Red thread of fate~赫石の奇跡~
君の名前は?
この小説の夢小説設定※この夢小説は90年代に大ヒットした某ラブロマンス映画(タイタニック)と鬼滅の刃(炭治郎夢)のパロディです。
※都合により和名。和と洋の世界観が入り混じっているので、完全に異世界IFです。
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「豪華な内装、使われていない食器に真新しい匂いのするシーツ...自由への旅路。人々は夢の船と呼んだわ。本当にその通りだった..」
...
ーーーーー
ボーーと船の汽笛が鳴り響く。
沸き立つ人々が群がる港には、未だかつてない豪華客船が停泊していた。
充実した設備はもちろん、豪華な食事やサービス、ゆとりのある広々としたプロムナードデッキやダンスホール。
まさに豪華絢爛、乗り込めば快適な旅路が約束された、まさに【夢の船】と呼ぶに相応しい客船であった。
しかし幸せオーラに包まれた港でただ一人。憂鬱に顔を曇らせる女性がいた。
「日向子、そんなぶすくれた顔をしていないで。シャキッとしなさいね」
「...はい、お母様」
高級なドレスを身に纏い、お付きの手を取って車から降り立った彼女。
つばの大きな帽子をくいと持ち上げ、人々が羨むはずの船体をつまらないものを見るような目で眺めた。
その後ろからフィアンセの男が声を掛ける。
「どうだい?豪華な船だろう」
日向子は後ろへ首を回す。にこりと笑った男の顔を見るや否やふいと目線を晒し、短くこう呟いた。
「別に、大騒ぎする程でもないわ。」
申し訳なさそうに日向子の母が苦笑いするが、彼は仕方ないという風に肩を竦める。
「お嬢様を喜ばせるのは至難のわざですね」
「..ごめんなさいね。それにしても本当に豪華な船。沈まない船とは良く言ったものね。」
日向子は先を行く二人に続くように、重い足を向けるしかなかった。
周りを見渡せば、皆一様に笑顔を綻ばせていたが、日向子はどうしてもそんな気になれなかった。
良家の娘に生まれた彼女、何不自由なく育てられたが、それと比例して虚無感が心の中に居座り続けた。自分の人生はなんてつまらないのだろうと思う日々。
しかし近年、父の事業がうまく行かず借金を抱えた巫家は、一人娘の政略結婚という最後の手段に出た。
相手は実業家の御子息で、日向子にも好意を寄せてくれていた申し分のない結婚相手。
しかしそれは側から見たらの話。日向子自身は、一族や親のために仕方なく首を縦に振っただけのこと。
ー本当は..好きでもない相手と結婚なんてしたくないわ。自分の心に正直になれない、こんな人生なんてもううんざりよー
そんな若い女の悲痛な心の叫びなど、誰も知る由もない。人々にとっては夢の船でも、日向子にとっては鎖で身を繋がれた檻でしかなかった。
ーーーー
一方その頃
庶民向けのギャンブルバーでは真剣な顔を寄せ合う男達がいた。
「なぁ炭治郎..。有り金全部かけちゃって良かったのか?いくら脅されてたあの人助ける為とはいえさ、俺たちの方がよっぽど損するものが多すぎだって」
「仕方ないだろう、見てられなかったんだから。それより少し黙っててくれ。勝負どころだ」
「うーー..」
二人を見てニヤリと口角を上げる男達。勝ちを確信したのか、彼等は金に加えて2枚の紙切れをテーブルにはたいた。
それを見た炭治郎は目を丸くし、善逸は信じられないとばかりにわなわな震え出す。
「...それ、船のチケットだ!!凄い、本物か?!」
窓の外に見えるそれはそれは大きな客船。
よっぽど高額な金を積まない限り、庶民には手の届かない夢の旅路。善逸が興奮するのも無理はない。
というか、何も善逸だけじゃない。
炭治郎自身も、一生に一回は乗ってみたいと密かに夢見ていた。
彼の父親は火夫をしていた。蒸気船のボイラーで石炭を燃やす仕事を生業としていたのだ。
以前、今目の前に停泊している船のニュースを見た時に直感的に思った。
ー俺もいつか、こんな豪華客船の火夫になりたい。人々の夢を運ぶような、そんな仕事がしてみたいと..ー
「勝負だ」
「「!!」」
いけない。今はポーカー勝負の真っ最中だ。
ここで勝たなければ文字通り天国と地獄。負けるわけにはいかないが...
