もちろん、お安い御用だよ
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『いいじゃない、たまにはさ〜』
「ん〜でも.....」
『最近 彼氏が忙しくて暇だって言ってたでしょー構って貰えなくっていじけてなかったっけ』
「えっいや、それは、まあそうなんだけど...」
『全然会えない彼氏に気遣うことないでしょ』
「別に気遣ってる訳じゃなくて!」
『男性陣も来る事は来るけど合コンじゃないんだし大丈夫だって〜』
「えっ...」
『今日行くお店、ご飯も美味しいんだよ〜それに私がアンタと飲みたいの!皆とも一緒にね』
「ん〜」
.....まあたまにはいいか、どうせ暇だし。
どうせ今日も会えないんだろうし。
断るのも面倒になったし。
連日の一人ご飯にも飽きたし。
「わかった」
そう言おうとした時だった。
「やあ、ツグミ お疲れ様」
背後からかかる声。
「えっ.....え!ヤマト!」
大好きな彼がすぐ後に立っていた。
テンションだだ下がりで完全に気が抜けてた。そもそもヤマトが今ここに居るとか予想外過ぎたから。とか色々言い訳してもダメ。
瞬時に察知したかった、誰よりも早く一番に。
「あっと.....話してる最中に邪魔したかな、悪かったね」
「あっうん、別に大丈夫.....」
『あの、ヤマトさん』
急に現れたヤマトに驚きつつ、しばらく私達の見守っていた友人が口を開く。
「.....ん?」
『今日ツグミを飲み会に誘ったんですけど、連れてっていいですか?』
「は?ちょっと.....」
「えーと.....それはもう約束した事、なのかな」
『じゃあ、いいですよね』
「ツグミが行きたいなら、どうぞ」
何これ。何か勝手に話が纏まりつつある。
私まだ返事してなかったよね?
久しぶりに彼氏に会えたのに
二人して意地悪だ。
友人も友人だ。
ヤマトもヤマトだ。
友人の手前、行くななんて言う訳ないよね。
でも、本当に平気なのかもしれないの。
そんなの判断できないよ。
「.....じゃあ、行く」
「よし、じゃあね!夜6時位に迎えに行くね」
あんなに会いたくて寂しくて
優しい眼差しと優しい声、温もり、全部全部
ずっとずっと待ってたのに
張りたくない意地を張ってしまった。
きちんと顔も見られずに、またねと言ってヤマトと別れる。やっぱり行くなって今なら言ってくれるかな、なんて小さな期待はかすりもせず、ヤマトは笑って手を振った。
ヤマトはいつもそう。
仕事柄当たり前なのかもしれない。
切り替えも上手なんだろう。
でも私はヤマトに出会って
付き合うようになって変わった。
会えない日が続いたら寂しいし心配だし
会えたらもっと一緒に居たいって願ってしまう。
大人の余裕、なのかな...
私より少し年上なだけなのに。
私ばかり好きみたい.....とかなんか
少女漫画でよくある展開.....
でも、ヤマトがちゃんと
私を想ってくれてるのも本当は知ってる。
私への眼差しも私を呼ぶ声も一際優しかった。
本当は少しくらいは傷付いてた?
どこか後ろめたそうだったのは
私を長い間放っていた事を気にしてるから?
遠慮なんかしなくていいのに
そんなのどうでもいいのに
今すぐにでも連れ去ってくれたらいいのに
私に会いたいと思って
都合をつけてきてくれたかもしれないのに
任務の合間をぬって来たのかもしれないのに
またすぐ里を離れてしまうかもしれないのに
次いつ会えるかわからないのに
私がバカだった
考えながら家を飛び出し足は駆け出していた。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
任務以外で息を切らすなんていつぶりだろう。
飲み会を断りに友人宅へ行き、その足でやって来たのはヤマトの家。
荒い息を整えるのももどかしい。
時間のないあの人を早く捕まえなくちゃと頭の中でずっとサイレンが鳴っているみたいに、突き動かされてもうドアの前まで後一歩.....
