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感情

人は人生で自分に『感情』を沢山くれた人が自分にとって大切で必要な人である。
そう、本で読んだことがあった。
新海凛十にとってそれに当てはまる人物は1人だけだった。















新海凛十の両親は共働きで殆ど家に居らず、近所の男兄弟の居る家に預けられ、そこでギターの魅力に気付き必死になった。でも、元々の性格と環境のせいもあって人付き合いが少なく誰も褒やしなかった。それは新海凛十にとって関係なかった。思えば褒められる嬉しさを知らなかっただけかもしれない。ただ上手くなりたい、その一心で1人勉強をした。学校が終わるとすぐ家に帰ってひたすらギターと向き合った。ギターに魅入られる前は新海凛十の環境に同情や哀れみの目と言葉に反応して心が苦しくなっていた。でもギターを始めてからはその声が気にならなくなった。ギターだけを考えて生活していた。
中学生になってからバンド活動を始めた。でも、独学ではギターは無理がある為よく駄目出しをされていた。そう指摘される度、新海凛十は自分の音に指図するな、やる気がないだろ、どれも違う、自分が探している音じゃない、そう言って入っては喧嘩して辞めてを繰り返していた。それを高校生になる頃までずっと。何処に言っても自分の世界が通用しない。その事に絶望していた。そんな時、近所の男兄弟の下の方、渡世千里からバンドに誘われた。渡世千里は幼い頃からよく意地悪をされたりしてあまり顔を合わせなくないやつだった。バンドに誘われた時もバンドを入っては抜けるを繰り返した事を笑われ苛立った。渡世千里に引っ張られて連れてこられたスタジオに行くと如何にも熱血漢というやつと中性的だが苛立っている様子のやつがいた。女みたいなやつがよく来たなと少しはにかんだ、軽い自己紹介をされてわかったのが女みたいなのがボーカルの加賀見朔、熱血漢そうなやつはドラムの音琴嵐。そしてベースの渡世千里。とりあえず3人の音を聞かせて貰った。加賀見朔はギターを弾きながら歌い、大胆なドラムを音琴嵐が担当し、繊細なベースを渡世千里が奏でた。新海凛十は3人が創る世界に胸を打たれた。これだ。そう確信した。あの中に混じりたい。曲が進む度強く思う気持ち。そして嫉妬。加賀見朔のギターは同じギターを弾くものとして圧倒的技術の差があった。たった2歳の差でこんなにも違いが出てくる。自分では出せない音色に興奮しつつも悔しい思いでいっぱいだった。
曲が終わると加賀見朔が近づいてきた。そしてギターを渡された。「これが俺達の創る音楽だ。今度はアンタの番だ。」と言い放った。
新海凛十は少し震えていた。あの音には叶わない。それでも、超えたいと思った。そして始めて認めてほしいと思った。自分の世界を見せるだけだ、そう思って一息ついた。そしてギターに手を触れた。逸る心を抑えながらも止まらない手は新海凛十の心を表していた。
引き終わるとされた事のなかった拍手が聞こえた。最初は加賀見朔だけだったがその後に音琴嵐、その後に渋々といった表情だが渡世千里が拍手した。慣れない事をされ驚いたが不思議と悪い気はしなかった。
そしてまた加賀見朔は近づいてき言った。
「凄く良かった。千里が言っていたが全部独学なんだろ?独学でここまでいくのは相当練習したんだな。でももっと行ける。アンタは俺を超える、俺が保証する。
新海凛十、あんたに俺らのvanitasのギターを頼みたい。vanitasへ入らないか?」
それを聞いた瞬間何かが溢れた。新海凛十は自分の全てを認められた様な気がした。新海凛十は初めて褒められたのだ。やっと自分の音を認めてくれた。分かってくれた。ここに居たい。vanitasを自分の居場所にしたい。ここなら居てもいい。そう思えた。加賀見朔自身が自分を超えられると言った。それなら超えてやるしかない。
「あぁ、勿論。ぜってぇあんたを超えてやる。」
そう言って加賀見朔の目を見た。それを聞くと加賀見朔も俺の目を見て笑った。
「vanitasへようこそ。よろしくな、凛十。」
「よろしく、朔。」
そうして新海凛十はvanitasのメンバーになった。
それが新海凛十とvanitas、そして加賀見朔との出会いだった。

始めてあった頃から朔は色々な感情をくれた。何もなかったあの頃とは違い、音楽を創る仲間が出来た。それが凛十にとって嬉しかった。vanitasに入った直後、朔からギターの技術を学んだ。朔は優しく丁寧に教えてくれ、更に自主練などの努力もあってどんどん上手くなっていると自分でも思う。超えてやる。いや超える。そう思って凛十は弾いている。それは自分の為から朔の為に変わっていった。
全てを受け入れてくれた朔。それは凛十にとって人生でたった1人の人間だった。そして色々な感情をくれた。特に好きという感情。凛十はゲイではない。つまり加賀見朔という人間を好きになったのだ。ある時その気持ちが抑えられず、その気持ちを告白した。その時の朔の顔は照れている様子で俺もだと言われた。その時された照れ顔があまりにも色気に満ちていたのは朔にも内緒だ。そうやって凛十と朔は付き合い出した。

凛十は今隣で寝ている朔との記憶を1つずつ思い出していた。そしてふと出てきた本に書かれていた事を2人の思い出に当てはめてみた。色々な感情をくれた人。それに該当するやつなんて朔しかいない。そう思った。凛十は朔を抱いて唇にキスをした。
「ありがとう、朔」
これからは与えられた分だけ幸せにする、そして必ず守る。そう決めた凛十だった。
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