幾光年恋したひ【side story】
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「竈門さん!!付き合ってください!!」
目の前で勢いよく頭を下げて手を差し出す男子生徒を見て。日向子は困ったように眉を下げた。
「...えーと、少し考えさせてください」
しばらく迷った末そう答えれば、相手は目を輝かせガッツポーズをする。その様子を見つめていた日向子の瞳は僅かに陰っていた。
ーーーー
「え、またふったの?」
「....うん」
何故貴女が落ち込むのよと、しのぶは呆れた様子で溜息を吐いていた。その通りだ。確かに私なんかより、ふったあの子の方が何百倍も意気消沈しているに決まっているのだから。
「前々から思ってたけど、好きな人も特に居ないなら、付き合うだけ誰かと付き合ってみたらどう?日向子が誠実なのはわかるけど、高校生活は一度きりなんだし。大人になって、あーあの時ああしてれば良かったなんて、後悔するかもよ?」
「あはは...それ、しのぶには言われたくないなぁ」
「私の事はいいの。今は真剣に貴女のことで悩んでるのよ?」
「あ、しのぶは冨岡先「あの人の事はいいってば!」
しのぶは頬をぷくりと膨らませて腰に手を当てていた。いい加減これ以上からかうような言葉を発すると盛大な裏拳を喰らいそうだ。
「...日向子は、人を好きになったことってないの?」
そう親友に問われた時、日向子ははたと気付いた。
あれ..私
【誰かを好きになった事って、今まであったっけ?】
親切にされて嬉しかった事、魅力的な人を見てときめいた事はある。雑誌なんかを見て、かっこいい人だなぁと思った事もある。けれど、恋愛感情が芽生えたかといわれると、そうではない気がする。
いや、そもそも...恋愛感情って何?心が惹きつけられる程、誰かを好きだと思った事は...
果たして、あるのだろうか?
その日、家に帰ると炭治郎だけがリビングのソファーで寛いでいた。
「お帰り日向子姉さん」
「ただいま、炭治郎一人?」
「うん」
今日は定休日で、他の家族はまだ帰らないか、或いは母さん達と一緒に最近近くに出来た大型スーパーへ買い物へ出ているらしい。
手洗いと着替えを済ませ再びリビングへおりてくると、彼が温かいココアを入れてくれていた。
「はい、外寒かったろう。飲む?」
差し出されたマグカップを有り難く受け取り、彼を見上げる。不思議そうに首を傾げる炭治郎を見て思った。炭治郎は学校でもモテるって風の噂で聞くけど、【そういう子】はいないのだろうか?
「ねぇ、炭治郎は彼女っている?」
「..っえ!何でそんな事、いきなり聞くんだ」
日向子がストレートにそう問うと、炭治郎は目を泳がせ逃れるようにテーブルの隅に座った。そんな初々しい反応を見せる弟が可愛くて、日向子はさっと彼の真正面に腰を下ろす。
「炭治郎は凄く優しいから。今もこうやって私を気遣ってココアもいれてくれてさ、気も利くし、中等部でも凄くモテるんでしょう?だから彼女、居ないのかなって」
ありのままを伝えた。褒められた事が嬉しかったのか、はたまた恥ずかしかったのか、恐らくその両方だとは思うが、炭治郎は頬を染め身を縮こませながらマグカップに口をつけた。
「...居ないよ、彼女は。」
「ふーん、じゃあ好きな人は?」
「っ」
聞き方を変えると、今度は先程とは比べ物にならない程の動揺の色を見せた。日向子はぱちくりと目を瞬きさせる。
ーこの反応は、そういう子が【いる】ということだろうか...ー
自分で聞いた事とは言え、思春期の男の子に聞くには少々野暮な質問だったかと申し訳なく感じてしまった。
ただ...恋愛感情というのが、どういうものを指すのかというのを聞きたかっただけなのだけど。
「ごめんね。誰かまでは聞かないからさ。ねぇ...好きってどういう事?どんな感じなの?」