「ガチャ」
一歩手前で躊躇う私を導くように部屋のドアが開いて、ひょっこりとヤマトが顔を出した。
「......えっと...あの、いらっしゃい...ツグミ...」
その顔が、あんまりにも屈託なく驚きに満ちているものだから胸が高鳴ってすぐに言葉が見つからない。
「.....ツグミ?どうしたの?」
驚きが抜けてもう柔らかな顔で心配そうに見る瞳。お風呂上がりなのか、濡れた髪の毛からは雫が垂れそうになっている。
「ごめん、なさい」
顔を直視できなくて、ヤマトに正面からしがみつくように突撃すると、予想外だったのかヤマトの身体は簡単に玄関奥の壁まで到達した。そして、カチャッ...と独りでに扉の閉まる音。
「.....飲み会は?」
「.....断って来たの」
「そっか.....」
ハハッと気の抜けたように笑うヤマト。顔は見られないまま、必死で言葉を探すけど、何をどう伝えればいいかわからない。
「さっきは風呂入ってたら急にツグミの気配がしたから慌てちゃったよ」
「.....ごめん」
「ん?いいーや、全然、謝る事なんかないさ。好きな子が訪ねて来てくれたなんて、突然でも嫌がる奴なんていないよ」
あっけらかんと放たれた台詞〝好きな子〟それだけで簡単に気分が浮上する。確かに今すぐそばに触れられる距離のヤマトの心臓は私に負けない速さで忙しく暴れてる。
「今、僕の心臓かなりヤバい事になってるな」
「私.....のせい?」
「そりゃそーでしょ.....予想外だったし」
急に訪れて可愛い事も言えずに突撃したこんな私を。当たり前に受け止めてくれる人。
「あっほら、水が.....髪洗ったままだったからな.....こんな事してたらツグミまで濡れちゃうな」
少し笑いながら肩にかけたタオルで水滴を拭う仕草が優しくてゆっくりで何となく照れ臭い。言葉が見つからなくて、じっと俯いたまま身を委ねる。私はやっぱり甘ったれだ。だけど、そうやって甘やかされることにホッとして肩の力が抜けて、ようやく顔を上げられた。
「.....ごめんね.....行くなんて言って」
優しい手付きと困ったような眼差しがせっかく留まっていた涙を誘う。素直になりたかっただけなのに涙が出ちゃうなんて本当に弱くてダメダメだ。
「僕こそ、ごめん.....ツグミを泣かすつもりなんかなかった」
「私が可愛くなかったから.....」
「そうじゃないよ、僕が素直じゃなかったからだ。僕がああ言えばツグミが拗ねるかもなんて予測できなかった訳じゃないのに」
「えっ...わっ.....」
息が止まるかと思った。抱き締められた素早さと、私が拗ねるかもなんて思われてた事、どちらにも。隙間なく抱きすくめられて苦しいのにどうしようもなく満たされる。
「行くなってたった一言が言えなくて.....めちゃくちゃ後悔して頭がカーッとなっちゃってさ。...だからシャワー浴びて頭冷やして.....後で君んちに行こうって考えてた」
「.........うん」
「久しぶりに会えたんだよ?短い時間でもツグミと一緒に居たいに決まってるだろ」
肩に寄せた私の顔のすぐ隣、耳元で響く低く掠れた声。こんな余裕のないヤマトなんて知らない。同じ気持ちだった、それが嬉しくて嬉しくて堪らない。
「ねぇ、ヤマト.....時間が許すまででいいから、今日はずっと一緒に居てくれる?」
「.....もちろん、お安い御用だよ」
逞しくて大きくてあったかい、ずっとずっと待っていた温もり。ぎゅっとヤマトの腕に力が込められて、私からもヤマトの背中に手を伸ばしてぎゅっとしがみついた。
終
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