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幾光年恋したひ
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〜27【共通点】〜
ー胡蝶家ー
しのぶがキッチンで鍋をかき混ぜていると、妹のカナヲが帰宅した。彼女はいつも必ずリビングに顔を出してバッグを置き、その足で隣の洗面所へ向かう。
この日もそうだった。
「ただいましのぶ姉さん」
「お帰りなさいカナヲ、ご飯もう少しで出来るわよ。カナエ姉さんは今日も遅いかなぁ..」
「仕方ないよ、今の時期はカナエ姉さんも忙しいのよ、手洗ってくるね」
「えぇ」
しのぶは洗面所に消える妹を見送り、エプロンの端で軽く手を拭うとダイニングテーブルへ向かった。
その時、ふと机の上に置いてあったブレスレットらしきアクセサリーに目が止まる。
カナヲが自ら買ってきたものだろうか?だとしたら、とても喜ばしい事だ。
年頃の女の子なのに、あまりお洒落 などに興味が無さげな..というより滅多に他に関心を向けないカナヲを、実は少し心配していたのだ。
単純に気になり、まじまじと見るとある事に気付いた。
【あれ、この形状...何処かで見た事ある気が..】
この石の配列には見覚えがあった。必死に記憶を手繰り寄せると、ある情景が思い浮かぶ。
「思い出した。これもしかして日向子がごくたまに付けてるのと同じ..」
同じクラスで親友の日向子とプライベートで遊ぶ時、たまに彼女が身に付けていたブレスレットと同じだ。
エスニック風な見た目が可愛いなぁとぼんやり眺めた事があった気がする。確か手作りしたものだとかなんとか言っていたなぁ。
「あ!それは」
カナヲは戻ってくるや否やそのブレスレットを大事そうに取り上げ、バッグの中に仕舞い込んだ。
感情を滅多に表に出さない彼女にしては珍しく、ほのかに頬を染め、何処となく夢見心地な様子でいる事にしのぶは目を丸くした。
これは女の勘だが、まるで...恋をしているようなそんな表情。一体何があったのだろうか?
興味本位からしのぶはカナヲへこう問いかけた。
「カナヲ、これ誰の?誰かから貰ったの?」
「えっと、違う。貰ったんじゃなくて...拾ったの」
詳しい経緯はあまり話さなかったが、何でも今日公園で拾った物で、誰のかは心当たりがあるから明日辺りその本人を探して尋ねるつもりなのだと言う。
なるほど..落とし物をした人物を探しているということか。であれば協力しない理由はないので、何気なくこう伝えた。
「そのブレスレット、私の友達がよく似たものをつけてたわ」
「姉さんの友達?」
「そうよ、竈門日向子って言うんだけど」
ーーーーー
〜28【すれ違いの心】〜
竈門日向子さん..
カナヲも見覚えがある。うちにも遊びに来ていた時一回だけ会ったことがあるしのぶ姉さんの親友だ。彼女もこれと同じブレスレットを...
よく考えたら今日会った炭治郎君と同じ苗字だ。と言う事は姉弟 ?
であれば同じようなブレスレットを持っていてもなんら不思議ではなかった。仲がいい家族なのだきっと。
やはりこのブレスレットは、彼の持ち物である可能性が高い。
それがわかっただけでも、カナヲにとっては大きな収穫だった。
「ありがとうしのぶ姉さん。やっぱり明日彼に会って聞いてくるわ」
そう嬉しそうにしのぶに報告すると、カナヲはバッグを片手に自室へと登って行った。
その後ろ姿をきょとんとした顔で見つめるしのぶ。
「...彼?」
しのぶはふむと手を顎に当てて考え込むと、ある仮説に至った。
ーなるほど、そういう事かー
ようやく妹に訪れた春に、しのぶは顔を綻ばせた。
実のところ学校で上手くやっていけてるか心配な部分もあったのだが、彼女の心に光が差したのなら姉としては喜ばしい限りだ。
このまま大きく花を咲かせて欲しい...しのぶはそう願った。
ーーーーー
翌日、炭治郎は昨日の出来事に心をもやもやとさせながら家を出た。
あれから姉さんとは何となく顔を合わせづらくなり、今朝も言い訳をつけて早めに出てきたのだ。
ー勢い余って面と向かってあんな事言ってしまったけど...変に思われただろうなー
日向子姉さんの言葉は素直に嬉しかった。それと同時に、あまりにも無防備、危機感の無さに額を押さえたい思いになった。
平気で私室に男を入れる事もそうだし、あんな殺し文句無意識に溢すとか、彼女の貞操観念が少々心配になる。
俺だから無害だと思われたなら心外だ。
【俺だから】危ないのだと、そうわからせる必要もあった。
大方、彼女にとってはただの弟でありそれ以上でも以下でもないのだろうが、俺は違う。
最も、彼女にその気があるのなら別だが
今のところ、それはないだろうな...
