幾光年恋したひ【side story】
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「よーし、じゃあ始めようか!」
「あぁ!」
日向子はばっちりエプロンとプラスチック手袋を身につけると、やる気満々といった感じで腕まくりをした。その後に続くように炭治郎もまた身なりを整えて厨房に立つ。
翌日が定休日の前夜は時間が許す限り、年長者の二人はよくこうして新作のパン作りを行なっている。
主にパンをこねて焼くのは炭治郎。トッピングや細かい味付けなどは日向子の役割だ。
アイディアは若い子達の方が流行にも敏感で、豊富でしょうと、父も母も公認してくれている。
ー小さい子達が寝静まったこの時だけは...誰にも邪魔されない。日向子姉さんと数少ない二人きりの時間ー
例えやる事が仕事の延長であっても、炭治郎にとっては大変貴重なひとときだ。
静かな空間で想い人と二人きりというのもそうだが、共同作業をして二人で一つのものを作り上げるという実感が、炭治郎の心を大いに満たした。
それにちょっぴり
【行き過ぎた事】をしても、ごく自然な流れとして彼女には受け入れて貰えるから。
例えば...
「ねぇ炭治郎。パンの上にこの甘辛味噌を乗せたら美味しいんじゃないかと思って、タレ作ってみたんだけど...どうかな?味見してみてもらえる?」
「へぇ、いいんじゃないか?..ただ生憎 今手が塞がってるから、いつもみたいに頼むよ」
そう言って炭治郎はくいと口を彼女の方に突き出す。それを見た日向子はスプーンにタレを少量乗せると、慣れた動作で彼の口元へそのまま持っていった。
「はい、あーん」
「んー」
確信犯よろしく、ぱくりとスプーンを口に含む。彼女らしい優しい、それでいていくらでも食べたくなるような飽きの来ない濃厚な旨味が口の中いっぱいに広がった。
美味しいよと伝えると、彼女は良かったぁと安心したように微笑んだ。
またてきぱきと作業に戻る彼女を横目に見ながら、炭治郎は切なそうに眉を下げる。
多分、意識してるのは俺だけ...
でなければもっと違う反応を見せる筈。側から見たらいちゃいちゃしてる男女に見えなくもないような事をしてても、彼女はけろっとしている。
その温度差に悲しくならないと言えば嘘になるが、それでも、彼女を独り占め出来て、こういう形上の恋人ごっこが出来るだけでも嬉しかった。許してくれる範囲に、とことん入り込んでやる。
ー気付かないのなら、気付かせてやるまで...ー
ピピピと焼き上がりを知らせる音が響く。
炭治郎がオーブンを開くと、芳ばしい匂いが辺りに充満した。
「おぉー!いいんじゃない?」
「あぁ!」
日向子は前のめり気味に鼻を近付けて幸せそうに笑みを綻ばせた。釣られて炭治郎も微笑ましい表情を浮かべながら焼き上がった新作パンの試作品をトレーに移す。
「じゃあ、早速食べてみようか?見た目は完璧だけど、問題は味だもんね。」
「そうだな」
彼女は一つパンを手に取る。炭治郎もいつもと同じく自然な流れで熱々のパンを頬張った。
「うん、美味しい!やっぱり姉さんのアイディアは間違いないなぁ!....あれ、食べないのか?」
「え?あ、いやいや食べるよ!」
慌ててぱくりとパンを口に入れる。反応は炭治郎と同じであった為、結果的にこのパンは商品化の方向で落ち着いた。
彼女は美味しいと笑って言っていたが、どこか後ろめたそうな眼差しでちらりと壁掛け時計を見やっていたのを炭治郎は見逃していなかった。
「日向子姉さん。時間気にしてたようだけど、何かやりたい事でもあった?無理に付き合わせて悪かったな..」
炭治郎が申し訳なさそうにしょぼくれると、そうじゃないのだとブンブン首を横に振った。
「違うの!えっと...貴方に言うのはちょっと恥ずかしいんだけど。最近少し、その...太ってきたというか...。だからこの時間にパンを食べるのに罪悪感感じちゃって」
かぁっと頬を染めながらもじもじとしだす彼女を見て、あまりの可愛さに頭がくらりとした。
だって、そんな事気にしてたのかって思うと...
