三十にして立つ
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ごめんなさい!
さようなら!
さようなら......
さようなら............
俺は振り返らないで走り去る彼女を追いかけることができなかった。
「今帰った......」
マスクのせいで顔色が伺えないが、確実に気を落としている。
「キラーのやつどうしたんだ?」
「さあ」
目の前をふらふらと通りすぎる相棒の姿に、隣にいるヒートと顔を見合わせる。
周りのクルーと目を合わせるが、皆首を横に振るばかりで落胆の原因を知るものはいないようだ。
せっかく時代が動こうとしているのに、一体どうしたというのか。
本人に直接聞くのが手っ取り早い。
そう思い部屋で落ち込んでいる相棒のもとへ寄る。
「おいキラーどうしたんだよ。
これから新世界だぜ。
腹でも壊したのか?」
「............たんだ......」
「はあ?」
「フラれたんだ......」
帰ってきた言葉は全く予想していなかったことで、珍しく面食らう。
「今から新世界行こうってときに何ふざけたこと抜かしてやがる。
女なんかその辺にいるぜ。
時間やるからちょっと抱いてこいよ」
親指で陸を指差す俺にどこを見ているか分からない顔で振り向く。
ふざけたこととは言ったが、俺にだって失恋の経験くらいある。
しょうがないちょっくら船長として慰めてやるかと情けをかけたことを後悔することになる。
「冗談はよせ......。
それに割りと本気だったんだ......初めてデートしたときも嫌な顔してなかったし......。
「デート?」
押したら逆効果かと思ってすぐ帰ったのが悪かったのか?
やっぱり家に送り届けるまでしないと好感度ってそこまで上がらないのか?
電伝虫の番号でも渡して毎日朝晩の挨拶した方がよかったのか?
「おい」
シャボンディパークで一人で遊んでるのに見かねて偶然を装って二人で遊べばよかったのか?
......ああたぶんそうだ。
そしたらツーショット写真も手に入ったかもしれないのに!
「ちょっとまて」
ポップコーンを一人で砂でも噛むように食べてた顔も少しはましになっていたかもしれない......!
後悔だ......後悔しかない。
なんであのとき声かけなかったんだ俺は!!
そしたら彼女も運命を少なからず感じてくれたかも知れないのに......。
「おい馬鹿野郎!」
あぁそうだ馬鹿野郎だ......俺は大馬鹿野郎だ!!
こんなにも時間を巻き戻せたらいいのになんて思うのはドルヤナイカちゃん以来だ!」
うぉぉおお!!とマスクの穴という穴から謎の汁を垂れ流し手足を床についてうなだれるキラー。
(うぜぇし汚ねぇ......どうでもいい......つうか)
「女の一人や二人拐ってこいよ......。
無理矢理船に乗せちまえばいいじゃねぇか」
「!!
なるほ......いや、だが、どうだろう......それは......航海に連れていくのは危険だしな......。
それはだめだ......キッド」
わっと背中を丸めてメソメソ震えている殺戮武人。
(うっぜぇぇええ!!)
「そいつの名前は!?」
キラーは腕と膝をついたままこちらを見上げて首を傾ける。
猫かよ。
二十半ばなんだからしっかりしてくれよ!!
「お前のその態度、うぜぇんだよ!
興が削がれるだろうが!!
探してきてやるからその女の名前と特徴教えろよ!」
汚いマスクを掴んで立たせる。
怒りでマスクがミシミシいっているがお構いなしに締めあげる。
「キッド......マスク、割れる......!
言うから離してくれ!」
名前はリーベラ。
妖精かと見間違うような小花柄ロングワンピース。
ミルクティー色の緩いウェーブのかかったふわふわの長髪。
アーモンド色の美しい瞳......ってなんじゃこりゃあ!!
いちいち表現が気色悪ぃ!!
鏡見ろ!!
「そして俺にとってのスイートストロベリーパイだ......」
胸に手を重ねて小首を傾げる姿にサーー......っと血の気が引いた。
(ああ......こいつ、もうダメかもしんねぇ......)
早くリーベラってやつと引き合わせて、なんとか正気に戻ってもらわねぇと!!
クルーを甲板に集め声を張る。
「お前らぁ!!
リーベラって女をここまで連れてこい!
花柄のワンピース!
茶色い髪!
茶色い目!以上だ!」
「妖精みたいな、ミルクティい「連れてきたやつには特別に褒美をとらす!!さっさと行け!!」ちゃんと言わないと分からないだろうが!」
「うるせぇよ......どの面下げてストロベリーパイだよ勘弁してくれよ......吐きそうだぜ」
降って湧いたボーナスゲットのチャンスに、クルーの目の色が変わる。
ボーナスで人魚カフェ行くぜ女だ酒だと盛り上がる船員達に安心する。
そうそう海賊はこうじゃねぇとな。