「...答える前に、聞きたい事があるんだけど」
「ん?」
「そういう質問してくるって事は、姉さんは好きな人は居ないって事でいいのか?それとも現在進行形で気になる人がいて、それが恋愛感情なのかを知りたい。とかか?」
彼の目は真剣だった。つい、こちらがたじろいでしまうくらいに。
「好きな人はいない。気になる人も..今のところいない。けどこの前告白されてね、結局ふっちゃったんだけど、そう言えば私は誰かを好きになった事あるのかなーって、ふと思って。だから炭治郎にね、ちょこっと恋愛相談」
今の日向子の一フレーズの中で、炭治郎はかなりの頻度で一喜一憂していたように思う。やがて、節目がちのままこう語り出した。
「そっか...。誰かを好きな気持ちっていうのは、そうだな。気付いたらその人の事考えてたり、目で追ってたり、その人の些細な事で嬉しくなったり、切なくなったり、悲しくなったりする...かな。後は触れたいって思ったり」
「...なるほど、何となくわかったかも。炭治郎、その子の事凄く大好きなんだね」
日向子が微笑ましげに話すと、彼は徐々に目を丸くしていった。
ー炭治郎sideー
この日は定休日でなかなか手持ち無沙汰だった。
何気なくテレビの電源を付けて、最初に映ったバラエティの再放送をぼんやり眺めていると、玄関の扉についた鈴がチリンと鳴る。
ー誰か帰ってきた..ー
かちゃりと扉が開くと、そこには寒そうにマフラーを鼻まで引き上げた日向子姉さんが立っていた。内心、彼女だったらいいなぁと思っていただけに自然と口角が上がる。図らずとも彼女と二人きりだ..嬉しいな。
「ただいま、炭治郎一人?」
「うん」
そっかと呟くと、彼女はそのまま洗面所に向かって行った。寒空の下歩いてきた彼女の体を労るつもりもあったが、自室に籠るのを阻止したい思惑もあり、炭治郎はキッチンで熱々のココアを二人分作ると、テレビの電源は早々に消した。
やがて日向子姉さんは制服からゆったりとした部屋着に着替えてから、再びリビングに顔を出してくれた。
マグカップを差し出すと、彼女は笑顔でありがとうと返してくれる。
ー貴重な時間だからな、何話そうかな?ー
色々と考えを巡らせていたが、先に話題を振ってきたのは彼女の方だった。
「ねぇ、炭治郎は彼女っている?」
....!
何を藪から棒に聞いてくるのかと思った。今の流れで何故そんな事を聞いてきたのか皆目検討が付かない。下手は打てないと反射的に距離を離したら、あろう事か彼女は炭治郎の真正面を陣取ってきた。
逃げられない
彼女との会話で唯一触れて来なかった事柄。それはお互いの恋愛事情に関してだった。
彼氏彼女がいるのか?好意を寄せる人がいるのか?告白された事などがあるのか?
これらはある意味タブー。自分が嘘がつけない性格である事を自覚している炭治郎は、どこかでボロがでるのが嫌だったし、そもそも知る事も怖かった。
ー告白はされた事はあるが全部断ってきた。当然彼女という存在はいない。俺が好きなのは、昔からずっと日向子姉さんただ一人だけー
俺が言えるのはそれだけだが、彼女はどうだろうか?今は俺が質問されている側だ。けれど、本当は気になって気になって仕方がない。そもそも何故彼女はこん
な質問してきた。知りたい。
「居ないよ、彼女は...」
当たり障りなく、しかしれっきとした事実をきっぱり述べると、彼女は更に畳み掛けてくる。
「ふーん、じゃあ好きな人は?」
「っ」
あぁ、この質問はどう答えたら正解だ?
全て正直に言えたら、どんなに楽だろうか...
ー好きな人は、貴女ですー
なんて言えるわけもなく、かと言って上手いかわし方も思い付かずに、どうしたものかと頭を悩ませた。
なかなか口を開かない俺を見て、姉さんはきょとんとした様子でじーっと見つめてくる。
「ごめんね。誰かまでは聞かないからさ..」
!
