バクテン!!
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「女川。次は何のノート写しに来たんだ」
ニ限目の休み時間、こっそりと隣の教室を覗く。窓際を覗けば タイミング良く築館と視線が重なり、半ば飽きれた様子で苦笑された。正直、そんな言い方をされても文句は言えない。現に今でも、“築館のノートを写す取り合い”はキャプテンと小学生の頃から懲りずに続いている訳で。
『そんなんじゃねえよ。そもそも数学のノートなら昨日写させてもらったし。そんで昨日はキャプテンより、俺の方が早くノート写せた。どうだ!』
「そんな事でドヤ顔しない……全く。それで、どうしたんだよ」
危ない。肝心な要件を キャプテンとの熱い戦いに塗り替える所だった。俺は教室を見渡し、彼女が席に居ないことを確認する。そうして昨日の夜、寮で数学のノートを写させて貰った時と同じように 彼の目の前で両手を合わせた。
『…どうか…頼む、築館……築館さん、いや…!築館様!』
「な、なんだ。どうした、どうした」
『…………名前の好きなタイプ、聞いて来てくんない?』
「……………は?」
間の抜けた返事をされ、恐る恐る築館の表情を見れば 眼鏡の奥の瞳が点になっていて。しかし、ここで引く訳には行かないのだ。
『頼むよ! あと、どんな仕草が好きとか どんなデートしたい、とかも聞いてくれえ』
「待て待て待て…女川、一旦 ストップ、ハウスだ!」
築館は眼鏡のブリッチを整え、自身を落ち着かせる為なのか 深いため息を着いた。
「何をそんなに焦ってるんだよ。この前 寮で七ヶ浜と恋バナした時に、名前とはゆっくり距離を縮めて行きたいって言ってたじゃないか」
御尤 。先日、丁度三本だけ冷凍していた串タコを電子レンジで温めて 築館と七ヶ浜の部屋で駄弁 っていた際、ふいの流れでそんな話しになった事を思い出した。名前は男子新体操部のマネージャーで、距離を縮めようと思えば 今までもチャンスはいくつかあって。しかし、肝心な所で一歩踏み出せないのは アイドルのように雑誌やDVDの中に居るのではなく、生身の人間だから。…それとも、俺がただの意気地なしなのか。認めたくはないが、きっと後者である事は築館も感じている。
『……まあ、そうだけど。つうか、キャプテンは恋バナしてねえじゃん。バグかと思うくらい、ずうっと蒲鉾蒲鉾言ってただけだし』
「女川、話し逸 れてる」
駄目だ。覚悟はしていたが、築館に相談する時点で 明確な理由を求められると思っていた。俺は 彼女がまだ教室へ戻らない事を再度確認し、今度は静かに呟いた。
『…………次の休日。名前、誕生日じゃん』
「ん?ああ……本当だ。いつもお世話になってるし、何かプレゼントでも送ろうか」
『…部の皆でプレゼントを送りたいのは勿論なんだけどさ…。誕生日当日に………名前をデートに誘いたいんだ』
「……これまた大きく出るなあ」
『…それまでに、タイプの男になって、名前の好きな仕草でドキドキさせて、行きたい所にデートへ誘いたいんだよ…!』
興奮する俺を築館が どうどうと宥 めた。最初は本当に、ゆっくり距離が縮まればいいと思っていた。しかし二年、三年と歳を重ねる度に綺麗になっていく彼女の周りには いつの間にかライバルで溢れていて。うかうかしていたら、彼女が他の男の物になってしまう、そんな事を考えると居ても立っても居られなくなってしまい。
『頼むよ、築館!一生のお願いっ…!』
「……一生のお願い、ここで使うんだ。……はあ、仕方がない、分かった。聞いてみるよ」
『まじ!』
