Red thread of fate~赫石の奇跡~
君の名前は?
この小説の夢小説設定※この夢小説は90年代に大ヒットした某ラブロマンス映画(タイタニック)と鬼滅の刃(炭治郎夢)のパロディです。
※都合により和名。和と洋の世界観が入り混じっているので、完全に異世界IFです。
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「おい、そこの通路狭いから気をつけろよ」
「はいはいわーかってるよ!俺を誰だと思ってんだ」
ピコンと無機質で規則正しい潜水艇の音が、深く暗い海の底で響く。
辺りは無残な瓦礫と化している。
かつての豪華客船の面影など見る影もない。だが、若い調査員の男二人は、まだ見ぬお宝に胸を躍らせていた。この中のどこかに、世紀の大発見が眠っていると信じて...
「よし、寝室に着いたな。あそこの衣装棚の方を見てくれ」
「了解」
指示役の男が指差した方へ、最新型ロボットアームを器用に操るメカニックの男がそれに続く。
男の勘はどうやら正しかったらしい。衣装棚に被った朽ちた瓦礫をのけると、そこに現れたのは
「「っ金庫だ!」」
思わず両手を上げて喜びの雄叫びをあげる。地上の職員らもつられてお祭り騒ぎ。これは世界中で大ニュースになるだろうという確信があった。
この金庫の中に果たして、
あの伝説の【赤いダイヤモンド】が眠っているのだろうか?
急く思いをおさえながら直様引き上げ作業に移行した。
引き上げられた金庫は、船が水底に沈んでいた期間を物語っており、バクテリアや塩水による赤錆と劣化、海藻で覆われていた。
麦酒を振り撒き、皆すっかりお祝いムードの中、いよいよ数十年開かずの扉が今、開かれた。
「....ん?」
潜水艇を指揮していた張本人の男が、金庫の中に手を突っ込み次々と中に入っているものを取り出していく。しかし、雑誌や本のような紙物ばかり。どれも泥だらけで内容を確認しようがないものばかりと思われた。その場に居たものは皆一様に落胆する。
「お宝は無かったか...」
「仕方ないさ、次に期待しよう。この中身は調査に回してくれ。皆気を落とすなよ?着実に俺たちは前へ進んでいるからな」
ーーーーーー
その後、金庫から発見された書物らを研究所で隅々まで調査する作業が行われた。たとえお宝は出なくとも、千人以上にのぼる亡くなった者達の軌跡を辿る事に繋がるのなら、これも大事な仕事の一環だ。
「これは...おい、ネックレスの写真を持ってこい!」
金庫から出てきた一冊のスケッチブック。復元の末、そこに現れたのはヌード姿の美しい女性のデッサンだった。
彼女が身につけているネックレス、特徴が...自分達が探し求めていたダイヤモンドの形と異様に酷似していた。
ふとスケッチブックの右下に書かれた日付に目をやる。
「...沈没の前日だ」
ーーーー
「今窓を開けるから待っててー」
「ワンワン!」
早く早くと飼い主を急かすように飛び跳ねる愛犬を宥め、娘は手に持っていたポットをテーブルに乗せる。
その様子を微笑ましそうに横目で見ながら、日光の当たるテラスで一人の老女が美空を見上げていた。
(...ー..あの有名な沈没船ー..探索しています..)
「...?」
何気なく流れてきたテレビの音声に、彼女は自然と意識が引っ張られた。
ニュースの内容は、80年以上前に沈没した豪華客船の探索を行なっている調査団が、ある遺品を引き上げたというものだった。
ちょうど記者の女性が、調査団の代表にインタビュー
を行なっている。
「どうしたのお婆さま」
「...テレビの音、もう少し大きくしてちょうだい」
孫娘は様子が変わった祖母を不思議に思いつつ、言われるがままにリモコンを手に取った。
(..語られるべき物語は、あの沈没船にはまだたくさんある筈です。そこで最新のロボット技術を使って、船の内部に初めて入ったわけです)
(...貴方達を墓荒らしだと言う者もおるようですが?)
(引き上げた遺品は慎重に保管をしています。今日我々が見つけたこの絵を見てください。これは80年以上海の底に沈んでいたのです。完全な姿で発掘されたこれをそれでも..
ー【永久に海に埋もれてしまえば良かったと言えるんですか?】ー
「...そんな、信じられない」
重い腰を上げて、吸い寄せられるようにテレビの方へと歩み寄る老女。
そこに映っていた、発掘されたという絵画をただただ驚いた様子で見つめる。
その瞳はどこか懐かしく、そして切ない色を帯びていた。
彼女の名前は遠野日向子。
子供や孫達に囲まれて、幸せな余生を送っていた。
生きてきた中で、彼女は自分の若かりし頃の物語を家族はもちろん、他の誰にも語った事が無い。
語る必要もないと思っていた。
ーこの心の中の記憶は...未来永劫、
【私とあの人だけのもの】だからー
けれどなんの因果か、あの絵画が何十年という時を経て水底から引き上げられ、彼女の中で様々な記憶が呼び起こされていった。
ーあの人の柔らかな眼差し、暖かい心、無邪気な笑顔、手に触れた温もりや抱き締めてくれた時の熱い体温、そして水底へ見送った時の冷たい...
.....