どうやら察しの良い彼女は、俺が好意を寄せている相手がいると勘づいてしまったらしい。
ここで日向子姉さんがこれらの質問を投げ掛けてきた意図がようやくわかった。
要約すると、【誰かを好きになる気持ち】というものが自分ではよく分からないので、俺にもしそういう相手がいるのなら参考までに聞きたい、ということらしい。
質問の理由は合点がいった。だが今度は、その動機の方が気になってしまった。
今は単に異性を好きになるという事に憧れを抱いているだけか?それとも、気になる人はいるけどそれが恋愛感情なのかよく分からないって事か?そもそも何でいきなり、何かきっかけが?
どうしてもそれらを確認しないと気が済まず、真剣な面持ちで問う。しかし幸運にも、炭治郎の不安は杞憂に終わり安堵した。かと思われた
ー...この前告白されてね...ー
へらりと笑いながら彼女はそう言った。その瞬間、心臓がどくんと嫌な音を立てる。結果的にお断りしたというが、当然いい気はしない。
ー最近多いな...日向子姉さんが告白されるの、高等部に上がって更に増えたような気がするー
直接は聞かずとも、学園内の色恋沙汰の噂は嫌でも耳に入ってくる。彼女は高等部四代美女の1人と謳われている程人気がある女子生徒だから尚更。
その度に、酷い胸騒ぎに襲われる。誰かに盗られたらどうしようという不安に掻き立てられるのだ。
あぁ、もう...そろそろ疲れたよ
【この想いを隠し続けるのは】
節目がちになり苦しみを内から逃すように息を吐いた。そして、先程の問いに対し答えを返す。
「誰かを好きな気持ちっていうのは、そうだな。気付いたらその人の事考えてたり、目で追ってたり、その人の些細な事で嬉しくなったり、切なくなったり、悲しくなったりする...かな。後は触れたいって思ったり」
誰か、なんて軽口よく言えたものだ。これは俺の彼女への恋慕そのものなのに..
「炭治郎、その子の事凄く大好きなんだね」
....
あぁ、その通りだよ
俺は貴女の事が大好きなんだ。
だから、それだけ感が良いならさ、気付いてくれてもいいんじゃないか?
なぁ、日向子さん
ーーーー
目の前で勢いよく頭を下げて手を差し出す男子生徒を見て。日向子は困ったように眉を下げた。
「...えーと、少し考えさせてください」
しばらく迷った末そう答えれば、相手は目を輝かせガッツポーズをする。その様子を見つめていた日向子の瞳は僅かに陰っていた。
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「え、またふったの?」
「....うん」
何故貴女が落ち込むのよと、しのぶは呆れた様子で溜息を吐いていた。その通りだ。確かに私なんかより、ふったあの子の方が何百倍も意気消沈しているに決まっているのだから。
「前々から思ってたけど、好きな人も特に居ないなら、付き合うだけ誰かと付き合ってみたらどう?日向子が誠実なのはわかるけど、高校生活は一度きりなんだし。大人になって、あーあの時ああしてれば良かったなんて、後悔するかもよ?」
「あはは...それ、しのぶには言われたくないなぁ」
「私の事はいいの。今は真剣に貴女のことで悩んでるのよ?」
「あ、しのぶは冨岡先「あの人の事はいいってば!」
しのぶは頬をぷくりと膨らませて腰に手を当てていた。いい加減これ以上からかうような言葉を発すると盛大な裏拳を喰らいそうだ。
「...日向子は、人を好きになったことってないの?」
そう親友に問われた時、日向子ははたと気付いた。
あれ..私
【誰かを好きになった事って、今まであったっけ?】
親切にされて嬉しかった事、魅力的な人を見てときめいた事はある。雑誌なんかを見て、かっこいい人だなぁと思った事もある。けれど、恋愛感情が芽生えたかといわれると、そうではない気がする。
いや、そもそも...恋愛感情って何?心が惹きつけられる程、誰かを好きだと思った事は...
果たして、あるのだろうか?
