とっくの昔に好きだった
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「シノ君」
「.........」
「.........」
「ナタネか」
リアクション薄!
心の中でだけそう突っ込む。うーん、相変わらずだなぁ。だけどやっぱりこれがいい。相も変わらずいつも同じようにそこに居てくれる。
「シノ先生、お疲れ様」
「.......ナタネに〝先生〟と呼ばれるのは妙な気分だな」
「私も言ってみたら変な気分」
「だが、案外悪くない、それもまた妙だ」
ドキッとした。早い早い早い!不意打ちだ。
「.......なんだ?」
「ううん何でも」
思わずじっと見入っていた横顔に問われて慌てて前に向き直る。
「今帰りか」
「うん」
「最近は忙しいのか」
「うーん、それなりに。有り難い事に最近は平和だから、シノ君の方がずっと忙しいかもね」
一通りの挨拶を済ませて、しばらく共通の帰り道を歩き出す。斜め下から様子を伺っても、大きなゴーグルが邪魔で感情が解りにくい。
「アカデミーの子ども達、かわいいでしょ?」
「.......それは難しい質問だな」
「またまたぁ、口元が緩んでるよ」
「ん...?....そうか?」
そう言って、ほんの少しだけ驚きと戸惑いを見せてシノ君は口元に手を当てた。ガラ空きの口元の様子だけはよく解る。声色も多少は変化に気付けるつもり。
「去年はだいぶ賑やかだったからな.....それと比べると今年の生徒達は大人しくて、もう少し元気があってもいいくらいだ」
「ちょっと羨ましいかも」
羨ましいのは先生じゃなくて生徒の方だったりして。なんて気付く訳ない事をこっそり思ってみる。
午後五時。アカデミーからほんの少し離れた通りでこの人の帰宅時間に合わせて待ち伏せをした。
スラッとした長身に髪の毛は纏めたチョンマゲ。我らがお馴染み上忍ベストカラーのジャケット。顔の大部分を覆うのはメガネ...じゃなくてちょー近未来的なゴーグル。これのおかげでますます感情が解りづらくて本当に困る。そもそもゴーグルなのか?これは...
昔はもうちょっとシンプルでスマートな格好だったのに。私はそっちの方が好きだったんだけどなぁ。
「今日はこれをからかわれたな」
「えっ」
「そんなにおかしいだろうか、これは.....」
ふいに例のゴーグルに手をかけて今にも外しそうなシノ君に目を見張る。
「やっ!いや、あの、そんな事はないんじゃあないかなぁ.....?」
慌ててそう言うとシノ君はそれにかけた手を下ろしコチラを向いた。
どどどどうしよう、ついフォローしちゃったけど、私も本当は前の方が好きで.....でも今ここでそれ外すとか裸眼とか絶対眩し過ぎるし私も素顔を拝む心の準備が.....!!
「相変わらず嘘が下手だな、ナタネは」
「へ.....」
「可愛い嘘なら幾らでも聞けるが、今のは少々堪えた」
「シ、ノ、く.....あの、えっと......」
え?え?え?
「だがこれはやめないぞ。なぜなら俺にも意地があるからな。今更止めれば生徒達に舐められるだろう」
「.....うん.....」
「それと.....」
動揺する私に構わない様子で〝やめない〟と断言して続けた台詞、何故かシノ君は躊躇うように一度口を閉じてしまった。
「これに替えてから視線を感じるからな」
「.....え?」
「お前の視線だ」
「!!」
息が止まるかと思った。
「これに替えてからお前の視線を痛いくらい感じるようになった。何故かは解らんが、間違いなく、以前より俺を見てくれるようになっただろ」
〝見てくれるようになった〟
そう呟いたシノ君の声色に身体が痺れる。
「おかしいと思われてるだけなのかもしれないが、お前が俺を気にしてくれている、それは何物にも代えがたい事実だからな」
物凄く仰々しく言うような事じゃないのに、面白いよね、シノ君は本当に。
「.......確かに私、前のサングラスの方がいいな.....でもそれは、サングラスの方がわかるからだよ、シノ君の表情が」
「表情?」
「だって、今のそれじゃ表情が...感情がわかりにくいから.....だから、つい観察するみたいに見入ってた.....かも」
「.....観察」
本当はただ見惚れてたのが大半ですけど...なんてね、さすがにそれは。
「何故だ」
「.....え?」
「何故、観察するような真似までして俺の感情を解ろうとする」
「えっ.....」
「何故、俺の事を知りたいと思う」
ズバリ、尋ねられてしまった。ああ、これは、こういう状況は完全にシノ君の方が上手だ。まずい、誤魔化せる?ヤダ、無理!ダメ.....
「...............」
「すまん.....解りづらい自分を棚に上げてお前の感情を探ろうなんて虫が良すぎたな」
「.....」
「ナタネは気付いていないかもしれないが、俺だって観察...らしきものはする」
「.....らしきもの?」
「なぜなら、ナタネは感情が表に溢れ過ぎてるからだ」
「へ.....」
「誰と居ても笑って喋って、時々怒って悲しんで.....無邪気だ」
「む...無邪気?」
無邪気?私が?そんなの初めて言われた...私そんなタイプだっけ.....?ごく普通のありふれたタイプのはず.....だよね.....
「だから解らない」
そういう風に見えているとは思わなかった。そういう見方があるって事も知らなかった。私が無邪気かどうかは別として、無邪気で感情表現が豊かな人はある意味 解りにくいらしい。
「俺の見ているナタネはいつも表情がよく変わる。.....こういうのをなんと言うか.....
楽しい、見飽きない、面白い、癒される、ホッとする、かっ.....い、
いや、とにかく」
今っ今っ今.....〝かっ.....い〟て、かわ...いい?とか...だったりして.....
「ナタネはいつも幸せそうだ」
それは何故か、私は知ってるよ。
シノ君と居るからだよ。
シノ君が見ている私がそう見えるのは
私がシノ君を好きだから。
そして、シノ君はそんな私を見てくれていた。
たまらなく嬉しい.....
「うん.....幸せだからね、私」
「.......」
「〝何故だ〟って聞かないの?」
「そう、だな.....ちょっと今はそれどころじゃない」
「ん?何.....」
斜め上を見上げれば、私から顔を背けたシノ君がいて。一瞬、避けられたかと思う、だけど。
「シノ君.....」
「家まで送っていいか」
目も耳も首も見えないけど、頬は丸見えだ。ほんのり染まったシノ君の頬が。
「私...」
「俺が言いたいのは」
想いの溢れた私の言葉を遮るシノ君は正面を向いていて、歩みを止めた。
「ナタネともう少しこうして居たい、という事だ.......その、お前がもし良ければ、だが.....」
気付けば、もう二人の帰り道の分岐点。
「私も.....私もシノ君ともう少し一緒に居たい」
こちらを見てくれない横顔に、私は溢れる想いのほんの少しをぶつける。
「.....じゃあ行くぞ」
ズルいよ
シノ君は眼を隠してるのに私から目を逸らすなんて。もっと堂々と私を見つめればいいのに。すましたようにまた歩き出して。
ああ、でもズルいのは私も同じかな
だって、それのせいでシノ君の視線がよく解らないのをいい事に何度もシノ君を見つめて来たんだから。
1/2ページ