おれの名前を呼んでくれ/④億泰
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億泰くんの良くない噂は知っている。
ちょっと短絡的で直情的なのも知っているつもりだし、普段を見ていれば喧嘩っ早いのだって容易に想像できる。
「・・・・・・お前には関係ねぇ」
そう言われると思ってた。
「・・・・・・億泰くんの嘘つき」
投げ掛けても、もう聞いてくれなかった。
しつこくて面倒だって思われて当然で、うるさいこと言う邪魔な女って念押ししちゃったのかもしれない。
でも、凄く凄く怖かった。
頭に血が昇ってしまった時、億泰くんはどうなるの?
億泰くんを止める人は、他に誰もいないでしょう?
「億泰くんのせいだよ、私が泣いたのはっ・・・・・・」
出口に辿り着く一歩手前で追い付いた億泰くんの腕を引いて引き留める。
「ぅっえっっっ!」
さすがにこれは止まってくれて、転ばないように踏ん張った億泰くんがしばらく固まってからぎこちなく振り向いた。
「お・・・おれ・・・・・・?」
「当たり前でしょ?4日間も逃げ回って、やっと今日は約束したのにまた逃げちゃうし。泣きたくもなるよ」
「ま、マジか・・・・・・・・・・・・・・・」
また、ガーン!という効果音がはまるくらいわかりやすく落ち込んで、ガックリと肩を落としてしまった。
そこまでするつもりじゃあなかったなんて、今さら自分の浅はかさに焦っても遅い。
「すまねぇ・・・おれのせいで・・・何やってんだおれ!、本当に悪かった、申し訳ねぇ・・・・・・」
「・・・ううん、私もしつこかったから良くなかったんだよ!だからっ・・・・・・」
「ダメだな、こんなんじゃあ、こんなんじゃあ全っ然ダメだっっっっっっっっっ」
そう言って私が掴んでない方の腕が握り拳になったのが見えたーーーーーー
「ダメッッッッッ!!!」
自分の顔を殴ろうとする億泰くんの腕ーーーーーー
今度はその腕にがむしゃらにしがみつくーーーーーー
「・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・何してんだ、雛子」
「・・・・・・だって、ダメだよ・・・」
「お前には関係ねぇっつっただろ」
「やだ、億泰くんが傷付くのはやだよ」
間に合って良かった。
億泰くんならやるかもって気付けて良かった。
「ごめんなさい!そんなつもりじゃあなかったの、責めてる訳じゃなあいの。私が勝手に追いかけ回してただけだし・・・億泰くんに無視されて悲しくてちょっと悔しくて泣いちゃっただけで・・・」
自分が少し怖くなる
あんな意地悪な引き留め方ができるなんて
億泰くんのことになると、私はこんなにも卑怯になってしまえるんだ
「さっきみたいに口にするだけならどれだけ野蛮でも物騒でもいい、でも本当に手を出すんだとしたら話は別だよ!・・・誰も止める人がいないなら私が止める」
「えっ・・・な、何で・・・・・・??????」
「億泰くんがどれだけ強いかは知らないよ?でも、もし何かあったらどうするの?身体だけじゃないよ、学校に居られなくなったらどうするの?何かに巻き込まれちゃうかもしれないし、警察にお世話になるようなことになったらどうするの・・・・・・?」
「あ、ああ・・・・・・まあ、そうだけどよぉ・・・。そのさ・・・あんまマジになんなよ・・・おれなんかのことでよぉー・・・何かこーいうの初めてで、ちょっと変な気分になっちまう・・・・・・」
「・・・・・・え?」