その日、家に帰ると炭治郎だけがリビングのソファーで寛いでいた。
「お帰り日向子姉さん」
「ただいま、炭治郎一人?」
「うん」
今日は定休日で、他の家族はまだ帰らないか、或いは母さん達と一緒に最近近くに出来た大型スーパーへ買い物へ出ているらしい。
手洗いと着替えを済ませ再びリビングへおりてくると、彼が温かいココアを入れてくれていた。
「はい、外寒かったろう。飲む?」
差し出されたマグカップを有り難く受け取り、彼を見上げる。不思議そうに首を傾げる炭治郎を見て思った。炭治郎は学校でもモテるって風の噂で聞くけど、【そういう子】はいないのだろうか?
「ねぇ、炭治郎は彼女っている?」
「..っえ!何でそんな事、いきなり聞くんだ」
日向子がストレートにそう問うと、炭治郎は目を泳がせ逃れるようにテーブルの隅に座った。そんな初々しい反応を見せる弟が可愛くて、日向子はさっと彼の真正面に腰を下ろす。
「炭治郎は凄く優しいから。今もこうやって私を気遣ってココアもいれてくれてさ、気も利くし、中等部でも凄くモテるんでしょう?だから彼女、居ないのかなって」
ありのままを伝えた。褒められた事が嬉しかったのか、はたまた恥ずかしかったのか、恐らくその両方だとは思うが、炭治郎は頬を染め身を縮こませながらマグカップに口をつけた。
「...居ないよ、彼女は。」
「ふーん、じゃあ好きな人は?」
「っ」
聞き方を変えると、今度は先程とは比べ物にならない程の動揺の色を見せた。日向子はぱちくりと目を瞬きさせる。
ーこの反応は、そういう子が【いる】ということだろうか...ー
自分で聞いた事とは言え、思春期の男の子に聞くには少々野暮な質問だったかと申し訳なく感じてしまった。
ただ...恋愛感情というのが、どういうものを指すのかというのを聞きたかっただけなのだけど。
「ごめんね。誰かまでは聞かないからさ。ねぇ...好きってどういう事?どんな感じなの?」
「...答える前に、聞きたい事があるんだけど」
「ん?」
「そういう質問してくるって事は、姉さんは好きな人は居ないって事でいいのか?それとも現在進行形で気になる人がいて、それが恋愛感情なのかを知りたい。とかか?」
彼の目は真剣だった。つい、こちらがたじろいでしまうくらいに。
「好きな人はいない。気になる人も..今のところいない。けどこの前告白されてね、結局ふっちゃったんだけど、そう言えば私は誰かを好きになった事あるのかなーって、ふと思って。だから炭治郎にね、ちょこっと恋愛相談」
今の日向子の一フレーズの中で、炭治郎はかなりの頻度で一喜一憂していたように思う。やがて、節目がちのままこう語り出した。
「そっか...。誰かを好きな気持ちっていうのは、そうだな。気付いたらその人の事考えてたり、目で追ってたり、その人の些細な事で嬉しくなったり、切なくなったり、悲しくなったりする...かな。後は触れたいって思ったり」
「...なるほど、何となくわかったかも。炭治郎、その子の事凄く大好きなんだね」
日向子が微笑ましげに話すと、彼は徐々に目を丸くしていった。
ー炭治郎sideー
この日は定休日でなかなか手持ち無沙汰だった。
何気なくテレビの電源を付けて、最初に映ったバラエティの再放送をぼんやり眺めていると、玄関の扉についた鈴がチリンと鳴る。
ー誰か帰ってきた..ー
かちゃりと扉が開くと、そこには寒そうにマフラーを鼻まで引き上げた日向子姉さんが立っていた。内心、彼女だったらいいなぁと思っていただけに自然と口角が上がる。図らずとも彼女と二人きりだ..嬉しいな。
「ただいま、炭治郎一人?」
「うん」
そっかと呟くと、彼女はそのまま洗面所に向かって行った。寒空の下歩いてきた彼女の体を労るつもりもあったが、自室に籠るのを阻止したい思惑もあり、炭治郎はキッチンで熱々のココアを二人分作ると、テレビの電源は早々に消した。
やがて日向子姉さんは制服からゆったりとした部屋着に着替えてから、再びリビングに顔を出してくれた。
マグカップを差し出すと、彼女は笑顔でありがとうと返してくれる。
ー貴重な時間だからな、何話そうかな?ー
色々と考えを巡らせていたが、先に話題を振ってきたのは彼女の方だった。
「ねぇ、炭治郎は彼女っている?」
....!
