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淡い初恋の味

あれは俺が何となく面白そうと思って芸術進学コースに進み3年C組になって始業式の2日後のホールルームで自己紹介をする事になった時の事だった。1人の同級生を見た時、初めての感覚が自分を襲ってきた。その理由は分からない。それでも自分にはないと思っていた恋心というものが芽生えた。所謂一目惚れというものだ。よく相談されるネタの1つだけれども真逆自分もそれを体感するとは思わなかった。しかも同性に。俺は別に男が好きなわけではない。これまで人を好きになる事はなかったがそれははっきりと言える。
...つまり『加賀見朔』という人間に恋をしたようだ。












加賀見朔は自己紹介によるとvanitasというロックバンドでボーカル兼リーダーとしてインディーズで活躍しているらしい。元々目付きが悪いからか怒っている様な顔をしている。男にしては長く艶やかな髪、程よく付いた筋肉、ミステリアスな雰囲気を纏っている彼に殆どの人は魅入っていた。
加賀見はちらっと此方を見て自分の席に戻っていった。
少し垣間見えた何にも汚されていない真っ直ぐとした紅い眼。
それは俺には眩しすぎた。俺はあの眼に心を奪われた。あまりにも綺麗だった。思わず求めてしまうような魅惑的で純粋な瞳だった。
やがて俺が自己紹介をする順番になった。特に人に話すような趣味は特技は無く、部活にも入っていない為、強いていえば占い事ぐらいしかなかった。適当に自己紹介を終わらせてしまおうと思い名前と占いについてと一言を言って席に座ろうとした。その時加賀見と眼が合った。美しい、その言葉しか出てこなかった。あまりにも眩しすぎて思わずサッと眼を逸らしてしまった。加賀見に少し悪い事をしてしまったと思う。熱くなるはずのない心臓が今までにないぐらい脈が早くなった。今の俺は絶対変な顔をしていると思わず下を向いた。自分の知らなかった感情に柄にも無く困惑するだけだった。



















やっと昼休みになり、1人で弁当を食べようとしていると誰かが声をかけてきた。桑門碧。美術部に入っていて絵も上手いが専門は立体造形らしい。少し抜けていて、人を疑う事を知らなさそうな顔をしている。
『月読...で合ってるよね?良ければ一緒にお昼食べない?』
そう桑門に言われ、特に断る理由も無い為承諾した。そしたら桑門はとても嬉しそうな顔をした。俺と一緒に食べたいなんてやっぱり不思議だと思った。桑門が少し考えた様な素振りで何処かを見ていると突然走り出した。桑門が走った先には加賀見がいた。少し2人で話していたら桑門が加賀見を連れて此方に戻ってきた。
『月読、加賀見も一緒に食べようよ。人数多い方が楽しいかなって。』
俺は少し驚いたが笑顔で
『勿論、構わないよ。』
と言った。そしたら加賀見が安堵の表情を魅せる。桑門はその様子を見てなのか溢れんばかりの笑顔を放った。
3人で一緒に雑談しながら昼食を取っていると加賀見が言った。
『俺は実は月読に嫌われているかと思ってた。自己紹介の時に眼が合った瞬間逸らされたから...。』
...あっ、気付かれていたんだ。そう思いつつも俺は少し慌てて弁解をした。
『そんな事はないよ。ただ急に眼が合って驚いて反射的に逸らしてしまったんだ。ごめんね、加賀見。』
そういうと加賀見は笑顔を魅せた。その微笑みはあまりにも愛くるしい表情で思わずドキッとしてしまった。桑門はそうだったのかと驚いていた、流石は天然気質と思ってしまった。そうして話している内に昼休みはあっという間に終わった。


















辺りが少し暗くなった。
門には今から帰ろうとしている生徒がいる。
その中に加賀見が居た。声をかけようとしたがそれは叶わなかった。他の誰かが加賀見に話しかけたのだ。金髪で髪がツンツンしていて如何にも生意気そうな雰囲気だ。ネクタイをしていない為はっきりは分からないが見ない顔だから恐らく1年生だろう。俺は休んだが、昨日が入学式なのに1日でまだ関わっていない先輩と話すのは勿論、あんな馴れ馴れしく接する人はいないだろう。元々知り合いなのだろう。2人がやり取りをしているのを見ていると加賀見が恐らくその人にしか魅せないであろう顔を見てしまった。周りには分からないであろう微かな違いだが。その顔を魅せていた時、思わず嫉妬した。誰だか分からない人に。その時に気付いた。その人には永遠に勝てない事、初めての自分の執着心。全ての感情が混ざって出来たようなドロドロな心に気付き思わず逃げる様にして門を出た。敵わない。運命は変えられない。分かっている。



















...それでも俺は加賀見が好き。
運命に抗うのも悪くないかもしれない。
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