「炭治郎はよー」
「わっ!善逸、おはよう」
悶々とそんな事を考えていると、善逸が後ろから肩を組んで来た。全く意識を向けていなかったので、心臓が飛び出そうな程驚く。
音に敏感な善逸はどうやらそれに気付いたらしく、申し訳なさそうに謝った。
「ごめんごめん。そんな驚くとは思わなくてさー、何か考え事してた?」
「うーん..まぁ」
炭治郎は迷った末、彼に事を打ち明けた。
ーーーーー
〜29【罪な奴】〜
ー善逸sideー
うんうんと相槌を打ちながら一通り聞いた善逸は、最終的に複雑な表情で炭治郎を見据えた。
「とりあえずブレスレットは見つかる事を祈るしかないとして、炭治郎が落ち込んでるのは日向子さんに男として意識されてないのが悲しいからってこと?」
「..そうなるのかな。だってそうだろ?もし俺を意識してるなら簡単に自分の部屋に上げないだろうし、俺の事が..だ、大事 とか易々と気があるような言葉選ばないと思う」
「えー、ストレートに取ったら?本当はお前の事誘ってたりして」
「っそれは!...いや、日向子姉さんはそういうタイプじゃないよ..」
善逸がにやにや顔でそう持ち上げても、あれは素でやってる筈だと、炭治郎は肩を落とした。
それを見てやれやれといった様子で善逸もまた肩を竦 める。
「まぁ今はそうだとしても、これから幾らでもチャンスはあるだろ?あんな美人で気立ての良い義姉 と一つ屋根の下生活してるなんて、世の中の男共が羨ましがるシチュエーションなんだから、もっと恵まれてると思ってポジティブに行けよなー」
「っう...わかった」
基本的にはこうして励まされるのは俺の方だが、炭治郎は日向子さんの事に限っては、こちらが溜息を吐きたくなるほどネガティブになるし、もだもだする事も多い。
親友目線で炭治郎を語るなら、何事もチャレンジあるのみ、どんな艱難辛苦 も前向きに捉える底抜けに明るい性格である。
けれど、恋愛に関してはわりと奥手なのだなぁと、そのギャップに驚いたのは記憶に新しい。
多分こんな炭治郎を知るのは、俺くらいのものだと思う。
正直、炭治郎はもの凄く女子にモテる。本人は気付いていないみたいだが、それはもう憎たらしい程に。
まぁ確かに、男の俺から見ても彼は爽やか好青年なイメージだし、文武両道、おまけに性格も正義感が強く優しいとあれば人気があるのも頷けるというものだ。
皮肉なものだ。そんな誰から見ても非の打ち所がない彼は、言い寄る不特定多数の女子には全く興味はなく、ずっと熱の篭った眼差しを向け続けているのは前からたった一人だけ、義姉である日向子さんだけなのだから...
「罪な奴..」
「..何て?」
「なーんでもねぇよ、それより栗花落先輩だよ!ぜぇったいそれはお前に惚れたね!」
「惚れ...何でそうなる」
「だってそんな助け方したらさ!惚れるでしょ!罪な奴だよ本当お前は!!」
ーーーーー
〜30【宝物】〜
(お前にその気がないなら、あんまり深く関わったり女の子に甘い言葉吐いたりするんじゃないよ)
何故か善逸にはそう怒られてしまった。
そうは言われてもあの状況で見過ごす方が最低だったと思うし、別に何一つ責められるような事をした覚えはないのだが..