「えっと・・・こう、弱っちまうっつーか・・・力が抜けるみたいな妙な感じっつーか・・・・・・で、あああとよ・・・さっきから、腕に当たってるもんが・・・・・・」
「ん・・・何・・・・・・?」
見上げれば、真っ赤な顔で狼狽える億泰くん。
ハッと見下ろせば、億泰くんの片腕にぎゅうとしがみついたせいで密着する胸・・・・・・
「!!!!!!ひゃあ!ごっごごごめんなさい!!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
まるで少し前の億泰くんのマネしたみたいに
今度は私が物凄い勢いで億泰くんから退いた。
今、私、変な顔で変な格好してるはず・・・
ほらだって、あんなに狼狽えてた億泰くんが、神妙な顔をして困ってる。
「・・・・・・だいたい雛子の言いてぇことはわかったぜ。それによぉ、おれだってこれでも一応考えてやってるつもりなんだ・・・だから、もうそんなにマジで心配してくれるな。これ以上はもう、勘違い所じゃあ済まねぇぞ?」
この感じ・・・知っている
落ち着いた声で優しく諭す億泰くん
そうだ、あの時と同じ・・・
「全くよぉ・・・おれみたいな奴に構ってっから泣く羽目になんだろーが。ホントいい加減、こーいうお節介は程々にしとけよ?・・・前にも言ったじゃあねぇか・・・さっきみたいな、あーいうのはなぁ・・・ーーー」
こんなに優しい眼をする癖に。
私の好意は全然受け入れてくれないなんて、億泰くんだって充分に意地悪だ。
「「本当に惚れた奴にしかしちゃあいけねぇ」」
ぴったりと重なった台詞に、億泰くんは目を丸くしてから力無くハハハと笑う。
「何だよ、ちゃんとわかってんじゃあねぇか!・・・さすが雛子・・・なかなか利口だなぁ」
触れ合っていないけど
触れ合っていないのに
いつもより甘い声でいつもより甘く褒められて
まるで優しく撫でられているような気分
こんな気持ち、億泰くんじゃなきゃ有り得ないのに
「・・・ヨシ、わかったらもう二度とすんじゃあねぇぞ?・・・おれは超絶ピュアだからよぉ、本当にもうこれ以上は冗談でも流してやれる気がしねぇからよ・・・・・・」
私を撫でてくれたのかもしれない掌は、億泰くんの後頭部を少し摩ってから緩りと落ちてゆく。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・億泰くんは、何で泣きそうな顔してるの?」
私の両手の中に閉じ込めた億泰くんの手。
「えっ・・・おまっ、な何やって??????」
「私は億泰くんと居てこんなにも幸せなのに、どうして億泰くんは泣きそうな顔をするの?」
「なっな何言って・・・・・・」
「私がウザいなら殴れば良いのに。今だって、言うこと聞かなかったんだから、罵って突き飛ばしたっていいんだよ?」
「ウザいとか殴るとか・・・・・・一体何なんだよソレはっ???・・・雛子にそんな風に思う訳ねぇし」
「億泰くんこそ、下手に優しいから私が付け上がっちゃうんじゃない」
「は?下手に・・・優しく?って・・・付け上がるって、さっきから一体何なんだ?・・・おい雛子、急に小難しいこと言ってんじゃあねぇぞ」
「難しくなんてない・・・何も難しくなんてないよ・・・・・・ただ今、どうして私が億泰くんの手を握ってるのかだけを考えてくれればいいの」
「手って・・・手??????」
戸惑いながら、私の手に包まれた自分の手を確認すると、みるみる間に赤くなる億泰くんの顔。
私が億泰くんに一番言いたかったことって何だった?
