春よ来い
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食後、キラーさんは後片付けがあるというので、先に家を出たキッドさんを探しに出た。
キッドさんは昨日打ち上げられた砂浜で筏を作っているらしい。
流石は海賊......。
足が雑草を蹴る音から、細かい砂の音に変わった。
靴を脱いで、太陽に温められた砂を素足で感じる。
左手で掴んだ靴を肩に引っ掛け、砂を蹴りながら歩く。
心地よい潮風にスカートがはためいた。
しばらくすると何かを引きずる音がした。
「キッドさんー!」
「イエインか......。
よくわかったな。
ほんとは見えてんじゃねぇのか?」
「見えてませんよー。
今何してるんですか?」
「お前ん家にあったロープで木、並べたやつ縛って、筏作ってる。
まあ2、3日したら完成するだろ」
私は少し離れた場所に腰掛け、作業音に耳を傾ける。
「結構すぐできるんですねー?」
「男二人だけ乗って島にたどり着きゃいいからな」
「なるほどー。
あ、キラーさんはもうすぐ来ると思いますよ」
ぎゅっとロープを引く音。
しゅるしゅるぎゅっ。
しゅるしゅるぎゅっ。
ロープが何度も擦れあい、引き締められる。
「お前暇なのか」
「はえっ!?」
一定のリズムを刻む音に完全に油断していた。
ザクザクと砂を踏みしめる音が近づく。
キッドさんは私の腕をぐっと引き立ち上がらせると、どこかへ歩き出す。
「き、キッドさんー?
あの、どちらへ?」
「ボーッとしてんなら手伝えよ」
決して意地悪しているわけではないようだ。
しかし筏なんて作ったこともない。
想像もできない。
「私!目!見えませんよー!?」
「見えなくてもロープ引いたり支えたりできんだろ。
ちゃんと教えてやるからやってみろ」
「は......はいっ!!」
「遅かったじゃねぇか」
「ちょっとな。
イエインも手伝ってくれているのか」
「はっ!キラーさん!
気づきませんでしたー」
ロープを巻いていた腕を止め、あるものを手で包んでキラーの前に踊りでる。
あるものとはミニチュアの筏。
「これ!キッドさんが作ってくれたんですー!
すごいですよね!!」
「キッドが?」
はいっ!と口角を目一杯上げて嬉しさを表す。
「完成形がイメージできないから要領得なくて......。
そしたらキッドさんが小枝でこんな小さな筏を作ってくれたんですー......!
そしたら筏作りが捗って!捗って!」
「ああ、キッドは手先が器用だからな」
「嬉しいですー!」
すごいすごい!!
「そんくらいで褒めすぎだろ......。
逆に恥ずかしいからやめろ」
作業の手は止めずに、素っ気ない反応をするキッドさん。
でも心から凄いと思うの。
それにまた一人になったときにこの筏に触れたら、今日のことを思い出せるし。
へらへら弛みっぱなしの口を引き締める。
思い出にするには、この筏をちゃんと完成させなくては!
「おにぎり作ってきたから昼にしよう」
意気込んだ私の心を失速させるキラーさん。
朝のホットケーキで胃袋を捕まれている私は抵抗できない。
ほくほく顔で受け取ったおにぎりを頬張る。
ほんのり塩味がお腹を満たしていく。
キッドさんもキラーさんも優しいなー......。