「...炭治郎」
久々に愛しい人の名前を呟く。君の思うままにと、彼は言ってくれているような気がした。数日悩んだ末、彼女は受話器をとる。
「もしもし、少しお話したいことがあります」
ーーーー
「おーい!お前宛に衛星電話がかかってきてるぞー!」
「...見ての通り今は潜水艇を下げてるところだ忙しい」
「出たほうがいいと思うが、ここはいいから」
「...」
この大事な作業を放って行くくらい大事な電話だと言うのか?そもそも誰からだ...。
疑心暗鬼で男は溜息を吐きながらその場を離れ、備え付けの受話器を取った。
「はい」
「もしもし、私は遠野日向子と申します。少し話したい事があるんですが、それと..お聞きしたいことも。赫石のネックレスはまだ見つかっていないんですよね?」
声の主はしわがれた年寄りのものだったが、どこか育ちの良い気品のある喋り方だった。ただそれよりも、あるワードが電話口から発せられた事の方が引っかかった。
「...赫石(あかいし)のネックレス。ひょっとして貴女は、あのデッサンの女性をご存知なんですか?」
「えぇ、もちろんです」
ー【だってあのモデルの女性は、私なんですもの】ー
ーーーーー
「お婆さま、本当に行くの?」
「えぇ」
「お婆さまがあの船に乗ってて、その生き残った乗客の一人だったなんて、私知らなかったわ。気持ちはわかるけど...その、もう100歳を超えてるんだしあんまり長旅は...」
「ありがとう。でも、生きているうちにこの目で見ておかなければ...きっと後悔するでしょうから。」
遠い眼差しで懐かしげに微笑む祖母を見れば、力にならずにはいられなかった。
彼女の体調は心配だったが、孫娘は祖母の手を取る。
ひた隠しにしてきた理由がきっとあるのだろう。そんな祖母がどうしても叶えたいと言った夢だから....
「わかったわ。私も一緒に行くからね」
こうして二人は、例の絵画が保管されている場所へと向かう為、荷物をまとめてヘリに乗り込んだ。
しばらくして眼下に広がっていく広大な大西洋の海を、日向子は憂いを帯びた目で見つめていた。
ーこの海の何処かに、彼が未だに眠っているのだとしたら..ー
そう思うと胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。
日向子は左手を胸に、そして右手は、密かにコートのポケットの中へと忍ばせる。
単純に絵を見る目的の為だけに、ここに来たわけでない。
一番の目的は、【あの人】との再会を果たす為...
過去の自分に向き合い、全てを精算する為に私は、ここにやってきた...
間も無くしてヘリは高度を下げ、ポートへと降り立つと、お待ちしておりましたと調査団の職員が彼女達を出迎える。
「さぁ、どうぞ中へ」
ーーーー
本日から暫くこの調査艦に滞在することになるとは言え、予想外の荷物の多さに調査団の職員は顔をしかめた。
「なぁ...こんな事は言いたくはないが、あの婆さん信用出来るのか?本当にあの絵の女性なのか...ひょっとしたら宝物が目当てなのかもしれない。そういう人間はたくさんいる」
「いいから手動かせ。あのダイヤモンドの事を知ってる人間はもう皆死んでる筈なのに、彼女は知ってるんだ。話を聞く価値は十分にある」
「はぁ...わかったよ」
赫石のネックレス。
この宝石の価値は現代価格にして数十億に及ぶと言う。彼等トレジャーハントの面々も、こういったお宝を求めて過去沈没船を探索し続けていた。
故に欲深い人間が数多く群がる。警戒する職員がいるのは当然だった。
しかし...
「あの人からは、そういう欲目を一切感じないんだ。ただ単純に、過去の記憶に触れたいという強い思いを感じる。」
あの絵の女性が彼女だとしてもそうでなくても、宝石の素性を知っていても知らなくとも、俺たちが巡り合わせた運命なら、見届けたい..。
彼女達の部屋を訪れると、荷解きをして丁寧に棚に写真を並べている彼女がいた。
「旅行に行く時はいつも写真を持ち歩くのよ」
「そうですか..。他に何かご要望があればおっしゃってください」
そう尋ねると、彼女は澄み切った紺色の瞳を向けた。
「では、私の絵を見せて?」
現物が保管されている部屋へと彼女達を案内する。
日向子は孫娘に支えられながら近くへ寄り、キラキラと光に反射する液体の奥で揺れる、絵画を食い入るように見つめた。
身に付けている宝石について問われると、彼女はふふっと笑ってこう言った。
「うんざりするほど重くてね、付けたのはこの一度きり..」
「本当にお婆さまなの?」
「えぇそうよ?この頃はナイスバディでしょう」
彼女は戯けてみせる。それから同じ部屋で発掘されたという手鏡や髪飾りなどを夢を見ているようだと懐かしみながら手に取って眺めていた。
本題に入りたくてうずうずしていたもう一人の男が失礼と割って入ってくる。
「もしこのデッサンの女性が貴女なら、船が沈没したあの夜、貴女はネックレスを身に付けていた事になります。」
「その通り。だから...どんな情報でも構わない。断片的なものでも。僕達に、話してはくれませんか?貴女が体験した記憶を」
彼女は一瞬両目を閉じると、やがてゆっくりと開いていきこくりと首を縦に振る。
「わかりました」
ーーーーー