最初から、許してる/④億泰
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
仗助side┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「億泰よぉー雛子とは上手く行ってんのか?」
そう問えば、予想に反し口篭る億泰。
え・・・え?何、まだ1週間だぜ?お前らすでに危ういの?
とは言えず、話し出すのを待てば、億泰はしばらくしてやっと話し始めた。
億泰の悩みはこうだった。
それらしきことは伝えたが、まだ雛子にはっきり好きだと言えていないこと。
この1週間ずっとチャンスを伺って来たがタイミングが掴めずに言えないこと。
そして、どうせなら少しは格好良く決めたいのだと言う。
「何じゃそら!」
思い切りバカにしたが、億泰は本気で悩んでるらしく深刻な顔をさらにしかめた。
おれならすぐに言っちまう
好きなら好きだと、きっとすぐに言っちまう
だから億泰の気持ちはサッパリわからねぇし
そんなおれがアドバイスなんかやれるかよ
放課後、おれは億泰と雛子の3人で喫茶店に居た。
気を遣ってんのか知らねぇが、億泰が声を掛けてくるから、この1週間放課後は何度か行動を共にした。
こんなんしてるから言えねぇーんだろーが!バカめ
なんて思う癖に、おれは断りもせずまんまと同行する。
雛子の奴は邪魔だとか思ってんのかもしれねぇが、そんなこたぁ気にしねぇ
「雛子ょぉー・・・お前、億泰の何が好きなんだ?」
便所に向かう億泰を見送りながら雛子に尋ねる。
「えっ・・・・・・えっと、それは・・・名前、かな」
「・・・・・・名前??????」
「うん、虹村億泰って言う名前。特に〝億泰〟って言うのが好き」
「・・・・・・何、お前って金が好きなの?」
「ええ!?何で?全然関係ないよ、普通に純粋に〝億泰〟が好きなんだよ」
それは全然普通じゃあねぇし、何が純粋なのかもピンと来ねぇ
ただ、はっきりと聞こえたのは「億泰が好き」の台詞
珍しく呼び捨てにされた億泰の名前、こんな感じでおれが聞いちゃってどーすんだよ
「・・・・・・あんまり趣味がいいとは言えねぇな」
「そうかなぁ?素敵なのに」
フフフと呑気に笑ってる。
億泰はああ見えて凄ぇ悩んじゃってるのになんて対照的
こんなんでお前ら本当に上手くやってけんのか??
「雛子、億泰に好きって言われたか?」
「え?」
「アイツ、ちゃんと言えてねぇって気にしてるみてぇだから。・・・お前はどーなのかと思ってよ」
「・・・・・・なるほど」
ああ・・・本当に呑気な奴だな
こんなこと言っても顔色一つ変わらねぇ
「私は全然気にしてないけどね」
カラリと笑う雛子の顔には嘘がまるでない
これは、呑気とか鈍感とかそーいうんじゃない
「・・・・・・随分と余裕だな」
「うーん・・・どうなんだろう?余裕って言うの?こういうの・・・よくわからないけど」
「・・・そーかよ」
肩透かしくらったような気分で話を終わらせるおれに、雛子が急に声を潜めて言う。
「だから、億泰くんには余計なこと言わないでね?」
「は?」
「だから、億泰くんがこれ以上気にするようなことは言わないでね・・・私は今のままで充分だから」
そう告げてくる雛子の顔は、いやに真剣で少し不満気で
ああそうか、億泰のことが心配で仕方ないのに
億泰の不安をおれに指摘されたことが悔しい、きっとそんな感じか
「おれは事実をお伝えしたまでだ、別に何も言わねぇーよ」
そうだ、おれならそんなことで悩まねぇーし
共感も励ましもする気はねぇ
間違ってもイケてるアドバイスなんてしてやらねぇから安心しろ
「雛子、その代わり一ついいか?」
「・・・なに?」
「おれのことも名前で呼んでいいぜ?」
「・・・なんで?」
「なんで・・・って、大した意味なんてねぇけど!大半の女子はそーしてるし、お前もそーすればって思っただけだよっ」
「へぇ・・・でも、大した意味がないなら止めておく」
「あ?」
「私が名前で呼びたいのは、そもそも億泰くんだけだし。お気遣いありがとう、ごめんね」
ちょっと待った、早い、早いぜ!