今、一番言いたいことって何だろう・・・・・・
「もう流さないでちゃんと見て・・・ちゃんと聞いてくれるかな、億泰くん」
「おっ?・・・・・・おう・・・」
「・・・私、億泰くんの名前が好き」
「・・・・・・おう・・・」
「私、億泰くんのこと、ずうっと名前で呼んでたい」
「・・・・・・お、おうよ・・・」
「私、億泰くんの名前をきっといつまでも大切に呼ぶって約束する・・・だからどうか・・・・・・」
「・・・おう・・・って言うか、まっ待て、なっ何か今の・・・」
「私を億泰くんの彼女にしてくださいっ・・・」
┈┈
┈┈
┈┈
┈┈
何か妙だなと思ったら
あれよあれよと雛子のペースに乗せられて
気付いた時にはもう、告白されちまっていた。
これは男としていかがなものか
もちろんそう思う。
だがしかし、現実ってもんは、理想とは全然違ぇ
とんでもねぇ感動ってやつを連れてくる。
「・・・・・・億泰くん・・・ねぇ、億泰くん・・・今の、ちゃんと聞いてくれてた?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・」
「死ぬ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だめだめだめだめだめ!それなら取り消すから」
「ダダダダダダッそれはダメだっ!!!!!」
「・・・・・・・・・・何で???」
「ちちちちちちち違ぇからっっっ!!!!!」
「なっ何が・・・・・・・・・・?」
「だーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ
嬉し過ぎて死ぬっつってんだよっっっ!!!!!」
「・・・・・・か、可愛い億泰くんっ」
「男に向かって可愛いとか言うなっ!バカ野郎〜っ」
やっと想いを吐き出したのに腹の底から湧き上がるモンが止めらんねぇ
身体中が熱くって頭ん中が沸騰してて色々とめちゃくちゃになってちまったこのおれを
雛子が頬染めた可愛い笑顔で見つめてる。
こんな状況、おれはホントにもうすぐ死ぬんじゃないかとさえ思う。
だけどおれは、今は絶対ぇ死にたくねぇし
今だけじゃあなく、雛子が生きてる限り今世紀が終わろうとも死にたくねぇ・・・っつーかマジで今は死ぬ気がしねぇから
雛子がしてくれた説教はできる範囲で絶対ぇ聞くし
可能な限り片時も雛子と離れる気はねぇし
雛子のことは何が何でも絶対ぇ守るし
部活の帰りだって何時まででも待ってやる
あのノートだって、これからはすぐに出してやるし
雛子を傷付けるのは絶対ぇ嫌だから、手だってそう簡単に出す気はねぇ
今生きてても、雛子に嫌われたんじゃ意味がねぇ
きちんと思い合えてないと意味がねぇ
さっきまでそんなこと思いもよらなかったのに
たった数分でおれの世界は変わっちまった
好きかも、で止めとくつもりだった
やっぱ好きじゃねぇ、と腹の奥にネジ込んだのに
あの淑やかな雛子が、形振り構わず俺の名前を叫んだんだぜ?
俺なんかを健気に追って必死で口説いてくれたんだぜ?
いつまでもビビって我慢してる方がダサいっつーの
こんなの目の当たりにして放って置けるはずがねぇ
「雛子がいいなら・・・おれは雛子を彼女にしてぇし、おれでいいなら・・・雛子の男におれがなりてぇ・・・・・・おれこそ、よ、よろしく頼むぜ・・・・・・」
あああああああっちくしょーーーーーーーーーー
格好いい台詞も言い回しも全く浮かばねぇ・・・・・・
┈┈
┈┈
┈┈
┈┈
ふと見れば、すっかり舞い上がってフワフワと余韻に浸ってたおれに、愛しい彼女が手招きをする。
内緒話のように口に手を当てておいでおいでと手招きする彼女の仕草が可愛過ぎて、おれはあっさり吸い寄せられちまう。
特に深くは考えず、あっさり素直に雛子の口元に自分の片耳を預ける。
『あのね、私・・・まだ言ってなかったことがあるの』
「おう・・・何だ?」
『億泰くん、私・・・億泰くんが大好きだよ』
耳に唇が触れそうな距離でこっそり呟かれたおれはその場で完全にノックアウト。
その日は自分から告白するタイミングを掴めず玉砕し
結局その後も雛子のペースですっかりいいよーに転がされて骨抜きにされる日々
ま、それでもおれは超絶ハッピーだっつーんだから
誰も文句は言わねぇーだろ?
