻息が荒くなってる気がするが今はそれ所じゃあねぇ
ここでイイコになったら
せっかくのチャンスを逃しちまう!
ガキはガキらしくだぜ!
「・・・ああ、そう」
しばらく黙り込んでいたセンセーは
前のめりなおれをもう止められないと諦めたのか
やっとそう呟いた。
軽く溜息を吐いてからおれを斜めに見上げる。
「東方くん、君は頭のいい子だからよーくわかってると思うけど、一応言っておきます」
「・・・・・・なに?」
「私はやっと養護教諭の夢を叶えて働き出したばかりの自他共に認める未熟者です」
「えっ・・・あ、うん」
「なので、君の期待にどれだけ添えるかわかりませんが、君の傷が癒えるようできるだけのことをします」
「おっ、おう・・・」
「不束者ですが、一年間よろしくお願いします」
センセーが急に真面目な顔でそんな挨拶をするから、
今度はおれの方が引き気味で
だけど独特の強さがあって目を逸らせない。
「あと、一番大事なことね。このことは誰にも言わないこと、二人だけの秘密」
素直にずっと目を逸らさず見ていたら
センセーは最後にそんなこと言って子どもみたいに笑う
何だこれはご褒美か?
「あ、あと良からぬ期待はくれぐれもしないように」
「んんん!!!!????」
さっきまで困らせてたはずが今は軽く笑ってるセンセー
惚けていたせいで、喉が詰まって声が出ないおれ
あ、と思う間にセンセーはもうセンセーで
いや最初からセンセーなんだけど・・・
「それじゃあ、また明日ね、東方くん。気が向いたらいつでも保健室にどうぞ」
その後
別れ際の爽やか過ぎる先生の笑顔に愕然としながら
帰路に着いたものの、
コチトラ健全な男子高校生だ。
その日は全くリセットできずに夜を明かすことなった。
はあ、ほんと勘弁してくれよ、センセー・・・
もしかしたら続く☆
1/1ページ