そんなに魅力ないかよ、おれの名は。
もう少しタメがあっても良くないすかね雛子さん
仗助くん、地味にショックなんすけど・・・・・・
「あ、おかえり億泰くん」
まるでなかったことにされてるし。
こんな陰での俺の一喜一憂にも構わず
億泰と雛子はその後も順調に交際を続けるのだった。
私side┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私の部活が終わるのを待って、珍しく二人きりの帰り道。
「本当に美味かったぜ、あのシュークリーム」
「えへへ、今日のは本当にキレイに膨らんだし大成功だったよ」
ずっとあげたかった部活スイーツを今日はついに億泰くんにお届けして、学校を出る前に二人で仲良く食べた。
硬派な見た目と裏腹に甘い物好きな億泰くん
趣味でも部活でも週に何回かお菓子作りをする私
もう、私達、赤い糸で繋がってる・・・
とか何とかほくほくしながら歩いてると、私、何だか足が早くなっちゃうのよね・・・
だめだめ、ゆっくりゆっくり!
少しでも長く億泰くんと居たいんだから
「お前が作ったと思うとめちゃくちゃ感慨深ぇな」
「本当にコレ、おれが食ってもいいのか?」
「こんな美味いもん食ったことねぇ!!」
「て言うかよ、ちょっと前から思ってたんだけど・・・何てことのねぇ菓子パンもお前と一緒だと物凄ぇ美味くなっちまうんだよな・・・」
「って!別に、コレが何てことねぇシュークリームっつってんじゃあなくて!コレはコレでホントにマジで、今まで食った中で最高に1番美味いんだぜ?・・・って、おれまたバカなこと言ってんのかな??????」
ああ、億泰くんと一緒に居たら、私の方はいつだってお腹いっぱい
味だって、何を食べてもわかるかわからないか正直微妙な所だよ
それにしても・・・
東方くんはどうして私にあんなこと言ったのかな?
あれって、きっと億泰くんが東方くんだから打ち明けた相談で、たぶん本当は私には内緒にすべき話だった気がするんだけど・・・
東方くんはのほほんとしているようで本当は違う
本当にのほほんとしている億泰くんのすぐそばで
同じ調子でのほほんとしているようで実は違う、そんな気がする。
飄々としてるのに抜け目がないというか
この間の話してる時の思慮深くて利発な感じの瞳とか
まあ、億泰くんばかり見てたから実際そんなに詳しくないし全く自信もないのだけれど
たまーに、鋭い視線とか鋭い視線とか鋭い視線とか感じてたし
不思議な人だなぁとは思ったり思わなくもなかったり
もしかしたら、彼がモテるらしい理由はこういう所?
って、考えてても全く意味がわからないな私
疲れるからもう止めよう
兎にも角にも・・・
こんなにストレートに甘いことばかり言ってくれる億泰くんにこれ以上何を望めって言うのかな?
東方くんってば本当に困った人
まあ、億泰くんに限っては本当に可愛い困った人なんだけど
もしかして・・・東方くんは寂しいのかな?
そうだよね、寂しいよね?
いつも一緒だった賑やかで楽しい億泰くんが彼女の所に行ってしまったら・・・そんなの寂しいに決まってる
たまに感じてた鋭い視線は、億泰くんに近付く私を警戒してたとか?
は・・・もしかして、私、億泰くんに相応しいか品定めされてるとか?
もしかして私・・・東方くんに試されてる???
億泰side┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
今日こそは、はっきり〝好き〟だと言う!!!
そう心に決めてから・・・・・・一体何日経ってんだ?
雛子の部活が終わるのを待って、珍しく二人きりの帰り道。
さっきまで教室で、雛子が部活で作ったシュークリームを二人で食っていた。
今までそんなこと、夢にも思わなかったんだぜ?
今までシュークリームなんて腐るほど食って来たけど
あれより美味いシュークリームなんて知らねぇよ
こんな甘ったるいの、自分の知ってる自分じゃあない
普段から止めらんなくてバカみたいに甘いことばっか口にしてんのに
どーしてだか〝好きだ〟とか〝惚れてる〟とかだけは言い出せねぇ
きっちり言わねぇーとマズい言葉だってのがわかるから余計に言えねぇんだけど・・・
幸せなのに、ちょっとばかり苦しくなって、隣を歩く雛子を見下ろす。
何か黙ってるなと思ったら、真面目な顔で前を見たまま黙々と歩く雛子
普段は浮かれたおれがお喋りなせいか、和やかでも静かとはいかず、なかなかこんな雰囲気はねぇ
これは、絶好のチャンスかもしれない・・・
「あの、雛子・・・」
「・・・・・・はい?」
「ずうっと言いたかったんだけどよ・・・」
「・・・・・・なあに?」
「おれは雛子が・・・雛子が笑ってくれると嬉しいぜ」
「うん、私も億泰くんが笑ってくれると嬉しいよ」
「おれは雛子が・・・す・・・す・・・素直な所がいいと思ってるぜ」
「うん、私も億泰くんの素直な所がいいって思ってた!・・・同じだね」
俺が喋れば、すぐにポンと飛んでくる雛子からの可愛い返事
いかん、また雛子のペースに持ってかれちまう!