な・・・雛子。
お終い
ちょっと短絡的で直情的なのも知っているつもりだし、普段を見ていれば喧嘩っ早いのだって容易に想像できる。
「・・・・・・お前には関係ねぇ」
そう言われると思ってた。
「・・・・・・億泰くんの嘘つき」
投げ掛けても、もう聞いてくれなかった。
しつこくて面倒だって思われて当然で、うるさいこと言う邪魔な女って念押ししちゃったのかもしれない。
でも、凄く凄く怖かった。
頭に血が昇ってしまった時、億泰くんはどうなるの?
億泰くんを止める人は、他に誰もいないでしょう?
「億泰くんのせいだよ、私が泣いたのはっ・・・・・・」
出口に辿り着く一歩手前で追い付いた億泰くんの腕を引いて引き留める。
「ぅっえっっっ!」
さすがにこれは止まってくれて、転ばないように踏ん張った億泰くんがしばらく固まってからぎこちなく振り向いた。
「お・・・おれ・・・・・・?」
「当たり前でしょ?4日間も逃げ回って、やっと今日は約束したのにまた逃げちゃうし。泣きたくもなるよ」
「ま、マジか・・・・・・・・・・・・・・・」
また、ガーン!という効果音がはまるくらいわかりやすく落ち込んで、ガックリと肩を落としてしまった。
そこまでするつもりじゃあなかったなんて、今さら自分の浅はかさに焦っても遅い。
「すまねぇ・・・おれのせいで・・・何やってんだおれ!、本当に悪かった、申し訳ねぇ・・・・・・」
「・・・ううん、私もしつこかったから良くなかったんだよ!だからっ・・・・・・」
「ダメだな、こんなんじゃあ、こんなんじゃあ全っ然ダメだっっっっっっっっっ」
そう言って私が掴んでない方の腕が握り拳になったのが見えたーーーーーー
「ダメッッッッッ!!!」
自分の顔を殴ろうとする億泰くんの腕ーーーーーー
今度はその腕にがむしゃらにしがみつくーーーーーー
「・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・何してんだ、雛子」
「・・・・・・だって、ダメだよ・・・」
「お前には関係ねぇっつっただろ」
「やだ、億泰くんが傷付くのはやだよ」
間に合って良かった。
億泰くんならやるかもって気付けて良かった。
「ごめんなさい!そんなつもりじゃあなかったの、責めてる訳じゃなあいの。私が勝手に追いかけ回してただけだし・・・億泰くんに無視されて悲しくてちょっと悔しくて泣いちゃっただけで・・・」
自分が少し怖くなる
あんな意地悪な引き留め方ができるなんて
億泰くんのことになると、私はこんなにも卑怯になってしまえるんだ
「さっきみたいに口にするだけならどれだけ野蛮でも物騒でもいい、でも本当に手を出すんだとしたら話は別だよ!・・・誰も止める人がいないなら私が止める」
「えっ・・・な、何で・・・・・・??????」
「億泰くんがどれだけ強いかは知らないよ?でも、もし何かあったらどうするの?身体だけじゃないよ、学校に居られなくなったらどうするの?何かに巻き込まれちゃうかもしれないし、警察にお世話になるようなことになったらどうするの・・・・・・?」
「あ、ああ・・・・・・まあ、そうだけどよぉ・・・。そのさ・・・あんまマジになんなよ・・・おれなんかのことでよぉー・・・何かこーいうの初めてで、ちょっと変な気分になっちまう・・・・・・」
「・・・・・・え?」
「えっと・・・こう、弱っちまうっつーか・・・力が抜けるみたいな妙な感じっつーか・・・・・・で、あああとよ・・・さっきから、腕に当たってるもんが・・・・・・」
