だから、安心しておいで
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「令和、俺にもお茶ちょーだい」
ヒョイと顔を出して、いそいそと近付いて来るその人は。
「カカシさん!お疲れさまです」
私の恋焦がれる人だ。
待機所で一人お茶を飲んでいた所になんてラッキー、二人きり。.....とは思うけど、緊張するから気の利いた事も言えず毎度お茶をいれるだけ。
私、態度おかしくなかったかな?
浮かれてない?キョドってない?
平然を装って、ただただ、カカシさんのために美味しいお茶をいれて、そっと差し出す。
「どうぞ」
「ん、ありがと」
おばあちゃん子でいたおかげで知らぬ間に身に付いた特技。
「ん〜今日も美味いね〜」
ご満悦なカカシさんの顔。
ホッと一息つくような仕草。
私も肩の力が抜けてホッとする。
「生き返った」
そう言って片方だけ覗いた瞳がアーチを描く。私はそんなカカシさんの笑顔に癒され生きている.....なんて大袈裟かな。
「ん?何か面白かった?」
「えっ、いや、別に...何でも.....」
「そーお?」
「はい.....」
「一瞬笑った気がしたんだけど俺の気のせいかな」
内心「ひえぇぇぇ」だ。
冷や汗が止まらない。
変な顔してなかったかな?
「なーんかいつも悪いね、俺ばっかり癒して貰っちゃって」
「いっいえ!大丈夫です、気にしないでください.....好きでしてるので」
「......ふーん......」
「.......」
あああ、好きとか言っちゃった!
何やってるの!紛らわしい事言った!
もう迷惑でしょ!!
「ああああの、本当にお茶をいれるのが好きなんです私.....だからいつでも言ってくださいね」
「そーだね、令和、お茶いれてる時いい顔してる」
「そっ...そうですか?」
いい顔って!?どんな!?
「まあ、自分じゃ知る由もないか。.....けどさ、それ以外ずっとぎこちないから本当の所どーなのかなーと思って、ね」
〝それ以外ずっとぎこちない〟
それは緊張してるからで
ドキドキしちゃうからで
失敗したくないからで
変な顔とかしたくないからで
カカシさんが居るからです.....
「もし嫌ならいーんだよ、断っても。職権乱用なんてシャレになんないでしょ」
断る訳ない。上司だからじゃない。
冗談だってわかるけど
そんな台詞はちょっと笑えない。
「そんな事...嫌なんて思った事は一度もありません。それに、職権...だなんて大袈裟ですよ、お茶くらいで」
笑って言われてるのに
冗談でも悲しくなる私が変なのかな。
「まあまあ、そー拗ねないで」
私の気持ちも知らないで
カカシさんは困ったように笑う。
「ん〜〜〜〜〜だからさ、俺と居る時はもうちょっと肩の力を抜いてもいーんじゃないの?って事」
「...え...」
「いつまでもこーいうのは寂しいでしょ」
〝寂しい〟と困ったように笑う優しい瞳。
片目だけでも簡単に私を捉えてしまう瞳。
相槌も何もかも、方法を忘れたみたいに、私はただカカシさんから眼が離せなくなる。私の反応を待つようにしばらく黙っていたカカシさんは、耐え切れなくなったのか相変わらず困った表情のままで口を開いた。
「あのね.....お茶ももちろん癒しだけど、俺が令和に会いに来るのはそれだけじゃないんだからさ.....ってこれ、もしかしてセクハラだったりする?」
「.......カカシさん!?」
「あ、やっと喋った」
そこまでして喋らせなくたっていいのにと抗議の視線を送ったのに、カカシさんは余程面白いのか楽しそうに声を上げて笑う。
「令和の可愛い笑顔が見たいだけなんだけどなぁ」
ヘラヘラと笑ってすぐに空気を変えてしまうカカシさんは、何だか狡い。もう困った様子は微塵もなくて、遊ばれてるのかもなんて疑ってしまいそうになったけれど、一頻り笑い終えたカカシさんの真剣な顔に胸がドキリと跳ねる。
「俺、本気だよ?」
一際低い身体の芯まで痺れてしまいそうな声。
「.........................どの辺がですか?」
そう呟けば、カカシさんがキョトンとする。
「.....ん??え?どの辺って、全部って言うか、あれ?伝わんなかったかな今ので」
「全部、ですか?」
「そう全部.......まあ、若干余計な事も言ったよーな気はするけど」
カカシさんは照れ臭そうにそっぽを向きながら呟いた。確かに若干余計な話もあったけど〝本気だよ〟それだけで本当は充分に伝わった。いつもより優しい瞳が揺れていて、胸が少し痛かった。戸惑って少しだけ怖くて、やっぱり狡い、そう思う。
「.....俺は、こうやって会うんじゃなく、令和に会いたい時に会いに行ける、令和のお茶を飲みたい時に飲みたいと言える、そんな気兼ねない関係になりたいの」
「こうやって会うのじゃダメですか?」
「ダメに決まってるでしょ、俺は令和のことが好きで令和とより親密になりたいの。令和が他の奴にお茶いれるとこなんて見たくない」
「たかがお茶ですよ?」
「されどお茶って言葉知らないの?」
カカシさんがお茶くらいで嫉妬なんて嘘みたい。
それが、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
「私、カカシさんのためにお茶をいれる時が一番好きです」
「そんな令和を見てるのもいいけど.....俺はもう見てるだけじゃあ足りないよ」
そんな台詞、面と向かって言える人が本当に居るとは思わなかった。冗談めいた台詞の中にどれくらい本気が隠れているんだろう。
「.....私だって、カカシさんにいつも癒されて元気を貰ってました」
「それなら、もっと笑ってよ」
「私...カカシさんの事、好きでいていいの?」
「そうじゃないと俺が困るの」
私の返す言葉を聞いて心底嬉しそうに笑う顔。
甘過ぎる台詞にさえキュンとする。
「.....だから、安心しておいで」
そう言って、カカシさんはふわりと大きく両腕を広げて笑う。
さすがにこれは恥ずかしい!
どうしようとドギマギする私を見て、カカシさんはワクワクなのかイタズラなのかイキイキした表情で待っている。と、躊躇う私に気付くとしゅんとしてしまった。
もう.....仕方ないなぁと、私はカカシさんの方へテクテクと歩いて、あと一歩...という所で止まり、カカシさんの片腕にちょっとだけ頭を寄せてくっつける。
「.......えっ.....」
カカシさんの小さく挙げた戸惑いの声にも反応できない、もうこれが今の私の精一杯。
「.......つーかまえた♪」
結局カカシさんの大きな手が伸びて来て、あっさり腕の中に抱きすくめられてしまった。
まだ自分からカカシさんに飛び込める勇気はないから、これからはこうやって甘やかされながら少しずつ勇気を集めよう。
そしていつか飛び込める勇気が手に入ったなら、その時はきっとカカシさんを甘やかそう。なんて、夢見心地で彼の胸に身体を預けている私だった。
終
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