「善逸は?」
「俺は...」
無しか...
相手の一人も揃わなかったようだ。残るは炭治郎と先程チケットを賭けた男の二人。皆の頬に緊張の汗が流れ落ちる。
「悪いな餓鬼共」
パンとテーブルに叩かれたトランプはフルハウス。善逸はマジかとムンクの叫びのような顔で絶望している。
「..善逸、すまない」
「へ..すまないって何だよ、炭治郎!」
嫌な予感に顔面蒼白で友に縋る善逸。その目の前に炭治郎の手持ちのトランプがひっくり返された。
「ロイヤルストレートフラッシュ....ってことは...!」
「俺たちの勝ちだっ!!!」
「でかした炭治郎ぉぉぉぉ!!これでたんと儲けたし船にも乗れる!!」
いやったぁぁぁと心の底から歓喜の叫び声を上げる彼等を見て相手の男達は舌打ちをしてテーブルをダンと叩いた。そこに喜んでるところ悪いがと店主が壁時計を親指で指す。
「船は無理だ。出港まであと5分だからな」
「「...」」
慌てて銀貨を麻袋にさらい、二人は勢いよく店を飛び出した。
ーーーー
「やばいよ間に合うかなぁぁぁ!」
「とにかく走れ善逸!乗ります!乗りまーす!」
まさか夢にまで見た船に自分達が乗り込めるとは思わなかった。肩にかつげる程度の荷一つではあったが、この絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
彼等はひた走り、ようやく搭乗橋へと差し掛かる。
身なりや慌てた様子から、ジロリと怪訝そうな目で船員には見られたが、チケットを2枚取り出して見せると渋々といった様子で中へ促された。
「ようこそ、良い船旅を」
ほっと胸を撫で下ろした二人は、一気に階段を駆け上がりデッキへと繰り出す。
そこは笑顔に溢れた人々が陸に向かって手を振り、各々新たなる門出を祝い合っていた。
心地よい匂いや音に、二人もまた心が踊った。
手すりに両手をかけ、ぶんぶんと手を振り上げる。
「皆の事忘れないよぉぉー!!」
「元気でなぁー!!」
知り合いが港にいるわけでもないが、テンションが上がりきった二人は笑顔で叫び続けた。
これからどんな幸福な時間が待っているんだろう。そんな期待に胸を高鳴らせた。
「出港ー!!出港ー!!」
船は一際大きな汽笛を鳴らして、徐々に陸から船体を離していく。
海面を覗き見ると、周りの小さな小舟がまるでくじらに寄り添うように泳ぐ小魚のようだった。
それだけこの船が大きくて立派だと言うことを意味している。
「よし、まずは船内の探索だな!ところでふと思ったんだけどさぁ」
「どうした?」
横を通り過ぎた上流階級の出らしき上品な女性を横目に見て、善逸はにへら顔を浮かべた。
「この船って、俺たちには話をするどころか目を合わせることすら叶わないような、お嬢様な女の子もたくさん乗ってるんだよなー!あわよくば情熱的な恋に落ちちゃったり...ちょっとワクワクするよな、な?炭治郎!」
「はぁ...善逸はすぐそういう発想にいくな」
呆れたようにため息を吐いた炭治郎を見て、案の定ぎゃんぎゃんと喚き立てる善逸。もう慣れっこなので適当にあしらう。二人はまず自分達の寝床を目指し船の下層へ降りていく事にした。
「三等船室か...まぁあの店の常連客からただで手に入れた物だし文句は言えないよな」
「そうだな」
この船は主に一等から三等船室まで階級別で分けられている。しかし中には、特別船室という上流貴族の中でも限られた者しか立ち入ることの出来ない部屋があった。
「一体どんな金持ちだよ、特別船室に泊まれる奴なんてさぁ」
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