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「もう今年度も終わりだね」
「そうだね」
「...三月も半ば過ぎたしね、世の中は卒業式とかホワイトデーとかも終わったしね」
「そうだね」
「ホワイトデーと言えばね、今年のバレンタインなんだけど、AもBも彼氏ができたんだよ〜」
「それはこの間も聞いたけど.....ツグミ、まさか忘れたの?」
まさか、忘れるわけありません。
ちゃんと聞いててくれたかなって
確認したかったの。
あと、ヤマトに訂正とか注意されるのが割と好き。
少し笑われながら
仕方ないなって感じで見つめられると
ドキドキする。
「んーと、相手ってMとNでしょ?この間、自慢されたよ」
〝んーと〟だって、何それ。
一瞬だけど大好きな思案顔が見られて
ついでに口調が可愛くて顔がにやけちゃう。
「あっ...ああ...そうなんだ?」
「うん」
「ヤマトにはさ...」
「うん?」
「そういう自慢話はないの?」
そう、これは所謂偵察だ。
バレンタインとホワイトデー
ヤマトにも何かあったのか何もなかったのか。
どう聞き出せばいいのかって
この前も似たような切り口で聞こうとしたけど
結局挫折。
さて、今回は上手く聞き出せるのか…
「.....」
ヤマトの目が丸くなって瞬きを数回してのち
「無いね」
真顔で言う。
「ふ、ふぅん」
早いし簡潔だし!
私の聞き方が回りくどいのは自覚してる。
意味が伝わらなかった可能性もあるし
逆に意味ありげに取られた可能性もある...
けどコレはすんなり伝わった方?
「それよりさ、ツグミって毎回変なこと聞くよね」
とりあえずクリア?とホッとしたのも束の間。
まずい、まずい。
聞きたい知りたいが先走り過ぎて
自分がどう見られるかをすっかり疎かにしてた。
好きな人に対してまさかの凡ミス!
「とか言いつつ面白くて、最近ちょっと楽しみになってきてるんだけど...なんてね」
な、な、なななな!なんてね!
なんてねなんて私は流せませんが!
変で面白いって!楽しみって何ーーーーーーー
真顔でそんなこと言わないで!
「あは...面白い?私が?それはあの、喜んでいいのかなんと言ったらいいのか...」
「君にとったらさ、他愛もない暇潰しなんだろうけど、僕はそういうの嫌いじゃないからいつでも聞くよ」
泳がせていた視線
台詞に吊られてちらりとヤマトに移せば
ヤマトはとても優しい顔で
すでに手元の本に目を落としていた。
「.....いいの?」
「どうぞ」
嘘...何これ何の罰?いや何のご褒美?
意味がわからない。
「何で?」
「何でって...さっき言わなかったっけ僕」
「面白いから?」
「うん、まあそんな感じで」
「楽しみって?」
「うん、そうだね...」
「他愛のない暇潰しに付き合ってやろうかみたいな?」
「.....つっかかるね?」
「.....全然、嬉しくない」
「は?」
素直じゃない、可愛くない私。
せっかくのヤマトの申し出を突っぱねる。
途端にヤマトの眉間に皺がよる。
あんなに優しい顔をしてたのに。
バカだバカだバカだ。もうヤダ!!
両手で顔を覆う。
その優しさは私が欲しい優しさとは違う。
そう言ってしまえたら。
「...何が気に食わないのか知らないけど」
しばらくの沈黙があってから
ヤマトは溜息混じりに言う。
「仲のいい友達に恋人ができて遊び相手が居なくて寂しがってる子に優しくして何が悪いの?」
「...え...」
「...え?」
寂しがってる子=私!?ぼぼぼぼぼっっ!!
