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幾光年恋したひ
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〜31【家族の絆とは】〜
ーしのぶsideー
「そう、じゃあやっぱりあのブレスレットは炭治郎君のだったのね。良かったわね見つかって。」
「うん。カナヲちゃんが届けに来てくれたんだってね、ありがとう。炭治郎帰ってきたらすぐ報告しに来てくれたのよ。私は別にいいんだけど、無くした事結構気にしてたみたいだから、私からもお礼言わせてね」
そんなやりとりを親友としていると、なんて仲の良い思いやりのある姉弟だと感心する。
あそこの家族は皆本当に仲が良く、大家族故にいつも賑やかで楽しい。
うちも、カナヲとは血の繋がりはないものの三姉妹仲良く生活してはいるが、やはり小さい子供達が居るのと居ないのとでは違うのかもしれない。
竈門家は、遊びに行く度に幸せな心地にさせられる。
ー不思議な家だ..ー
「お礼を言うのは私の方よ。カナヲ、最近ちょっと雰囲気が明るくなったの。炭治郎君のお陰かもしれないわ。」
実際彼女はあの一件があって以来、表情も柔らかくなって可愛らしくなった気がする。それまでは多分、私達に気を使わせないようにしてたのだろうけど、どこかしおらしいお人形のような雰囲気を纏っていた。正直言うと、私はそれが少し寂しかった。
前に姉が、好きな男の子でも出来ればカナヲだって変わると言っていたけれど、本当にその通りだったようだ。
カナヲは変わった。とても喜ばしい事だ。炭治郎君には本当に感謝している。
ただちょっぴり..カナヲを変えたのが私達胡蝶姉妹ではなく他人だという事に、嫉妬している部分はあるけれど。
家族なのだから..もう少し気を抜いて接してくれてもいいのにと、思ってしまう事もあった。
そんな複雑なしのぶの心中を他所に、日向子は炭治郎も隅に置けないなぁと隣で一人感心していた。
良かった...。こんな醜い心、バレてしまったらどうしようかと思った。
しのぶは昔から心の内をひた隠すのは得意な方だ。天真爛漫な姉と、ひたすら不器用な妹との間に居れば、いやがおうにも周りに合わせる力は身についた。
日向子は感がいいけれど、この思いは悟らせないよう...
「ねぇしのぶ」
「?」
「さっきから元気ないね。どうしたの?」
ー....
心配そうにこちらを見つめる深い紺桔梗の瞳。
あぁ..この子は本当に
「ねぇ、日向子...。例え血の繋がりがなくても、家族の絆って築けると思う?」
無意識のうちにしのぶは彼女へそう問うていた。すると日向子は、迷わずこう答える。
「うん、勿論だよ」
ーーーーー
〜32 【団欒】〜
「ねぇ、炭兄達は今年の文化祭何やるのー?」
きっかけは花子のこの一言だった。家族団欒で夕食を囲っていると、興味津々で彼女は兄達にそう尋ねる。
毎年キメツ学園の文化祭2日目は一般開放日となっている為、その日はパン屋を定休日にして家族皆で遊びにやって来るのが竈門家の習わしだ。
「おー!それ俺も気になってた!」
竹雄がおかわりをよそいキッチンから顔を出す。皆、興味深そうに炭治郎達の返答を待っていた。最初に口を開いたのは禰豆子だ。
「私のクラスは縁日やるよ、輪投げとか水風船掬いとか。小さい子も出来るから遊び来てよ!」
そう言って隣に座っていた六太の頭を撫でる。
お祭り楽しそう!と騒ぐ子供達。まだ幼い弟妹達にはかなりウケがいいようだ。
それは楽しそうねと反応を見せたのは日向子。
「ひな姉は?」
「ん?私のクラスはねー..」
炭治郎は無意識に耳をそば立てる。
彼女のクラスが何を企画しているのか、家族内では恐らく自分が一番気になっていたと思う。
初期の準備段階では、まだ校内にもプログラムは公開されておらず、未だに分からずじまいだったから。
「大正浪漫喫茶ってのをやるんだ」
大正?浪漫?と六太と茂は首を同じ方向へ傾げるが、親や他の弟妹達はそれって素敵だねと沸き立つ。
