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tale.1 傀儡の天人

トネリアの北西、フォーレス山脈の麓にある盗賊団レグロナのアジト。
古びた神殿を根城とする盗賊団の頭は、その最奥にある部屋に座っている。そこへカザキアが戻ってきた。

カザキア   カザキア、戻りました。
盗賊の頭   入れ。

カザキアが部屋に入ると、盗賊の頭は青白い顔で椅子にもたれかかっていた。

カザキア   トネリアの東居住区に住むオルデッカと
       その家族、粛清いたしました。
盗賊の頭   ほぉう…相変わらず仕事が早いな。他には?
カザキア   隣にある宿の者も…宿泊していた冒険者は
       逃がしましたが。
盗賊の頭   殺り損ねたか。お前ほどの者が。
カザキア   申し訳ございません。次は必ず。
盗賊の頭   そうでなければ困る。我が欲望を満たすは
       人の嘆き、苦しみ、哀しみ…存分に我に
       与えよ!我が僕たちよ!
カザキア   仰せのままに。

カザキアは盗賊の頭に一礼すると、部屋を出ていく。
そして少し歩いた先にある礼拝堂の、今にも崩れ落ちそうな女神像に目をやった。

カザキア   …躍らされているとも知らず、
       己の欲望だけを満たす凡愚が。
       …「欲望に打ち勝てないのは弱い証拠」か…
       フン、面白いことを言う人間だ。

罅の入った自分の刀を見つめ、カザキアは不敵な笑みを浮かべていた。







トネリア北西フォーレス山脈、麓の森。
レティハを先頭にタスクとセトが追う形で、道なき道を草木を掻き分けながら進んでいる。

レティハ   盗賊団レグロナは、ほんの数ヵ月前に現れ
       たの。それまでは目立って悪さをするような
       悪党も居なかった平和な町に突然現れて…
       少しでも逆らう者は殺されたわ。住民だけで
       なく、商人も旅人も。
セト     何で町の人間以外にも手を出すんだよ。
       何の因縁もないんだろ?
レティハ   だから性質タチが悪いのよ。
タスク    俺たちが見る限り、レグロナの奴らに目的は
       ない。ただ…人間を殺したいだけのように
       感じるんだ。
セト     …何の目的もなく殺す…そんなの、間違って
       んだろ!!
レティハ   私たちは何度も警告したわ。だけど、彼らは
       聞き入れなかった。だから、その身に教え
       込んであげるのよ。
       「あなたたちは間違ってる」ってね。
セト     …つーか、さっきからタスクより偉そうに
       してるけど…上司なのか?
タスク    いや、同期だよ。
レティハ   自己紹介がまだだったわね。
       私はレティハ=ニールベン、ドーレンク
       騎士隊の副隊長を務めているの。
セト     えっ!?副隊長!?
タスク    俺は同期だからこうして普通に話している
       が…一応、上司になるのかな。あまり意識
       してはいないが。
レティハ   タスクは特別よ。
セト     はぁ…女が騎士だってだけでも珍しいのに、
       副隊長なんて。そんなに人手不足なのか?
       ドーレンクは。
レティハ   あら。女だからって、男に劣るとは
       限らないわよ?緑髪。
セト     セトです、俺の名前。
タスク    ドーレンクの国王様は寛大な方でな。
       実力が性別や年齢を問わず重用してくれる
       んだ。あの方が即位されてからは、国も
       賑やかになったし、立派な方だ。
レティハ   そうね、そういった面では頼れる王様よ。
セト     ん?普段は頼りねえの?
レティハ   私は結婚したい男性のタイプじゃないわね。
セト     ええ!?そんなハッキリ言うのかよ…自分の
       国の王様だろ?
タスク    部下がそういった発言をしても怒らない
       方ではあるが…それはそれで問題のような
       気はするな。

と、草むらの向こうから気配を感じ、レティハは黙る。そして、すぐにタスクも真剣な面持ちに変わった。

レティハ   …タスク。
タスク    あぁ、わかってる。
セト     え?なになに?どうしたんだ?
レティハ   静かにしなさい、緑髪。
タスク    敵の気配だ。数は多くなさそうだが、見つ
       かっては厄介だからな。
セト     手当たり次第、攻撃するんじゃないのか?
タスク    いや、こちらも少人数だ。なるべく敵の頭
       だけを狙いたい。
レティハ   それくらい黙っていても理解しなさい。
セト     わ、悪かったな!…どーせ、こういう事には
       疎いよ、俺は。
タスク    どうする?レティハ。アジトの場所を大体は
       把握しているが、相手の数はわからない。
       それでも正面から行くのか?
レティハ   そうね…足手まといもいることだし、もう少し
       慎重に行動した方が良さそうね。
セト     だからっ、足手まといにはならないって!!
タスク    セトっ!!

タスク、慌ててセトの口を手で塞ぐ。

タスク    静かにしろ。見つかったらマズイんだ。
セト     むぐぐ…
レティハ   はぁ…これだから慣れていない素人は。
       戦えればいいってものじゃないのよ。覚えて
       おきなさい。
セト     …わかりました。
レティハ   ひとつ、考えがあるわ。まず、誰か一人が
       囮になって盗賊たちを誘き寄せる。手薄に
       なったところで、他の二人が正面から中へ
       侵入。どうかしら?
タスク    悪くはないな。
セト     …いいと思うけど…囮っていうのは…
レティハ   あら、こういう時の為についてきてくれた
       んじゃないの?緑髪。
セト     ま、待てよ!!俺、死んじゃうって!!
タスク    レティハ、それは危険すぎる。
レティハ   そう?それなりに実力があるみたいだし、
       何とかなるんじゃないかしら?
セト     てゆーか、町に戻って他の騎士をつれて
       きたらどうなんだよ。トネリアにだって
       警備兵くらいはいるんだろ?
レティハ   いるけど、無理よ。トネリアの兵士たちは
       みんな、盗賊と戦う気持ちなんてないわ。
       諦めてしまっているの。
セト     え、何だよそれ。頼りねえな。
タスク    だが、盗賊の中には奇怪な術を使う者たちも
       いるという。恐怖を覚えて当然だ。
セト     奇怪な術、ね…お前らは恐くないのか?
タスク    俺たちは慣れている。
レティハ   ドーレンクにも魔術師は沢山いるからね。
       残念ながら、私とタスクは扱えないけれど。
       ……さて、それじゃあ動きましょうか。後は
       任せたわよ、タスク。
タスク    了解。
セト     え?ど、どこ行くんだ?
レティハ   私は正面突破、貴方たちは隠密行動。
       タスクの言うことをちゃんと聞いて、足手
       まといにだけはなるんじゃないわよ?
       このレティハさんが正面で囮になってあげる
       んだから。
セト     …あぁ、わかった!
レティハ   威勢だけは満点ね。

僅かに安堵したように笑みを浮かべると、レティハは鞘から剣を抜いた。そしてタスクに向かい頷いて合図をした後、敵の方へと飛び出していく。

タスク    セト、俺たちも行くぞ!
セト     おう!

タスクとセトは、レティハとは逆の方向へと走り出した。




 
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