その後輩にご用心
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「ツグミ先輩!」
資料室で調べ物をしていたら、後輩がやって来た。ほんの少しだけ歳下の彼は、いつも風のように私の元にやって来る。
「ツグミ先輩、おはようございます」
「今日はいい天気ですね」
「ツグミ先輩は花粉症とか大丈夫ですか?」
普段のイメージより少しだけ無邪気になって私に語り掛ける楽しげで穏やかな顔。それでも普段が落ち着き過ぎだから、これくらいが年相応でちょうどいい。
「ここら辺も桜がだいぶ見頃になりましたね」
「先輩はもう花見には行きましたか?」
「今日は暖かくて絶好の花見日和ですよ」
「週末くらいになれば桜吹雪が綺麗でしょうね」
「でも来週からはしばらく雨が続くそうです」
「花見するなら今週末までですよ、ツグミ先輩」
しばらく窓の外に向けていた視線を私に戻すとニッコリと笑った。
(.....お花見、行きたいのかな?)
「.....ツグミ先輩」
この流れは誘われる?ついに誘われる?今日はちょうど暇なのよ?日頃良くして貰ってるし?週末だって多少は時間とれるかもよ?君とのお花見...やぶさかではないですよ?あ...どうしよう思ったよりドキドキする.......
「もしかして桜よりチューリップの方が好きですか?」
「え?う、うん、そうね、チューリップ好きだよ.....」
「あーそうだったんですね!僕とした事がこれは迂闊でした」
ん???
「でもここら辺のチューリップ畑の見頃はあと少し先ですかねぇ.....」
目の前の後輩の頭の中にはどうやらすでに〝桜〟も〝お花見〟も無くなっているらしい。
「またその頃にお知らせしますね」
「じゃ、僕はそろそろ失礼します」
そう言ってまたニッコリ笑うと後輩は満足気に向こうへ駆けて行く。爽やかな風。
「ぷはぁ.......」
(ドキドキを返せ~~~~~って、アレ?私なんでドキドキしたんだ?)
やれやれと胸をなで下ろしながら、窓の外を見る。
ピンク色の花びらが風にそよそよと揺れている。
最近考えていた。
君はどうして私の所に来るのかなって。
楽しいし嬉しいしちょっと可愛くて
余計な事をして失くすのが惜しい。
だから、今まで深く考えないようにしてた。
でも、最近の私はちょっと拗ねているのかもしれない。
肝心なことはいつも何も言ってくれなくて。
君がどうしたいのかが解らないから
私だってどうしたらいいのか解らない。
**********
「ツグミ先輩は僕の好きな人が誰か解りますか?」
ある日、唐突に尋ねられた。
挨拶はかろうじて交わしたけれど、二言目がこれだ。珍しく神妙な面持ちで黙り込んでいたと思ったら。驚いた、とにかく驚いて、じわりと迫る焦る気持ち、変な気分。
「解りますか?それとも解りませんか?」
「え.....え?なに?なんで?」
思ったまま、疑問しかなくて。
「いえ、何でもありません。そうですよね.....解る訳ないですよね、僕なんかに興味ないですもんね」
目の前で俯いたまま低く呟いた後輩は、今まで穏やかに笑い掛けてくれてた人とは別人みたい。
「少しくらいは伝わってて欲しかったけど、駄目だった。僕もツグミ先輩の事が解らなくなりました.....もう、こうやって会いに来る事は止めます」
無表情なままそう言うと、後輩は呆気にとられた私に構わずに行ってしまった。最後は眉毛一つ動かさない無表情で私を見ていた。
(私、何かした?)
いやしてない。それなのに。さっきだって突然変なことを聞くから返事ができなかっただけだ。というか、さっきの質問は何だったんだろう。
おかしいのはヤマトの方だ。虫の居所でも悪かったのだろうか。仕方ないたった一度の過ちくらい目を瞑ろう。
それにしたって急にあんな質問、何か悩み?そう恋愛の悩みとか?だとしたら複雑。微妙な距離感のはずの私にぶつけてくるには重い質問...ますます気持ちを見失う。思わず出た溜息。
ふいに人の話し声がした。
後ろを通り過ぎる気配。
「なぁなぁ、ヤマトの奴、彼女出来たらしいぜ?」
「え!?マジで?」
「俺もさっきそこで聞いたんだけどさ、堅物だと思ってたけどやる時はやるんだな」
「あーアレか、前から噂になってた子だろ?人目も気にせず健気にアピールしてるって聞いたけどその子かな」
「さーどうだろ?ところでさーーー」
嘘
嘘だ
前から噂になってた子?人目も気にせず健気にアピールしてた?それって誰のこと?
真面目で堅物だと思っていたヤマトが気にかけてくれてる事が嬉しかった。だけど本当は他の子にもそんな事できるくらい器用だったんだ。
さっきだって急に態度変えちゃってさ、おかしいと思った。.....そうじゃない、私が勘違いしてただけ。そう、勘違いしちゃったんだ....情けない........
〝解る訳ない〟
〝先輩の事が解らなくなりました〟
たった二言に気付かないうちに傷付いた。
ちゃんと聞いてあげれば良かった。解ってあげられなくても聞いてあげれば良かった。励ますくらいできたかもしれないのに.....
だから、今度会ったら言うんだ。
きっと笑顔で「良かったね」って。
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