無意識のうちに彼女の体型に目を向けている事に気付き慌てて視線をそらす。
「ッ...全然、太ってるなんて思わないぞ!!寧ろ女の子はそのくらいの方が..」
ーって何言ってるんだ俺は!ー
フォローとは言え取り返しのつかない言葉が口から転がり出そうになり頭を抱えた。
危ない...いくら意識して欲しいとは言っても、さすがにセクハラまがいはいけない。
炭治郎のメンタルが回復せぬうちに、彼女もまたとんでもない事を言い始める。
「いや...だってほら、試しにここ触ってみてよ」
そう言って自分の二の腕を指差すではないか。
この瞬間、プツンと何かが脳内で切れる音がした気がした。前からそうだが、彼女は恥ずかしがるポイントが多少ずれている。
【勘弁してくれよ、日向子姉さん】
貴女はもう少し警戒心を持った方がいい。じゃないと、俺は...加減が出来ない。
理性が、年頃の女の子の肌に触れるなんて最低だと訴える。けれど現実の自分は、そろそろと彼女の二の腕へ指を伸ばしていった。
こくりと生唾を飲み、意を決してTシャツから覗く白い柔肌に触れる。
「ッ」
ー柔らかい...ぷにぷにしてる
姉さんの体は、どこもこんな風に柔いのかな..?ー
「やっぱり全然...太ってないよ。気にする程じゃあない。」
「そうかな..」
「うん、そうだよ」
無闇やたら自分の体を男に触らせたら駄目だと叱ってやりたいのに、この下品な手を早くどかさないといけないのに、何故か体が言う事を聞かない。
それどころか、この触れ合いの時間を出来る限り伸ばそうと必死な事に気付く。
ーもっと触っていたい。許されるなら、後ろから抱きついて他の部位も思い切り弄 りたいー
そんな肉欲にじわじわと支配されていく。無我夢中で二の腕を撫ぜていると、彼女は徐々に身を捩り始めた。
「あははっ、ごめんちょっと、くすぐったくなってきたや炭治郎」
「あ...すまない」
ハッと我に帰り身を引く。
今更ながら、心臓がどくんどくんと異様な鳴り方をしていた。
危なかった...かもしれない。あのままだったら俺は、何しでかすかわからなかった。
日向子姉さんにとっては他愛のないじゃれ合いだとしても、俺からして見れば誘っている行為としか思えない。そう、見えてきてしまう。
結局、一線を超えないよう気をつけながらごっこを楽しむ余裕なんて、俺には到底無理なのだと思った。
ーーーーー
「あぁ!」
日向子はばっちりエプロンとプラスチック手袋を身につけると、やる気満々といった感じで腕まくりをした。その後に続くように炭治郎もまた身なりを整えて厨房に立つ。
翌日が定休日の前夜は時間が許す限り、年長者の二人はよくこうして新作のパン作りを行なっている。
主にパンをこねて焼くのは炭治郎。トッピングや細かい味付けなどは日向子の役割だ。
アイディアは若い子達の方が流行にも敏感で、豊富でしょうと、父も母も公認してくれている。
ー小さい子達が寝静まったこの時だけは...誰にも邪魔されない。日向子姉さんと数少ない二人きりの時間ー
例えやる事が仕事の延長であっても、炭治郎にとっては大変貴重なひとときだ。
静かな空間で想い人と二人きりというのもそうだが、共同作業をして二人で一つのものを作り上げるという実感が、炭治郎の心を大いに満たした。
それにちょっぴり
【行き過ぎた事】をしても、ごく自然な流れとして彼女には受け入れて貰えるから。
例えば...
「ねぇ炭治郎。パンの上にこの甘辛味噌を乗せたら美味しいんじゃないかと思って、タレ作ってみたんだけど...どうかな?味見してみてもらえる?」
「へぇ、いいんじゃないか?..ただ
そう言って炭治郎はくいと口を彼女の方に突き出す。それを見た日向子はスプーンにタレを少量乗せると、慣れた動作で彼の口元へそのまま持っていった。
「はい、あーん」
「んー」
確信犯よろしく、ぱくりとスプーンを口に含む。彼女らしい優しい、それでいていくらでも食べたくなるような飽きの来ない濃厚な旨味が口の中いっぱいに広がった。
美味しいよと伝えると、彼女は良かったぁと安心したように微笑んだ。
またてきぱきと作業に戻る彼女を横目に見ながら、炭治郎は切なそうに眉を下げる。
多分、意識してるのは俺だけ...