とか焦るばっかで、身体はロボットみてぇにカチコチで
ぐわぁぁーっと頭に血が上って、頭どころか舌も全然回らねぇ
「す・・・す・・・酢昆布」
「好きなの?あ、食べたい?コンビニ寄ろうか?」
「お、おう・・・ぜひ・・・」
「でもねぇ、残念ながら私は苦手なんだよね・・・」
「そ、そうか、一応覚えとくぜ」
「・・・うん」
「す・・・す・・・スパゲッティ」
「え?スパゲッティも食べたいの?」
「あ、いや、違ぇ・・・けど、雛子は何が好きかなと思って」
「ミートソースもカルボナーラも何でも好きだよ、でも今1番食べたいのはナポリタンかな?」
「ピーマン入ってんぞ」
「え?ピーマンがあるから美味しいんだよ?」
「す・・・少なめにしてくれ、俺に作る時は・・・ピーマン」
「うん、そうするね。何なら私が全部食べてあげるから大丈夫!」
「す・・・酢豚って好きか」
「あっ・・・うん、まあまあかな。それもピーマン入ってるね。あ、億泰くんはパイナップル入れる派?」
「・・・・・・入れる派」
「わかった、私も一応覚えとくね」
なーんて、まったりゆるーい会話をしてる間に
「あ、ほらコンビニ。買うんでしょう?酢昆布」
ああああ・・・コンビニに着いちまった。
「・・・おう」
用のないはずの雛子の方がはりきるように先を行く。
入口の手間で振り返った何とも嬉しそうな顔。
「億泰くん、早く」
雛子がご機嫌だってのが手に取るみてぇにわかって何だか凄ぇ擽ってぇ
「はぁ・・・コンビニぐれぇでなにガキみてぇにはしゃいでんだよ」
なんて言ってみるけど、顔は完全に緩んじまってるから説得力なんか全然ねぇんだろーな
「だって初めてでしょ、一緒に来るの」
「そっ・・・そりゃそーどけどよぉ、だからってコンビニぐれぇでお前・・・」
「うーん、こういうのって・・・初めてのお出かけ・・・っとは言わないかぁ、やっぱり」
「ぅぐっ」
やべぇーーーーーデレる、デレちまう
この流れはまた雛子に持ってかれるやつだ!
「おっお前がそー思いたいなら思っときゃいいだろ」
「・・・うん、そうだね、思っとく」
ほわわんと笑う雛子におれは攻めてみる。
「けど・・・ちゃんと覚悟しとけよ」
「・・・え?」
「マジの初めてのお出かけっつーのも、近々やるって考えてっから・・・ソコントコちゃんと覚悟しとけっつってんだよ!」
身体中の血が沸騰しそうになりながら言い逃げるように店内に入るおれ
「そ、そ、それって・・・デート・・・?」
バババッバカ野郎!!聞くな聞くな〜〜
これは聞き返しちゃいけねぇータイプのやつだぞ!
「・・・・・・それ以外に何があんだよタコ」
おおっイイ感じだ!!吃らずに言えてるぜ・・・・・・
って、今おれタコッて・・・雛子にタコッて・・・
愛しい彼女にタコッてぇぇぇぇぇ!!!!!!
「・・・あは、タコだって、何か可愛い、笑っちゃう」
だハッ!!!!!!!!!!セーフ!!!!
調子乗り過ぎた!!!!!!!!!!
慣れないことはやっぱするもんじゃあねぇか・・・
「億泰くん、ありがとう。私、楽しみにしてるね」
未だカッコ付けてるおれにスっと寄り添うと、雛子はおれの顔を覗き込むようにして微笑み
ドキリとして固まるおれを他所に、めちゃくちゃ恥ずかしそうに店の奥に逃げて行く。
な、なんじゃありゃあぁーーーーーーーーーー
可愛過ぎんだろマジで!
なぁ、雛子・・・おれは好きだと言いたいぜ・・・
次は絶対ぇ言うからな・・・
だから、待っててくれよ、雛子・・・・・・