三十にして立つ
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あまりにも無礼な言葉が聞こえた気がして、思わず拳をふるってしまったわ!!
殺されないかしら!?
「くそっ!とにかく!!
話が終わるまで絶対に出てくるなよ!
お前らがくっつこうがなかろうが知ったこっちゃねぇがな!
あいつが腑抜けになるような真似だけはするなよ!!」
どすどすと足音を立てて出ていく船長さん。
よ、よかった。
私ったら強運だわ!
しかし何も解決していない。
あの船長さんは私に何をしてほしいのだろうか。
くっつくとか腑抜けとかよくわからない言葉を残していったけれど。
キラーさんと同じ部屋にいるのが気まずい。
このまましれっと出ていこうかしら。
ドアと向い合わせでじっとしていると、やっと彼から声がかかった。
「なんでキッドのこと殴ったんだ?」
「え!?ちょっとね!
不適切な表現があったから教育的指導をおほほほ」
船長さんの年増発言は聞こえていなかったのね。
使った右手を体の後ろに隠しながら振り返る。
そこにはマスク越しに口許を押さえふるふると震えているキラーさん。
驚いて走り寄る。
「大丈夫!?気分でも悪いの?」
「いや、あいつに鼻血をふかせるとは......この手首の件といい、意外とやるな」
どうやら笑いを堪えていたようだ。
条件反射的に無意識に発せられた言葉は会話の切っ掛けとしては悪くなかったようで、指で止めていた秒針を離した時のように動きだした。
「コーヒーしかないが、それでいいか?」
「あ、ええお構い無く......」
するとドアをあけ、外の人にコーヒー2つと注文していた。
え、あの人コーヒー係とかじゃないよね。
この船のクルーよね。
棚の戸を開けて、コーヒーがくるまでこれでもつまんでいようとスティックビスケットを出してくれた。
この形状はもしやと考えていると、彼はつまんだ1本を躊躇なくマスクの穴へ差し込んだ。
サクサク音が聞こえるので、食べているのだろう。
その姿が可愛いと思ってしまった私は拐われる途中で頭のネジが飛んだのかもしれない。
サクサクサクサクサクサク
「美味しいですキラーさん」
サクサクサクサクサクサク
「味もだが、このシリーズは食べやすくて良いんだ」
思ったよりも早くコーヒーは届いた。
コーヒーの良い香りに口角があがる。
たまにはブラックもいいわね。
「......すまなかったな」
ビスケットが半分ほど減った頃、汚れたマスクを拭いて改まった口調で謝罪された。
「強引に連れてこられたんだろう?
怖かったと思ってな......。
本当は俺が迎えにいきたかったんだが、キッドに止められてたんだ」
「なんで、皆さんで私のこと探し回っていたの?」
「伝えたいことがあったんだ」
そう言うと彼は右側からこちらに椅子を少し近づけて横並びになるようにする。
「シャボンディ諸島で別れてから、リーベラのことを思い出さなかった日はない。
まさかこの島で会えるとは思っていなかった。
だからあの時つい、手を掴んでしまったんだ。
返り討ちにあったが」
「リーベラ、俺はな......。
............お前が好きだ」
突然の告白に脳みそがうまく受け止められなかった。
何度も頭のなかで咀嚼する。
言葉の意味を理解したとたんポンポンと頬に熱が集まる。
30になってこんなに心がときめくことなんて、地上に出ることくらいしかないと思っていたのに。
正直とても嬉しい。
しかし彼は人間で、私は人魚なのだ。
「気持ちは嬉しいけど......。
お付き合いはできないわ」
「分かっている......海賊だしな」
「海賊なのもそうなんだけれど......。
......違うのよ」
彼が首をかしげる姿はコミカルで可愛らしい。
コーヒーを一口飲む。
何度潤してもすぐに渇いてしまう口内。
言うのか、ついに。
冷めたコーヒーは香りがなくなっていた。
指が震えないようにカップを両手で握りしめる。
「私............人魚なの」