でなければもっと違う反応を見せる筈。側から見たらいちゃいちゃしてる男女に見えなくもないような事をしてても、彼女はけろっとしている。
その温度差に悲しくならないと言えば嘘になるが、それでも、彼女を独り占め出来て、こういう形上の恋人ごっこが出来るだけでも嬉しかった。許してくれる範囲に、とことん入り込んでやる。
ー気付かないのなら、気付かせてやるまで...ー
ピピピと焼き上がりを知らせる音が響く。
炭治郎がオーブンを開くと、芳ばしい匂いが辺りに充満した。
「おぉー!いいんじゃない?」
「あぁ!」
日向子は前のめり気味に鼻を近付けて幸せそうに笑みを綻ばせた。釣られて炭治郎も微笑ましい表情を浮かべながら焼き上がった新作パンの試作品をトレーに移す。
「じゃあ、早速食べてみようか?見た目は完璧だけど、問題は味だもんね。」
「そうだな」
彼女は一つパンを手に取る。炭治郎もいつもと同じく自然な流れで熱々のパンを頬張った。
「うん、美味しい!やっぱり姉さんのアイディアは間違いないなぁ!....あれ、食べないのか?」
「え?あ、いやいや食べるよ!」
慌ててぱくりとパンを口に入れる。反応は炭治郎と同じであった為、結果的にこのパンは商品化の方向で落ち着いた。
彼女は美味しいと笑って言っていたが、どこか後ろめたそうな眼差しでちらりと壁掛け時計を見やっていたのを炭治郎は見逃していなかった。
「日向子姉さん。時間気にしてたようだけど、何かやりたい事でもあった?無理に付き合わせて悪かったな..」
炭治郎が申し訳なさそうにしょぼくれると、そうじゃないのだとブンブン首を横に振った。
「違うの!えっと...貴方に言うのはちょっと恥ずかしいんだけど。最近少し、その...太ってきたというか...。だからこの時間にパンを食べるのに罪悪感感じちゃって」
かぁっと頬を染めながらもじもじとしだす彼女を見て、あまりの可愛さに頭がくらりとした。
だって、そんな事気にしてたのかって思うと...
無意識のうちに彼女の体型に目を向けている事に気付き慌てて視線をそらす。
「ッ...全然、太ってるなんて思わないぞ!!寧ろ女の子はそのくらいの方が..」
ーって何言ってるんだ俺は!ー
フォローとは言え取り返しのつかない言葉が口から転がり出そうになり頭を抱えた。
危ない...いくら意識して欲しいとは言っても、さすがにセクハラまがいはいけない。
炭治郎のメンタルが回復せぬうちに、彼女もまたとんでもない事を言い始める。
「いや...だってほら、試しにここ触ってみてよ」
そう言って自分の二の腕を指差すではないか。
この瞬間、プツンと何かが脳内で切れる音がした気がした。前からそうだが、彼女は恥ずかしがるポイントが多少ずれている。
【勘弁してくれよ、日向子姉さん】
貴女はもう少し警戒心を持った方がいい。じゃないと、俺は...加減が出来ない。
理性が、年頃の女の子の肌に触れるなんて最低だと訴える。けれど現実の自分は、そろそろと彼女の二の腕へ指を伸ばしていった。
こくりと生唾を飲み、意を決してTシャツから覗く白い柔肌に触れる。
「ッ」
ー柔らかい...ぷにぷにしてる
姉さんの体は、どこもこんな風に柔いのかな..?ー
「やっぱり全然...太ってないよ。気にする程じゃあない。」
「そうかな..」
「うん、そうだよ」
無闇やたら自分の体を男に触らせたら駄目だと叱ってやりたいのに、この下品な手を早くどかさないといけないのに、何故か体が言う事を聞かない。
それどころか、この触れ合いの時間を出来る限り伸ばそうと必死な事に気付く。
ーもっと触っていたい。許されるなら、後ろから抱きついて他の部位も思い切り
そんな肉欲にじわじわと支配されていく。無我夢中で二の腕を撫ぜていると、彼女は徐々に身を捩り始めた。
「あははっ、ごめんちょっと、くすぐったくなってきたや炭治郎」
「あ...すまない」
ハッと我に帰り身を引く。
今更ながら、心臓がどくんどくんと異様な鳴り方をしていた。
危なかった...かもしれない。あのままだったら俺は、何しでかすかわからなかった。
日向子姉さんにとっては他愛のないじゃれ合いだとしても、俺からして見れば誘っている行為としか思えない。そう、見えてきてしまう。
結局、一線を超えないよう気をつけながらごっこを楽しむ余裕なんて、俺には到底無理なのだと思った。
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