最初から、許してる/④億泰
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私side┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
東方くんと別れて帰宅すると家の前に億泰くんが立っていた。姿を見付けて駆け寄る。
「億泰くん、びっくりした!・・・どうしたの?」
「どーしたのって・・・そりゃあ、心配でよ・・・」
近付いて見上げると、億泰くんは横を向いたままで居る
私を待っていたはずなのに、せっかく会えたのに
いつもなら笑いかけてくれる億泰くんがいつもと違う
「ああ、うん、そっか・・・」
「今まで仗助と一緒だったのかよ」
「うん」
「こんな時間まで何してたんだよ・・・・・・二人で」
「ゲームセンターに行ったよ」
「は?ゲーセン?何でゲーセンなんてお前が・・・」
「東方くんに億泰くんといつも何してるのか聞いたの、それで」
きっと驚くだろうなとは思ったけれど、単純に驚いたのとは何か違う。だって声が低くて難しい顔
「・・・ふぅーん」
「億泰くんと東方くんがいつもどうやって過ごしてるのか知りたいなって思って・・・今日は私が億泰くんの代わりになれないかなって思って・・・ついて行った」
「・・・何だそれ」
億泰くんにもっと近付きたかっただけなのかもしれない
「それとね、公園でちょっとだけ話したよ」
「公園かよ・・・で、他には?何もしてねぇの?」
「うん」
二人の仲をもっと知れたら
東方くんに近付いたら
色んなことがいい方向に行く
なんて浅はかな、思い上がりもいい所
「ホントに?何も隠してねぇのかよ?」
「うん」
「その・・・何かされるとかも、なかったか?」
何これ
何だっけ
ねぇ億泰くん、私たち今、何の話をしてるんだっけ
「本当だよ・・・ねぇ、隠すとか何かされるって何?・・・何かちょっと、嫌だ」
「えっ・・・・・・わ、悪ぃ・・・」
「億泰くんは凄く心配してたけど、東方くんは何でもないって言ってたよ。何か悩みがあるのかもしれないけど、一人で考えたい時もあると思う。今は放っておいて欲しいんだと思う。私が感じたのはそれだけ」
「・・・お、おう、そうか」
「それより。億泰くんこそ、なんか変」
「えっ・・・」
私、凄い自分勝手だったんだね
バカみたい、恥ずかしい
足元が攫われるみたいな不安
それでも、私が縋れるのは億泰くんだけ
「今まで何してたの?心配って何?隠すって何・・・」
「そっそんなの心配するに決まってんだろ!雛子、何も知らねぇで行っちまって・・・」
「・・・そう、かな」
「そーだよ!雛子がっ・・・行っちまったからだろ。お前がおれを置いて、仗助んとこに行っちまうから・・・」
「え・・・・・・」
急に声を荒らげた億泰くんが怖くて痛くて苦しい
だけど期待してまう
「何で一人で行っちまうんだよ。何でおれ以外の男なんか追っかけてんだ・・・何でおれ以外の男とゲーセンなんて行ってんだ・・・何で、雛子は仗助と二人で公園なんて行ってんだよ・・・?」
「・・・・・・お、く・・・」
「おれのためとか言っても無理なんだよ。雛子にそんなつもりがねぇのもわかってるよ。アタマではわかってんだぜ?・・・けど、イライラが止まんねぇ。凄ぇムカムカするし、こっちはもうっ、頭ん中ぐちゃぐちゃなんだよっ・・・」
あんなにギスギスと苦しかった胸が
あっという間に救われる
鷲掴みにされたハートが違う傷みに襲われて私は今にも泣きそうで
怖いと思ったのが嘘みたいに、今は凄く愛おしい
「・・・・・・億泰くん・・・」
「仗助は一番のダチでイイ奴で、だから雛子に何かするとかそんなん絶対ぇ有り得ねぇって思うのに・・・やっぱ男だしよ・・・アイツ、凄ぇ色男だしモテるからよ」
「・・・・・・・うん、そうだね・・・」
「えっ・・・え?・・・」
「・・・東方くんて本当にモテるんだね、私は全然知らなかったけど。今日もうちの学校だけじゃあなく他の学校の女の子にも声掛けられてたよ」
「あ・・・ああ、そーか・・・」
「きっと普段からそうなんだろうね、私は全然知らなかったけど」
「おう、アイツは普段からそーなんだよな・・・」
「だからだろうね・・・最初にね、隣に並んで歩くなってあんまり近寄るなって言われたよ。下手に巻き込みたくなかったのか、私と億泰くんに気を遣ったのか・・・両方かな?きっと」
「えっ・・・」
「だから・・・ゲームセンターも公園も一緒には行ったけど、私は他人のフリして後からついて行っただけだで一度も並んで歩いてないし、公園で座ったベンチも別々だったよ」
「・・・・・・そーだったのか」
「東方くんは見た目だけじゃあなく、中身も不思議な魅力のあるイイ人だってわかったよ・・・億泰くんとは違うタイプの優しい人だってよくわかった」
だから億泰くんと気があって、いつも二人で笑ってた。
邪魔したのは私だったのかななんて思ったりもしたけれど、私だって今更、億泰くんを手放せない
「・・・・・・・・・わかってねぇな・・・おれの前であんま他の男を褒めんなよ」
「他の男なんて言わないで。億泰くんの親友じゃなきゃ追わなかったし一緒に過ごしたりなんかしない、こんな風に褒めたりなんかしないよ」
「雛子・・・・・・」
「勝手なことしてごめんなさい・・・だけどね、これだけは信じて欲しい」
「・・・?・・・・・・何だよ?」
「・・・・・・東方くんは、全然好みじゃないから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ブハッ!!!!!キッついなソレ・・・・・・」