そう自分では思うけど、俺の事を鈍感だと評するのは何も善逸だけじゃないので、無意識に周りに失礼な事をしてしまってる可能性もある。一応は反省した素振りを見せこう述べた。
「わかった、気をつけるよ」
学校につくと、一応机やロッカーの中なども見てブレスレットを探してはみたがやはり見つからない。
いよいよ手元に戻ってくる可能性は低くなってきた。
「はぁ...」
炭治郎はこの日何度目かの盛大なため息を吐く。
その日の昼休憩中
家から持ってきたパンに覇気無く齧 りつきながら、伊之助と善逸の雑談に耳を傾けていると、不意にクラスメイトの男子からおーいと名前を呼ばれる。声のする方へ振り返ると彼はこう叫んだ。
「竈門ー!栗花落先輩が呼んでるぞー!」
その名前を聞いた善逸はやはりというべきか、ダンと大きな音をたてて立ち上がり口をあんぐり開けていた。伊之助もまた何だと気怠そうに同じ方向を見ている。
おずおずと廊下側の扉から顔を出している彼女は、確かに紛れもなく昨日助けた女子生徒。栗花落先輩であった。
(一体彼女が俺に何の用だろう?..)
恨めしそうにギリギリと歯軋りしている善逸を無視して、ちょっと行ってくると炭治郎は席を立った。
彼が軽快に駆け寄ると、カナヲはあからさまに緊張した面持ちで背筋を正す。
「こんにちは、どうされたんですか?わざわざ一年のクラスまで」
炭治郎がそう問いかけると、彼女はぶわっと顔を赤くしもじもじとしていたが、やがて意を決したようにバッと何かを前に突き出した。
炭治郎はそれを見た瞬間、大きく目を見開く。
「あ、あの..これ貴方のじゃないかと思って。昨日公園で拾っ!」
彼女はひゃっと息を詰めた。炭治郎が彼女の手をそれ諸共包み込んだからだ。彼は心底嬉しそうな、それでいて安堵したように蔓延の笑みを浮かべてカナヲにこう告げる。
「ありがとうございます!探してたんです!もう失くしてしまったかと...このブレスレット、俺にとって凄く大事なものだから」
彼にとってそんなに大事なものだったとは思わなかったが、無事に届ける事が出来何よりだとカナヲは微笑んだ。
ーーーーー
ー胡蝶家ー
しのぶがキッチンで鍋をかき混ぜていると、妹のカナヲが帰宅した。彼女はいつも必ずリビングに顔を出してバッグを置き、その足で隣の洗面所へ向かう。
この日もそうだった。
「ただいましのぶ姉さん」
「お帰りなさいカナヲ、ご飯もう少しで出来るわよ。カナエ姉さんは今日も遅いかなぁ..」
「仕方ないよ、今の時期はカナエ姉さんも忙しいのよ、手洗ってくるね」
「えぇ」
しのぶは洗面所に消える妹を見送り、エプロンの端で軽く手を拭うとダイニングテーブルへ向かった。
その時、ふと机の上に置いてあったブレスレットらしきアクセサリーに目が止まる。
カナヲが自ら買ってきたものだろうか?だとしたら、とても喜ばしい事だ。
年頃の女の子なのに、あまりお
単純に気になり、まじまじと見るとある事に気付いた。
【あれ、この形状...何処かで見た事ある気が..】
この石の配列には見覚えがあった。必死に記憶を手繰り寄せると、ある情景が思い浮かぶ。
「思い出した。これもしかして日向子がごくたまに付けてるのと同じ..」
同じクラスで親友の日向子とプライベートで遊ぶ時、たまに彼女が身に付けていたブレスレットと同じだ。
エスニック風な見た目が可愛いなぁとぼんやり眺めた事があった気がする。確か手作りしたものだとかなんとか言っていたなぁ。
「あ!それは」
カナヲは戻ってくるや否やそのブレスレットを大事そうに取り上げ、バッグの中に仕舞い込んだ。
感情を滅多に表に出さない彼女にしては珍しく、ほのかに頬を染め、何処となく夢見心地な様子でいる事にしのぶは目を丸くした。
これは女の勘だが、まるで...恋をしているようなそんな表情。一体何があったのだろうか?