「ん・・・何・・・・・・?」
見上げれば、真っ赤な顔で狼狽える億泰くん。
ハッと見下ろせば、億泰くんの片腕にぎゅうとしがみついたせいで密着する胸・・・・・・
「!!!!!!ひゃあ!ごっごごごめんなさい!!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
まるで少し前の億泰くんのマネしたみたいに
今度は私が物凄い勢いで億泰くんから退いた。
今、私、変な顔で変な格好してるはず・・・
ほらだって、あんなに狼狽えてた億泰くんが、神妙な顔をして困ってる。
「・・・・・・だいたい雛子の言いてぇことはわかったぜ。それによぉ、おれだってこれでも一応考えてやってるつもりなんだ・・・だから、もうそんなにマジで心配してくれるな。これ以上はもう、勘違い所じゃあ済まねぇぞ?」
この感じ・・・知っている
落ち着いた声で優しく諭す億泰くん
そうだ、あの時と同じ・・・
「全くよぉ・・・おれみたいな奴に構ってっから泣く羽目になんだろーが。ホントいい加減、こーいうお節介は程々にしとけよ?・・・前にも言ったじゃあねぇか・・・さっきみたいな、あーいうのはなぁ・・・ーーー」
こんなに優しい眼をする癖に。
私の好意は全然受け入れてくれないなんて、億泰くんだって充分に意地悪だ。
「「本当に惚れた奴にしかしちゃあいけねぇ」」
ぴったりと重なった台詞に、億泰くんは目を丸くしてから力無くハハハと笑う。
「何だよ、ちゃんとわかってんじゃあねぇか!・・・さすが雛子・・・なかなか利口だなぁ」
触れ合っていないけど
触れ合っていないのに
いつもより甘い声でいつもより甘く褒められて
まるで優しく撫でられているような気分
こんな気持ち、億泰くんじゃなきゃ有り得ないのに
「・・・ヨシ、わかったらもう二度とすんじゃあねぇぞ?・・・おれは超絶ピュアだからよぉ、本当にもうこれ以上は冗談でも流してやれる気がしねぇからよ・・・・・・」
私を撫でてくれたのかもしれない掌は、億泰くんの後頭部を少し摩ってから緩りと落ちてゆく。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・億泰くんは、何で泣きそうな顔してるの?」
私の両手の中に閉じ込めた億泰くんの手。
「えっ・・・おまっ、な何やって??????」
「私は億泰くんと居てこんなにも幸せなのに、どうして億泰くんは泣きそうな顔をするの?」
「なっな何言って・・・・・・」
「私がウザいなら殴れば良いのに。今だって、言うこと聞かなかったんだから、罵って突き飛ばしたっていいんだよ?」
「ウザいとか殴るとか・・・・・・一体何なんだよソレはっ???・・・雛子にそんな風に思う訳ねぇし」
「億泰くんこそ、下手に優しいから私が付け上がっちゃうんじゃない」
「は?下手に・・・優しく?って・・・付け上がるって、さっきから一体何なんだ?・・・おい雛子、急に小難しいこと言ってんじゃあねぇぞ」
「難しくなんてない・・・何も難しくなんてないよ・・・・・・ただ今、どうして私が億泰くんの手を握ってるのかだけを考えてくれればいいの」
「手って・・・手??????」
戸惑いながら、私の手に包まれた自分の手を確認すると、みるみる間に赤くなる億泰くんの顔。
私が億泰くんに一番言いたかったことって何だった?