「やっと笑ってくれた・・・・・・」
これだけは言わなくちゃって、必死に伝えた私の台詞
全く飾り気のない、たぶん可愛げもない台詞
それに億泰くんが急に噴き出して
じっと真面目な顔で見つめ合っていた私たちはやっと柔らかな空気に包まれた。
「・・・おれこそ悪かった。こんなんで嫉妬なんかみっともねぇ、自分でも自分の小ささにビックリしてんだ・・・けど、それくらいめちゃくちゃ雛子に惚れてるっつーことなんだぜ」
「へ・・・」
「おれは雛子のことが凄ぇ好きで・・・もう自分でもどーにもなんないくらい惚れちまってんだ・・・・・・だから、今回は勘弁してくれねぇかな・・・?」
「ばっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・ば?ってー何だよ・・・?」
「かっ・・・・・・」
「は?・・・・・・バカ?・・・ここで言うかよ」
「違っくて・・・勘弁も何も私、最初から許してるよ?・・・私、億泰くんを拒んだりなんかしない・・・」
「ハッ・・・そっか・・・そんなら良かったぜ・・・うん。ってか、今さ凄ぇイイこと聞いちまった気がすんだけど・・・その、おれを拒んだりしないってやつ・・・」
「ん?そうだよ?私は億泰くんを拒んだりしない・・・」
今は声を大にして言いたい
億泰くんだってあんなに必死に伝えてくれたから
「雛子・・・・・・手ぇ、繋いでいいか?」
「・・・・・・うん」
億泰くんが遠慮がちにゆっくりと伸ばす腕。差し伸べられた手がやっと私の掌に到達して、そうっと億泰くんの掌に捕まる。
たどたどしい指先で触れられて捕まえられた掌が、クイとほんの少し億泰くんの方へ引かれて、二人の距離が縮まった。
「・・・これからはもう、勝手におれから離れんなよ」
手を繋ぐって、手を握るって、
こんなにドキドキするものだった?
告白の時には自分からしたくせにまるで違う
あの時は・・・きっと夢中で無意識で感覚が麻痺してたのかもしれない
ううん、手だけじゃない
億泰くんの飛び切り男らしい表情と声と・・・今、目の前にあるもの全てが眩しくてキュンキュンが止まらない・・・・・・・・・
私、億泰くんに好きって言われちゃった・・・・・・
顔が熱い、身体が頭がフワフワする・・・・・・
「・・・雛子?」
余韻に浸る私に降り掛かる声にハッとする。
億泰くんの後ろに居たのは・・・
「お姉ちゃん!?」
いまいち状況の読めない億泰くんの隣まで来て、さらりと私たちを観察してる。
「ただいま、て言うかおかえり?」
「えっ・・・オネエ・・・ってお姉さんっ!!??」
「あ、えっと、億泰くん!この人は私の姉で・・・」
「おおっ、初めまして!おれは虹村億泰って言いますっ!!!!!!」
「お〜〜初めまして、姉です。いつも妹がお世話になってます」
「やっ!いえ、とんでもないっス!こちらこそっス!」
「じゃあ、私 先に入るから。虹村くん?だったかな、またね」
「あ、お姉ちゃんっ・・・・・・」
気を利かせてくれたのか、気まぐれか何なのか・・・
案外さっさと玄関に向かう姉に面食らいながらも、私はまた億泰くんに向き合った。
「億泰くんてば・・・手離してくれないから焦っちゃったじゃない」
「・・・だってよぉ、緊張して握るしかできなかったんだよ!・・・それに・・・今は離したくなかったんだから仕方ねぇ・・・やっと捕まえたのに」
照れ臭くて慌てて文句を言えば、うっかり可愛く甘えられてしまった。
ああ、もう、幸せだ・・・
「姉ちゃん、ちょっと似てるな」
「うん、見た目は割と似てるかな・・・でも性格は全然違うかも」
「へぇ」
「・・・・・・億泰くん」
「ん?」
「もしかしてあんまり興味ないでしょ?」
「げっ・・・」
「あはは・・・」
「しょーがねーじゃん、雛子にしか興味ねぇんだからよ」
「もう・・・・・・億泰くんのおバカ」
私×姉┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ねぇ・・・雛子」
「何、お姉ちゃん」
「さっきのアレ、もしかして彼氏?」
「もしかしなくても彼氏だよ」
「ちょっと本気?ヤンキーだよね、アレ」
「本気だよ、ちょっと見た目は怖いかもしれないけど根は純粋でとっても優しい人だから」
「ふぅーん・・・確かに礼儀は正しかったけど」
「うん、私、お姉ちゃんと違って見る目あるから」
「あんたね・・・まあ、いーや。あ、それより、私ついに内定貰ったから」
「えっ本当?良かったね、やっと夢が叶うんだね」
「まあね〜。だから今夜はご馳走だってお母さんが!ほら、早く着替えて手洗っておいで」
「はーい」
夕飯に酢豚が並んでハタと思い出すパイナップル・・・
というか億泰くん
「うちってパイナップル入れないね」
「お父さんもお姉ちゃんも嫌がるからよ」
「嫌よ、あんな水っぽくて甘いの。意味わかんない」
「ふぅーん」
「酢豚はお姉ちゃんの大好物だからね、わざわざうちでは入れないわねぇ」
「・・・なるほど」
確かにパイナップル入りは給食でしか食べたことがなかったなぁなんて思う。
億泰くんの居ない家族の食卓で、億泰くんのことをこんな風に思い出すのって、何だかちょっぴり擽ったい
「なに笑ってるの?変な子ねぇ」
「・・・本当にね」
いつか自分で作る時はパイナップル入りに挑戦しようと心に決める私だった。
終
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