興味本位からしのぶはカナヲへこう問いかけた。
「カナヲ、これ誰の?誰かから貰ったの?」
「えっと、違う。貰ったんじゃなくて...拾ったの」
詳しい経緯はあまり話さなかったが、何でも今日公園で拾った物で、誰のかは心当たりがあるから明日辺りその本人を探して尋ねるつもりなのだと言う。
なるほど..落とし物をした人物を探しているということか。であれば協力しない理由はないので、何気なくこう伝えた。
「そのブレスレット、私の友達がよく似たものをつけてたわ」
「姉さんの友達?」
「そうよ、竈門日向子って言うんだけど」
ーーーーー
〜28【すれ違いの心】〜
竈門日向子さん..
カナヲも見覚えがある。うちにも遊びに来ていた時一回だけ会ったことがあるしのぶ姉さんの親友だ。彼女もこれと同じブレスレットを...
よく考えたら今日会った炭治郎君と同じ苗字だ。と言う事は
であれば同じようなブレスレットを持っていてもなんら不思議ではなかった。仲がいい家族なのだきっと。
やはりこのブレスレットは、彼の持ち物である可能性が高い。
それがわかっただけでも、カナヲにとっては大きな収穫だった。
「ありがとうしのぶ姉さん。やっぱり明日彼に会って聞いてくるわ」
そう嬉しそうにしのぶに報告すると、カナヲはバッグを片手に自室へと登って行った。
その後ろ姿をきょとんとした顔で見つめるしのぶ。
「...彼?」
しのぶはふむと手を顎に当てて考え込むと、ある仮説に至った。
ーなるほど、そういう事かー
ようやく妹に訪れた春に、しのぶは顔を綻ばせた。
実のところ学校で上手くやっていけてるか心配な部分もあったのだが、彼女の心に光が差したのなら姉としては喜ばしい限りだ。
このまま大きく花を咲かせて欲しい...しのぶはそう願った。
ーーーーー
翌日、炭治郎は昨日の出来事に心をもやもやとさせながら家を出た。
あれから姉さんとは何となく顔を合わせづらくなり、今朝も言い訳をつけて早めに出てきたのだ。
ー勢い余って面と向かってあんな事言ってしまったけど...変に思われただろうなー
日向子姉さんの言葉は素直に嬉しかった。それと同時に、あまりにも無防備、危機感の無さに額を押さえたい思いになった。
平気で私室に男を入れる事もそうだし、あんな殺し文句無意識に溢すとか、彼女の貞操観念が少々心配になる。
俺だから無害だと思われたなら心外だ。
【俺だから】危ないのだと、そうわからせる必要もあった。
大方、彼女にとってはただの弟でありそれ以上でも以下でもないのだろうが、俺は違う。
最も、彼女にその気があるのなら別だが
今のところ、それはないだろうな...