今、一番言いたいことって何だろう・・・・・・
「もう流さないでちゃんと見て・・・ちゃんと聞いてくれるかな、億泰くん」
「おっ?・・・・・・おう・・・」
「・・・私、億泰くんの名前が好き」
「・・・・・・おう・・・」
「私、億泰くんのこと、ずうっと名前で呼んでたい」
「・・・・・・お、おうよ・・・」
「私、億泰くんの名前をきっといつまでも大切に呼ぶって約束する・・・だからどうか・・・・・・」
「・・・おう・・・って言うか、まっ待て、なっ何か今の・・・」
「私を億泰くんの彼女にしてくださいっ・・・」
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何か妙だなと思ったら
あれよあれよと雛子のペースに乗せられて
気付いた時にはもう、告白されちまっていた。
これは男としていかがなものか
もちろんそう思う。
だがしかし、現実ってもんは、理想とは全然違ぇ
とんでもねぇ感動ってやつを連れてくる。
「・・・・・・億泰くん・・・ねぇ、億泰くん・・・今の、ちゃんと聞いてくれてた?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・」
「死ぬ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だめだめだめだめだめ!それなら取り消すから」
「ダダダダダダッそれはダメだっ!!!!!」
「・・・・・・・・・・何で???」
「ちちちちちちち違ぇからっっっ!!!!!」
「なっ何が・・・・・・・・・・?」
「だーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ
嬉し過ぎて死ぬっつってんだよっっっ!!!!!」
「・・・・・・か、可愛い億泰くんっ」
「男に向かって可愛いとか言うなっ!バカ野郎〜っ」
やっと想いを吐き出したのに腹の底から湧き上がるモンが止めらんねぇ
身体中が熱くって頭ん中が沸騰してて色々とめちゃくちゃになってちまったこのおれを
雛子が頬染めた可愛い笑顔で見つめてる。
こんな状況、おれはホントにもうすぐ死ぬんじゃないかとさえ思う。
だけどおれは、今は絶対ぇ死にたくねぇし
今だけじゃあなく、雛子が生きてる限り今世紀が終わろうとも死にたくねぇ・・・っつーかマジで今は死ぬ気がしねぇから
雛子がしてくれた説教はできる範囲で絶対ぇ聞くし
可能な限り片時も雛子と離れる気はねぇし
雛子のことは何が何でも絶対ぇ守るし
部活の帰りだって何時まででも待ってやる
あのノートだって、これからはすぐに出してやるし
雛子を傷付けるのは絶対ぇ嫌だから、手だってそう簡単に出す気はねぇ
今生きてても、雛子に嫌われたんじゃ意味がねぇ
きちんと思い合えてないと意味がねぇ
さっきまでそんなこと思いもよらなかったのに
たった数分でおれの世界は変わっちまった
好きかも、で止めとくつもりだった
やっぱ好きじゃねぇ、と腹の奥にネジ込んだのに
あの淑やかな雛子が、形振り構わず俺の名前を叫んだんだぜ?
俺なんかを健気に追って必死で口説いてくれたんだぜ?
いつまでもビビって我慢してる方がダサいっつーの
こんなの目の当たりにして放って置けるはずがねぇ
「雛子がいいなら・・・おれは雛子を彼女にしてぇし、おれでいいなら・・・雛子の男におれがなりてぇ・・・・・・おれこそ、よ、よろしく頼むぜ・・・・・・」
あああああああっちくしょーーーーーーーーーー
格好いい台詞も言い回しも全く浮かばねぇ・・・・・・
┈┈
┈┈
┈┈
┈┈
ふと見れば、すっかり舞い上がってフワフワと余韻に浸ってたおれに、愛しい彼女が手招きをする。
内緒話のように口に手を当てておいでおいでと手招きする彼女の仕草が可愛過ぎて、おれはあっさり吸い寄せられちまう。
特に深くは考えず、あっさり素直に雛子の口元に自分の片耳を預ける。
『あのね、私・・・まだ言ってなかったことがあるの』
「おう・・・何だ?」
『億泰くん、私・・・億泰くんが大好きだよ』
耳に唇が触れそうな距離でこっそり呟かれたおれはその場で完全にノックアウト。
その日は自分から告白するタイミングを掴めず玉砕し
結局その後も雛子のペースですっかりいいよーに転がされて骨抜きにされる日々
ま、それでもおれは超絶ハッピーだっつーんだから
誰も文句は言わねぇーだろ?
な・・・雛子。
お終い
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