何を藪から棒に聞いてくるのかと思った。今の流れで何故そんな事を聞いてきたのか皆目検討が付かない。下手は打てないと反射的に距離を離したら、あろう事か彼女は炭治郎の真正面を陣取ってきた。
逃げられない
彼女との会話で唯一触れて来なかった事柄。それはお互いの恋愛事情に関してだった。
彼氏彼女がいるのか?好意を寄せる人がいるのか?告白された事などがあるのか?
これらはある意味タブー。自分が嘘がつけない性格である事を自覚している炭治郎は、どこかでボロがでるのが嫌だったし、そもそも知る事も怖かった。
ー告白はされた事はあるが全部断ってきた。当然彼女という存在はいない。俺が好きなのは、昔からずっと日向子姉さんただ一人だけー
俺が言えるのはそれだけだが、彼女はどうだろうか?今は俺が質問されている側だ。けれど、本当は気になって気になって仕方がない。そもそも何故彼女はこん
な質問してきた。知りたい。
「居ないよ、彼女は...」
当たり障りなく、しかしれっきとした事実をきっぱり述べると、彼女は更に畳み掛けてくる。
「ふーん、じゃあ好きな人は?」
「っ」
あぁ、この質問はどう答えたら正解だ?
全て正直に言えたら、どんなに楽だろうか...
ー好きな人は、貴女ですー
なんて言えるわけもなく、かと言って上手いかわし方も思い付かずに、どうしたものかと頭を悩ませた。
なかなか口を開かない俺を見て、姉さんはきょとんとした様子でじーっと見つめてくる。
「ごめんね。誰かまでは聞かないからさ..」
!
どうやら察しの良い彼女は、俺が好意を寄せている相手がいると勘づいてしまったらしい。
ここで日向子姉さんがこれらの質問を投げ掛けてきた意図がようやくわかった。
要約すると、【誰かを好きになる気持ち】というものが自分ではよく分からないので、俺にもしそういう相手がいるのなら参考までに聞きたい、ということらしい。
質問の理由は合点がいった。だが今度は、その動機の方が気になってしまった。
今は単に異性を好きになるという事に憧れを抱いているだけか?それとも、気になる人はいるけどそれが恋愛感情なのかよく分からないって事か?そもそも何でいきなり、何かきっかけが?
どうしてもそれらを確認しないと気が済まず、真剣な面持ちで問う。しかし幸運にも、炭治郎の不安は杞憂に終わり安堵した。かと思われた
ー...この前告白されてね...ー
へらりと笑いながら彼女はそう言った。その瞬間、心臓がどくんと嫌な音を立てる。結果的にお断りしたというが、当然いい気はしない。
ー最近多いな...日向子姉さんが告白されるの、高等部に上がって更に増えたような気がするー
直接は聞かずとも、学園内の色恋沙汰の噂は嫌でも耳に入ってくる。彼女は高等部四代美女の1人と謳われている程人気がある女子生徒だから尚更。
その度に、酷い胸騒ぎに襲われる。誰かに盗られたらどうしようという不安に掻き立てられるのだ。
あぁ、もう...そろそろ疲れたよ
【この想いを隠し続けるのは】
節目がちになり苦しみを内から逃すように息を吐いた。そして、先程の問いに対し答えを返す。
「誰かを好きな気持ちっていうのは、そうだな。気付いたらその人の事考えてたり、目で追ってたり、その人の些細な事で嬉しくなったり、切なくなったり、悲しくなったりする...かな。後は触れたいって思ったり」
誰か、なんて軽口よく言えたものだ。これは俺の彼女への恋慕そのものなのに..
「炭治郎、その子の事凄く大好きなんだね」
....
あぁ、その通りだよ
俺は貴女の事が大好きなんだ。
だから、それだけ感が良いならさ、気付いてくれてもいいんじゃないか?
なぁ、日向子さん
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