文字通り喫茶店であり、どうやらカステラなど軽い菓子と紅茶を提供する予定らしい。そして、担当する給仕係の生徒はなんでもそれ風の衣装を身に纏って接客するのだとか。
「へぇー!じゃあひな姉も可愛い服着るのー?」
「メイドさんみたいな感じ?」
「そうね、衣装は確かに可愛いかも。」
女子同士ではそんな会話が繰り広げられている。竹雄も思春期で複雑な表情をしていたが、花子に小突かれると俺もちょっと気になると僅かに頬を染めもぞもぞ呟いていた。炭治郎もまた、それを聞いて心踊っている一人だ。
ー日向子姉さんのメイド姿..ー
正確には異なるかもしれないが、炭治郎にとっては衣装の方向性など大した問題ではなく、彼女が可愛らしい格好をしている、その姿が見れる事に意味があった。
「楽しみだなぁ..」
皆が一斉に炭治郎の方へ視線を向ける。そこで、無意識にそう溢していた事に気付き、慌てて米をかき込む。
「それで炭治郎のクラスは何をするんだ?」
父が茶を啜りながらそう助け舟を出してくれた。軽く咳払いしてこう答える。
「俺の所はお化け屋敷だ」
そのワードを聞いて六太がぴゃっと泣いた。
ーーーーー
〜33【雨に降られて】〜
やまない雨が天から降り注ぐ中、日向子は溜息を吐いて公園の東家 で立ち尽くしていた。
ー失敗した..ー
今朝は誤って目覚ましのアラームをかけ忘れてしまい、飛び起きた時にはしのぶとの約束に間に合うかギリギリの時間だった。
放課後に文化祭の準備で残るのが難しい日向子を気遣い、朝に付き合ってくれる事になっていたのに、当の本人が遅れるなんてあってはならない。
そんなわけで準備を急ピッチで終わらせ家を飛び出して来たので、すっかり天気予報のことなど頭から抜けていたのだ。
「はぁ...梅雨の時期なんだから、折り畳み傘くらい常備しとくんだったな。」
後悔先に立たず。六太を迎えに行く手前だったので、仕方なく少し遅れそうな旨を保育園に一本連絡を入れた。途中から降られた雨により夏服に移行したばかりのブラウスが濡れて気持ち悪さに顔をしかめながら、スマホをポケットにしまい込む。
再度天を仰ぐが、雨雲はまだまだこの辺りに居座りそうであった。しょうがない、いつまでもここで立ち往生しているわけにもいかないし、途中のコンビニまで走って傘を買って行くしかない。
意を決して日向子は東家を飛び出した。
バッグを小脇に抱えてひた走っていると、突然名前を呼ばれ腕を掴まれた。
驚いて振り向くと、そこには慌てて追いかけて来たらしい炭治郎の姿があった。
彼は日向子の真上に自分で差していた傘をかけてくれた。
「っ はぁ...ありがとうっ炭治郎」
休みなく走っていた為、息を切らしながらも日向子は真っ先に礼を述べた。
彼女の姿見を頭から爪先まで見下ろすと、彼はふいっと顔を逸らした。心なしか、その横顔はやや赤らんで見える。
「いや、驚いたよ。傘もささずに走ってる女の子が見えて、よく見たら日向子姉さんだったんだから。それより...」
炭治郎は器用に羽織っていた薄手の指定カーディガンを脱ぐと、彼女の背中から被せた。
「それ着てボタン閉めて。その..少し透けてる」
「え?っ!...あ、やだ..ごめんありがとう」
炭治郎が申し訳なさそうに状態を指摘すると、ようやく彼女は自分の身なりに気付き、慌てて隠すようにカーディガンを体に巻きつけた。
さすがにこれは恥ずかしかったようで、しばらく彼女も頬の赤みが消えなかった。
気まずい空気が二人の間に流れ、相変わらず雨音だけが辺りに響き渡る。
ふと気づいたが、炭治郎は殆ど傘を日向子の方に傾けており、自分の肩には雫がかかっていた。
ーーーーー
〜34【打ち消された想い】〜
「炭治郎、私の方ばかりいいよ?有難いけど、貴方の方が身体も大きいんだから、濡れちゃうよ」
「ん?あぁ...俺の事は気にしないで。姉さんが濡れる方が嫌だから。父さんみたいに大きな傘じゃなくて申し訳ない」
彼は眉をハの字にしてそう言った。