聞き返すと、築館は苦笑しながら「マジ、マジ」と繰り返した。ここで承諾しなければ 俺がいつまで経ってもごねるだろうと考えたに違いない。眉を八の字にするも、何だかんだ 俺や七ヶ浜に甘いところは幼い頃から変わらないものだ。
「でも、あまり期待しない事。名前だって、答えたくない事もあるかもしれないしね」
『築館え!やっぱお前、最高だよ』
「こらこら騒がない、ほら。次の授業始まるだろう、また部活でな」
調子に乗った俺は 築館に投げキッスをし、浮足で教室をあとにした。
________________
『築館え、入るよ』
寮での夕食。亘理の作ったカレイの煮付けを食べ終わったあと、俺は 少しの緊張を持ちながら 築館の部屋に足を踏み入れた。早速 懇願した名前の好きなタイプを聞いてくれたらしい。少しでも当てはまる所があればいいが。
「女川、ちゃんと名前に全部聞いて来たぞ」
『…………そ、それで。名前はどんな男がいいって…?』
緊張で乾き始めた喉を ごくりと鳴らし潤した。築館はポケットからメモ帳を取り出し ハラハラと捲 ったと思えば、ひとつ大きな咳払いをして。
「ええと。…まず、好きなタイプだ。聞いた所によると、とても背が高くて力強い人が良い、と」
――おおっと…。俺は175cm。新体操部の中だと、七ヶ浜に並んで一番でかい。…が、力強い、と言えるかは別だ。
「好きな仕草は…“腹臥 ”の演技を完璧に魅せてくれるとキュンとするらしい」
――マニアックだな。…練習すれば平気だが、着地を失敗するとかなり痛い奴。…しかし、そもそもこれは“仕草”なのか。
「最後に、デートで行きたい場所は、林檎農園」
――果物狩りね。…でも何で林檎限定?
「以上」
築館がメモ帳を ぱたんと閉じる。言われた事を頭の中で繰り返し唱えた。…何度も唱えているうちに、嫌でもひとつ 思い浮かぶ顔があって。
『…なあ 待てよ。…もしかして これ、……………シロ高の高瀬じゃね?』
「…………………ごめん、俺もそう思う」
『だあ!うっそ、何それえ!……名前のタイプって リンゴリラなの!?…無理無理無理! 俺が女の子だったら絶対無理!対象外でしょ、対象外!ナシだよ、あんなの!』
「…それ、高瀬の前で言ってやるなよ。百パーセント喧嘩になるから」
築館は、「じゃあ、伝えたからな」と少し複雑そうな顔で風呂場へ向かっていく。部活でかいた汗が気持ち悪い。そうして、彼女のタイプに一つも当てはまらなかった事に、なんだか胸にぽっかりと 穴が空いた気がした。
ニ限目の休み時間、こっそりと隣の教室を覗く。窓際を覗けば タイミング良く築館と視線が重なり、半ば飽きれた様子で苦笑された。正直、そんな言い方をされても文句は言えない。現に今でも、“築館のノートを写す取り合い”はキャプテンと小学生の頃から懲りずに続いている訳で。
『そんなんじゃねえよ。そもそも数学のノートなら昨日写させてもらったし。そんで昨日はキャプテンより、俺の方が早くノート写せた。どうだ!』
「そんな事でドヤ顔しない……全く。それで、どうしたんだよ」
危ない。肝心な要件を キャプテンとの熱い戦いに塗り替える所だった。俺は教室を見渡し、彼女が席に居ないことを確認する。そうして昨日の夜、寮で数学のノートを写させて貰った時と同じように 彼の目の前で両手を合わせた。
『…どうか…頼む、築館……築館さん、いや…!築館様!』
「な、なんだ。どうした、どうした」
『…………名前の好きなタイプ、聞いて来てくんない?』
「……………は?」
間の抜けた返事をされ、恐る恐る築館の表情を見れば 眼鏡の奥の瞳が点になっていて。しかし、ここで引く訳には行かないのだ。
『頼むよ! あと、どんな仕草が好きとか どんなデートしたい、とかも聞いてくれえ』
「待て待て待て…女川、一旦 ストップ、ハウスだ!」
