とある木の葉の小さな話
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「初めまして、で 良かったよね」
差し出された長年の功績が伺える細いのに逞しい手。語尾に合わせてこちらに向けてほんの少し首を傾けたその仕草。真っ直ぐに落とされた黒目がちな優しいまるい瞳。ほんの少し微笑みを蓄えた顔には年齢相応に薄らと陰があり それが彼の実直さを物語る。
キタわコレーーーーーーーー
ツグミ、恋に落ちました。
「ヤマトさんって 結婚されてませんよね?」
初めましての挨拶と簡単な自己紹介もそこそこに、ツグミは木ノ葉丸を適当に追いやると ヤマトを捕まえて唐突に尋ねた。
「ぅえ゛!?」
わかりやすく変な反応を見せるその中年男性をツグミは可愛いと思ってしまう。そりゃあそうだ、初対面の人間に出会って数分でこんなことを聞かれたら、誰だって変な反応をする。そんなのツグミだってわかっている。
戸惑う自分を見つめてじっと答えを待っているツグミに根負けしたように
「ああ、してないよ」
できるだけ平静を装ってそう答えると、快活な瞳がより一層 輝いた。「ああ、やっぱり!そうですよね!」とツグミは嬉しそうに両手を併せて笑う。
デジャブ!?ドッキリか!?
ヤマトは何となく背筋がゾクリとして振り返ったが誰も何もないようだ。
これはどうしたことか。どう見ても自分に好意を寄せ始めているのは たぶん...木ノ葉丸と同期の歳は30前後のくノ一だ。
それにしたって「やっぱり」てなんだ。最初から決め付けるようなその言い方は少々鼻につく。僕はそんなにヤモメ感が出てるのか...
好意ありありな態度も隠さず ド直球。このままだと、無視も知らなかった振りも出来そうにない。早いうちに切り上げないと 何だか逃げ切るのが難しくなりそうな...
「ええと、じゃあ恋人は?」
「...いないけど」
「けど?」
「いや、何でも...」
「好きな人が居るんですか?」
さっきまであんなに輝いていた顔は ヤマトが言い淀めば、あっという間に曇ってしまう。
「いない、です」
それが妙に申し訳なくなり「居るからごめん」と言えばいいのに正直に答えてしまった。もう後の祭り。
「私、ヤマトさんを好きになってもいいですか?」
言われしまった。
モテ期って誰にでもあるのだ。
さっきまでしょうもない噂だと馬鹿にしていたソレが、こんな中年の自分に巡ってくるなんて。どうせなら、もっと若い時期に来るべきだろうに。寄りにもよって こんな短期集中とか、四十過ぎとか、いったい神様はどれだけ意地悪なんだ。
「ええと、うーん、それはどうだろう?」
まずは一旦落ち着こう、君も僕も冷静にならなくちゃぁいけない。
「ダメ、ですか?」
そんなに悲しい顔をされても困る。幾ら歳とってたって、僕には対抗できるスキルも経験値もまるでないのだ。
「ダメというかツグミ、君 僕のこと何も知らないでしょ?」
「これから教えてください!」
「そこまでして貰う必要なんかないよ、僕はきっと君の思うような人間じゃないから」
まだ30だろ?本気でも遊びでも楽しめる相手が他に幾らでも居るだろう。僕と付き合おうなんて 墓場に片足を突っ込むようなもんだ。
「それは私だって同じですよ」
何とかやり過ごそうとする僕を必死に見るツグミの瞳は案外 色気を伴って見える。
「ヤマトさんが思ってるような人間じゃないと思います」
グダグダと抜かす僕の心をまるで見透かすようにツグミは凛とした顔も持ち合わせているらしい。
「だから付き合ってみませんか? しばらく里にいる間だけ、お試しでもいいですから...」
それが今度はしおらしく俯いて 言ってることははっきりと積極的。僕はもうどう判断するべきかわからなくなっている。
「この歳で お試しってのもないだろ」
そう言って苦笑する僕の手はもうツグミの手を捕まえている。
「君のこと、ちゃんと教えてもらおうか」
(この責任はどうとって貰えるんだろう)なんて考えに行き着いてしまうのは、僕がオジサンだからかな。隣でまだはしゃいでいるツグミを見ながら ヤマトはやれやれとぼやいて少し顎をかいた。
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