多分、日向子に気を遣っているのだろうと思う。近過ぎず程よい距離感を保って横に立っているから。けど、そのせいで余計に炭治郎は肩が濡れてしまうし、斜めに傾けている傘の柄を持つ彼の腕も、そのうち疲弊 してしまうだろう。
日向子は少し思案すると、炭治郎の腰を僅かに引き寄せた。
「ッ!//..」
あからさまに反応し驚いた様子で日向子を凝視する炭治郎。しかし彼女はさして気にもとめず、至近距離で彼の顔を見上げた。
「二人ともなるべく濡れないようにするにはこうするのがいいでしょう?」
「え、あ...ぅ....」
彼女がにこりと笑いかけると、炭治郎は思考がショートしたように先程から言葉にならない声を漏らしていた。首の方まで赤くなりながら視線を泳がせていて、明らかに動揺しているのが見て取れた。
まさかこんなに初々しい反応を見せるとは思わず、少し軽弾みだったかと逆に申し訳ない気持ちになる。
「...やだなぁ。そんなに意識しなくてもいいのよ。別に付き合ってる男女って訳でもないんだし」
ーだって私達は、家族なんだからー
あまり気にしないでいい、自分達との間にこういう類の遠慮はいらないだろう。あくまで炭治郎を気遣ってそれらの言葉を選んだつもりだった。
確かにそう、俺の考えすぎだ。彼からはそんな返しを期待していたのにもかかわらず、日向子の予想とは相反する言葉が返ってくる。
「姉さんが気にしなくても、俺は気にするよ」
ぼそりと横でそう呟いた炭治郎は、少し元気がなく悲しげに映った。そんな様子を見た時、日向子の頭の中に不意にある可能性がよぎる。
「炭治郎...」
「あ!あそこのコンビニ寄ろうか?六太迎えにいくなら、さすがに一つの傘じゃ心許無いし。新しいビニール傘買おう、俺買うから」
「っ!いや...元はといえば私が忘れたのがいけないんだから私が」
「いいよ、それにそろそろ新しい傘買おうと思ってたところだったし。日向子姉さんは可愛い傘あるじゃないか」
そう言った炭治郎は、既にいつもの調子に戻っていた。日向子は気のせいだったかと一人首を捻る。
ーやっぱり、そんなわけないか...ー
ーーーーー
ーしのぶsideー
「そう、じゃあやっぱりあのブレスレットは炭治郎君のだったのね。良かったわね見つかって。」
「うん。カナヲちゃんが届けに来てくれたんだってね、ありがとう。炭治郎帰ってきたらすぐ報告しに来てくれたのよ。私は別にいいんだけど、無くした事結構気にしてたみたいだから、私からもお礼言わせてね」
そんなやりとりを親友としていると、なんて仲の良い思いやりのある姉弟だと感心する。
あそこの家族は皆本当に仲が良く、大家族故にいつも賑やかで楽しい。
うちも、カナヲとは血の繋がりはないものの三姉妹仲良く生活してはいるが、やはり小さい子供達が居るのと居ないのとでは違うのかもしれない。
竈門家は、遊びに行く度に幸せな心地にさせられる。
ー不思議な家だ..ー
「お礼を言うのは私の方よ。カナヲ、最近ちょっと雰囲気が明るくなったの。炭治郎君のお陰かもしれないわ。」
実際彼女はあの一件があって以来、表情も柔らかくなって可愛らしくなった気がする。それまでは多分、私達に気を使わせないようにしてたのだろうけど、どこかしおらしいお人形のような雰囲気を纏っていた。正直言うと、私はそれが少し寂しかった。
前に姉が、好きな男の子でも出来ればカナヲだって変わると言っていたけれど、本当にその通りだったようだ。
カナヲは変わった。とても喜ばしい事だ。炭治郎君には本当に感謝している。
ただちょっぴり..カナヲを変えたのが私達胡蝶姉妹ではなく他人だという事に、嫉妬している部分はあるけれど。
家族なのだから..もう少し気を抜いて接してくれてもいいのにと、思ってしまう事もあった。
そんな複雑なしのぶの心中を他所に、日向子は炭治郎も隅に置けないなぁと隣で一人感心していた。
良かった...。こんな醜い心、バレてしまったらどうしようかと思った。
しのぶは昔から心の内をひた隠すのは得意な方だ。天真爛漫な姉と、ひたすら不器用な妹との間に居れば、いやがおうにも周りに合わせる力は身についた。
日向子は感がいいけれど、この思いは悟らせないよう...