一気に身体が熱くなる。
「あれ...僕、変なこと言ったかな」
私の反応が急変したせいで
ヤマトはそう尋ねるけど
私は私で逆上せてそれどころじゃない。
「まぁとにかく...僕にできるのは君の話を聞くことくらいだと思ったんだけど...」
「お役に立てずごめんね」と言わせてしまった。
何てことだ。ヤマトは何にも悪くない。
「あの...もしかして怒ってるのかな?」
違う、あれもそれもこれも全部違う。
私がこんなだから全部違う方に向かった。
「ええと、ツグミ?」
「っ...きなの」
「え?何、聞こえな…」
「ヤマトが好きなの」
両手を退けてやっと口にしたら
ちょうどこちらに身を乗り出していたヤマトが
すぐ目の前にいた。
ーーーーダメ、死ぬーーーー
「は?」
またヤマトの眉間に皺が寄ってしまった。
「好きって.....僕を?」
うん
「ツグミが?」
うん
「誰を?」
「ヤマトを」
「誰が?」
「私が」
「そんな話は初めて聞いたんだけど」
そりゃそうだ、初めて言ったんだから。
怪訝そうな反応が怖過ぎる。
「確かに面白いとは言ったけど、こういう冗談はあんまり好きじゃない。というか、冗談に出来るほど器用じゃないんだ。訂正するなら早くした方がいいよ、ツグミ」
ダメだこりゃーーーー
力が抜けて机に突っ伏した。
もうもうもうもうもう!!!
「もう.....どれだけ寂しがりだよ」
項垂れてたら、頭を優しく撫でられた。
「~〜~〜~!!だからそうじゃなくて!本当に好きなの!寂しいとかじゃなくて!!」
頭の温もりは惜しかった。
惜しかったけど、もっと欲しいものがある。
ガバリと起き上がって言った。
もうはっきり告げてしまった。
どうだ、これで解ったか!
「.....」
たじろぐような反応、目を逸らされて
今度こそ伝わったんだと解る。
ああ...次に何と言ったらいいんだろう。
ほら見て、ヤマトの顔
何だか不満そうな目でじっとこっちを見てる...
これは何でだ?
叱られる?
「僕、バレンタインに君から何も貰ってないよね」
「..あ、うん...そうですね...」
ガツンと来た
そうです、あげられませんでした、すみません
あげられなかったくせに、何でしょうね、
今ちょっと怒りに任せて告白したみたいで私、
最悪ですね…
「何故だかAとBはくれたけど。そのせいでMとNに色々聞かれて面倒だったってのはツグミには関係ないんだろうけど」
ギクリ
「逆にさ、MとNからはツグミに貰ったって聞かされて、まあそれは義理だって話だったけど、はっきり言っていい気はしなかったよ」
ギクリ
「その時も今も」
バレンタイン関連の諸々を含めて
後ろめたい気持ちの私に耳に届いたのは
少し弱った優しい声。
「バレンタインの時は来なかった君が最近よく来るようになって、本当に訳がわからなかった。誰かと付き合い始めた様子もないしそのままにしてたけど」
そうだよね、急に押し掛けるようなマネ
煙たがられてもおかしくないのにね。
「ツグミを甘やかすのが楽しくて、だけどいつかツグミから恋の相談でもされるのかなぁなんてどこかで思ってた.....けど、違うのか」
そうです、違うのです。
さっきのでもう力尽きてヤマトの言葉に頷くだけ。
「それは良かった、僕もツグミを好きだから」
「...ぅそ」
「嘘なもんか。好きでもないのに容易く甘やかしたりなんかしませんよ僕は」
わぁぁぁぁ
物凄い羞恥心でもって、優越感、
それこそ甘やかされてしまった。
「だけど、反応が悪かったのはごめんね、しばらく封印するつもりだったから素直に喜べなかった...かな」
封印...てそれは私のせいですよね
色々と本当よく見捨てずに居てくれたと思う。
「ヤマトさん、あの、バレンタインの時渡せなくてごめんね」
「うん...て、何だよヤマト〝さん〟て」
「それと、これからもよろしく...ね」
「はい、よろしくお願いされました」
「えっ」
そこは普通
〝僕もよろしくね〟とか
〝こちらこそ〟とかじゃない?
何か意味ありげ!
「これからは思う存分よろしくできるのかと思ったら、何か.....」
「ちょちょっと言い方!」
イタズラな笑顔、初めて見た...格好いい...
じゃない、じゃなくて!
どうしようこんなの.....ちょっと悪くない
と思う自分が居たりする。
だってそれだけ見ていてくれるって事だもんね...
「.....お手柔らかに、お願いします...」
「.....望む所ですよ」
素直に甘える私に不敵に微笑むヤマト。
それは二人だけの大事な大事な時間の始まり、始まり。
終
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