「炭治郎はよー」
「わっ!善逸、おはよう」
悶々とそんな事を考えていると、善逸が後ろから肩を組んで来た。全く意識を向けていなかったので、心臓が飛び出そうな程驚く。
音に敏感な善逸はどうやらそれに気付いたらしく、申し訳なさそうに謝った。
「ごめんごめん。そんな驚くとは思わなくてさー、何か考え事してた?」
「うーん..まぁ」
炭治郎は迷った末、彼に事を打ち明けた。
ーーーーー
〜29【罪な奴】〜
ー善逸sideー
うんうんと相槌を打ちながら一通り聞いた善逸は、最終的に複雑な表情で炭治郎を見据えた。
「とりあえずブレスレットは見つかる事を祈るしかないとして、炭治郎が落ち込んでるのは日向子さんに男として意識されてないのが悲しいからってこと?」
「..そうなるのかな。だってそうだろ?もし俺を意識してるなら簡単に自分の部屋に上げないだろうし、俺の事が..だ、
「えー、ストレートに取ったら?本当はお前の事誘ってたりして」
「っそれは!...いや、日向子姉さんはそういうタイプじゃないよ..」
善逸がにやにや顔でそう持ち上げても、あれは素でやってる筈だと、炭治郎は肩を落とした。
それを見てやれやれといった様子で善逸もまた肩を
「まぁ今はそうだとしても、これから幾らでもチャンスはあるだろ?あんな美人で気立ての良い
「っう...わかった」
基本的にはこうして励まされるのは俺の方だが、炭治郎は日向子さんの事に限っては、こちらが溜息を吐きたくなるほどネガティブになるし、もだもだする事も多い。
親友目線で炭治郎を語るなら、何事もチャレンジあるのみ、どんな
けれど、恋愛に関してはわりと奥手なのだなぁと、そのギャップに驚いたのは記憶に新しい。
多分こんな炭治郎を知るのは、俺くらいのものだと思う。
正直、炭治郎はもの凄く女子にモテる。本人は気付いていないみたいだが、それはもう憎たらしい程に。
まぁ確かに、男の俺から見ても彼は爽やか好青年なイメージだし、文武両道、おまけに性格も正義感が強く優しいとあれば人気があるのも頷けるというものだ。
皮肉なものだ。そんな誰から見ても非の打ち所がない彼は、言い寄る不特定多数の女子には全く興味はなく、ずっと熱の篭った眼差しを向け続けているのは前からたった一人だけ、義姉である日向子さんだけなのだから...
「罪な奴..」
「..何て?」
「なーんでもねぇよ、それより栗花落先輩だよ!ぜぇったいそれはお前に惚れたね!」
「惚れ...何でそうなる」
「だってそんな助け方したらさ!惚れるでしょ!罪な奴だよ本当お前は!!」
ーーーーー
〜30【宝物】〜
(お前にその気がないなら、あんまり深く関わったり女の子に甘い言葉吐いたりするんじゃないよ)
何故か善逸にはそう怒られてしまった。
そうは言われてもあの状況で見過ごす方が最低だったと思うし、別に何一つ責められるような事をした覚えはないのだが..
そう自分では思うけど、俺の事を鈍感だと評するのは何も善逸だけじゃないので、無意識に周りに失礼な事をしてしまってる可能性もある。一応は反省した素振りを見せこう述べた。
「わかった、気をつけるよ」
学校につくと、一応机やロッカーの中なども見てブレスレットを探してはみたがやはり見つからない。
いよいよ手元に戻ってくる可能性は低くなってきた。
「はぁ...」
炭治郎はこの日何度目かの盛大なため息を吐く。
その日の昼休憩中
家から持ってきたパンに覇気無く
「竈門ー!栗花落先輩が呼んでるぞー!」
その名前を聞いた善逸はやはりというべきか、ダンと大きな音をたてて立ち上がり口をあんぐり開けていた。伊之助もまた何だと気怠そうに同じ方向を見ている。
おずおずと廊下側の扉から顔を出している彼女は、確かに紛れもなく昨日助けた女子生徒。栗花落先輩であった。
(一体彼女が俺に何の用だろう?..)
恨めしそうにギリギリと歯軋りしている善逸を無視して、ちょっと行ってくると炭治郎は席を立った。
彼が軽快に駆け寄ると、カナヲはあからさまに緊張した面持ちで背筋を正す。
「こんにちは、どうされたんですか?わざわざ一年のクラスまで」
炭治郎がそう問いかけると、彼女はぶわっと顔を赤くしもじもじとしていたが、やがて意を決したようにバッと何かを前に突き出した。
炭治郎はそれを見た瞬間、大きく目を見開く。
「あ、あの..これ貴方のじゃないかと思って。昨日公園で拾っ!」
彼女はひゃっと息を詰めた。炭治郎が彼女の手をそれ諸共包み込んだからだ。彼は心底嬉しそうな、それでいて安堵したように蔓延の笑みを浮かべてカナヲにこう告げる。
「ありがとうございます!探してたんです!もう失くしてしまったかと...このブレスレット、俺にとって凄く大事なものだから」
彼にとってそんなに大事なものだったとは思わなかったが、無事に届ける事が出来何よりだとカナヲは微笑んだ。
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