「ねぇしのぶ」
「?」
「さっきから元気ないね。どうしたの?」
ー....
心配そうにこちらを見つめる深い紺桔梗の瞳。
あぁ..この子は本当に
「ねぇ、日向子...。例え血の繋がりがなくても、家族の絆って築けると思う?」
無意識のうちにしのぶは彼女へそう問うていた。すると日向子は、迷わずこう答える。
「うん、勿論だよ」
ーーーーー
〜32 【団欒】〜
「ねぇ、炭兄達は今年の文化祭何やるのー?」
きっかけは花子のこの一言だった。家族団欒で夕食を囲っていると、興味津々で彼女は兄達にそう尋ねる。
毎年キメツ学園の文化祭2日目は一般開放日となっている為、その日はパン屋を定休日にして家族皆で遊びにやって来るのが竈門家の習わしだ。
「おー!それ俺も気になってた!」
竹雄がおかわりをよそいキッチンから顔を出す。皆、興味深そうに炭治郎達の返答を待っていた。最初に口を開いたのは禰豆子だ。
「私のクラスは縁日やるよ、輪投げとか水風船掬いとか。小さい子も出来るから遊び来てよ!」
そう言って隣に座っていた六太の頭を撫でる。
お祭り楽しそう!と騒ぐ子供達。まだ幼い弟妹達にはかなりウケがいいようだ。
それは楽しそうねと反応を見せたのは日向子。
「ひな姉は?」
「ん?私のクラスはねー..」
炭治郎は無意識に耳をそば立てる。
彼女のクラスが何を企画しているのか、家族内では恐らく自分が一番気になっていたと思う。
初期の準備段階では、まだ校内にもプログラムは公開されておらず、未だに分からずじまいだったから。
「大正浪漫喫茶ってのをやるんだ」
大正?浪漫?と六太と茂は首を同じ方向へ傾げるが、親や他の弟妹達はそれって素敵だねと沸き立つ。
文字通り喫茶店であり、どうやらカステラなど軽い菓子と紅茶を提供する予定らしい。そして、担当する給仕係の生徒はなんでもそれ風の衣装を身に纏って接客するのだとか。
「へぇー!じゃあひな姉も可愛い服着るのー?」
「メイドさんみたいな感じ?」
「そうね、衣装は確かに可愛いかも。」
女子同士ではそんな会話が繰り広げられている。竹雄も思春期で複雑な表情をしていたが、花子に小突かれると俺もちょっと気になると僅かに頬を染めもぞもぞ呟いていた。炭治郎もまた、それを聞いて心踊っている一人だ。
ー日向子姉さんのメイド姿..ー
正確には異なるかもしれないが、炭治郎にとっては衣装の方向性など大した問題ではなく、彼女が可愛らしい格好をしている、その姿が見れる事に意味があった。
「楽しみだなぁ..」
皆が一斉に炭治郎の方へ視線を向ける。そこで、無意識にそう溢していた事に気付き、慌てて米をかき込む。
「それで炭治郎のクラスは何をするんだ?」
父が茶を啜りながらそう助け舟を出してくれた。軽く咳払いしてこう答える。
「俺の所はお化け屋敷だ」
そのワードを聞いて六太がぴゃっと泣いた。
ーーーーー
〜33【雨に降られて】〜
やまない雨が天から降り注ぐ中、日向子は溜息を吐いて公園の
ー失敗した..ー
今朝は誤って目覚ましのアラームをかけ忘れてしまい、飛び起きた時にはしのぶとの約束に間に合うかギリギリの時間だった。
放課後に文化祭の準備で残るのが難しい日向子を気遣い、朝に付き合ってくれる事になっていたのに、当の本人が遅れるなんてあってはならない。
そんなわけで準備を急ピッチで終わらせ家を飛び出して来たので、すっかり天気予報のことなど頭から抜けていたのだ。
「はぁ...梅雨の時期なんだから、折り畳み傘くらい常備しとくんだったな。」
後悔先に立たず。六太を迎えに行く手前だったので、仕方なく少し遅れそうな旨を保育園に一本連絡を入れた。途中から降られた雨により夏服に移行したばかりのブラウスが濡れて気持ち悪さに顔をしかめながら、スマホをポケットにしまい込む。
