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tale.1 傀儡の天人

その夜、セトの宿泊している港近くの宿屋にて。

突然、宿屋の従業員の悲鳴と爆発音が響く。その音に、思わずセトは飛び起きた。

セト     おわっ!!…な、何だ!?

セトがベッドから降りて窓から外を覗き込むと、宿の隣家が激しく燃えているのが見えた。

セト     火事か?それにしては、あの爆発…
宿屋従業員  お客さまっ!!

宿の従業員の若い女性が、血相を変えてセトの部屋へと飛び込んでくる。

宿屋従業員  どうか、どうかお逃げください!!
       隣の家が…レグロナに……レグロナがすぐ
       近くに…!
セト     レグロナ?それって昼間の盗賊…
宿屋従業員  とにかく急いで!!じきに、ここにも…
カザキア   もう遅い。

声が聞こえた次の瞬間、セトの目の前にいた従業員の女性が倒れる。そこに居たのは眼帯をした青髪の男カザキア。

セト     …―ッ!?
カザキア   冒険者か。不運だったな。こんな時にこの
       町を訪れているとは。
セト     てめえ…この人に何の恨みがあったんだよ…
       なんで殺した!?
カザキア   恨みなどない。俺たちはリーダーの命令で
       こうしているだけだ。
セト     じゃあ、そいつは…この人に何の恨みがある
       ってんだよ!?
カザキア   さぁ、知らないな。知ったところで意味は
       ない。お前も今ここで死ぬのだから余計な
       疑問を持つ必要はないだろう。

カザキアが双刀を構えると、その胸にある紋様が赤く光り出す。

セト     ふざけんな!!
       罪のない人を傷つけ、殺し…そんな奴が
       生きることを許されてると思ってんのか!?
カザキア   愚問だな。人間は欲に惑わされる生き物だ。
       私利私欲の為に他者を殺めることに何の
       不思議がある?欲を持たない神や天人も
       同胞を殺めている。人間のような低俗な
       生き物が、己の沸き立つ欲に抗えるはずが
       ない。
セト     小さい欲望にも打ち勝てないのは、
       てめえらが弱い証拠だ!!自分にも勝て
       ねえような奴が偉そうなこと言って、自分を
       正当化するんじゃねえ!!

セト、ロッドを構える。するとロッドが青白く輝き、カザキアに向かって氷の矢が放たれた。
カザキアは驚きながらも、咄嗟に双刀でそれを弾く。

カザキア   …! 驚いたな、術士だったか。
セト     てめえらみたいに人の痛みを解ろうとしねえ
       奴…俺は大嫌いだ!!

ロッドを構え直すと、セトはそのままカザキアへと向かっていく。カザキアは双刀でロッドを受けるが、その瞬間、片方の刀に罅が入った。

カザキア   …俺の刀が負けた…!?

カザキアがセトを振り払うと同時に、セトもカザキアから離れて距離を取る。

カザキア   洗礼を受けた俺の刀が負けるとは…
       お前は何者だ?
セト     俺は、ただの旅人だ。
カザキア   …質問を変えよう。
       そのロッド、どこで手に入れた?
セト     てめえに答える義理なんてないだろ。
カザキア   …まぁ、いい。いずれ答えを聞くとしよう。

部屋の外からは、階段を駆け上がってくる騎士隊員の声と足音が聞こえる。
カザキアは刀を大きく振るい、セトは咄嗟にそれを避けた。

セト     おわっ!!
カザキア   勝負はおあずけだ、冒険者。

カザキアは窓へ向かって走り出し、窓から飛び降りた。
セトは慌てて窓から身を乗り出して覗き込む。

セト     おい、てめえ!!……って、ここ3階…
       よく飛び降りたな、アイツ…

そこへ、騎士隊員2人が飛び込んでくる。

タスク    無事か!? ……お前は…
セト     へ? …あっ、昼間の!!

もう一人、金髪ポニーテールの女性騎士レティハが倒れた従業員の元にしゃがみ込む。

レティハ   …死んでるわ。貴方がやったの?
セト     俺?ち、違う違うッ!!なんか盗賊団の…
       眼帯した青い髪の男だよ!!
タスク    この傷痕は隣家の住人の背中にあったものと
       似ている。恐らく、同一犯だ。
セト     …!! …隣の家の人も、死んだのか…?
タスク    …あぁ、一家5人…助かったのは娘だけだ。
セト     …ッ、くそ!!
       あいつらは何がしたいんだ!!
タスク    それは俺達も調査中だ。
レティハ   タスク、とにかく奴らを追いましょう。
       これ以上、被害を拡大させるわけには
       いかないわ。
タスク    そうだな。

タスクとレティハは部屋を出ようとするが、それをセトが引き止める。

セト     あ、ちょっと!
       …俺も一緒に行かせてくれないか?
タスク    え?
レティハ   足手まといは結構。面倒を見ている余裕は
       ないのよ、私たちも。
セト     絶対役に立つ!!何が何でも!!
       …こんなフザケた事する奴らを放っておいて
       じっとなんかしてられるか!!
タスク    ……レティハ、俺が面倒を見る。同行させて
       はいけないか?
レティハ   タスク!
タスク    これでも旅人らしい。全くの役立たずという
       わけでもないだろう、多分。
セト     役に立つ!!絶対役に立ちますって!!
レティハ   …はぁ、わかったわ。好きにしなさい。
タスク    ありがとう。
セト     サンキュー!!よし、じゃあさっさと追い
       かけようぜ!!
タスク    待て。お前の名前を聞いていないが…教えて
       くれないか?
セト     俺?俺はセト。ただの旅人だけど、腕は
       確かだぜ!




 
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