築館は眼鏡のブリッチを整え、自身を落ち着かせる為なのか 深いため息を着いた。
「何をそんなに焦ってるんだよ。この前 寮で七ヶ浜と恋バナした時に、名前とはゆっくり距離を縮めて行きたいって言ってたじゃないか」
『……まあ、そうだけど。つうか、キャプテンは恋バナしてねえじゃん。バグかと思うくらい、ずうっと蒲鉾蒲鉾言ってただけだし』
「女川、話し
駄目だ。覚悟はしていたが、築館に相談する時点で 明確な理由を求められると思っていた。俺は 彼女がまだ教室へ戻らない事を再度確認し、今度は静かに呟いた。
『…………次の休日。名前、誕生日じゃん』
「ん?ああ……本当だ。いつもお世話になってるし、何かプレゼントでも送ろうか」
『…部の皆でプレゼントを送りたいのは勿論なんだけどさ…。誕生日当日に………名前をデートに誘いたいんだ』
「……これまた大きく出るなあ」
『…それまでに、タイプの男になって、名前の好きな仕草でドキドキさせて、行きたい所にデートへ誘いたいんだよ…!』
興奮する俺を築館が どうどうと
『頼むよ、築館!一生のお願いっ…!』
「……一生のお願い、ここで使うんだ。……はあ、仕方がない、分かった。聞いてみるよ」
『まじ!』
聞き返すと、築館は苦笑しながら「マジ、マジ」と繰り返した。ここで承諾しなければ 俺がいつまで経ってもごねるだろうと考えたに違いない。眉を八の字にするも、何だかんだ 俺や七ヶ浜に甘いところは幼い頃から変わらないものだ。
「でも、あまり期待しない事。名前だって、答えたくない事もあるかもしれないしね」
『築館え!やっぱお前、最高だよ』
「こらこら騒がない、ほら。次の授業始まるだろう、また部活でな」
調子に乗った俺は 築館に投げキッスをし、浮足で教室をあとにした。
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『築館え、入るよ』
寮での夕食。亘理の作ったカレイの煮付けを食べ終わったあと、俺は 少しの緊張を持ちながら 築館の部屋に足を踏み入れた。早速 懇願した名前の好きなタイプを聞いてくれたらしい。少しでも当てはまる所があればいいが。
「女川、ちゃんと名前に全部聞いて来たぞ」
『…………そ、それで。名前はどんな男がいいって…?』
緊張で乾き始めた喉を ごくりと鳴らし潤した。築館はポケットからメモ帳を取り出し ハラハラと
「ええと。…まず、好きなタイプだ。聞いた所によると、とても背が高くて力強い人が良い、と」
――おおっと…。俺は175cm。新体操部の中だと、七ヶ浜に並んで一番でかい。…が、力強い、と言えるかは別だ。
「好きな仕草は…“
――マニアックだな。…練習すれば平気だが、着地を失敗するとかなり痛い奴。…しかし、そもそもこれは“仕草”なのか。
「最後に、デートで行きたい場所は、林檎農園」
――果物狩りね。…でも何で林檎限定?
「以上」
築館がメモ帳を ぱたんと閉じる。言われた事を頭の中で繰り返し唱えた。…何度も唱えているうちに、嫌でもひとつ 思い浮かぶ顔があって。
『…なあ 待てよ。…もしかして これ、……………シロ高の高瀬じゃね?』
「…………………ごめん、俺もそう思う」
『だあ!うっそ、何それえ!……名前のタイプって リンゴリラなの!?…無理無理無理! 俺が女の子だったら絶対無理!対象外でしょ、対象外!ナシだよ、あんなの!』
「…それ、高瀬の前で言ってやるなよ。百パーセント喧嘩になるから」
築館は、「じゃあ、伝えたからな」と少し複雑そうな顔で風呂場へ向かっていく。部活でかいた汗が気持ち悪い。そうして、彼女のタイプに一つも当てはまらなかった事に、なんだか胸にぽっかりと 穴が空いた気がした。