再度天を仰ぐが、雨雲はまだまだこの辺りに居座りそうであった。しょうがない、いつまでもここで立ち往生しているわけにもいかないし、途中のコンビニまで走って傘を買って行くしかない。
意を決して日向子は東家を飛び出した。
バッグを小脇に抱えてひた走っていると、突然名前を呼ばれ腕を掴まれた。
驚いて振り向くと、そこには慌てて追いかけて来たらしい炭治郎の姿があった。
彼は日向子の真上に自分で差していた傘をかけてくれた。
「っ はぁ...ありがとうっ炭治郎」
休みなく走っていた為、息を切らしながらも日向子は真っ先に礼を述べた。
彼女の姿見を頭から爪先まで見下ろすと、彼はふいっと顔を逸らした。心なしか、その横顔はやや赤らんで見える。
「いや、驚いたよ。傘もささずに走ってる女の子が見えて、よく見たら日向子姉さんだったんだから。それより...」
炭治郎は器用に羽織っていた薄手の指定カーディガンを脱ぐと、彼女の背中から被せた。
「それ着てボタン閉めて。その..少し透けてる」
「え?っ!...あ、やだ..ごめんありがとう」
炭治郎が申し訳なさそうに状態を指摘すると、ようやく彼女は自分の身なりに気付き、慌てて隠すようにカーディガンを体に巻きつけた。
さすがにこれは恥ずかしかったようで、しばらく彼女も頬の赤みが消えなかった。
気まずい空気が二人の間に流れ、相変わらず雨音だけが辺りに響き渡る。
ふと気づいたが、炭治郎は殆ど傘を日向子の方に傾けており、自分の肩には雫がかかっていた。
ーーーーー
〜34【打ち消された想い】〜
「炭治郎、私の方ばかりいいよ?有難いけど、貴方の方が身体も大きいんだから、濡れちゃうよ」
「ん?あぁ...俺の事は気にしないで。姉さんが濡れる方が嫌だから。父さんみたいに大きな傘じゃなくて申し訳ない」
彼は眉をハの字にしてそう言った。
多分、日向子に気を遣っているのだろうと思う。近過ぎず程よい距離感を保って横に立っているから。けど、そのせいで余計に炭治郎は肩が濡れてしまうし、斜めに傾けている傘の柄を持つ彼の腕も、そのうち
日向子は少し思案すると、炭治郎の腰を僅かに引き寄せた。
「ッ!//..」
あからさまに反応し驚いた様子で日向子を凝視する炭治郎。しかし彼女はさして気にもとめず、至近距離で彼の顔を見上げた。
「二人ともなるべく濡れないようにするにはこうするのがいいでしょう?」
「え、あ...ぅ....」
彼女がにこりと笑いかけると、炭治郎は思考がショートしたように先程から言葉にならない声を漏らしていた。首の方まで赤くなりながら視線を泳がせていて、明らかに動揺しているのが見て取れた。
まさかこんなに初々しい反応を見せるとは思わず、少し軽弾みだったかと逆に申し訳ない気持ちになる。
「...やだなぁ。そんなに意識しなくてもいいのよ。別に付き合ってる男女って訳でもないんだし」
ーだって私達は、家族なんだからー
あまり気にしないでいい、自分達との間にこういう類の遠慮はいらないだろう。あくまで炭治郎を気遣ってそれらの言葉を選んだつもりだった。
確かにそう、俺の考えすぎだ。彼からはそんな返しを期待していたのにもかかわらず、日向子の予想とは相反する言葉が返ってくる。
「姉さんが気にしなくても、俺は気にするよ」
ぼそりと横でそう呟いた炭治郎は、少し元気がなく悲しげに映った。そんな様子を見た時、日向子の頭の中に不意にある可能性がよぎる。
「炭治郎...」
「あ!あそこのコンビニ寄ろうか?六太迎えにいくなら、さすがに一つの傘じゃ心許無いし。新しいビニール傘買おう、俺買うから」
「っ!いや...元はといえば私が忘れたのがいけないんだから私が」
「いいよ、それにそろそろ新しい傘買おうと思ってたところだったし。日向子姉さんは可愛い傘あるじゃないか」
そう言った炭治郎は、既にいつもの調子に戻っていた。日向子は気のせいだったかと一人首を捻る。
ーやっぱり、そんなわけないか...ー
ーーーーー